令和7年度 事例Ⅲの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和7年度 事例Ⅲは4問中3問が助言です。分析寄りの事例Ⅰとは骨格が違います。
- 第1問は強みと弱みの2欄です。機会と脅威は問われていません。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和7年度 事例Ⅲの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年の事例Ⅲは4問のうち3問が助言で、分析寄りだった事例Ⅰとは骨格が違います。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅲは、どんな回か
与件文2,067字・解答字数の合計340字。80分の内訳は読む10分/考える56分/書く14分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 60字 | ◎ 強み・弱みの分析 90%(69〜97%) |
| 第2問 | 述べる | 30点 | 60字 | 生産計画・工程管理 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 助言 | 20点 | 100字 | 新事業・受注拡大 32%(15〜54%) |
| 第4問 | 助言 | 30点 | 120字 | ◎ 新事業・受注拡大 67%(44〜84%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 2分 | 11分 |
| 第2問 | 2分 | 17分 |
| 第3問 | 4分 | 11分 |
| 第4問 | 5分 | 17分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える56分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第19〜20段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
紙パイプを注文どおりに作ってきた会社が、納期と品質と腕の受け渡しに追われながら、単価の高い新しい分野へ出ようとしている話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
C社は戦後まもなく生まれた紙パイプの会社で、従業員40名、年商8億円ほど。製紙用・産業用・建築用の3種類を作り、売り先は包装資材の会社が数社です。始まりは製紙メーカーからの技術指導で、原料の紙はいまもそのメーカーから安定して届いています。
市場は二方向に動いています。紙そのものの需要は電子化で細る一方、食品や医療の分野は伸び、プラスチックを紙に置き換える動きも重なっています。原料のほとんどが再生紙で、資源が回る輪の一部を担う会社です。経営者は、値打ちの高い製品づくりと原価の引き下げの両方が要ると見ています。
工場は5つの製造ライン。注文を受けてから作り、できあがった品を寝かせません。困りごとは3つあります。納期(品目が増える一方で運送の引き取り条件が厳しく、夜中や明け方まで働いてしのいでいる)、計画と指示(工場長が週に一度だけ計画を作って板に書き、1割ほどある仕様変更や急ぎの注文は紙の書き付けで伝わる)、そして人と品質です。
「週末に来週の計画を立て、現場のホワイトボードに書き出している。」
各ラインのやり方は経験を積んだ作業者の勘に支えられており、定年で抜ける人も出るなか腕の受け渡しは進んでいません。接着剤の塗り方や巻き取り方の違いから厚みや強さがそろわず、苦情が増えています。苦情が来ればライン長が出向いて作り直しますが、原因をたどって次を防ぐところまでは手が回っていません。新しい一手として、単価の高い食品向け・医療向けに手を伸ばそうとしています。
(経験と勘でやってきた。退く者が出ているが、受け渡しは進んでいない。)
(苦情が来れば作り直して納める。原因を追うところまでは手が回らない。)
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は60字ずつ2欄です。** 40字の年より書けますが、強みと弱みが1つずつではありません。原料の安定供給と3分野の実績を強みに、勘に頼った作り方と品質のばらつきを弱みに、というように束ねる作業が要ります。
- **第2問は課題と改善策が60字ずつです。** コストダウンに限定されているので、納期の話を書くと第3問と重なります。原料が足りないと気づいてから頼むこと、立ち上がりの無駄が出ることが、原価側の手がかりです。
- **第3問は「在庫を持たずに」という条件つきです。** 与件文には倉庫を建てて先回りして作る案が出てきますが、それは踏み切れていない案。条件を外して在庫で解く答案は、要求と逆を向きます。
- **第4問は新分野に必要な社内の取り組みです。** 設備も工程もそのまま使えるのに、寸法や強さの基準は従来より厳しい。いま苦情が出ている品質のばらつきを放置したままでは出られない、というつながりが見えます。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、用途の広さ・原料の調達・顧客の評価・設備の互換性の4つに固まっています。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。【企業概要】のような見出しの行も、工程を①から⑧まで並べた行も、それぞれ1段落として数えています。問題PDFの印刷どおりの数え方です。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「現在の主力製品は製紙用、産業用、建築用の紙パイプであり」 | 製紙用・産業用・建築用の3用途 | 第2段落 | 第1問(強み) |
| 「製造技術の指導と原料紙の提供を受けて」 | 製紙メーカーからの技術指導 | 第3段落 | 第1問(強み)・第4問 |
| 「原料紙は、現在もX社から安定的に仕入れることができている」 | 原料紙の安定調達 | 第3段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「コンクリート凝固後の抜き取りやすさが顧客から評価されている」 | 建築用型枠材への顧客評価 | 第5段落 | 第1問(強み) |
| 「C社製品の原料紙は現在ほとんどが再生紙であり」 | 再生紙を主原料とする製品 | 第6段落 | 第1問(強み)・第4問 |
| 「循環型社会醸成の一翼を担っている」 | 循環型社会への貢献 | 第6段落 | 第1問(強み)・第4問 |
| 「5つの製造ラインごとにライン長がおり」 | ライン長を置いた5ライン体制 | 第9段落 | 第2問・第3問 |
| 「各製造ラインにはベテラン作業者を配置していた」 | 各ラインのベテラン作業者 | 第22段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「従来と同じ紙パイプであり設備や工程に互換性はある」 | 新事業と互換性のある設備・工程 | 第26段落 | 第1問(強み)・第4問 |
9つのうち前半の4つ、「製紙用・産業用・建築用の3用途」「製紙メーカーからの技術指導」「原料紙の安定調達」「建築用型枠材への顧客評価」は、第1問の強みにそのまま入ります。作れる範囲の広さ、原料が切れないこと、買い手が認めている性能という3種類の資産です。
「再生紙を主原料とする製品」と「循環型社会への貢献」は、第4問の土台にもなります。食品や医療の分野が伸びている理由には、環境への配慮から素材を紙へ替える動きが含まれているからです。
「各ラインのベテラン作業者」だけは扱いに注意が要ります。この記述がある第22段落は、続けて腕の受け渡しが進んでいないことを書いています。腕のある人がいる事実は資産、その腕が個人の中にとどまっている状態は課題で、別の話です。
②③はどちらもC社の内側を並べた表です。市場の追い風と向かい風は資産でも課題でもないので、この2つの表には載っていません。外部環境の材料は①に書きました。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は与件文の後半、第20段落から第24段落に固まっています。ここに並ぶ記述が、そのまま第2問と第3問の材料になります。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。15のうち13が第20段落から第24段落、つまり工場の現状を書いた部分にあります。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「製品の高付加価値化、コストダウンによる収益性強化を図ることが重要」 | 高付加価値化とコストダウン | 第7段落 | 第2問・第4問 |
| 「C社でも製品アイテム数が増加している」 | 製品アイテム数の増加 | 第20段落 | 第3問 |
| 「出荷に間に合わせるための製造時間短縮が課題となっている」 | 製造時間短縮の必要 | 第20段落 | 第2問・第3問 |
| 「製造人員の人材不足もあり出荷に間に合わせるため深夜・早朝残業が増えている」 | 深夜・早朝残業の増加 | 第20段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「工場長が毎週末に次週の週次製造計画を作成しており」 | 週次どまりの製造計画 | 第21段落 | 第1問(弱み)・第3問 |
| 「製造現場に設置しているホワイトボードに記載して製造指示を行う」 | 板書きによる製造指示 | 第21段落 | 第3問 |
| 「顧客からの仕様変更や特急受注が全受注件数の1割程度あり」 | 仕様変更・特急受注が1割 | 第21段落 | 第3問 |
| 「突発的な製造計画の変更は紙のメモで作業担当者に指示され、そのたびに工程の混乱の要因となっている」 | 計画変更の伝達による工程の混乱 | 第21段落 | 第1問(弱み)・第3問 |
| 「作業方法はベテラン作業者の経験と勘によるものが多く」 | 経験と勘に頼る作業方法 | 第22段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「技術やスキルの承継が必ずしもうまくいっておらず」 | 技能承継の停滞 | 第22段落 | 第1問(弱み)・第2問・第4問 |
| 「原料紙の機械セットに際して立ち上がりロスによるムダも生じている」 | 段取り時の立ち上がりロス | 第22段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「接着剤の塗布方法や成型機の巻き取り方法の相違による厚さや強度などの品質のバラツキ」 | 加工条件の相違による品質のバラツキ | 第23段落 | 第1問(弱み)・第2問・第4問 |
| 「クレームや不適合品発生の記録、その原因追及、再発防止までは手が回っていない」 | 不適合品の記録と再発防止の欠如 | 第23段落 | 第1問(弱み)・第2問・第4問 |
| 「原料紙が不足した際の原料紙待ちによる作業停滞もしばしば発生している」 | 原料紙待ちによる作業停滞 | 第24段落 | 第2問・第3問 |
| 「新たな顧客が求める厳密な品質基準に対応する必要がある」 | 新事業が求める厳密な品質基準 | 第26段落 | 第4問 |
先頭の「高付加価値化とコストダウン」だけは性質が違います。これは経営者が自分で掲げた方針で、直したい不具合ではありません。第2問と第4問はこの方針からぶら下がっているので、枠として置きました。
残りは3つのかたまりに分かれます。第20段落と第21段落は納期と計画のこと、第22段落と第23段落は人と品質のこと、第24段落は資材のことです。前のかたまりが第3問、後ろのかたまりが第2問に効く、という分かれ方をしています。
置き場が割れるものもあります。「原料紙待ちによる作業停滞」は、人が手を止めている無駄でもあり、出荷が遅れる原因でもあります。この記事では第2問と第3問の両方に置きました。「深夜・早朝残業の増加」も、原価が上がる話と納期が守れない話の両方に読めます。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅲは、4問のうち3問が助言でした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和7年度 事例Ⅲは、紙パイプを注文どおりに作る会社の事例です。4設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 60字以内(⒜⒝それぞれ) | 分析 |
| 第2問 | 30点 | 60字以内(課題ごと) | 助言(課題抽出と改善策) |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 助言(工程管理の改善) |
| 第4問 | 30点 | 120字以内 | 助言(新事業に必要な社内の取り組み) |
同じ令和7年度でも、事例Ⅰは4問中2問が助言でした。事例Ⅱと事例Ⅲは3問です。分析は第1問の20点だけで、残る80点はすべて打ち手を書かせる設問だったことになります。分析の型だけを用意して臨むと、8割の配点で手が止まります。
書く欄の数にも気をつけます。第1問は⒜⒝の2つ、第2問も課題2つで2つ。4設問なのに解答欄は6つあり、字数の合計は460字です。1つの欄が短いぶん、要素を絞る判断を6回くり返すことになります。
第1問 強みと弱み|60字ずつ2欄
趣旨は「分析する能力」と書いています。ここで打ち手を書くと、問われていないことを書くことになります。
出題の趣旨(引用)。「C社の強みと弱みについて、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。設問は⒜強みと⒝弱みで欄が分かれ、それぞれ60字。事例Ⅰや事例Ⅱの第1問と違い、機会と脅威は問われていません。②③はどちらも会社の内側を並べた表なので、この設問に関しては表がそのまま材料になります。
| 観点 | ②③のどの材料を使うか |
|---|---|
| 強み(⒜) | 製紙用・産業用・建築用の3用途/製紙メーカーからの技術指導/原料紙の安定調達/建築用型枠材への顧客評価/再生紙を主原料とする製品/循環型社会への貢献/各ラインのベテラン作業者/新事業と互換性のある設備・工程 |
| 弱み(⒝) | 経験と勘に頼る作業方法/技能承継の停滞/段取り時の立ち上がりロス/加工条件の相違による品質のバラツキ/不適合品の記録と再発防止の欠如/週次どまりの製造計画/計画変更の伝達による工程の混乱/深夜・早朝残業の増加 |
候補は強みが8つ、弱みが8つ。60字に入るのは、名詞で締めて番号で並べても2つか3つです。同じ性質のものは1つにまとめられます。「製紙メーカーからの技術指導」と「原料紙の安定調達」は同じ相手との関係なので、原料が切れない話として束ねられます。
弱みは削り方が難しいところです。8つはいずれも、第2問か第3問で改善策を書く材料でもあります。第1問で全部を挙げると、後の設問と同じ話をくり返すことになります。この記事では、原価に効く2つを第1問に置き、計画と納期に関わるものは第3問に回しました。
強みの選び方にも向きがあります。第4問で新分野への参入を助言するので、そこで使う資産を第1問の強みに挙げておくと、答案全体が1本の線でつながります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた分析を60字に収めるとこうなる、という例です。
強みは①製紙用・産業用・建築用の紙パイプ製造技術、②X社からの原料紙の安定調達、③建築用型枠材の抜き取りやすさへの評価。
60マス / 60マス
弱みは①経験と勘に頼る作業で技能承継が進まず立ち上がりロスが生じる点、②加工条件の相違による品質のバラツキとクレーム増加。
60マス / 60マス
第2問 コストダウンの課題と改善策|60字×2
趣旨は「課題抽出とそれに対応した改善策」。課題だけでも改善策だけでも、要求の半分しか埋まりません。
出題の趣旨(引用)。「収益性強化のためのC社の製造に関するコストダウンを図る観点から、課題抽出とそれに対応した改善策について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
ここから能力が助言に変わります。趣旨は「製造に関する」と範囲を限っています。仕入れ値の交渉や売り方の工夫ではなく、作る現場で出ている無駄を選ぶ設問です。設問文も、特に重要と思われる課題を2つ挙げ、各課題に改善策を添えよと求めています。
「対応した」という語も効いています。挙げた課題と、その下に書く改善策が噛み合っていないと、2つの欄がそれぞれ半分ずつ空きます。課題を先に決め、その課題を消す手だけを書きます。
- 人の作業。やり方がベテランの勘に支えられていて、腕の受け渡しが進んでいない(第22段落)。
- その代償。機械に原料の紙をかける場面で立ち上がりの無駄が出ている(第22段落)。
- 品質。塗り方と巻き取り方の違いで厚みや強さがそろわず、苦情が増えている(第23段落)。
- その代償。苦情が来るとライン長が出向いて作り直すので、材料と人手が二重にかかる(第23段落)。
- 記録。何が起きたかを残して原因をたどる作業まで手が回っていない(第23段落)。
- 資材。原料の紙は足りないと気づいてから頼むので、届くまで手が止まる(第24段落)。
- 時間。人手が足りず、決められた日に出すために夜中や明け方まで働いている(第20段落)。
7つのうち2つを選びます。この記事では「経験と勘に頼る作業方法」と「加工条件の相違による品質のバラツキ」を取りました。前者は作る時間そのものを延ばし、後者は作り直しで材料と人手を二重に使うので、どちらも原価に直に効くからです。
「原料紙待ちによる作業停滞」を選ぶ読み方もあります。手が止まっているあいだの人件費は原価に乗るからです。この記事では2つに選ばず、発注の仕組みを整える話として第3問で扱いました。どちらに置くかで答案は変わりますが、根拠が与件文にあれば筋は通ります。
1つの欄は60字です。課題を20字前後で名詞で締め、残りを改善策に使うと収まります。改善策は手段だけでなく、それで何が減るのかまで書けると、コストダウンを問われた答案になります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた課題と改善策の対応を60字に収めるとこうなる、という例です。
課題は経験と勘に頼る作業のロス。改善策は作業手順の標準化とマニュアル化、教育による多能工化で立ち上がりロスと残業を減らす。
60マス / 60マス
課題は加工条件の相違による品質のバラツキ。改善策は塗布量と巻き取り条件の標準化、不適合品の記録と原因追及による再発防止。
59マス / 60マス
第3問 在庫を持たずに納期へ応える|100字
趣旨は「工程管理上の課題を整理し、その改善策」。在庫で吸収する案は設問が先に外しているので、計画と統制で解きます。
出題の趣旨(引用)。「経営上のリスクに鑑み、製品在庫をもたず納期に対応するため、受注生産におけるC社の工程管理上の課題を整理し、その改善策について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は条件を先に固めています。繰り返し注文の多い品を先回りして作る案は検討したが、経営上のおそれを考えて採らないことにした、という前提です。倉庫を建てる、在庫を積むといった助言はここで封じられています。
残る手は、計画の作り方と、決めたとおりに進んでいるかを見る仕組みです。趣旨も「工程管理上の課題を整理し」と書いており、まず何が乱れているのかを名指しすることを求めています。
- 計画の周期。工場長が週に一度だけ立てるので、週の途中で入った変更を織り込めない(第21段落)。
- 使える情報。買い手からは月末に翌月の見込みが届いており、先の負荷を読む材料はある(第21段落)。
- 指示の伝わり方。計画は現場の板に書かれ、差し替えは紙の書き付けで作業者に渡る(第21段落)。
- 乱れの量。仕様の変更と急ぎの注文が全体の1割ほどあり、そのたびに現場が乱れる(第21段落)。
- 作る速さ。作り始めてから仕上がるまでは2日(第21段落)。
- 品目の増加。作る品の種類が増えており、段取りの回数も増える(第20段落)。
- 資材。原料の紙は足りないと気づいてから頼むので、届くまで手が止まる(第24段落)。
整理すると、乱れの元は3つです。計画が週に一度しか更新されないこと、指示が板と紙で散らばっていること、原料が切れて手が止まることです。3つとも在庫を積まずに直せます。
月末に届く翌月の見込みは、この設問でとくに効く材料です。確定した注文だけを見て週の計画を作ると、先の山谷が見えません。見込みの段階で人と機械の負荷をならしておけば、確定してからの詰め込みが減ります。
100字は短いので、課題を1つずつ書き並べる余裕はありません。改善策の中に課題が透けて見える形にします。「週次を日次に」と書けば週どまりの計画が課題だと伝わり、「板と紙をやめて一元化」と書けば伝達の散らばりが課題だと伝わります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた課題の整理と改善策を100字に収めるとこうなる、という例です。
①週次の製造計画を日次に短サイクル化し、月末の次月予定で負荷を平準化。②仕様変更や特急受注を織り込む余力を計画に持たせる。③ホワイトボードと紙のメモを廃し、生産管理システムで進捗と原料紙在庫を共有する。
100マス / 100マス
第4問 新分野への参入に必要な社内の取り組み|120字
趣旨は「C社の課題を整理し、実現するために必要な社内の取り組み」。外との連携ではなく、社内で何を整えるかを書きます。
出題の趣旨(引用)。「新事業として食品用・医療用製品へ参入するため、C社の課題を整理し、実現するために必要な社内の取り組みについて、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
「社内の」という限定が設問文にも趣旨にも入っています。新しい販路を開く、共同で開発する相手を探すといった助言は、聞かれている範囲の外です。今いる人と今ある設備で何を整えるかを書きます。
出発点は②の「新事業と互換性のある設備・工程」です。設備を買い替える必要がないと与件文が明かしているので、投資の話ではなく、作り方と管理のしかたを変える話になります。
- 越える壁。寸法や強さについて、新しい買い手が求める基準は従来より厳しい(第26段落)。
- いまの実力。塗り方と巻き取り方の違いで厚みや強さがそろわず、苦情が増えている(第23段落)。
- いまの弱点。何が起きたかを残し、原因をたどって次を防ぐ作業まで手が回っていない(第23段落)。
- 人の状態。やり方がベテランの勘に支えられ、腕の受け渡しが進んでいない(第22段落)。
- 使える土台。設備も工程もそのまま使えると与件文が書いている(第26段落)。
- 追い風。食品と医療の分野は伸びており、素材を紙へ替える動きも重なっている(第6段落)。
- 狙い。新分野の製品は単価が比較的高く、経営者が掲げる方針とかみ合う(第7・第26段落)。
並べると、越えるべき壁と現在地の差がはっきりします。厳しい基準を満たせと求められている一方で、いまは厚さと強度がそろわず苦情が出ています。第2問で書く改善策と同じ材料を使いますが、向きが違います。
第2問は原価を下げるために品質を安定させる話、第4問は新しい買い手の基準を満たすために品質を保証する話です。同じ「加工条件の相違による品質のバラツキ」から出発しても、前者は無駄の削減、後者は基準への適合で締めます。
「不適合品の記録と再発防止の欠如」は、第4問でとくに重く効きます。厳しい基準を求める買い手は、できあがった品が基準を満たしていることを示す記録も求めるからです。ここは与件文に書かれていない、当サイトの見立てです。
120字は6つの欄のうち最も長く、配点も30点です。①検査と品質保証、②記録と再発防止、③標準化と技能承継、④既存設備を使った試作、と4つ並べても収まります。最後に何のための取り組みかを1文で締めます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた社内の取り組みを120字に収めるとこうなる、という例です。
①サイズと強度の検査基準を定め、工程内検査と品質保証体制を整える。②不適合品の記録と原因追及、再発防止を仕組み化する。③加工条件を標準化し教育で技能を承継して品質のバラツキを抑える。④互換性のある既存設備で試作を重ね、高付加価値化を図る。
119マス / 120マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 製紙用・産業用・建築用の3用途/製紙メーカーからの技術指導/原料紙の安定調達/建築用型枠材への顧客評価/再生紙を主原料とする製品/循環型社会への貢献/各ラインのベテラン作業者/新事業と互換性のある設備・工程/深夜・早朝残業の増加/週次どまりの製造計画/計画変更の伝達による工程の混乱/経験と勘に頼る作業方法/技能承継の停滞/段取り時の立ち上がりロス/加工条件の相違による品質のバラツキ/不適合品の記録と再発防止の欠如 |
| 第2問 | ライン長を置いた5ライン体制/各ラインのベテラン作業者/高付加価値化とコストダウン/製造時間短縮の必要/深夜・早朝残業の増加/経験と勘に頼る作業方法/技能承継の停滞/段取り時の立ち上がりロス/加工条件の相違による品質のバラツキ/不適合品の記録と再発防止の欠如/原料紙待ちによる作業停滞 |
| 第3問 | 原料紙の安定調達/ライン長を置いた5ライン体制/製品アイテム数の増加/製造時間短縮の必要/週次どまりの製造計画/板書きによる製造指示/仕様変更・特急受注が1割/計画変更の伝達による工程の混乱/原料紙待ちによる作業停滞 |
| 第4問 | 製紙メーカーからの技術指導/再生紙を主原料とする製品/循環型社会への貢献/新事業と互換性のある設備・工程/高付加価値化とコストダウン/技能承継の停滞/加工条件の相違による品質のバラツキ/不適合品の記録と再発防止の欠如/新事業が求める厳密な品質基準 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第1問の20点を強みと弱みでどう配るかは分かりません。
- 第2問でどの2つを課題に選ぶかは当サイトの判断です。与件文には候補が7つあり、選び方は1通りではありません。
- 第4問で挙げた記録の重さは、与件文にも趣旨にも書かれていない当サイトの見立てです。
- 段落番号は与件文の先頭からの通し番号です。見出しの行や工程を並べた行も1段落として数えています。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和7年度 事例Ⅲは4問中3問が助言です。分析寄りの事例Ⅰとは骨格が違います。
- 第1問は強みと弱みの2欄です。機会と脅威は問われていません。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問で機会と脅威も書いたほうがよいですか?
- 令和7年度 事例Ⅲの第1問は、趣旨も設問文も強みと弱みだけを求めています。解答欄も⒜⒝の2つです。市場の追い風と向かい風は第4問で新分野へ出る理由として使えますが、第1問の60字に入れると内側の分析が入りません。
- 第2問の課題は、与件文のどこから2つ選びますか?
- 第20段落から第24段落に候補が7つあります。趣旨が「製造に関する」と限っているので、作る現場で出ている無駄から選びます。この記事では原価に直に効く2つ、経験と勘に頼る作業方法と品質のバラツキを取りました。
- 第3問で倉庫や在庫の話を書いてはいけませんか?
- 設問文が先に外しています。繰り返し注文の多い品を先回りして作る案は検討したが採らない、という前提で助言を求める設問です。趣旨も「製品在庫をもたず納期に対応するため」と書いています。計画と統制で解く設問です。
- 第2問と第4問で同じ材料を使ってよいのですか?
- 使えます。ただし締め方を変えます。第2問は原価を下げる話なので無駄の削減で締め、第4問は新しい買い手の厳しい基準を満たす話なので基準への適合で締めます。同じ材料でも、趣旨が求めている向きが違います。




