令和元年度 事例Ⅱの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅱの趣旨は、助言でも提案でもなく「提言」の語を使います。
- 設問は3問ですが第3問が2つに分かれ、趣旨は4行あります。第1問だけが分析です。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和元年度 事例Ⅱの3設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第3問が2つの設問に分かれるため、趣旨は4行あります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅱは、どんな回か
与件文3,216字・解答字数の合計340字。80分の内訳は読む16分/考える50分/書く14分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | その他 | 20点 | 40字 | ◎ 現状分析(SWOT・3C) 68%(46〜85%) |
| 第2問 | 助言 | 30点 | 100字 | プロモーション 32%(15〜54%) |
| 第3問(小問2) | 助言 | 50点 | 100字 / 100字 | 関係性強化・愛顧 26%(12〜49%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 2分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 15分 |
| 第3問 | 8分 | 25分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える50分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第1〜5段落で、合わせて2語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
商店街のネイルサロンが、近くにできるショッピングモールと低価格の同業に客を奪われる前に、次の客と次の売り方を決める話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
B社は完全予約制のネイルサロンで、働くのは社長とYさんの2名。地方都市X市の商店街にあります。周辺は高級住宅地で、15年前のファミリー向け宅地開発でいまの人口構成ができました。町内会や寺社、商店街の催しが毎月あります。
2人は美術大学の同級生で、社長は食品メーカーで販促物のデザイン、Yさんは貸衣装店で衣装と小物の提案をしていました。出産で退職したあと、家事と両立できて元手の少ない仕事としてネイルサロンを選び、2017年に開業します。
「貸衣装の店で、行事に合わせた装いを提案してきた。その経験がここで生きている。」
きっかけは、社長が自分の子の卒業式に合わせて作った和装用のジェルネイルを写真共有アプリに載せたことでした。技術の高さが伝わって来店が増え、いまは1人あたり25名前後の固定客がついています。ただし客の半分は住宅地から近いという理由で選んでおり、その層はオプションをあまり付けません。
「美大の同級生と2人で開いた店だ。狭いけれど、落ち着くと言ってもらえる。」
そこへ、近くの跡地に小型ショッピングモールが2019年11月に開くという話が来ます。中に大手チェーンの低価格ネイルサロンが入ることが分かり、近さで選んでいた客の流出が見込まれました。受験者が置かれているのはこの位置です。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は40字ずつ4欄です。** 1欄に入るのは要素1つか2つ。強み・弱み・機会・脅威を書き分ける前に、どれを捨てるかを決める設問だと考えたほうが噛み合います。
- **機会と脅威は会社の外側にあります。** 商店街の催し、住宅地の年齢構成、モールの開業、低価格チェーンと自宅サロン。②③の表はB社の内側なので、ここは①から拾ってください。
- **第2問は客単価の話です。** 集客の施策に流れると要求とずれます。与件文は価格の仕組み(基本料金+1本単位の3種類のオプション)と、近さで選ぶ客がオプションを付けないことを書いています。
- **第3問は設問1と設問2で時間の位置が違います。** 設問1はこれから誰と組んで誰を取るか、設問2は来てくれた客を初回の接客でどうつなぎ止めるか。同じ施策を両方に書くと、片方が薄くなります。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、2人の前職に集まっています。季節感の表現力と、行事に合わせて提案する接客の2つが軸です。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。この年は図と価格表も1行ずつ段落として数えていますが、②③で引用しているのは第1段落から第7段落までです。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「社長を含む従業者2名の完全予約制ネイルサロン」 | 完全予約制の運営 | 第1段落 | 第3問(設問2) |
| 「特に在職中から季節感の表現に定評があり」 | 季節感の表現力 | 第2段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「社長が提案した季節限定商品のパッケージや季節催事用のPOPは、同社退職後も継続して利用されていた」 | 季節ごとのデザインの実績 | 第2段落 | 第2問 |
| 「衣装やアクセサリーの組み合わせを提案するコーディネーターとして従事した」 | 組み合わせを提案する経験 | 第2段落 | 第1問(強み)・第3問(設問1) |
| 「参加イベントの雰囲気に合わせて衣装の提案を行う接客が高く評価されており」 | 行事に合わせた提案の接客 | 第2段落 | 第2問・第3問(設問1・設問2) |
| 「持ち前の絵心で技術は飛躍的に向上した」 | 絵心に支えられた技術 | 第2段落 | 第1問(強み) |
| 「商店街の中では格安の賃貸料で借りることができた」 | 格安の賃貸料 | 第3段落 | 第1問(強み) |
| 「顧客からは落ち着く雰囲気だと高い評価を得ている」 | 落ち着く店内の雰囲気 | 第3段落 | 第1問(強み)・第3問(設問2) |
| 「商店街の他店ともスムーズに良好な関係を構築することができた」 | 商店街の他店との良好な関係 | 第3段落 | 第1問(強み)・第3問(設問1) |
| 「サービスを提供する際に顧客の要望を聞き、予算に基づき、要望を具体化する」 | 要望を形にする接客 | 第4段落 | 第2問・第3問(設問2) |
| 「ジェルネイルは爪の成長に伴い施術から3週間~1カ月の間隔での来店が必要になる」 | 定期的な来店が必要な施術 | 第6段落 | 第1問(強み)・第3問(設問2) |
| 「顧客の要望に合ったデザイン、もしくは顧客の期待以上のデザインを提案し」 | 期待以上のデザインの提案 | 第6段落 | 第3問(設問2) |
| 「社長やYさんが前の勤務先で培った提案力が生かされた」 | 前職で培った提案力 | 第6段落 | 第1問(強み)・第3問(設問2) |
| 「従業者1人当たり25名前後の固定客を獲得するに至り」 | 1人あたり25名の固定客 | 第6段落 | 第1問(強み) |
14行のうち6行が第2段落に集まっています。2人の前職の経歴です。この年の与件文は、開業前の経歴に紙面を大きく割いており、そこが設問の答えの材料になっています。
とくに「季節感の表現力」と「行事に合わせた提案の接客」の2つは、第2問と第3問の両方に効きます。行事が毎月ある土地柄と組み合わせると、いつ何を提案するかまで決まるためです。
第3段落の3行は店と商店街の話です。「商店街の他店との良好な関係」は、第3問(設問1)で誰と組むかを書くときの根拠になります。組める相手がすでにいる、という状態そのものが資産です。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は3つに割れます。店の物理的な制約、客層の偏り、そして近さで選ばれている半数が抜けそうなことです。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。第3段落と第4段落が店と施術の制約、第6段落と第7段落が客の側の課題にあたります。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「当該店舗は商店街の中心部からは離れた場所にあり」 | 中心部から離れた立地 | 第3段落 | 第1問(弱み) |
| 「建築から年数がたっており、細長いスペースが敬遠されていた」 | 古く細長い店舗 | 第3段落 | 第1問(弱み) |
| 「2人が施術すれば満員となるような狭いスペースではあるものの」 | 2人で満員になる狭さ | 第3段落 | 第1問(弱み)・第3問(設問1) |
| 「おおむね両手で平均1時間半の時間を要する」 | 1施術に1時間半 | 第4段落 | 第1問(弱み)・第3問(設問1) |
| 「言葉で伝えるのが難しいという顧客もおり」 | 要望を言葉にしにくい顧客 | 第4段落 | 第2問 |
| 「好きな絵柄やSNS上のネイル写真を持参する場合も多くなっている」 | 写真を持参する顧客 | 第4段落 | 第2問 |
| 「繁忙期には稼働率が9割を超える時期も散見される」 | 繁忙期の高い稼働率 | 第6段落 | 第1問(弱み) |
| 「顧客の大半は従業者と同世代である」 | 従業者と同世代に偏る客層 | 第6段落 | 第1問(弱み)・第3問(設問1) |
| 「デザイン重視の顧客と住宅地からの近さ重視の顧客は半数ずつとなっている」 | 近さ重視の顧客が半数 | 第6段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「オプションを追加する顧客は少なく」 | オプションを使わない顧客 | 第6段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「これまで自宅から近いことを理由に来店していた顧客が大幅に流出することを予想した」 | 近さ重視層の流出見込み | 第7段落 | 第1問(弱み)・第3問(設問1) |
②③はどちらもB社の内側を並べた表です。SWOT分析の機会と脅威は会社の外側にあるので、この2つの表には載っていません。行事の多さやモールの開業といった材料は①に書きました。
第3段落と第4段落の4行は、動かしにくい制約です。店は広げられず、1回の施術に1時間半かかります。第3問(設問1)で新しい客を取りに行くときも、受け入れられる人数には上限があります。
第6段落の4行は客の側の話です。同じ世代に偏り、半数は近さで選び、その半数はオプションを付けません。第2問がデザイン重視の側を厚くする設問なのに対し、第3問は別の層を取りに行く設問です。
第7段落の1行が、この事例の時計です。モールが開けば近さで選んでいた層は流れます。設問文も、顧客数が大幅に減るという予想を前提として置いています。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅱは、助言でも提案でもなく提言という語を使っています。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和元年度 事例Ⅱは、商店街に立地する完全予約制のネイルサロンの事例です。設問は3問ですが、第3問が2つに分かれているため趣旨は4行あります。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 40字以内(要素ごと4欄) | 分析 |
| 第2問 | 30点 | 100字以内 | 提言(コミュニケーション方法) |
| 第3問(設問1) | 50点(設問1・2で) | 100字以内 | 提言(協業相手とターゲット) |
| 第3問(設問2) | 50点(設問1・2で) | 100字以内 | 提言(長期的関係性を築く施策) |
第3問だけで50点、全体の半分です。設問1と設問2で100字ずつ書くので、書く量も多くなります。時間はここを厚く取り、第1問の40字は迷わず出せるところまで型を作っておくのが現実的です。
設問文のほうは第2問と第3問が「助言せよ」で終わっています。趣旨は同じ設問を提言と書いています。語は違いますが、どちらも打ち手を書かせる向きなので、文末は打ち手の形で締めます。
第1問 SWOT分析|40字ずつ4欄
趣旨は「内外の経営環境を分析する」。強みと弱みは②③から、機会と脅威は①から取ります。時点も10月末に限られます。
出題の趣旨(引用)。「B社内外の経営環境を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は短く、内と外の両方に触れることだけが確実な要求です。設問文がSWOT分析と指定し、4つの解答欄を用意しているので、強み・弱み・機会・脅威に分けて書きます。
見落としやすいのは時点です。設問文は2019年10月末と限っています。モールが開くのは11月なので、開業はまだ起きていません。したがってモールは脅威の側であって、来店の増加という結果ではありません。
| 観点 | 使う材料 | どこに書いてあるか |
|---|---|---|
| 強み(内) | 季節感の表現力/行事に合わせた提案の接客/絵心に支えられた技術/商店街の他店との良好な関係/落ち着く店内の雰囲気 | ②の表 |
| 弱み(内) | 中心部から離れた立地/2人で満員になる狭さ/従業者と同世代に偏る客層/近さ重視の顧客が半数 | ③の表 |
| 機会(外) | 行事が毎月ある土地柄/商店街周辺の高級住宅地とファミリー層/ショッピングモールの開業による来街 | ①(第1・第7段落) |
| 脅威(外) | モール内に出店する大手チェーンの低価格ネイルサロン/駅前の大手チェーンと周辺の自宅サロン | ①(第5・第7段落) |
40字は短いので、1欄に入るのは2つか3つです。強みは技術と接客の両方に触れると、あとの設問とつながります。第2問も第3問も、使うのは接客と提案の力だからです。
モールを機会と脅威の両方に書くかは判断が分かれます。人が集まるという意味では機会ですが、B社にとっては同業が入ることのほうが重い。この記事は、脅威の側に置いて機会には別の材料を入れました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた内外の分析を、40字ずつに収めるとこうなる、という例です。
以下4つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
季節感の表現力と行事に合わせた提案力、絵心に基づく技術、商店街他店との関係。
38マス / 40マス
中心部から離れた狭い店舗で施術能力に限りがあり、客層が従業者と同世代に偏る点。
39マス / 40マス
高級住宅地でファミリー層が多く行事が毎月あり、モール開業で来街客の増加が見込める。
40マス / 40マス
モール内に大手チェーンの低価格サロンが出店し、近さ重視の顧客が流出する見込み。
39マス / 40マス
第2問 個別の発信で客単価を上げる|100字
趣旨は「顧客個々の状況に合わせた」と書いています。全員に同じ内容を流す案は、この一言で外れます。
出題の趣旨(引用)。「B社顧客個々の状況に合わせたコミュニケーション方法を提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文が道具と相手を指定しています。道具はインスタント・メッセンジャーで、個別にメッセージを送れること。相手はデザインを重視する既存の顧客。目的は客単価を高めることです。
趣旨の「個々の状況に合わせた」が効きます。誰にでも同じ案内を送るのなら、個別に送れる道具を使う意味がありません。何を個別に変えるのかが、答案の中心になります。
- 変える軸その1。行事に合わせた提案の接客をYさんが前職で高く評価されていた(第2段落)。
- 変える軸その2。季節感の表現力と季節ごとのデザインの実績が社長にある(第2段落)。
- 土地の事情。町内会や寺社、商店街の催しが毎月ある(①)。
- 伝え方。要望を言葉にしにくい顧客がおり、写真を持参する顧客も増えている(第4段落)。
- 単価の余地。オプションを使わない顧客がおり、追加の余地が残っている(第6段落)。
- 来店の周期。定期的な来店が必要な施術なので、送る時期を合わせられる(第6段落)。
- 接客の型。要望を形にする接客が、すでに店内で成立している(第4段落)。
個別に変えるものは2つあります。その人がこれから参加する行事と、いま着けているデザインの状態です。前者が提案の中身を決め、後者が送る時期を決めます。
伝え方は画像が有利です。言葉で言い表しにくい客が多く、写真を持ってくる客も増えています。文章で説明するより、案を絵にして送るほうが要望と提案の距離が縮まります。
客単価を上げる道筋も書きます。基本料金だけの施術に、デザインやストーンやアートの追加が乗れば単価が上がる、という関係です。値引きの話ではありません。
なお、来店の周期に合わせて送るという時期の設計は当サイトの見立てです。与件文は施術の間隔を書いていますが、それを発信の時期に使えとは書いていません。
次は正解ではありません。趣旨が求めた個別のコミュニケーションを、100字に収めるとこうなる、という例です。
顧客ごとに参加予定の行事や好みを把握し、その雰囲気と季節に合うデザイン案を画像で個別に送る。言葉にしにくい要望を絵で共有し、装飾を加えた提案を次の来店時期に合わせて届け、追加注文で客単価を高める。
98マス / 100マス
第3問(設問1) 誰と組み、誰を取るか|100字
趣旨は「協業相手やターゲット」の両方を求めています。相手だけ、層だけでは要求の半分になります。
出題の趣旨(引用)。「B社の状況や目的に応じて、協業相手やターゲットを提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は3つを求めています。どのような協業相手と組むか、どのような顧客層を獲得するか、そしてその理由です。100字を3つに割ると、1つあたり30字前後になります。
相手は商店街の中から選びます。設問文が商店街の他業種との協業と書いており、②に「商店街の他店との良好な関係」があるからです。すでに関係がある相手なら、話を持ちかけられます。
- 組める根拠。商店街の他店との良好な関係が、Yさんの前職のつながりからできている(第3段落)。
- 相手の候補。商店街には貸衣装のチェーン店があり、Yさんが以前そこで働いていた(①・第3段落)。
- 相手の候補。商店街には美容室や衣料品店、宝飾店も並んでいる(①)。
- 渡せる力。組み合わせを提案する経験と行事に合わせた提案の接客が、貸衣装の客と噛み合う(第2段落)。
- 取りに行く理由。近さ重視層の流出見込みがあり、その分を埋める必要がある(第7段落)。
- 層の選び方。従業者と同世代に偏る客層なので、行事に合わせて装いを整える層は広げやすい(第6段落)。
- 受け入れの上限。2人で満員になる狭さと1施術に1時間半という制約がある(第3・第4段落)。
この記事は貸衣装のチェーン店を相手に置きました。Yさんが前職でその客に衣装を提案していた実績があり、七五三や卒業式や結婚式に出る層と接していたからです。話を通す道も、提案できる中身も両方あります。
美容室を選ぶ読み方もあります。装いを整えるという目的が近く、来店の時期も重なるためです。どちらを選んでも、理由を与件文の記述で支えられるかどうかで答案の質が決まります。
顧客層は、行事に列席する30代から50代の女性に置きました。この層は式の日に合わせて装いを整えるので、ネイルの需要が生まれます。行事が毎月ある土地柄とも噛み合います。
受け入れられる人数には上限があります。2人で満員になる狭さがあるので、量を取りに行く話ではありません。単価の取れる層を取りに行く、という向きで締めます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた協業相手とターゲットを、100字に収めるとこうなる、という例です。
商店街の貸衣装チェーン店と組み、七五三や卒業式など行事に列席する30代から50代の女性を獲得する。理由は、Yさんが前職で同業の顧客に装いを提案した実績があり、行事が毎月あるため需要が続くからである。
97マス / 100マス
第3問(設問2) 初回の接客でつなぎ止める|100字
趣旨は「長期的関係性」。1回きりの満足ではなく、次に来る理由まで作る提案を書きます。値引きは設問文が外しています。
出題の趣旨(引用)。「B社の強みを活かし、新規顧客との長期的関係性を築く施策を提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は条件を2つ付けています。B社の強みを活かすこと、そして長期的な関係を築くこと。設問文はさらに、初回来店時の店内での接客に限り、価格プロモーション以外と指定しています。
つまり、割引や回数券のような値段の工夫は書けません。書けるのは、その場の会話と提案で次につなげる方法だけです。
- 固定化の仕組み。定期的な来店が必要な施術で、爪が伸びれば付け替えが要る(第6段落)。
- 固定化の条件。期待以上のデザインの提案ができれば固定客になりやすい(第6段落)。
- 使う強みその1。行事に合わせた提案の接客で、次の予定に合う案を出せる(第2段落)。
- 使う強みその2。季節感の表現力があり、季節ごとに違う案を出せる(第2段落)。
- 使う強みその3。要望を形にする接客が、初回から成立している(第4段落)。
- 使う強みその4。落ち着く店内の雰囲気が高く評価されている(第3段落)。
- 運営の形。完全予約制の運営なので、帰る前に次の予約を決められる(第1段落)。
初回にやることは3つに整理できます。要望を聞いて期待を超える案を出すこと、次に参加する行事を聞いてその日の案まで示すこと、そして帰る前に次の予約を取ることです。
次の行事を聞くという一手が、この事例では効きます。行事が毎月ある土地柄なので、次の予定が必ず出てきます。予定が決まれば、次の来店の日も決まります。
施術した爪の写真を残して好みを蓄えるのも、関係を続ける手になります。ただしこれは与件文に記述が無く、当サイトの見立てです。
次は正解ではありません。趣旨が求めた長期的関係の施策を、100字に収めるとこうなる、という例です。
要望を聞き取り期待以上のデザインを提案したうえで、次に参加する行事や季節に合う案を示し、帰る前に次回の予約を取る。理由は、爪の成長で付け替えが必要な施術であり、初回の満足が固定化に直結するからである。
99マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 季節感の表現力/組み合わせを提案する経験/絵心に支えられた技術/格安の賃貸料/落ち着く店内の雰囲気/商店街の他店との良好な関係/定期的な来店が必要な施術/前職で培った提案力/1人あたり25名の固定客/中心部から離れた立地/古く細長い店舗/2人で満員になる狭さ/1施術に1時間半/繁忙期の高い稼働率/従業者と同世代に偏る客層/近さ重視の顧客が半数/オプションを使わない顧客/近さ重視層の流出見込み |
| 第2問 | 季節感の表現力/季節ごとのデザインの実績/行事に合わせた提案の接客/要望を形にする接客/要望を言葉にしにくい顧客/写真を持参する顧客/近さ重視の顧客が半数/オプションを使わない顧客 |
| 第3問 | 完全予約制の運営/組み合わせを提案する経験/行事に合わせた提案の接客/落ち着く店内の雰囲気/商店街の他店との良好な関係/要望を形にする接客/定期的な来店が必要な施術/期待以上のデザインの提案/前職で培った提案力/2人で満員になる狭さ/1施術に1時間半/従業者と同世代に偏る客層/近さ重視層の流出見込み |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第3問の50点の配り方は分かりません。
- 第1問の機会と脅威は、②③のような逐語引用と答案語の対応表を持ちません。①の要約と段落番号までが渡せる範囲です。
- 第3問(設問1)で貸衣装のチェーン店を選んだのは当サイトの判断です。美容室など別の相手を選ぶ読み方もあります。
- 第2問で来店の周期に合わせて送る、第3問(設問2)で写真を残すとしたのは当サイトの見立てで、与件文に記述はありません。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅱの趣旨は、助言でも提案でもなく「提言」の語を使います。
- 設問は3問ですが第3問が2つに分かれ、趣旨は4行あります。第1問だけが分析です。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 趣旨の「提言」と「助言」は違うものですか?
- 違いは公表されていません。分かるのは、この年の事例Ⅱの趣旨が提言という語を使い、設問文は助言せよと求めているという事実だけです。どちらも打ち手を書かせる向きなので、文末は打ち手の形で締めるのが安全です。
- 第1問でモールの開業は機会ですか、脅威ですか?
- 読み方が分かれます。人が集まるという意味では機会ですが、その中に大手チェーンの低価格サロンが入るという点ではB社への脅威です。40字しかないので、両方に書くと他の材料が入りません。この記事は脅威に置きました。
- 第3問(設問2)で割引や回数券を書いてはいけませんか?
- 設問文が「価格プロモーション以外の提案について」と明示して外しています。書けるのは、初回来店時の店内での接客と提案で次につなげる方法だけです。値段以外で次に来る理由を作る設問だと読めます。
- 与件文の段落番号が資料の見た目とずれるのはなぜですか?
- この年の事例Ⅱは、図1と図2、それに価格表の行が1行ずつ段落として切り出されており、この記事ではそれらも通し番号で数えているためです。中身のある段落は第1段落から第7段落までで、②③の引用もそこから取っています。



