令和元年度 事例Ⅲの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅲは設問4問に対し、趣旨が5行あります。第3問が2つに分かれるためです。
- 趣旨5行のうち3行が助言、2行が分析です。前半で分析し、後半で打ち手を書きます。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和元年度 事例Ⅲの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第3問が2つの設問に分かれるため、趣旨は5行あります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅲは、どんな回か
与件文2,565字・解答字数の合計560字。80分の内訳は読む13分/考える45分/書く22分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 80字 | ◎ 強み・弱みの分析 90%(69〜97%) |
| 第2問 | 述べる | 20点 | 100字 | 生産計画・工程管理 42%(23〜64%) |
| 第3問(小問2) | 述べる | 40点 | 120字 / 140字 | 新事業・受注拡大 32%(15〜54%) |
| 第4問 | 述べる | 20点 | 120字 | ◎ 新事業・受注拡大 67%(44〜84%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 3分 | 9分 |
| 第2問 | 4分 | 9分 |
| 第3問 | 10分 | 18分 |
| 第4問 | 5分 | 9分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える45分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
金属の熱処理から始まった会社が、自動車部品メーカーから量産の機械加工を任される話です。工場を建てるかどうかが焦点になります。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
C社は金属の熱処理と機械加工を請け負う会社で、従業員40名、年商およそ5億円。熱処理は設備の負担が重く温度管理の蓄積も要るため、金属加工の会社が外に出しやすい工程です。C社はそこを専門に引き受ける形で創業しました。
やがて前の工程にあたる機械加工まで頼まれるようになり、設計部門と機械加工部門を持ちます。機械加工は多品種少量の受注生産で、汎用機を種類ごとに並べた配置です。品質は熱処理も機械加工も、資格を持つベテランや汎用機に慣れた人の腕で保たれています。
「加熱も冷却も、材料の形と質で微調整が要る。資格を持つ者が見てきた。」
10年ほど前、工業会の商談会で自動車部品メーカーのX社と出会い、自動車部品の熱処理が始まりました。いまX社の売上は全体の2割ほどを占めます。そのX社から、熱処理の前工程である機械加工も移したいという話が来ました。C社にとって初めての本格的な量産です。
「新しい工場を建てる。1社の専用ラインにはせず、ほかの量産も受けられる形にしたい。」
受ければ機械加工の生産量はいまの2倍ほどになり、設備の増強が要ります。X社は後工程引取方式(3カ月前の内示、1カ月ごとの見直し、納品3日前の外注かんばんで確定)を両社の管理方法として使いたいとも言っています。社長は新工場の計画に前向きで、社内に4つの方針を示しました。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は80字で、事業変遷を理解したうえでの強みが問われます。** いまできることを並べるだけでなく、熱処理から機械加工、設計へと引き受ける範囲を広げてきた順番そのものが材料になります。
- **第2問は効果とリスクの両方です。** 100字しかないので、片方に寄せると残りが空きます。売上が2割の相手に量産で深く入る、という構図から両側を出すことになります。
- **第3問の設問1は、社長が示した4つの方針が枠になっています。** 専用にしない・作業を標準化する・生産性を限界まで高める・要員は最小限。与件文が答えの枠を与えている珍しい形なので、そこを外して自由に書くと噛み合いません。
- **第3問の設問2は生産管理の話です。** 設備や配置を書くと設問1と重なります。内示と確定の二段構え、外注かんばんを社内で回すこと、対象がX社の部品に限られることが手がかりです。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、熱処理と機械加工を一貫で請け負える体制、技能士のベテラン、そして設計部門の3つに固まっています。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。【企業概要】のような見出しの行や、生産の流れを示す箇条書きの行も1段落として数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「金属熱処理および機械加工を営む」 | 熱処理と機械加工の一貫対応 | 第2段落 | 第1問・第2問・第4問 |
| 「C社は創業当初から、熱処理専業企業として」 | 創業以来の熱処理専業 | 第3段落 | 第1問 |
| 「その前工程である部品の機械加工も含めた依頼があり、設計部門と機械加工部門をもった」 | 前工程まで広げた対応 | 第4段落 | 第1問・第4問 |
| 「発注先から指示される製品仕様をC社社内の機械加工用に図面化する」 | 図面化する設計部門 | 第4段落 | 第1問・第4問 |
| 「機械加工は、多品種少量の受注生産で」 | 多品種少量の受注生産 | 第4段落 | 第1問・第2問 |
| 「所属する工業会が開催した商談会で、金属熱処理業を探していた自動車部品メーカーX社との出会いがあり」 | 商談会で得たX社との取引 | 第5段落 | 第1問 |
| 「自動車部品専用の熱処理工程を増設し」 | 自動車部品専用の熱処理工程 | 第5段落 | 第1問・第2問 |
| 「熱処理方法が異なる熱処理炉を数種類保有し」 | 数種類の熱処理炉 | 第7段落 | 第1問 |
| 「切削工具の交換が容易で段取り時間が短い汎用の旋盤、フライス盤、研削盤」 | 段取りの短い汎用機 | 第7段落 | 第1問・第2問 |
| 「金属熱処理技能検定試験に合格し技能士資格をもつベテラン作業者」 | 技能士資格を持つベテラン作業者 | 第8段落 | 第1問・第3問(設問1) |
| 「機械加工を伴う受注については熱処理加工との工程順や日程などを考慮して調整される」 | 両部門をまたぐ日程調整 | 第12段落 | 第1問・第3問(設問2) |
| 「X社からは3カ月前に部品ごとの納品予定内示があり、1カ月ごとに見直しが行われ」 | 3カ月前の内示と月次の見直し | 第16段落 | 第3問(設問2) |
| 「外注かんばんの電子データ化などのシステム構築は、X社の全面支援によって行われる予定」 | X社の全面支援によるシステム構築 | 第17段落 | 第3問(設問2) |
第2段落から第5段落までの6行が、第1問が求めている事業の変遷そのものです。熱処理だけを請け負う会社として始まり、前の工程まで引き受け、自動車部品にも入った。この順に並べると変遷が示せます。
第7段落と第8段落の3行は、いま持っている生産の力です。とくに「技能士資格を持つベテラン作業者」は、機械では置き換えにくい部分にあたります。第1問の強みは、ここから1つ取ると厚みが出ます。
第16段落と第17段落の2行だけが、新しい仕事の側の資産です。X社から早い段階で予定が届き、仕組みづくりも支援される。第3問(設問2)で何を検討するかを書くときの前提になります。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は3層です。受注生産のままの生産管理、量産に向かない現場、そして社長が4つの方針として示した直すべき点です。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。第12段落に4行あるのは、計画から材料の調達までがひとつの段落に詰まっているためです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「設備投資負担が大きく」 | 大きい設備投資負担 | 第3段落 | 第2問 |
| 「C社売上高に占めるX社の割合は約20%までになっている」 | X社への売上依存 | 第5段落 | 第2問・第4問 |
| 「研削盤がそれぞれ複数台機能別にレイアウトされている」 | 機能別レイアウト | 第7段落 | 第2問・第3問(設問1) |
| 「機械加工も汎用機械加工機の扱いに慣れた作業者の個人技能によって加工品質が保たれている」 | 個人技能に頼る加工品質 | 第8段落 | 第2問・第3問(設問1) |
| 「納期を優先して月ごとに日程計画を作成し」 | 月ごとの日程計画 | 第12段落 | 第3問(設問2) |
| 「納期の短い注文については、顧客から注文が入った時点で日程計画を調整、修正し、追加される」 | 都度の計画修正 | 第12段落 | 第3問(設問2) |
| 「日程計画が確定する都度発注し、加工日の1週間前までに納品されるように材料商社と契約」 | 都度発注する材料調達 | 第12段落 | 第3問(設問2) |
| 「材料在庫は受注分のみである」 | 受注分のみの材料在庫 | 第12段落 | 第3問(設問2) |
| 「C社では初めての本格的量産機械加工になる」 | 初めての本格的量産 | 第15段落 | 第2問・第3問(設問1) |
| 「機械加工部門の生産量は現在の約2倍になると予想され」 | 生産量が約2倍 | 第15段落 | 第2問・第3問(設問1) |
| 「納品3日前にX社からC社に届く外注かんばんによって納品が確定する」 | 3日前に確定する納品 | 第16段落 | 第3問(設問2) |
| 「その他の加工品については従来同様の生産計画立案と差立方法で運用する計画」 | 従来方式との併存 | 第17段落 | 第3問(設問2) |
| 「現在の機械加工部門の工程能力を考慮すると加工設備の増強が必要であり」 | 加工設備の増強の必要 | 第18段落 | 第3問(設問1) |
| 「受託生産部品だけの生産をする専用機化・専用ライン化」 | 専用ライン化にしない方針 | 第19段落 | 第3問(設問1)・第4問 |
| 「将来的にはX社向け自動車部品以外の量産の機械加工ができる新工場」 | 他社向け量産にも使える新工場 | 第20段落 | 第3問(設問1)・第4問 |
| 「これまでの作業者のスキルに頼った加工品質の維持ではなく」 | スキル依存からの脱却 | 第22段落 | 第3問(設問1) |
| 「一人当たり生産性を極限まで高めるよう作業設計」 | 一人当たり生産性の最大化 | 第24段落 | 第3問(設問1) |
| 「新工場要員の採用は最小限にとどめ」 | 要員採用の最小化 | 第26段落 | 第3問(設問1) |
②③はどちらもC社の内側を並べた表です。熱処理が外注に出されやすいという業界の事情や、X社が量産を移そうとしている背景は、この2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
第7段落と第8段落の2行は、いまのやり方が多品種少量に合わせて作られていることを示します。強みの裏返しでもあるので、第1問で強みに数えるか、第2問でリスクに数えるかは読み方が分かれます。
第12段落の4行が、第3問(設問2)の出発点です。月ごとの計画、都度の差し込み、都度の発注、受注分だけの在庫。どれも受注生産の形であって、3日前に数が決まる仕組みとは噛み合いません。
最後の5行は、第19段落から第26段落に並ぶ社長の方針です。方針という形をしていますが、中身は直すべき点の指定です。第3問(設問1)は、この5行に答える設問だと読めます。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年は5行のうち前半2行が分析、後半3行が助言でした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和元年度 事例Ⅲは、金属熱処理業として創業した会社が量産の機械加工を任される事例です。設問は4問ですが、第3問が2つに分かれているため趣旨は5行あります。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 80字以内 | 分析(事業変遷と強み) |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 分析(効果とリスク) |
| 第3問(設問1) | 40点(設問1・2で) | 120字以内 | 助言(新工場の在り方) |
| 第3問(設問2) | 40点(設問1・2で) | 140字以内 | 助言(生産管理上の検討内容) |
| 第4問 | 20点 | 120字以内 | 助言(新工場稼働後の戦略) |
第3問だけで40点、字数も120字と140字です。設問文はどちらも「述べよ」で終わっていますが、趣旨は助言と書いています。事実の説明で終えると、趣旨が求めた打ち手の側が空になります。
並びも読みやすい年でした。前半の2問で会社の現状と受託の影響を分析し、後半の3問で打ち手を書く。設問の順にそのまま従うと、答案の向きが自然にそろいます。
第1問 事業変遷から強みを書く|80字
趣旨は「事業変遷を把握して」と条件を付けています。強みを並べるだけでなく、それがどう積み上がったかを示す設問です。
出題の趣旨(引用)。「金属熱処理業として創業し事業拡大を図ってきたC社のこれまでの事業変遷を把握して、C社の強みを分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。ここで打ち手を書くと、問われていないことを書くことになります。設問文も、事業変遷を理解したうえで強みを述べよ、と2つを結びつけています。
変遷は3段階です。熱処理を専門に請け負う会社として始まり、その前の工程である機械加工まで引き受け、自動車部品にも入った。強みは、この過程で増えたものから選びます。
| 変遷の段階 | ②のどの材料を使うか |
|---|---|
| 創業 | 創業以来の熱処理専業/数種類の熱処理炉/技能士資格を持つベテラン作業者 |
| 前工程への拡大 | 前工程まで広げた対応/図面化する設計部門/多品種少量の受注生産/段取りの短い汎用機 |
| 自動車部品への拡大 | 商談会で得たX社との取引/自動車部品専用の熱処理工程 |
| いまの姿 | 熱処理と機械加工の一貫対応/両部門をまたぐ日程調整 |
80字に入るのは2つか3つです。この記事は、熱処理と機械加工を一貫で請け負える体制と、技能士資格を持つベテラン作業者の技術を軸に置きました。前者は変遷そのもの、後者は創業からの蓄積です。
図面化する設計部門も候補になります。仕様を図面に起こせるので、外から来た依頼をそのまま社内の加工につなげられるからです。第4問で戦略を書くときにも効きます。
注意したいのは、多品種少量の受注生産をどう扱うかです。柔軟に応えられるという強みでもあり、量産に向かないという弱みでもあります。第2問でリスクとして使うなら、第1問では前面に出さないほうが答案が重なりません。
次は正解ではありません。趣旨が求めた事業変遷を踏まえた強みを、80字に収めるとこうなる、という例です。
強みは①熱処理専業から前工程の機械加工に広げ、熱処理と機械加工を一貫で請け負える体制と図面化する設計部門、②技能士資格を持つベテラン作業者による熱処理技術。
78マス / 80マス
第2問 受託に応じる効果とリスク|100字
趣旨は「生産面における効果とリスク」。どちらか一方だけでは半分になります。営業や財務の話も範囲から外れます。
出題の趣旨(引用)。「X社からの新規受託生産に応じる場合のC社の生産面における効果とリスクについて、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨も設問文も、生産面と限っています。売上が増えるという話は営業の面なので、書くとしても効果の一部として短く触れる程度に収めます。中心は、作る現場に何が起きるかです。
効果とリスクを100字で書くので、割り振りは半分ずつです。それぞれ2つずつ挙げると、1つあたり25字ほどになります。
- 効果その1。熱処理と機械加工の一貫対応になり、工程がつながる(第2段落)。
- 効果その2。自動車部品専用の熱処理工程がすでにあり、そこへ前工程が加わる(第5段落)。
- 効果その3。初めての本格的量産を経験でき、量産の技術が社内に残る(第15段落)。
- リスクその1。生産量が約2倍になり、いまの加工能力では足りない(第15段落)。
- リスクその2。機能別レイアウトのままでは量産の流れを作れない(第7段落)。
- リスクその3。個人技能に頼る加工品質のままでは、量が増えたときに保てない(第8段落)。
- リスクその4。X社への売上依存がさらに高まり、大きい設備投資負担も生じる(第3・第5段落)。
効果の軸は、いまの仕事とつながることです。熱処理はすでにC社が担っており、その前の工程が来る。工程が1社の中でつながれば、間の受け渡しが減ります。
リスクの軸は、いまのやり方が多品種少量向けにできていることです。段取りが短い汎用機を種類ごとに並べる形は、少しずつ多くの種類を作るのに向いています。同じ部品を数多く作る仕事とは向きが違います。
X社への依存が高まる点は、生産面というより経営全体の話です。この記事はリスクの最後に短く添えましたが、生産面に絞るなら削る判断もあります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた効果とリスクを、100字に収めるとこうなる、という例です。
効果は熱処理と機械加工が一貫し、初の量産で技術が蓄積される点。リスクは生産量が約2倍となり加工能力が不足すること、機能別レイアウトと個人技能では量産の品質を保てず、X社への依存も高まることである。
98マス / 100マス
第3問(設問1) 新工場をどう作るか|120字
趣旨も設問文も、社長が示した方針を出発点に置いています。方針は4つあるので、答案も4つに対応させます。
出題の趣旨(引用)。「C社社長の方針に基づいた新規受託生産のための新工場の在り方について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
この設問は答案の枠が与えられています。社長が示した4つの方針です。③の下5行がそれにあたるので、1つずつ打ち手に置き換えれば120字が埋まります。
設問文はさらに「生産性を高める量産加工のための」と条件を足しています。量産に向いた形にすること、そして一人あたりの生産性を上げることが、答案の向きになります。
- 方針1に応える。専用ライン化にしない方針があり、他社向け量産にも使える新工場にする(第19・第20段落)。
- 方針2に応える。スキル依存からの脱却が求められ、個人技能に頼る加工品質を直す(第8・第22段落)。
- 方針3に応える。一人当たり生産性の最大化のため、作業設計と工程レイアウト設計を進める(第24段落)。
- 方針4に応える。要員採用の最小化のもとで、教育により早く立ち上げる(第26段落)。
- 直す対象。機能別レイアウトのままでは量産の流れが作れない(第7段落)。
- 量の前提。生産量が約2倍になり、加工設備の増強の必要がある(第15・第18段落)。
- 残す力。技能士資格を持つベテラン作業者がおり、教える側に回れる(第8段落)。
レイアウトの直し方が中心です。いまは機械の種類ごとに置く形ですが、同じ部品を数多く作るなら、工程の順に並べて流す形のほうが運ぶ手間と待ち時間が減ります。
同時に、専用にしすぎない配慮が要ります。方針1がX社専用を避けているので、段取りを替えれば他の量産品も流せる形にしておく、という組み立てになります。
標準化と教育は一続きです。作業を誰でも読める形に書き出せば、少ない人数で立ち上げられ、腕に頼らずに品質が保てます。方針2と方針4が同じ打ち手でつながります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた新工場の在り方を、120字に収めるとこうなる、という例です。
①X社専用としないで他社の量産にも転用できる汎用性を持たせ、②機能別から工程順のレイアウトに変えて作業設計を見直し、一人当たり生産性を高める。③作業を標準化しマニュアル化して個人技能への依存をなくし、④作業方法の教育で少人数の早期稼働を図る。
120マス / 120マス
第3問(設問2) 後工程引取方式への備え|140字
趣旨は「生産管理上の検討内容」。設備や人の話ではなく、計画の立て方と材料の手配をどう変えるかを書きます。
出題の趣旨(引用)。「X社とC社間で後工程引取方式の構築と運用を進めるために、C社で必要な生産管理上の検討内容について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は「これまで受注ロット生産体制であったC社では」と前提を置いています。つまり、受注が来てから作る形から、後工程が引き取った分を作る形へ変わる。その差を埋める作業が検討内容です。
差は3つあります。数が決まる時期、計画の細かさ、そして材料の持ち方です。③の第12段落の4行と、第16段落の条件を突き合わせると出てきます。
- いまの形その1。月ごとの日程計画で動き、都度の計画修正で差し込んでいる(第12段落)。
- いまの形その2。都度発注する材料調達で、受注分のみの材料在庫しか持たない(第12段落)。
- 新しい条件その1。3日前に確定する納品なので、確定を待って材料は手配できない(第16段落)。
- 新しい条件その2。3カ月前の内示と月次の見直しが届くので、先の見通しは立つ(第16段落)。
- 新しい条件その3。従来方式との併存になり、同じ工程に2つの流し方が入る(第17段落)。
- 使える支え。X社の全面支援によるシステム構築でデータは受け取れる(第17段落)。
- 既存の仕組み。両部門をまたぐ日程調整の仕組みが、すでに社内にある(第12段落)。
計画の作り方が第一です。内示は3カ月前に来るので、そこから月ごとの生産計画と人員・設備の計画を立てられます。確定する数だけが3日前に来る、という二段構えで受けます。
計画の細かさも変えます。月ごとに作って日々割り当てる形では、3日前の確定に追いつきません。週ごと、日ごとに落とし込める形へ細かくする必要があります。
材料の持ち方が最後です。受注分だけの在庫では、確定してから手配しても間に合いません。内示をもとに計画で発注し、どれだけ持つかの基準を決めておく、という切り替えになります。
併存の調整も忘れられません。かんばんで動く仕事と従来どおりの仕事が同じ工程を通るので、どちらを先に流すかの決め方を作っておかないと現場が止まります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた検討内容を、140字に収めるとこうなる、という例です。
①3カ月前の内示と月次の見直しをもとに生産計画と人員・設備の能力計画を立てる。②月ごとの日程計画を週次・日次に細かくし、3日前の外注かんばんで差し立てできるようにする。③材料は都度発注をやめ内示に基づく計画発注とし、在庫基準を決める。④従来の受注品との流し方の優先順位も定める。
139マス / 140マス
第4問 新工場が動いたあとの戦略|120字
趣旨が問うているのは、工場が動いてX社の仕事が始まったあとの戦略です。工場の作り方ではなく、その先に何を狙うかを書きます。
出題の趣旨(引用)。「新工場が稼働し、X社からの新規受託生産が開始された後のC社の戦略について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
時点が指定されています。工場が動き、X社の仕事が始まったあとです。第3問(設問1)で書いた工場の作り方をここで繰り返すと、時点の違う答案になります。
手がかりは社長の方針1です。X社専用にしない、将来は他社向けの量産もできる工場にする、と与件文がはっきり書いています。戦略の向きは、この一文で決まります。
- 向きを決める記述。他社向け量産にも使える新工場にすると社長が示している(第20段落)。
- 同じ記述の裏。専用ライン化にしない方針なので、他の仕事も流せる(第19段落)。
- 解く問題。X社への売上依存が高く、1社に偏った状態が続いている(第5段落)。
- 売れる力その1。熱処理と機械加工の一貫対応ができ、工程をまとめて任せられる(第2段落)。
- 売れる力その2。図面化する設計部門があり、仕様から社内の加工につなげられる(第4段落)。
- 売れる力その3。新工場で量産の経験と標準化した作業が手に入る(第15・第22段落)。
- 相手の候補。もともと輸送用機械や産業機械、建設機械の部品を扱ってきた(第2段落)。
戦略の骨は2つです。新工場で得た量産の力を他社にも売ること、そして既存の多品種少量の仕事を手放さないこと。前者だけを書くと、いまの商売をどうするのかが答案から消えます。
売り物は工程の広さです。熱処理だけを頼んでいた相手に、その前の機械加工まで任せてもらう。設計部門があるので、図面から先を丸ごと引き受けられます。
依存の話にも触れます。売上の2割をX社が占めており、量産を受ければ比率はさらに上がります。他社の量産を取ることは、能力を埋める話であると同時に、偏りを戻す話でもあります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた稼働後の戦略を、120字に収めるとこうなる、という例です。
新工場で得た量産の技術と標準化した作業を活かし、X社向け以外の量産受注を広げる。熱処理と機械加工を一貫で請け負える体制と図面化する設計部門を武器に、既存の輸送用機械や産業機械、建設機械の顧客へ提案し、X社への依存を下げて経営を安定させる。
119マス / 120マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 熱処理と機械加工の一貫対応/創業以来の熱処理専業/前工程まで広げた対応/図面化する設計部門/多品種少量の受注生産/商談会で得たX社との取引/自動車部品専用の熱処理工程/数種類の熱処理炉/段取りの短い汎用機/技能士資格を持つベテラン作業者/両部門をまたぐ日程調整 |
| 第2問 | 熱処理と機械加工の一貫対応/多品種少量の受注生産/自動車部品専用の熱処理工程/段取りの短い汎用機/大きい設備投資負担/X社への売上依存/機能別レイアウト/個人技能に頼る加工品質/初めての本格的量産/生産量が約2倍 |
| 第3問 | 技能士資格を持つベテラン作業者/両部門をまたぐ日程調整/3カ月前の内示と月次の見直し/X社の全面支援によるシステム構築/機能別レイアウト/個人技能に頼る加工品質/月ごとの日程計画/都度の計画修正/都度発注する材料調達/受注分のみの材料在庫/初めての本格的量産/生産量が約2倍/3日前に確定する納品/従来方式との併存/加工設備の増強の必要/専用ライン化にしない方針/他社向け量産にも使える新工場/スキル依存からの脱却/一人当たり生産性の最大化/要員採用の最小化 |
| 第4問 | 熱処理と機械加工の一貫対応/前工程まで広げた対応/図面化する設計部門/X社への売上依存/専用ライン化にしない方針/他社向け量産にも使える新工場 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第3問の40点の配り方は分かりません。
- 第1問でどの強みを選ぶかは当サイトの判断です。図面化する設計部門を軸に置く読み方もあります。
- 第2問でX社への依存をリスクに数えたのは当サイトの判断です。生産面に絞るなら削る読み方もあります。
- 段落番号は与件文の先頭からの通し番号です。見出しの行や箇条書きの行、折り返された社長方針の行も1段落として数えています。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅲは設問4問に対し、趣旨が5行あります。第3問が2つに分かれるためです。
- 趣旨5行のうち3行が助言、2行が分析です。前半で分析し、後半で打ち手を書きます。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 設問文が「述べよ」なのに、助言を書いてよいのですか?
- 令和元年度 事例Ⅲの第3問と第4問は、趣旨がどれも助言する能力を問うと書いています。事実の説明だけで終えると、趣旨が求めた打ち手の側が空になります。設問文の語尾ではなく、趣旨の語で文末の向きを決めるほうが安全です。
- 第3問(設問1)と第4問の書き分けはどうしますか?
- 時点が違います。設問1は工場をどう作るかで、第4問は工場が動いてX社の仕事が始まったあとの話です。設問1でレイアウトや標準化を書いたなら、第4問はその力を誰に売るかへ進めます。
- 第3問(設問2)で設備や人員の話を書いてはいけませんか?
- 趣旨が生産管理上の検討内容と限っています。能力の計画として人員や設備に触れるのは範囲の内ですが、設備の選定や工場のレイアウトは設問1の側です。140字しかないので、計画と材料の話を優先します。
- 与件文の段落番号が資料の見た目とずれるのはなぜですか?
- この年の事例Ⅲには【企業概要】などの見出しの行と、生産の流れを示す箇条書きの行が入っています。さらに社長方針の4項目は原文が行の途中で折り返されており、この記事ではそれらも1段落として通し番号で数えているためです。



