令和7年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 趣旨が「分析」と書いた設問に助言を書くと、問われていない答案になります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
- 150字は、因果を明示し番号で並べて名詞で締める書き方を前提にした字数です。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和7年度 事例Ⅰの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えました。読者が自分で与件文に戻って確かめられるようにするためです。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文3,285字・解答字数の合計430字。80分の内訳は読む16分/考える47分/書く17分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 30字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 説明 | 30点 | 150字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 助言 | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問 | 助言 | 30点 | 150字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 1分 | 9分 |
| 第2問 | 6分 | 14分 |
| 第3問 | 4分 | 9分 |
| 第4問 | 6分 | 14分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える47分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第5段落で、合わせて4語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
内装材を企業に売ってきた木材加工会社が、木製知育玩具で消費者向けに踏み出し、組織と人材の作り直しに突き当たった話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は昭和の初めに生まれた木材加工の会社です。林業のさかんな県で、県産の木を原料にした内装材を作り、企業に納めることを主力にしてきました。社員30名、年間の売上は8億円ほど。働き手の多くは内装材の技術者と法人向けの営業です。
その脇で、社長の子息がオーダーメイドの家具やペンなど木の新しい使い道を試す小さな事業(X事業)を預かっていました。工場に併設した直営店と県のアンテナショップで売っており、A社が消費者と直に向き合う数少ない窓口です。ただし規模は小さく、試しにやっている域を出ていません。
「大学で経営を学び、家業に入った。新しい事業の責任者を任されている。」
そこへ市場の変化が3つ重なります。内装材の競争が激しくなり公共案件の収益が読めなくなったこと。自然素材や国産材への関心が高まったこと。木に触れて子どもの心を育てる木育が求められ始めたこと。県の団体が開いたイベントで製品に見入る子どもと保護者を目にした社長は、木製知育玩具に勝ち目があると確信します。
「内装材だけでは先が細る。木育の玩具に賭けると決めた。」
立ち上げは、社内外の持ち物を寄せ集める形で進みました。内装材で磨いた加工と仕上げの技術、乳幼児向けに要る安全な塗料のノウハウ、林業家・製材所とのつながり、地域の木工職人。県や地元の大学の後押しも得ています。滑り出しは順調でしたが、求められる腕も考え方も違うのに人の配置と育てる仕組みは以前のまま。子息も一人では手が回らなくなってきました。
「細かい手作業と小ロットには、地域の職人の手が要る。」
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は4つの観点を30字ずつです。** 観点が指定されているので、書きたいことから書くと枠に入りません。30字は要素1つがやっとです。
- **第2問は「顧客接点の工夫」を分析する設問で、助言ではありません。** 直営店、アンテナショップ、大手EC、SNS、子育てイベント、保育園での実証実験。すでにやっていることを整理する側です。150字あるので、なぜそれが効いたのかまで届かせられます。
- **第3問と第4問は、どちらも助言ですが層が違います。** 第3問は組織体制(人の配置と育てる仕組み)、第4問は理念の再定義と浸透。第4問に人事の施策を書くと、第3問と重なります。
- **社内が一枚岩ではない、という点がこの事例の芯です。** 長く既存事業を担ってきた社員に新規事業の必要性が伝わっていない。第4問で理念が問われるのは、そこに効かせるためだと読めます。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、技術・調達・地域との関係・人と理念の4つに固まっています。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。問題PDFの印刷どおりに数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「その木材加工技術が評価され」 | 内装材で培った木材加工技術 | 第1段落 | 第1問(強み) |
| 「薄板加工技術や、美しい木目を活かすための仕上げ技術」 | 薄板加工・仕上げ技術 | 第6段落 | 第1問(強み) |
| 「口に入れても安全な塗料の使用といったノウハウ」 | 安全な塗装ノウハウ | 第6段落 | 第1問(強み) |
| 「同県内の林業家や製材所とのネットワーク」 | 原材料の安定調達網 | 第6段落 | 第1問(強み) |
| 「同県や地元の大学との良好な関係」 | 県・大学の支援体制 | 第7段落 | 第1問(機会)・第2問・第4問 |
| 「地域の木工職人たちの存在」 | 小ロット多品種を担う外部職人網 | 第7段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「地元の大学で経営学に関する知見を深めた後、家業に入り」 | 経営学の知見を持つ後継者 | 第1段落 | 第2問・第3問 |
| 「工場併設の直営店や同県のアンテナショップ」 | 既存の消費者接点(直営店・アンテナショップ) | 第1段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「自然から頂いた木を、生活する人々が豊かになるよう社会にお返しする」 | 創業以来の企業理念 | 第5段落 | 第4問 |
9つのうち技術に関わる3つ(木材加工技術・薄板加工と仕上げ・安全な塗料)は、第1問の強みにそのまま入ります。一方、県と大学、木工職人、林業家と製材所の4つは、A社の外にある資産です。自社に無いものを外から借りている、という読み方をすると、第2問の趣旨にある「補完」という語につながります。
企業理念だけは扱いが違います。第4問がこれを名指しで問うており、再定義の出発点になります。捨てて作り直す話ではなく、何を足すかの話です。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は与件文の後半、とくに第9・第10段落に固まっています。ここを読み飛ばすと、第3問の助言が一般論になります。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。8つのうち4つが第9・第10段落、つまり社長が診断士に相談する直前に並べた心配ごとです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「社員の多くは内装材の製造関連の技術職と法人営業の担当者」 | 消費者向け販売経験の不足 | 第1段落 | 第1問(弱み)・第3問 |
| 「景気や政策の影響を受けやすく安定的な収益確保が難しくなってきていた」 | 景気・政策に揺れる公共案件依存 | 第3段落 | 第1問(脅威) |
| 「あくまで実験的な取り組みにとどまっていた」 | 消費者向け事業の実績不足 | 第4段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「既存事業を支えてきた社員たちは新規事業の必要性を十分には理解できなかった」 | 新規事業への社内理解の不足 | 第5段落 | 第1問(弱み)・第4問 |
| 「彼一人の力では限界が見え始めている」 | 新規事業の子息への属人化 | 第9段落 | 第3問 |
| 「求められるスキルセットや思考様式も異なる」 | 事業特性の相違への対応 | 第9段落 | 第3問 |
| 「社員の配置や育成制度についても見直しが必要ではないか」 | 配置・育成制度の見直し | 第9段落 | 第3問 |
| 「新たな市場や事業機会を探索できる体制を構築する必要性」 | 事業機会を探索する体制の構築 | 第10段落 | 第3問 |
第1段落から第5段落にある4つは、新規事業に出る前からあった弱みと脅威です。第9・第10段落の4つは、出たあとに見えてきた組織と人材の課題です。前半は第1問、後半は第3問に効く、という分かれ方をしています。
時期の切り分けが答案を分けます。「彼一人の力では限界が見え始めている」は進出したあとの話なので、第1問の弱みに入れるか第3問に回すかで判断が割れます。この記事は第3問に置きました。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。ここから、答案に入れるべき要素と書き方の向きが決まります。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和7年度 事例Ⅰは、木材加工会社が木製知育玩具の新規事業に進出した事例です。4設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 30字以内(観点ごと) | 現状分析 |
| 第2問 | 30点 | 150字以内 | 分析 |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 助言 |
| 第4問 | 30点 | 150字以内 | 助言 |
第2問と第4問で60点、全体の6割です。字数も150字と長く、書く時間そのものがかかります。時間配分はこの2問を厚くし、第1問の30字は迷わず出せるところまで型を作っておくのが現実的です。
答案の言葉は、日常の言葉より短い
150字や100字は、因果を明示し、番号で列挙し、名詞で締める書き方を前提にした字数です。日常の文では要素が入りません。
この書き方は当サイトが決めた型ではなく、2次試験の答案で広く使われているものです。要素を並べる設問に短い字数が設定されているため、日常の言い回しのままでは必要な材料が入らない、という事情から定着しています。
| 書き方 | 日常の言葉 | 答案の言葉 |
|---|---|---|
| 因果をつなぐ | SNSで発信したので、新しいお客さんが増えました | SNS発信により新規顧客を獲得 |
| 番号で並べる | ECにも出店し、イベントにも出て、大学とも組みました | ①EC出店、②イベント出展、③大学連携 |
| 名詞で締める | 社員のやる気が高まるようにしていきます | 社員のモチベーション向上を図る |
3行とも、右のほうが2割から4割短くなります。150字の設問では要素が4つ5つと並ぶので、この差がそのまま「入るか入らないか」になります。
文の順番も決まっています。結論を先に置き、理由や手段を後ろに付けます。「理由は①〜、②〜」「以て〜を図る」のように、答えの部分が先に来る形です。
ただし用語は中身の代わりになりません。与件文に書いていない事実を、それらしい言葉で埋めても加点の根拠になりません。用語は、与件文にある事実を答案の言葉に置き換えるためのものです。
第1問 現状分析|4つの観点を30字ずつ
趣旨は「現状分析をする能力」と書いています。ここで打ち手を書くと、問われていないことを書くことになります。
出題の趣旨(引用)。「A社の新規事業への進出時における外部環境と内部環境の現状分析をする能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。しかも「外部環境と内部環境」と書かれているので、内と外の両方に触れないと趣旨の要求を満たしません。設問文もSWOT分析のそれぞれの観点を求めています。使う材料は②③に挙げました。ここでは4観点への振り分けだけを見ます。
| 観点 | ②③のどの材料を使うか |
|---|---|
| 強み(内部) | 内装材で培った木材加工技術/薄板加工・仕上げ技術/安全な塗装ノウハウ/原材料の安定調達網/小ロット多品種を担う外部職人網/既存の消費者接点(直営店・アンテナショップ) |
| 弱み(内部) | 消費者向け販売経験の不足/消費者向け事業の実績不足/新規事業への社内理解の不足 |
| 機会(外部) | 県・大学の支援体制 |
| 脅威(外部) | 景気・政策に揺れる公共案件依存 |
内部(強み・弱み)に9つ、外部(機会・脅威)に2つ。偏っているのは、②③がA社の資産と課題を並べた表だからです。市場そのものの追い風と向かい風は資産でも課題でもないので、②③には載っていません。①で挙げた市場の変化3つ、自然素材と国産材への関心、木育のニーズ、そして内装材の競争激化がそれにあたります。
強みは6つありますが、30字に入るのは2つです。②の並びのうち、第6段落に固まっている技術系の3つは1つにまとめられます。逆に③の「新規事業の子息への属人化」は進出後の状況なので、弱みに入れるか第3問に回すかで読み方が分かれます。
字数は観点ごとに30字以内です。「強みは〜です」と文で書くと材料が1つしか入りません。名詞で締めて番号で並べると、30字でも2つ入ります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた内と外の両方を、30字に収めるとこうなる、という例です。
以下4つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
①内装材で培った薄板加工・仕上げ技術、②安全な塗装ノウハウ。
30マス / 30マス
①消費者向け販売経験の不足、②新規事業の子息への属人化。
28マス / 30マス
①国産材・木育への関心の高まり、②県・大学の支援体制。
27マス / 30マス
①内装材市場の競争激化、②景気・政策に揺れる公共案件依存。
29マス / 30マス
第2問 顧客接点の工夫を分析する|150字
趣旨は「資源や能力の補完に関する組織的工夫を分析する能力」。誰が何を補ったかを書くと、趣旨の言葉に届きます。
出題の趣旨(引用)。「企業向け事業に取り組んできたA社が、一般消費者向けの新規事業に挑戦する際の、資源や能力の補完に関する組織的工夫を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は「行った取り組みや工夫」を説明せよと求めています。過去に起きたことを書く設問で、これからやるべきことではありません。趣旨の「補完」という語が、書く軸を決めます。自社に無かったものを、誰が埋めたかです。
埋められた側は、③の「消費者向け事業の実績不足」です。埋めた側は、②の外部資産と人にあたる3つ、「県・大学の支援体制」「経営学の知見を持つ後継者」「既存の消費者接点(直営店・アンテナショップ)」です。この対応が答案の骨になります。
- 自社に無かったもの。企業向けが主力で、消費者向けは実験的なX事業だけだった(第1・第4段落)。
- 販路の補完。直営店と県のアンテナショップに加え、大手ECサイトへ出店した(第8段落)。
- 発信の補完。SNSでの情報発信と子育てイベントへの出展を企画・実行した(第8段落)。
- 担い手。これらを言い出したのは、経営学の知見を持つ後継者である社長の子息(第1・第8段落)。
- 県による補完。保育園・幼稚園・放課後児童クラブでの実証実験の支援と、県の広報媒体でのPR協力(第7段落)。
- 大学による補完。教育連携を続け、学生が参加するワークショップで改善点を議論した(第8段落)。
- 顧客の設定。保育・教育施設に子どもを預ける20代から40代の教育熱心な子育て家庭に定めた(第8段落)。
接点づくりの出発点は、県の公的団体が主催したイベントへのブース出展でした(第4段落)。ここで社長が手応えを得たことが進出の決め手になっています。字数に余裕があれば入れられます。
150字に7つは入りません。趣旨が「補完」と書いている以上、補った相手(子息・県・大学)と補われた中身(販路・発信・アイデア)の対応が消えない削り方を選びます。手段の列挙だけにすると、趣旨の語に届きません。
書き出しに「経営資源の補完」という結論を置き、手段は番号で並べて名詞で締めます。最後を「以て〜」でまとめると、何のための取り組みだったかが1文で示せます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた要素を150字に収めるとこうなる、という例です。
顧客接点は、自社に不足する販路と情報発信力を外部と子息で補完し構築した。①直営店・県アンテナショップに加え大手ECへ出店、②子息の発案でSNS発信と子育てイベント出展、③県の支援で保育・教育施設での実証実験と広報協力、④地元大学とのワークショップで改善案を獲得。以て消費者との継続的な接点を確保した。
148マス / 150マス
第3問 組織体制を助言する|100字
ここで能力が助言に変わります。設問は体制とその理由の2つを求めており、片方だけでは要求を満たしません。
出題の趣旨(引用)。「企業向けの既存事業と一般消費者向けの新規事業の双方を、資源や能力に制約を持つA社が効果的に推進するための組織体制に関する助言能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は「双方を」「資源や能力に制約を持つ」と書いています。既存事業を止めずに新規事業を伸ばすこと、そのうえで限られた人と資金で回すこと。この2つの縛りを外した助言は、趣旨の条件を満たしません。
材料は③の後半4つ、「新規事業の子息への属人化」「事業特性の相違への対応」「配置・育成制度の見直し」「事業機会を探索する体制の構築」が、そのまま並びます。与件文が課題として書いた言葉に、助言で1つずつ答える形です。
- 既存事業の重み。内装材事業は売上の大半を占め、ベテラン社員の技術と経験が支えている(第9段落)。
- 新規事業の性質。知育玩具は流行の移り変わりが速く、判断と実行の速さが要る事業(第9段落)。
- 違いの中身。求められるスキルセットや思考様式が異なり、配置と育成制度の見直しが要る(第9段落)。
- 人の制約。新規事業は子息が深く関与しているが、規模の拡大で彼一人では限界が見えている(第9段落)。
- 育成の課題。子息に続く次世代のリーダー候補と、専門知識を持つ人材の確保・育成(第10段落)。
- 資源配分。内装材・新規事業・X事業をどう連携させ、限られた経営資源をどう配ると決めるか(第10段落)。
- 探索の体制。事業機会を探索する体制の構築が要る(第10段落)。
- 規模の前提。社員は30名で、部門は製造技術・営業・管理の3つしかない(第1段落)。
体制の名前を1つに決められる材料は、与件文にも趣旨にもありません。書けるのは、事業ごとに責任と権限をどう分け、何を共通に残すかまでです。理由は与件文の記述から取ります。
100字は短く、体制の説明で半分が消えます。理由は「理由は①〜、②〜、③〜」の形で名詞で締め、1つ十数字に収めます。理由が入らないなら、体制の説明のほうを削ります。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた条件を100字に収めるとこうなる、という例です。
内装材と知育玩具を事業単位で分離し、管理部門は共通化、各責任者へ権限委譲する体制を助言する。理由は①事業特性の相違への対応、②限られた経営資源の重点配分、③子息に続く次世代リーダーの育成のためである。
100マス / 100マス
第4問 理念の再定義と浸透を助言する|150字
趣旨は「社内外に伝達・浸透」と書いています。社内の共有だけで答案を終えると、社外が抜け落ちます。
出題の趣旨(引用)。「A社が新規事業を推進するにあたり、どのようなものに企業理念を見直したり、いかにそれを社内外に伝達・浸透させたりすればよいかの助言能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
要求は2つです。理念をどう見直すかと、それをどう伝えて浸透させるかです。配点30点で字数も150字なので、片方だけを厚く書くと、もう片方が空になります。
土台になるのは②の創業以来の企業理念です。社内で埋めたいのは③の「新規事業への社内理解の不足」、社外への経路は②の県・大学の支援体制。②③の表からそのまま3つを引いてくると、要求の両方に材料が付きます。
- 元の理念。「自然から頂いた木を、生活する人々が豊かになるよう社会にお返しする」(第5段落)。
- 足す内容。木育は、木に触れる体験を通じて子どもの心を豊かに育てる取り組みだと説明されている(第3段落)。
- 適合の根拠。社長は木育を意識した知育玩具市場が自社の理念に適合すると判断した(第5段落)。
- 子息の動機。地元の資源である木に新しい使い道を生み出せる点へのやりがい(第5段落)。
- 社内の課題。新規事業への社内理解の不足。長く既存事業を担ってきた社員ほど、なぜ要るのかが伝わっていない(第5段落)。
- 社外の相手。県と公的団体、同業者の集まり、地元大学(第2段落)、林業家と製材所(第6段落)、木工職人と保育・教育施設(第7段落)。
- 使える経路。県の広報媒体と実証実験(第7段落)、SNSと子育てイベント、大学とのワークショップ(第8段落)。
再定義は、元の理念を捨てる話ではありません。与件文の理念は既に「生活する人々が豊かになるよう」と書いており、そこに子どもの成長と地域資源の価値創造を重ねると、既存事業と新規事業が同じ言葉で説明できます。
浸透の手段は、新しく考える必要がありません。県の広報、SNS、実証実験、大学との連携という経路は、第2問で問われた取り組みとして与件文に既に出ています。同じ資源を理念の伝達にも使う形です。
2つの要求があるので、答案も①再定義、②浸透と番号で分けます。浸透は社内と社外を並べ、最後を「以て〜を図る」で締めると、狙いまで書けます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの要求を150字に収めるとこうなる、という例です。
①理念は、木の活用による生活の豊かさに、木育を通じた子どもの成長支援と地域資源の価値創造を加えて再定義する。②浸透は、社内では既存技術が玩具に活きた事例の共有と配置・育成制度への反映、社外では県の広報・SNS・実証実験・大学連携での発信による。以て新旧事業の一体感を醸成し、次世代リーダーを育てる。
147マス / 150マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 内装材で培った木材加工技術/薄板加工・仕上げ技術/安全な塗装ノウハウ/原材料の安定調達網/県・大学の支援体制/小ロット多品種を担う外部職人網/既存の消費者接点(直営店・アンテナショップ)/消費者向け販売経験の不足/景気・政策に揺れる公共案件依存/消費者向け事業の実績不足/新規事業への社内理解の不足 |
| 第2問 | 県・大学の支援体制/経営学の知見を持つ後継者/既存の消費者接点(直営店・アンテナショップ)/消費者向け事業の実績不足 |
| 第3問 | 小ロット多品種を担う外部職人網/経営学の知見を持つ後継者/消費者向け販売経験の不足/新規事業の子息への属人化/事業特性の相違への対応/配置・育成制度の見直し/事業機会を探索する体制の構築 |
| 第4問 | 県・大学の支援体制/創業以来の企業理念/新規事業への社内理解の不足 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、観点や要素ごとの内訳は公表されていません。第1問の20点を4観点でどう配るかは分かりません。
- 要素の拾い方は当サイトの判断です。第9段落の「子息一人では限界」のように、第1問に入れるか第3問に回すかで分かれる記述があります。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
- 横断の数字は平成24年度から令和7年度の207設問の集計で、うち36設問(17%)は趣旨が能力の語を使っておらず分類から漏れています。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 趣旨が「分析」と書いた設問に助言を書くと、問われていない答案になります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
- 150字は、因果を明示し番号で並べて名詞で締める書き方を前提にした字数です。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 出題の趣旨はどこで読めますか?
- 試験実施機関が年度ごとに公表しています。設問ごとに「〜する能力を問う問題である」という短い文が並んでいます。過去問を解いたあとに読むと、自分の答案が問われた向きと合っているかを点検できます。
- 第1問で助言を書いてはいけませんか?
- 令和7年度 事例Ⅰの第1問は、趣旨が「現状分析をする能力」と書いており、設問文もSWOT分析の観点を求めています。打ち手を書く欄ではありません。30字しかないので、打ち手を入れると分析そのものが入りません。
- 解答例の「①②③」という書き方は決まりですか?
- 採点側が指定しているものではありません。ただし2次試験の答案では広く使われています。要素を並べる設問に対して字数が短いため、番号で区切り名詞で締めると材料が入りやすいからです。この記事の例もその書き方に合わせています。
- 与件文のどの段落を見ればよいか、どう探しますか?
- 設問の言葉を与件文で探すのが近道です。第2問なら「接点」に関わる販路・発信・連携の記述、第3問なら組織と人材の記述が固まっている段落があります。この記事では各要素に段落番号を添えたので、与件文に戻って確かめられます。




