2次試験の与件文を21年分・77事例で数えた|読み方の通説はどこまで本当か
この記事の結論
- 「逆接に印」が効くのは事例Ⅰ。事例Ⅲの逆接は1事例あたり1.4回しかありません。
- 「事例Ⅰは時系列」は支持されました。時間軸の語が他事例より有意に多い。
- 「最終段落の社長の言葉」は事例Ⅰ・Ⅱの近年の型。事例Ⅲ・Ⅳは21年間ゼロ件。
- 事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析。事例Ⅰには設問位置の定番がありません。
2次試験の与件文の読み方には、受験界で広く共有されている作法があります。設問を先に読む、逆接に印をつける、事例Ⅰは時系列で読む、最終段落の社長の言葉が最終問の方向を示す。どれももっともらしいのですが、実際に何割の事例で成り立つのかを数えた資料が見当たりません。そこで、試験実施機関が公表している2001〜2025年度の問題PDF100本を機械的に読み取り、条件を満たした77事例で数えました。まだ1事例も解いていない場合は、先に「2次試験の勉強は何から始めるか」を読んでから戻ってくると、ここの数字が自分の80分の話として読めます。
読む量は増え、書く量は減った
与件文は14%長くなり、解答字数は17%短くなりました。1字書くために読む量が約1.4倍になっています。
与件文が長くなる一方で、書かされる量はむしろ減っています。試験時間は80分のまま変わっていませんから、時間配分の重心は「読む・考える」側へ移っていることになります。書く速さを鍛えるより、読み終わる時刻を先に決めて守るほうが、いまの出題には合っています。
事例Ⅳだけは事情が違い、与件文は1,200〜2,000字と事例Ⅰ〜Ⅲの半分強で推移しています。こちらは読む量ではなく計算量が本体なので、同じ時間配分の考え方を持ち込まないでください。
「逆接に印をつける」は事例によって効き方がまるで違う
逆接の密度は事例Ⅰが事例Ⅲの約3.8倍。事例Ⅲで問題点を拾う手がかりは、逆接ではなく否定形のほうです。
「しかし」「一方で」「ただし」「とはいえ」のような逆接の直後に問題点や弱みが置かれる、というのは定番の作法です。与件文1万字あたりの出現密度で数えると、次のようになりました。
| 事例 | 逆接(1万字あたり) | 否定・課題を表す語(1万字あたり) | 1事例あたりの逆接の回数 |
|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 22.6 | 20.9 | 5.8回 |
| 事例Ⅱ | 13.2 | 21.7 | 3.7回 |
| 事例Ⅲ | 5.9 | 18.8 | 1.4回 |
| 事例Ⅳ | 12.3 | 15.9 | 1.9回 |
事例Ⅲの逆接は1事例あたり1.4回しかありません。77事例のうち9事例は逆接がゼロで、全体の中央値は3回です。「逆接に印をつける」を全事例に同じ強さで持ち込むと、事例Ⅲでは印がほとんど付かないまま読み終わることになります。
いっぽう否定・課題を表す語の密度は、事例Ⅲでも18.8と事例Ⅰの20.9に近い水準です。事例Ⅲの問題点は「〜が必ずしもうまくいっておらず」「〜までは手が回っていない」「しばしば発生している」のような否定形で書かれています。印をつける対象を事例で切り替えるのが、データに合った運用です。
- 事例Ⅰ・Ⅱ … 逆接を追う。転換点の直後に弱みが置かれやすい。
- 事例Ⅲ … 否定形を追う。「できていない」の形が課題の在りかを示す。
- 事例Ⅳ … どちらも密度が低い。与件文より財務諸表を先に読む。
事例Ⅰが時間軸で書かれているのは本当だった
年代・時間軸の語は事例Ⅰが最多。19年度中17年度で他事例を上回りました(並べ替え検定 p=0.0008)。
同じ年度どうしで対応づけて比べると、事例Ⅰは事例Ⅱ・Ⅲの平均より1万字あたり22.2語多く、19年度のうち17年度でその差が正の向きでした。偶然でこうなる確率は0.1%未満です(並べ替え検定 p=0.0008)。段落の左に年代を書き込みながら読む作法は、事例Ⅰでいちばん投資対効果が高いと言えます。
設問の側も同じ方向を向いています。「〜する以前」「当時」「〜した際」のように時期を限定する設問の割合は、事例Ⅰが33.7%(30/89問)で最も高く、事例Ⅱは24.7%(19/77問)でした。時期の限定を読み落とすと、内容が正しくても問われていない時期の話を書くことになります。
事例Ⅳの「時期を限定する設問」50.0%は意味が違います。これは「当期」「翌期」といった会計期間の限定で、事例Ⅰの時系列とは別物です。同じ数字として並べないでください。
「診断士に助言を求めた」で終わる事例は、最近になって増えた
この締め方は事例Ⅱで2020年度から6年連続、事例Ⅰで2022年度から4年連続。事例Ⅲ・Ⅳでは21年間ゼロ件です。
「最終段落の社長の言葉は、最終問の解答方向の指定である」もよく言われます。最終段落に「中小企業診断士に助言(相談)を求めた」という一文が置かれているかを、年度ごとに数えました。
| 年度 | 事例Ⅰ | 事例Ⅱ | 事例Ⅲ | 事例Ⅳ |
|---|---|---|---|---|
| 2005〜2019年度 | 2007年度のみ | 2011年度のみ | なし | なし |
| 2020年度 | なし | あり | なし | なし |
| 2021年度 | なし | あり | なし | なし |
| 2022年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2023年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2024年度 | あり | あり | なし | なし |
| 2025年度 | あり | あり | なし | なし |
事例Ⅱの最終段落は平均103字で、直近では「B社社長は、自社の強みを生かせるよう、中小企業診断士に助言を求めた」の一文だけで終わる年度が続いています。方向の指定というより、締めの定型句に近い形です。事例Ⅰの最終段落は平均128字あり、依頼の一文の前に社長が抱えている課題が置かれています。読みどころがあるのはこちらです。
事例Ⅲの最終段落は、直近の年度では工程・納期・検査の説明で終わっています。社長の意向は最終段落ではなく中盤に置かれるので、「最後を読めば方向が分かる」を持ち込むと外します。事例Ⅳの最終段落は平均12字で、そもそも文章として読む場所ではありません。
語の重なりでも確かめました。最終段落と最終設問で共通する語の割合は平均9.8%で、他の段落の平均2.9%を上回ります(並べ替え検定 p=0.0009)。ただし成り立ったのは34事例中19事例=55.9%で、差の中央値は+2.1ポイントにとどまります。事例別に見ると事例Ⅰは15事例中10事例(中央値+5.4ポイント)ですが、事例Ⅱ・Ⅲの中央値はほぼゼロでした。「必ずそうなる」ではなく「事例Ⅰでは優先度が高い読み方」が正確な言い方です。
設問の位置で、何が問われるかは決まっているのか
事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析、事例Ⅲの第1問は19年中17年が強み・弱みの分析。いっぽう事例Ⅰには定位置がありません。
2007〜2025年度の設問315問を1問ずつ読み、何を問うている設問かで分類しました。設問の位置(第1問・第2問…)ごとに、最も多かった論点とその割合をまとめたのが次の表です。
| 事例 | 第1問 | 第2問 | 第3問 | 第4問 |
|---|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 強み・経営資源 37% | 事業戦略 42% | 事業戦略 37% | 人事・人材 39% |
| 事例Ⅱ | 現状分析(SWOT・3C) 68% | プロモーション 32% | 関係性強化・愛顧 26% | プロモーション 24% |
| 事例Ⅲ | 強み・弱みの分析 89% | 生産計画・工程管理 42% | 新事業・受注拡大 32% | 新事業・受注拡大 67% |
| 事例Ⅳ | 経営分析 95% | CVP・損益分岐点 42% | 投資判断 58% | リスク管理 47% |
はっきり定位置があるのは事例Ⅳの第1問(経営分析・19年中18年=95%)と、事例Ⅲの第1問(強み・弱みの分析・19年中17年=89%)です。事例Ⅲは第5問まである年の第5問が5年中5年とも新事業・受注拡大でした。ここは「何が来るか」を待つ必要がなく、答案の型を先に用意しておけます。
逆に事例Ⅰは、どの位置も最頻の論点で37〜42%どまりです。第1問だから強み分析、とは言えません。事例Ⅰで問われた論点を19年分でならすと、事業戦略・ドメインが84問中29問、組織構造・管理が19問、人事・人材が17問。位置ではなく、この3つのどれが来ても書ける準備をしておくほうが実戦的です。
縦線=半分の年で当たる水準
設問の要求は「説明せよ」から「助言せよ」へ移った
助言を求める設問は年あたり1.7問から7.4問へ。説明を求める設問は3.7問から1.0問へ減りました。
| 期間 | 助言せよ・提案せよ | 説明せよ | 述べよ・答えよ |
|---|---|---|---|
| 2008〜2014年度 | 年あたり1.7問 | 年あたり3.7問 | 年あたり17.7問 |
| 2021〜2025年度 | 年あたり7.4問 | 年あたり1.0問 | 年あたり12.2問 |
書く量が減っているのに助言を求める設問が増えている、というのが直近の姿です。事実の書き写しで字数を埋める余地は減り、短い字数のなかに「だから何をすべきか」まで入れることが求められます。与件文から材料を集める作業と、集めた材料を提案の形にたたむ作業は別物なので、演習では後者を単独で練習する価値があります。
この集計で数えられなかったこと
2次試験は正解が公表されません。本記事が数えたのは与件文と設問の「書かれ方」だけで、その手がかりが加点につながったかどうかは検証していません。
- 100事例のうち23事例を除外しました。内訳は、PDFに文字情報が無い8事例(2004年度・2006年度)と、設問の取りこぼしが検出された15事例(2001〜2003年度と2005年度の一部)です。
- 取りこぼしの検出には「配点の合計がちょうど100点」を使いました。通った77事例は設問を1問も落としていません。
- 語の数え上げは辞書ベースで、言い換えや同義語は拾えません。段落と設問の重なり率は下限とみるべき値です。
- 解答字数の合計は過小評価です。設問文に字数制限が1回しか書かれていない場合、解答欄が複数あっても1つとして数えています。
数え方の定義(逆接の語リスト、時間軸の語リストなど)はすべて集計スクリプトの先頭に定数として置いてあり、同じ手順で追試できます。語の選び方には恣意性が残るので、結論は「向き」を見るために使ってください。
本記事の集計は試験実施機関が公表している問題PDFを解析したもので、当サイトの独自集計です。試験制度・日程は年度で変わりうるため、必ず試験実施機関の受験案内で確認してください。数値は2026年8月時点のものです。
この記事のまとめ
- 「逆接に印」が効くのは事例Ⅰ。事例Ⅲの逆接は1事例あたり1.4回しかありません。
- 「事例Ⅰは時系列」は支持されました。時間軸の語が他事例より有意に多い。
- 「最終段落の社長の言葉」は事例Ⅰ・Ⅱの近年の型。事例Ⅲ・Ⅳは21年間ゼロ件。
- 事例Ⅳの第1問は19年中18年が経営分析。事例Ⅰには設問位置の定番がありません。
よくある質問
- 与件文は、設問を読んでから読むべきですか?
- 本記事の集計では、設問を先に読むこと自体の効果は検証できません(2次試験は正解が公表されないため)。ただし、解答字数が17%減る一方で助言を求める設問が年1.7問から7.4問へ増えている以上、与件文から材料を拾う目的がはっきりしていないと短い字数に収まらない、という関係にはあります。
- 事例Ⅲでは、どこに印をつければよいですか?
- 否定形です。事例Ⅲの逆接は1事例あたり1.4回しかありませんが、否定・課題を表す語の密度は1万字あたり18.8で、事例Ⅰの20.9に近い水準です。「〜できていない」「〜までは手が回っていない」「しばしば発生している」といった形を機械的に拾うほうが、事例Ⅲでは取りこぼしが減ります。
- 最終段落だけ先に読むのは有効ですか?
- 事例Ⅰ・事例Ⅱでは有効な場面があります。最終段落に診断士への依頼が置かれる型は、事例Ⅱで2020年度から6年連続、事例Ⅰで2022年度から4年連続です。ただし事例Ⅲ・事例Ⅳでは21年間で一度もこの型がなく、事例Ⅲの最終段落は工程の説明で終わることが多いので、全事例に同じやり方を持ち込むのは危険です。
- 何年分の過去問を解けばよいですか?
- 本記事は解く年数を検証したものではありませんが、集計からは2019年度以降で与件文の長さと設問の要求が現在の形に近づいていることが読み取れます。時間感覚を作る目的なら近年から、事例ごとの書かれ方の癖をつかむ目的なら事例番号を固定して複数年度を横に見る、という使い分けが素直です。

