事例Ⅳの意思決定会計|1個あたりの利益が大きいほうを選ぶと間違える
この記事の結論
- 1個あたりの限界利益が大きいほうを選ぶと、答えを外します。見るのは時間あたりの限界利益です。
- 先に「どの時間が足りないか」を確かめます。余っている時間で割ると、順位が入れ替わります。
- この型は19年で28問。事例Ⅳでいちばん出ている論点です。
事例Ⅳには「2つの注文があるが、両方は作れない。どちらをいくつ作るか」という設問が繰り返し出ます。ここで1個あたりの利益が大きいほうを選ぶと、多くの年で答えを外します。理由は、足りないのがお金ではなく時間だからです。令和6年度の第2問を実際に解いて、どこで順位が入れ替わるのかを確かめます。数値は試験実施機関が公表している問題PDFから読み取ったものです。
1個あたりの利益で選ぶと、順位が逆になる
令和6年度の第2問では、1袋あたりの限界利益はY社向けが大きいのに、優先すべきはX社向けでした。
足りないのはお金ではなく設備の時間です。時間が足りないとき、1個あたりの利益は意味を持ちません。同じ1時間で、どちらがより多くの利益を残すかで決まります。
まず、足りない時間はどちらかを確かめる
直接作業時間と機械運転時間の両方に上限があり、足りていたのは機械運転時間のほうでした。
| 項目 | X社向け | Y社向け |
|---|---|---|
| 販売価格 | 3,000円 | 4,800円 |
| 変動費 | 1,780円 | 3,380円 |
| 1袋あたり限界利益 | 1,220円 | 1,420円 |
| 直接作業時間 | 1.0時間 | 2.5時間 |
| 機械運転時間 | 2.0時間 | 2.5時間 |
| 直接作業1時間あたり | 1,220円 | 568円 |
| 機械運転1時間あたり | 610円 | 568円 |
ここが読み取りの分かれ目です。設問に示された1,600円・1.5時間・0.5時間は追加加工の分だけなので、既存の1,780円・1時間・2時間に足します。足し忘れるとY社向けの限界利益が過大になり、答えが変わります。
時間あたりで比べると、X社向けは直接作業でも機械運転でもY社向けを上回ります。だからX社向けを上限までとってから、残った時間でY社向けを作ることになります。
令和6年度 第2問を最後まで解く
X社向け6,500袋・Y社向け240袋で、営業利益は2,670,800円。機械運転時間を13,600時間ちょうど使い切ります。
- 1X社向けを上限の6,500袋まで作る。直接作業6,500時間・機械運転13,000時間を使う。
- 2残りは直接作業3,500時間・機械運転600時間。機械のほうが先に尽きる。
- 3Y社向けは600時間÷2.5時間=240袋。直接作業なら1,400袋作れるが、機械が許さない。
- 4限界利益は6,500袋×1,220円+240袋×1,420円=8,270,800円。固定費5,600,000円を引いて2,670,800円。
直接作業時間は10,000時間のうち7,100時間しか使いません。2,900時間が余ります。余った時間を見て「まだ作れる」と考えると詰まります。効いているのは機械運転時間のほうです。
いくらなら、Y社の希望に応じられるか
Y社向けを2,400袋作るには、販売価格4,905円以上が要ります。X社向けを削ったぶんの利益を取り返す必要があるためです。何と比べるかで4,895円とする読みもあり、答えは2つに割れます。
- 1機械運転時間は上限まで使っている。Y社向けを1袋増やすには、X社向けを1.25袋減らすしかない。
- 2減らした1.25袋ぶんの限界利益は1.25×1,220円=1,525円。これが1袋増やすための犠牲になる。
- 3Y社向けの限界利益が1,525円以上あればよい。変動費3,380円を足して、販売価格は4,905円以上。
4,905円ちょうどだと、X社向けを優先しても、Y社向けを増やしても営業利益は同じ2,696,000円になります。あきらめた利益をそのまま取り返す価格なので、この額が下限です。
この設問は答えが割れます。上の4,905円は「新しい価格のもとで、X社向け優先の案とY社向け2,400袋の案を比べる」読みです。もう1つ、「設問1で出した営業利益2,670,800円を下回らない価格」と読む立場があります。Y社向け2,400袋・X社向け3,800袋で 1,220×3,800+(P−3,380)×2,400−5,600,000≧2,670,800 を解くと4,895円です。差はちょうど10円で、予備校の解答速報も4,905円と4,895円に割れています(当サイトが2026年8月に確認)。どちらの読みでも、比べた相手を計算過程に1行書けば過程は追えます。
1.25という数字は、機械運転時間の比(2.5時間÷2.0時間)から出ています。足りている時間ではなく、足りない時間の比で計算するのがここでの要点です。
この型は19年で28問出ている
投資判断17問とセグメント別の意思決定11問で、合わせて28問。事例Ⅳでいちばん出ている領域です。
経営分析は第1問にほぼ固定されているので、実質的に第2問以降で最も当たりやすいのがこの領域です。時間あたりで比べる作法を1度作っておくと、複数年で使い回せます。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここに書いた数値は当サイトが計算したもので、公式の解答ではありません。
- 計算は手計算と総当たりの2通りで確かめ、同じ結果になることを確認しています。ただし設問の読み取り方が違えば答えも変わります。
- 扱ったのは令和6年度の1事例です。制約になる時間が1つだけの年や、3つ以上の製品が出る年もあります。
本記事の集計と計算は当サイトの独自のものです。問題そのもの(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 1個あたりの限界利益が大きいほうを選ぶと、答えを外します。見るのは時間あたりの限界利益です。
- 先に「どの時間が足りないか」を確かめます。余っている時間で割ると、順位が入れ替わります。
- この型は19年で28問。事例Ⅳでいちばん出ている論点です。
よくある質問
- 限界利益が大きいほうを選んではいけないのですか?
- 制約がない場合は1個あたりの限界利益で選んで構いません。設備の時間や原材料に上限があるときだけ、時間あたり(または制約1単位あたり)の限界利益で比べます。令和6年度の第2問では、1袋あたりではY社向けが200円大きいのに、機械運転1時間あたりではX社向けが42円上回っていました。
- 制約が2つあるとき、どちらで割ればよいですか?
- 両方で割って、両方の順位を確かめます。片方だけで判断すると、実際に足りているほうの時間で比べてしまうことがあります。令和6年度の場合はどちらで割ってもX社向けが上でしたが、順位が食い違う年は、生産量を動かしながらどちらの制約が先に尽きるかを追う必要があります。
- 固定費はいつ引きますか?
- 最後に1回だけ引きます。どの製品を何個作るかを決める段階では、固定費は生産量によって変わらないので判断に影響しません。営業利益を答える設問で、限界利益の合計から引きます。

