2次試験の与件文を77事例で数えた|読み方の通説はどこまで本当か
この記事の結論
- 逆接の出現密度が最も高いのは事例Ⅰ。事例Ⅱにも13.2あり、事例Ⅲは1事例1.4回です。
- 「事例Ⅰは時系列」は支持。時間軸の語が事例Ⅱ・Ⅲの平均より有意に多い。
- 「最終段落の社長の言葉」は事例Ⅰ・Ⅱの近年の型。事例Ⅲ・Ⅳは観測できた19年度では0件。
- 事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析。事例Ⅰには設問位置の定番がありません。
この記事は、2次試験の事例を一度でも解いたことがある人に向けた、与件文の読み方のデータ検証です。設問を先に読む、逆接に印をつける、事例Ⅰは時系列で読む、最終段落の社長の言葉が最終問の方向を示す。どれももっともらしいのですが、何割の事例で成り立つのかを数えた資料が見当たりません。そこで、試験実施機関が公表している2001〜2025年度の問題PDF100本を機械的に読み取り、条件を満たした77事例で数えました。除外した23事例の内訳は末尾にまとめています。まだ1事例も解いていない場合は、先に「2次試験の勉強は何から始めるか」を読んでから戻ってきてください。
読む量は増え、書く量は減った
与件文は14%長くなり、解答字数は17%短くなりました。1字書くために読む量が約1.4倍になっています。
与件文が長くなる一方で、書かされる量はむしろ減っています。試験時間は80分のまま変わっていませんから、時間配分の重心は「読む・考える」側へ移っていることになります。この数字から考えると、書く速さを鍛えるより読み終わる時刻を先に決めるほうが理にかなっています。ただし実測から考えた一案で、配分が加点につながるかは検証していません。
事例Ⅳだけは事情が違い、与件文は1,200〜2,000字と事例Ⅰ〜Ⅲの半分強で推移しています。こちらは読む量ではなく計算量が本体なので、同じ時間配分の考え方を持ち込まないでください。
2次試験の与件文の読み方:「逆接に印」は事例で出る回数が違う
1万字あたりの逆接の出現回数は、事例Ⅰが事例Ⅲの約3.8倍。事例Ⅲで問題点を拾う手がかりは、逆接ではなく否定形のほうです。
「しかし」「一方で」「ただし」「とはいえ」のような逆接の直後に問題点や弱みが置かれる、というのは定番の作法です。与件文1万字あたりに何回出てくるか(以下「密度」)で数えると、次のようになりました。
| 事例 | 逆接(1万字あたり) | 否定・課題を表す語(1万字あたり) | 1事例あたりの逆接の回数 |
|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 22.6 | 20.9 | 5.8回 |
| 事例Ⅱ | 13.2 | 21.7 | 3.7回 |
| 事例Ⅲ | 5.9 | 18.8 | 1.4回 |
| 事例Ⅳ | 12.3 | 15.9 | 1.9回 |
事例Ⅲの逆接は1事例あたり1.4回しかありません。77事例のうち9事例は逆接がゼロで、半数の事例は3回以下でした。「逆接に印をつける」を全事例に同じ強さで持ち込むと、事例Ⅲでは印がほとんど付かないまま読み終わることになります。
いっぽう否定・課題を表す語の密度は、事例Ⅲでも18.8と事例Ⅰの20.9に近い水準です。事例Ⅲの問題点は「〜が必ずしもうまくいっておらず」「〜までは手が回っていない」「しばしば発生している」のような否定形で書かれています。印をつける対象を事例で切り替えるのが、データに合った運用です。
- 事例Ⅰ・Ⅱ … 逆接を追う。逆接語は印を付ける候補になる(直後に弱みが来る割合は数えていない)。
- 事例Ⅲ … 否定形を追う。「できていない」の形が課題の在りかを示す。
- 事例Ⅳ … 与件文が表主体で、本文と同じ密度の指標はそのまま当てはめられない。
事例Ⅰが時間軸で書かれているのは本当だった
年代・時間軸の語は事例Ⅰが最多。事例Ⅱ・Ⅲの平均を、19年度のうち17年度で上回りました。
同じ年度で比べると、事例Ⅰは事例Ⅱ・Ⅲの平均より1万字あたり22.2語多くありました。19年度のうち17年度でその向きが揃っていて、偶然では説明しにくい差です。段落の左に年代を書き込みながら読む作法は、事例Ⅰで優先して試せる読み方だと言えます。
設問の側も同じ方向を向いています。「〜する以前」「当時」「〜した際」のように時期を限定する設問の割合は、事例Ⅰが33.7%(30/89問)で最も高く、事例Ⅱは24.7%(19/77問)でした。時期の限定を読み落とすと、内容が正しくても問われていない時期の話を書くことになります。
事例Ⅳの「時期を限定する設問」50.0%は意味が違います。これは「当期」「翌期」といった会計期間の限定で、事例Ⅰの時系列とは別物です。同じ数字として並べないでください。
「診断士に助言を求めた」で終わる事例は、最近になって増えた
この締め方は事例Ⅱで2020年度から6年連続、事例Ⅰで2022年度から4年連続。事例Ⅲ・Ⅳでは観測できた19年度では0件です。
「最終段落の社長の言葉は、最終問の解答方向の指定である」もよく言われます。最終段落に「中小企業診断士に助言(相談)を求めた」という一文が置かれているかを、年度ごとに数えました。
| 年度 | 事例Ⅰ | 事例Ⅱ | 事例Ⅲ | 事例Ⅳ |
|---|---|---|---|---|
| 2005〜2019年度 | 2007年度のみ | 2011年度のみ | なし | なし |
| 2020年度 | なし | あり | なし | なし |
| 2021年度 | なし | あり | なし | なし |
| 2022年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2023年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2024年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2025年度 | あり | あり | なし | なし |
事例Ⅱの最終段落は平均103字で、直近では「B社社長は、自社の強みを生かせるよう、中小企業診断士に助言を求めた」の一文だけで終わる年度が続いています。方向の指定というより、締めの定型句に近い形です。事例Ⅰの最終段落は平均128字あり、依頼の一文の前に社長が抱えている課題が置かれています。読みどころがあるのはこちらです。
事例Ⅲの最終段落は、直近の年度では工程・納期・検査の説明で終わっています。社長の意向は最終段落ではなく中盤に置かれるので、「最後を読めば方向が分かる」を持ち込むと外します。事例Ⅳの最終段落は平均12字で、そもそも文章として読む場所ではありません。
語の重なりでも確かめました。最終段落と最終設問で共通する語の割合は平均9.8%で、他の段落の平均2.9%を上回ります。ただし成り立ったのは34事例中19事例=55.9%で、差の中央値は+2.1ポイントにとどまります。この34事例は、事例Ⅰ〜Ⅲの58事例から語数が足りず比較できない24事例を除いた数です。
事例別に見ると事例Ⅰは15事例中10事例(中央値+5.4ポイント)ですが、事例Ⅱ・Ⅲの中央値はほぼゼロでした。「必ずそうなる」ではありません。事例Ⅰでは最終段落から読む型を試す価値がある、というのが正確な言い方です(当サイトの見立てです)。
語の重なりの差(平均9.8%対2.9%)は、並べ替え検定で p=0.0009 でした。差がないと仮定したときにこの差以上が出る確率が0.1%未満という意味で、「その読み方で点が伸びる確率」ではありません。
設問の位置で、何が問われるかは決まっているのか
事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析、事例Ⅲの第1問は19年中17年が強み・弱みの分析。いっぽう事例Ⅰには定位置がありません。
2007〜2025年度の設問315問を1問ずつ読み、何を問うている設問かで分類しました。設問の位置(第1問・第2問…)ごとに、最も多かった論点とその割合をまとめたのが次の表です。
| 事例 | 第1問 | 第2問 | 第3問 | 第4問 |
|---|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 強み・経営資源 37% | 事業戦略 42% | 事業戦略 37% | 人事・人材 39% |
| 事例Ⅱ | 現状分析(SWOT・3C) 68% | プロモーション 32% | 関係性強化・愛顧 26% | プロモーション 24% |
| 事例Ⅲ | 強み・弱みの分析 89% | 生産計画・工程管理 42% | 新事業・受注拡大 32% | 新事業・受注拡大 67% |
| 事例Ⅳ | 経営分析 95% | CVP・損益分岐点 42% | 投資判断 58% | リスク管理 47% |
はっきり定位置があるのは事例Ⅳの第1問(経営分析・19年中18年=95%)と、事例Ⅲの第1問(強み・弱みの分析・19年中17年=89%)です。事例Ⅲは第5問まである年の第5問が5年中5年とも新事業・受注拡大でしたが、5事例しかないので固定とは扱えません。候補として答案の型を練習しておく、くらいの使い方が安全です。
逆に事例Ⅰは、どの位置も最頻の論点で37〜42%どまりです。第1問だから強み分析、とは言えません。事例Ⅰで問われた論点を19年分でならすと、事業戦略・ドメインが84問中29問、組織構造・管理が19問、人事・人材が17問。位置ではなく、この3つのどれが来ても書ける準備をしておくほうが実戦的です。
縦線=半分の年で当たる水準
設問の要求は「説明せよ」から「助言せよ」へ移った
助言を求める設問は年あたり1.7問から7.4問へ。説明を求める設問は3.7問から1.0問へ減りました。
| 期間 | 助言せよ・提案せよ | 説明せよ | 述べよ・答えよ |
|---|---|---|---|
| 2008〜2014年度 | 年あたり1.7問 | 年あたり3.7問 | 年あたり17.7問 |
| 2021〜2025年度 | 年あたり7.4問 | 年あたり1.0問 | 年あたり12.2問 |
書く量が減っているのに助言を求める設問が増えている、というのが直近の姿です。事実の書き写しで字数を埋める余地は減り、短い字数のなかに「だから何をすべきか」まで入れることが求められます。与件文から材料を集める作業と、集めた材料を提案の形にたたむ作業は別物なので、演習では後者を単独で練習する価値があります。
この集計で数えられなかったこと
2次試験は正解が公表されません。本記事が数えたのは与件文と設問の「書かれ方」だけで、その手がかりが加点につながったかどうかは検証していません。
- 100事例のうち23事例を除外しました。内訳は、PDFに文字情報が無い8事例(2004年度・2006年度)と、設問の取りこぼしが検出された15事例(2001〜2003年度と2005年度の一部)です。
- 取りこぼしの検出には「配点の合計がちょうど100点」を使いました。通った77事例は設問を1問も落としていません。
- 語の数え上げは辞書ベースで、言い換えや同義語は拾えません。段落と設問の重なり率は下限とみるべき値です。
- 解答字数の合計は過小評価です。設問文に字数制限が1回しか書かれていない場合、解答欄が複数あっても1つとして数えています。
数え方の定義(逆接の語リスト、時間軸の語リストなど)はすべて集計スクリプトの先頭に定数として置いてあり、同じ手順で追試できます。語の選び方には恣意性が残るので、結論は「向き」を見るために使ってください。
本記事の集計は試験実施機関が公表している問題PDFを解析したもので、当サイトの独自集計です。試験制度・日程は年度で変わりうるため、必ず試験実施機関の受験案内で確認してください。数値は2026年8月時点のものです。
この記事のまとめ
- 逆接の出現密度が最も高いのは事例Ⅰ。事例Ⅱにも13.2あり、事例Ⅲは1事例1.4回です。
- 「事例Ⅰは時系列」は支持。時間軸の語が事例Ⅱ・Ⅲの平均より有意に多い。
- 「最終段落の社長の言葉」は事例Ⅰ・Ⅱの近年の型。事例Ⅲ・Ⅳは観測できた19年度では0件。
- 事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析。事例Ⅰには設問位置の定番がありません。
よくある質問
- 80分の時間配分は、このデータからどう考えられますか?
- 与件文は14.1%長くなり、解答字数の合計は17.3%短くなりました。試験時間は80分のまま変わっていないので、重心は「読む・考える」側に寄っている、という読み方ができます。ただし本記事が数えたのは書かれ方だけで、どう配分すれば加点されるかは検証していません。数字から考えた一案としてお使いください。
- 事例Ⅲでは、どこに印をつければよいですか?
- 否定形です。事例Ⅲでは逆接より否定・課題を表す語のほうが多く観測されるので、「〜できていない」「〜までは手が回っていない」といった形が、印を付ける候補になります。密度の数字は本文の表のとおりです。拾った印が加点につながるかまでは検証していません。
- 最終段落だけ先に読むのは有効ですか?
- 語の重なりで優先できるのは事例Ⅰです。最終段落と最終設問で語がより重なった事例は、事例Ⅰでは15事例中10事例(差の中央値+5.4ポイント)でした。事例Ⅱは診断士への相談で締める型が近年続いていますが、語の重なりは7事例中3事例・中央値0.0ポイントで、有効性は確認できていません。事例Ⅲ・事例Ⅳでは観測できた19年度でこの型が一度もありません。
- 直近の傾向に合わせるなら、何年度以降が参考になりますか?
- 本記事が後期として比べたのは、与件文と解答の字数が2019〜2025年度、設問の要求語が2021〜2025年度です。どちらか1年を転換点と特定する分析はしていません。時間感覚を作る目的なら近年から、事例ごとの書かれ方の癖をつかむ目的なら事例番号を固定して複数年度を横に見る、という使い分けが素直です。

