令和7年度 事例Ⅳの解説|何を計算し、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和7年度 事例Ⅳは、字数指定のある欄が3つだけです。残りは計算の設問です。
- この記事は財務指標の値も計算結果も載せていません。理由は最後の節に書きました。
- 計算の設問でも、答案に持ち込む材料は与件文にあります。段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和7年度 事例Ⅳの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。事例Ⅳは4問のうち2問が計算だけで、文章を書く欄は3つしかありません。なお、この記事は財務指標の値も計算結果も載せていません。その理由は最後の節に書きました。
この年の事例Ⅳは、どんな回か
与件文1,626字・解答字数の合計220字。80分の内訳は資料に目を通す8分/計算・検討63分/書く9分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問(小問2) | 述べる | 25点 | 80字 | ◎ 経営分析 95%(75〜99%) |
| 第2問(小問3) | 答える | 30点 | 指定なし | CVP・損益分岐点 42%(23〜64%) |
| 第3問(小問3) | 答える | 25点 | 指定なし | ◎ 投資判断 58%(36〜77%) |
| 第4問(小問2) | 助言 | 20点 | 80字 / 60字 | リスク管理 47%(26〜69%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 計算・検討時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 3分 | 16分 |
| 第2問 | — | 19分 |
| 第3問 | — | 16分 |
| 第4問 | 6分 | 13分 |
資料に目を通す時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の計算・検討63分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
① この会社に何が起きたか
仏壇を作ってきた老舗が、需要の細りと職人の高齢化を抱えたまま、海の向こうへ売る新しい製品で稼ぎ方を組み直そうとしている話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
D社は地方の街に本社と工場を構える老舗で、仏壇と仏具を作って売っています。社内は作る部門、全国の小売店へ卸す部門、自社の店で直に売る部門に分かれます。長らく屋台骨だったのは大きな仏壇でしたが、家族の単位が小さくなり集合住宅で暮らす人が増えて、置き場所のある家が減りました。
海外で作った安い品との値段争いに対し、D社は逆の道を選びました。自前の職人が手をかけた高い品にこだわり、同じ土俵に乗らないやり方です。住まいの変化には、室内装飾の専門家と組んで今風の意匠や机上に置ける小ぶりな品を出すことで応えてきました。
風向きが変わったのは、街に外国からの旅行者が増えてからです。直営店を訪れた旅行者が買っていくのは、飾りとして部屋に置く小ぶりで値の張る品でした。そこでD社は、漆を塗り絵柄を施す腕を物をしまうための家具に振り向け、海を渡って売る計画を立てます。
ただし足元は楽ではありません。職人は高齢化して数も細り、育成は待ったなしです。まとまった数を作るには機械の力を借りざるを得ませんが、手の仕事との折り合いに迷いが残ります。木も漆も値上がりしており、次の年の稼ぎ方を組み立て直すことが宿題になりました。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **事例Ⅳの与件文は短く、文章は最初の5段落だけです。** そこから先は貸借対照表と損益計算書が並びます。読む時間より、どの数字をどの設問で使うかを決める時間のほうが要ります。
- **第1問の設問2は80字です。** 指標を選んだ理由を書く場所で、計算そのものではありません。高い品にこだわる方針と、材料の値上がり、職人の高齢化という与件文の話を、選んだ指標に結びつけられるかが見どころです。
- **第2問と第3問は計算が3小問ずつあります。** 途中で行き詰まったときに、次の小問が前の答えを使う形かどうかを最初に見ておくと、取れるところを取り逃しません。
- **第4問は資金調達と財務的リスクで、記述が80字と60字です。** 海外へ売る計画が前提にあるので、為替や回収といったリスクが与件文の計画と結びつきます。計算の答えが出なくても、ここは書けます。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、職人の腕・意匠・販路・掲げている考えの4つに固まっています。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。この事例は第6段落から先が財務諸表と資料の行なので、引用はすべて第1段落から第5段落までの中から取っています。引用の数がほかの事例より少ないのは、そのためです。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「自社で抱える職人の手による伝統的な工芸技術を活かした自社生産の高価格仏壇」 | 職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇 | 第3段落 | 第1問(設問2)・第4問 |
| 「低価格仏壇との差別化を図っている」 | 低価格品との差別化 | 第3段落 | 第1問(設問2) |
| 「国内の著名なインテリアデザイナーとのコラボレーションによる現代的なデザインの仏壇や卓上小型仏壇」 | デザイナーと組んだ現代的な仏壇・卓上小型仏壇 | 第3段落 | 第2問 |
| 「戦略的に新商品の開発を続けている」 | 戦略的な新商品開発の継続 | 第3段落 | 第1問(設問2)・第2問 |
| 「自社の強みである伝統的な漆塗りや蒔絵といった日本ならではの意匠」 | 漆塗り・蒔絵の意匠 | 第4段落 | 第3問・第4問 |
| 「高級収納家具を新たに開発し、海外に向けて販売する計画を立てている」 | 海外向け高級収納家具の計画 | 第4段落 | 第3問・第4問 |
| 「自社開発による現代風の新たな商品を展示販売する直営店舗の小売部」 | 現代風の商品を扱う直営店舗 | 第1段落 | 第2問・第3問 |
| 「製造された商品を全国の小売店に販売する販売部」 | 全国の小売店への販売網 | 第1段落 | 第1問(設問2) |
| 「日本の伝統文化を継承することを経営のモットーとしており」 | 伝統文化の継承という経営のモットー | 第5段落 | 第4問 |
9つのうち前半の4つは、どれも「値段で戦わない」という一本の線でつながっています。腕のある職人を自前で抱え、その手仕事に見合う値づけをし、意匠の力で選ばれる。第1問の設問2が求めている戦略の違いは、ここから書けます。
「漆塗り・蒔絵の意匠」と「海外向け高級収納家具の計画」は、第3問と第4問の土台です。第3問が問う新製品はこの計画そのもので、第4問はその資金をどう用意するかを聞いています。
②③はどちらもD社の内側を並べた表です。市場の追い風と向かい風は資産でも課題でもないので、この2つの表には載っていません。外部環境の材料は①に書きました。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は第2段落と第4段落に固まっています。売れ行きの話と、人と機械の話と、次の年の稼ぎ方の話の3つです。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。8つのうち6つが第4段落と第5段落、つまり与件文が診断士に相談する直前に並べた心配ごとです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「伝統的な大型仏壇の売れ行きが低下し続けている」 | 大型仏壇の売れ行き低下 | 第2段落 | 第1問(設問2) |
| 「仏具の需要も低迷している」 | 仏具需要の低迷 | 第2段落 | 第1問(設問2) |
| 「職人が高齢化するとともにその数も徐々に減少してきており」 | 職人の高齢化と減少 | 第4段落 | 第1問(設問2)・第4問 |
| 「新規の職人の確保や育成が急務となっている」 | 新規職人の確保・育成 | 第4段落 | 第4問 |
| 「海外向け商品の製造においては一部機械化も避けられず」 | 海外向け製造の一部機械化 | 第4段落 | 第3問・第4問 |
| 「職人による手仕事と機械による製造とのバランスに苦慮している」 | 手仕事と機械製造のバランス | 第4段落 | 第1問(設問2)・第3問 |
| 「D社では利益計画の見直しも課題となっている」 | 利益計画の見直し | 第4段落 | 第2問 |
| 「職人技術の継承といった社会貢献と事業活動との両立」 | 職人技術の継承と事業活動の両立 | 第5段落 | 第4問 |
先頭の2つは、売る側で起きていることです。主力の売れ行きが落ち、もう一方の需要も鈍い。ここが第1問の設問2で「劣っている」と読むときの土台になります。
続く4つは、作る側で起きていることです。腕のある人が減り、新しく育てる時間が要り、まとまった数を作るには機械が要る。手の仕事と機械のどちらに寄せるかは、原価の作りにも人の配置にも効きます。
最後の「利益計画の見直し」は、第2問の入口そのものです。与件文が「見直しが課題だ」と書いた次に、次の年の利益計画を計算させる設問が置かれています。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅳは、4問のうち2問が計算だけでした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の向きを決めます。算出と書かれていれば数字を出し、分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和7年度 事例Ⅳは、仏壇・仏具の老舗が海外向けの新製品に踏み出す事例です。4設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 25点 | 80字以内(設問2) | 算出(設問1)と分析(設問2) |
| 第2問 | 30点 | 字数指定なし(計算3小問) | 算出(短期利益計画) |
| 第3問 | 25点 | 字数指定なし(計算3小問) | 算出(設備投資の経済性計算) |
| 第4問 | 20点 | 80字以内と60字以内 | 助言 |
文章を書く欄は3つしかありません。第1問の設問2、第4問の設問1と設問2です。残りはすべて数字を出す設問で、配点の合計では計算のほうが重くなります。ほかの3事例が文章だけで構成されているのと、ここが違います。
ただし、書く欄が少ないことと、与件文を読まなくてよいことは別です。第1問の設問2は戦略の違いを、第4問は財務状況と事業の性質を踏まえるよう求めています。どちらも与件文に戻らないと書けません。
第1問 経営分析|設問2は80字
趣旨は設問1が算出、設問2が分析と書いています。設問2は打ち手を書く欄ではありません。
出題の趣旨(引用)。「(設問1)財務諸表を利用して、診断および助言の基礎となる財務比率を算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問2)問題文と(設問1)で計算された財務比率からD社と同業他社との戦略の違いを読み取り、財務比率を基に事例企業の財務的問題点とその要因を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問1は、同業他社と比べて優れている指標を1つ、劣っている指標を2つ挙げ、名称と値を書く欄です。設問2は、劣っている点について戦略の違いを指摘しながら要因を述べる欄で、字数は80字です。
この記事は指標の名称も値も書きません。当サイトが特定の指標名を断定すると、それが外れたときに読者の答案がまるごと外れるためです。書けるのは、どの観点から探すかと、その根拠が与件文のどこにあるかまでです。
探す観点は3つです。稼ぐ力を見る収益性、資産をどれだけ回しているかを見る効率性、借金と自己資本の釣り合いを見る安全性。設問1は優れているものを1つ、劣っているものを2つと数を指定しているので、3つの観点をひととおり計算してから選ぶことになります。
計算そのものの手順は、事例Ⅳ第1問の解き方を扱った記事に置いてあります。ここでは、選んだあとに設問2で書く中身のほうを見ます。
| 観点 | ②③のどの材料が根拠になるか |
|---|---|
| 収益性 | 職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇/低価格品との差別化/大型仏壇の売れ行き低下/仏具需要の低迷 |
| 効率性 | 職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇/手仕事と機械製造のバランス/全国の小売店への販売網 |
| 安全性 | ②③に対応する材料はありません。根拠は財務諸表そのものにあります。長く商いを続けてきた蓄積の話は①に書きました |
設問2が求めているのは、劣っている点の要因です。趣旨は「戦略の違いを読み取り」と書いているので、自社と同業他社が別の道を選んでいることに触れないと、要求の半分が抜けます。材料は与件文にあります。
- 自社の道。腕のある職人を抱え、その手仕事で高い品を作り、安い品と同じ土俵に乗らない(第3段落)。
- 相手の道。海外で作った安い品を売り込む会社が力を入れており、値段での争いが強まっている(第2段落)。
- 売れ行きの側。主力だった大きな仏壇が落ち続け、仏具のほうも動きが鈍い(第2段落)。
- 作る側。腕を持つ人が減り、まとまった数を作るには機械の力が要る(第4段落)。
- 抱えているもの。作る場所も売る場所も自前で持ち、そのぶん身軽ではない(第1段落)。
同業他社と比べたときの向きだけは書けます。稼ぐ力と資産の回し方は、D社のほうが見劣りします。値ではなく向きなので、これは記事に書いても読者の答案を壊しません。借金と自己資本の釣り合いについては、当サイトは向きを断定しません。問題冊子の財務諸表で確かめてください。
80字は短いので、戦略の違いを一言で置いてから、要因を番号で並べます。指標の名称は設問1の欄で書くので、設問2でくり返す必要はありません。
次は正解ではありません。趣旨が求めた分析を80字に収めるとこうなる、という例です。指標の名称も値も入れていません。
要因は職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇による差別化戦略。同業他社の量産・低価格路線と比べ、需要減で売上が伸びず設備と人手の負担が重く、収益性と効率性が低い。
80マス / 80マス
第2問 利益計画|計算3小問
趣旨は3つの小問すべてに「算出する能力」と書いています。この記事は答えを書きません。何を計算するかまでを示します。
出題の趣旨(引用)。「(設問1)2種の製品を扱う短期利益計画において、与えられた製品データを用いて損益分岐点売上高とそこでの各製品の販売数量を算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問2)(設問1)における事業の次年度短期利益計画において、各種データの変化と設定された販売条件の下で目標利益額を達成するための製品販売数量を算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問3)(設問2)のデータ変化に加えて、製品のモデルチェンジに伴う価格とコストの変化を踏まえて、2つの制約条件が存在する場合における利益が最大となるセールスミックスを算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
3つとも文末は「算出する能力」です。文章で説明する欄はなく、答えと計算過程を書きます。当サイトは計算結果を載せないので、ここでは道筋だけを並べます。
- 設問1の向き。製品が2つあるので、1製品ぶんの式をそのまま当てられません。趣旨が「2種の製品を扱う」と書いているとおり、販売数量の比を保ったままひとまとまりとして扱い、そこから各製品の数量に割り戻します。
- 設問1で使う数字の在りか。設問文に付いた資料の、製品ごとの販売価格・一基当たりの変動費・個別固定費と、両製品に共通する固定費。数量の比は資料のあとの本文に書かれています。
- 設問2の向き。変動費と共通固定費が上がる前提に置き換え、片方の製品の数量が決められているので、目標の利益に届くもう一方の数量を逆に求めます。
- 設問3の向き。片方の製品が作り替えられて価格と固定費が変わります。そのうえで縛りが2つ。組み立てにかけられる時間の上限と、もう一方の製品が総数に占める割合の下限です。両方を満たす組み合わせのなかで利益が最も大きくなる点を探します。
- 設問3で見落としやすいところ。縛りが2つあるので、片方だけを満たす答えは条件違反になります。趣旨も「2つの制約条件が存在する場合」と書いています。
- 端数の扱い。割り切れないときにどう丸めるかは、設問文が指定しています。指定を読み飛ばすと、計算が合っていても答えが一致しません。
与件文とのつながりも見ておきます。③の「利益計画の見直し」は、材料の値上がりを受けて与件文が課題として書いた言葉で、設問2の前提そのものです。②の「デザイナーと組んだ現代的な仏壇・卓上小型仏壇」は、設問3で作り替える製品の背景にあたります。
解き方の手順は、事例ⅣのCVPを扱った記事に置いてあります。
第3問 海外向け新製品の意思決定|計算3小問
趣旨は3つとも「算出する能力」。最後の小問だけは、算出したうえで採否を決めるところまで求めています。
出題の趣旨(引用)。「(設問1)設備投資の経済性計算において、新設された設備が与えられた減価償却の下で耐用年数経過後に売却された場合の税引き後キャッシュフローを算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問2)新規の設備投資において、投資が実施された場合に発生する毎期の差額キャッシュフローを、与えられた予測情報に基づいて適切に算出する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問3)(設問2)において算出された毎期のキャッシュフローから、当該投資案の正味現在価値を算出して投資の意思決定を行う能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
3つの小問は前から後ろへつながっています。設問1で出した売却時の流れが設問2の最終年に入り、設問2で並べた各年の流れを設問3で現在の価値に直します。前を間違えると後ろも合いません。
- 設問1の向き。耐用年数が過ぎたあとに設備を売ります。売った値段と帳簿に残っている値段の差が損益になり、そこに税が効きます。手元に残る額は売った値段そのものではありません。
- 設問2の向き。趣旨が「差額」と書いているとおり、投資をした場合としなかった場合の差を並べます。売上から現金で出ていく費用を引き、税を引き、現金の出ていかない償却費を戻す、という順です。
- 設問2で落としやすいもの。設備を据える建物は、いま他社へ貸して賃料を受け取っています。据え付ければその賃料が入らなくなるので、投資したことで失う収入として数に入れます。
- 設問2でもう1つ。事業を回すために必要な資金が増え、それが最後にまとめて戻ってきます。増えるときと戻るときの両方を、正しい年に置きます。
- 設問3の向き。設問2で並べた各年の額に、設問文の表にある係数を掛けて現在の価値に直し、最初に出ていった額を引きます。残りが正なら採る、負なら採らない、という判断です。
- 設問3の書き方。趣旨は「意思決定を行う」と書いています。数を出して終わりではなく、採るか採らないかを答案に示すところまでが要求です。
与件文とのつながりは②の2つです。「漆塗り・蒔絵の意匠」と「海外向け高級収納家具の計画」が、この投資案の中身にあたります。計算だけの設問に見えますが、何に投資しているのかは与件文に書かれています。
解き方の手順は、事例Ⅳの意思決定会計を扱った記事に置いてあります。
第4問 資金調達と財務的リスク|80字と60字
ここで能力が助言に変わります。設問1は財務状況を踏まえた理由付き、設問2はリスクと対処の2つが要ります。
出題の趣旨(引用)。「(設問1)新規事業のための投資資金の調達手段について、D社の財務状況や新規事業の特性などを踏まえて、適切に助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
出題の趣旨(引用)。「(設問2)新規事業が海外への輸出を伴う事業であることを踏まえて、想定しうる財務的リスクとそれに対処するための適切な手段について助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問1の趣旨には条件が2つ入っています。財務状況と、新規事業の特性です。手段の名前だけを書くと、どちらの条件にも触れないまま終わります。財務状況は問題冊子の財務諸表から、事業の特性は与件文から取ります。
- 財務状況の確かめ方。自己資本の比率と有利子負債の水準を、問題冊子の財務諸表で確かめます。当サイトはここで向きを断定しないので、読者が自分で読んで判断してください。
- 事業の特性。作るのは②の「海外向け高級収納家具の計画」で、売り先は海の向こう。回収までに時間がかかる事業です(第4段落)。
- 作る側の事情。③の「海外向け製造の一部機械化」が要るので、設備にお金がかかります(第4段落)。
- 会社の持ち味。③の「新規職人の確保・育成」と「職人技術の継承と事業活動の両立」があり、人を育てる時間も要ります(第4・第5段落)。
設問2は、海を渡って売ることに固有のリスクです。趣旨が「海外への輸出を伴う」と限っているので、国内でも起きることを書くと、問われている範囲から外れます。60字でリスクと対処の両方を書くので、片方を1文ずつに収めます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた助言を80字と60字に収めるとこうなる、という例です。どちらも数値は入れていません。
以下2つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
自己資本の比率と有利子負債の水準を財務諸表で確かめて決める。設備投資に資金が要り回収も長期に及ぶため、返済期間を回収期間に合わせられる長期の調達を軸に助言する。
80マス / 80マス
リスクは為替変動で円貨受取額が目減りすること。対処は①為替予約で相場を確定し、②外貨建て債権と債務を相殺する管理による。
60マス / 60マス
事例Ⅳの記述設問の型は、専用の記事にまとめてあります。
計算の設問でも、与件文は読む
事例Ⅳで文章を書く欄は3つだけですが、その3つはすべて与件文の記述を前提にしています。
この年の第1問の設問2は戦略の違いを、第4問は財務状況と事業の特性を踏まえるよう求めています。②③の表に並べた17の材料は、そのために与件文から取り出したものです。数字だけを追って与件文を飛ばすと、書く欄で手が止まります。
計算の設問についても、何に投資し、なぜ利益計画を組み直すのかは与件文に書かれています。第2問は材料の値上がりを受けた話、第3問は海の向こうへ売る新製品の話です。前提を取り違えると、計算の方向ごと外れます。
この年の設問だけでなく、事例Ⅳ全体でどの論点がどれだけ出ているかは、別の記事にまとめてあります。
土台が足りないと感じた言葉は、1次の分野別演習で埋め直せます。事例Ⅳの答案で使う語は、もとは財務・会計の分野です。
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇/低価格品との差別化/戦略的な新商品開発の継続/全国の小売店への販売網/大型仏壇の売れ行き低下/仏具需要の低迷/職人の高齢化と減少/手仕事と機械製造のバランス |
| 第2問 | デザイナーと組んだ現代的な仏壇・卓上小型仏壇/戦略的な新商品開発の継続/現代風の商品を扱う直営店舗/利益計画の見直し |
| 第3問 | 漆塗り・蒔絵の意匠/海外向け高級収納家具の計画/現代風の商品を扱う直営店舗/海外向け製造の一部機械化/手仕事と機械製造のバランス |
| 第4問 | 職人の手仕事による自社生産の高価格仏壇/漆塗り・蒔絵の意匠/海外向け高級収納家具の計画/伝統文化の継承という経営のモットー/職人の高齢化と減少/新規職人の確保・育成/海外向け製造の一部機械化/職人技術の継承と事業活動の両立 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
この記事は財務指標の値も計算結果も1つも載せていません。省いたのではなく、載せない判断をしました。
事例Ⅳの数値は、問題冊子の財務諸表と資料をそのまま読んで使ってください。この記事が指標の値も計算結果も載せていないのは、PDFから機械で読み取った数字は桁や配置がずれることがあり、1つ違うと答案がまるごと外れるためです。
値の裏取りが要る記事は、1つずつ現物と照合してから出します。この記事はその照合をしていないので、値を書かずにまとめました。書いたのは、同業他社と比べて稼ぐ力や資産の回し方がどちらに傾いているか、という向きまでです。借金と自己資本の釣り合いについては、向きも書いていません。
指標の名称を書かないのも同じ理由です。設問1が求めているのは優れている指標1つと劣っている指標2つですが、当サイトが特定の名前を断定して、それが外れていた場合、読者の答案は3つとも外れます。書けるのは、どの観点から探すかと、その根拠が与件文のどこにあるかまでです。
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 第1問で選ぶべき指標の名称と値は書いていません。財務諸表から自分で計算してください。
- 第4問で踏まえるべきD社の財務状況についても、当サイトは向きを断定していません。自己資本の比率と有利子負債の水準は、財務諸表で確かめてください。
- 第2問と第3問は解答例を載せていません。計算結果を載せない方針のため、道筋までを示しました。
- 第2問と第3問の道筋のうち、見落としやすい点として挙げたものは当サイトの見立てです。趣旨には書かれていません。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、小問ごとの内訳は公表されていません。第1問の配点を設問1と設問2でどう配るかは分かりません。
- 段落番号は与件文の先頭からの通し番号です。この事例は第6段落から先が財務諸表と資料の行なので、②③の引用は第1段落から第5段落までにしかありません。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文・資料)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和7年度 事例Ⅳは、字数指定のある欄が3つだけです。残りは計算の設問です。
- この記事は財務指標の値も計算結果も載せていません。理由は最後の節に書きました。
- 計算の設問でも、答案に持ち込む材料は与件文にあります。段落番号まで示します。
よくある質問
- なぜ財務指標の名前も値も書いていないのですか?
- 当サイトが持っている資料は公表された問題から機械で読み取ったもので、数字が壊れることがあるためです。値を1つ間違えて載せると、写した読者の答案がまるごと外れます。指標の名前も、断定して外れれば同じことが起きます。だから観点と根拠の在りかまでにとどめました。
- 第2問と第3問に解答例が無いのはなぜですか?
- この2問は字数指定のない計算問題で、答案の中身が計算結果そのものだからです。計算結果を載せない方針なので、代わりに何を計算するか、どの資料を見るか、どこで落としやすいかまでを書きました。解き方の手順は事例Ⅳの論点別の記事にあります。
- 第1問の設問2でも指標の名称を書いたほうがよいですか?
- 名称と値を書く欄は設問1です。設問2は劣っている点の要因を述べる欄で、趣旨も「戦略の違いを読み取り」「要因を分析する」と書いています。80字しかないので、設問1で書いた名称をくり返すより、戦略の違いと要因に字数を使うほうが要求に近づきます。
- 事例Ⅳでも与件文をていねいに読む必要がありますか?
- あります。文章を書く欄は3つですが、第1問の設問2は戦略の違いを、第4問は財務状況と事業の特性を踏まえるよう求めています。どちらも与件文に戻らないと書けません。計算の設問も、何に投資し、なぜ利益計画を組み直すのかは与件文に書かれています。
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。

