令和元年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅰの趣旨に助言の語はありません。分析力と理解力の2語だけです。
- 設問は5問あり、5問とも100字以内・配点20点でそろっています。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和元年度 事例Ⅰの5設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は設問が5問あり、どれも100字以内でした。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文2,991字・解答字数の合計500字。80分の内訳は読む15分/考える45分/書く20分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 答える | 20点 | 100字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問 | 答える | 20点 | 100字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 第5問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 33%(12〜65%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 4分 | 9分 |
| 第2問 | 4分 | 9分 |
| 第3問 | 4分 | 9分 |
| 第4問 | 4分 | 9分 |
| 第5問 | 4分 | 9分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える45分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第4段落で、合わせて7語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
たばこ市場の縮小で主力製品を失った機械メーカーが、乾燥技術を軸に事業を組み替え、新しい市場を自力で探し当てるまでの話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は農業用機械と産業機械装置のメーカーで、社員はおよそ80名。役員は親族で固めています。長く主力だったのは葉たばこの乾燥機で、規制と補助金に守られた市場に支えられ、最盛期の売上はいまの数倍ありました。
「弟が副社長、いとこが専務。縁戚の3人で経営を担っている。」
1980年代の半ばから、民営化と健康への関心の高まりでたばこ市場が縮み、耕作面積も減っていきます。2000年代の半ばには存続そのものが問題になり、自社製品の手入れを事業にしようとしますが、これは商売として成り立ちませんでした。
(良い時代を知っている者ほど、新しい事業には身が入らなかった。)
二代目が会長へ退いて新体制が始まると、高コスト体質の是正、経理の仕組みづくり、定年間近の人を対象とした人員の削減に踏み込みます。そのうえで会社の中核を農作物の乾燥技術だと定め、3年かけて新しい機器とソフトウエアを作り上げました。
「祖父が興し父が継いだ会社を、留学先から呼び戻されて引き受けた。」
ただ、機器ができても売る道筋は別の話でした。そこで始めたのが、乾かしたい物を送ってもらって乾燥して返す試験乾燥です。初年度だけで100件を超える依頼が集まり、農家だけでなく食品会社や漢方薬メーカーなど、それまで届かなかった相手とつながりました。組織はいまも機能別のままです。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **5問すべてが「理由」「要因」を問うています。** 助言や提案を求める設問がひとつもありません。施策を並べる型で書くと、設問の要求から外れます。
- **第2問の企業風土は、会社の外側に材料があります。** 規制と補助金に守られた市場で売上が伸び続けた、という事情が背景です。②③の表はA社の内側を並べたものなので、ここだけは①に戻ってください。
- **第3問と第4問は似て見えますが、見ている場所が違います。** 第3問は試験乾燥という仕組みが市場開拓につながった要因、第4問は営業社員が新規事業に取り組んだ要因=人の側です。同じことを2回書くと、片方が空きます。
- **第5問は「見送った理由」です。** 組織をどう作り替えるかを助言する設問ではありません。いまの機能別組織で足りている理由を、この会社の規模と人の配置から説明することになります。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、乾燥技術という事業領域・HPと試験乾燥という仕掛け・営業部隊・機能別の組織の4つに分かれます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。問題PDFの印刷どおりに数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「全国に7つの営業所を構える」 | 全国7か所の営業所 | 第2段落 | 第3問・第4問 |
| 「経営コンサルタントに助言を求めながら、経営改革を本格化させた」 | 外部の助言を受けた改革 | 第5段落 | 第2問・第5問 |
| 「コストカットした部分を成果に応じて支払う賞与に回すことが可能になった」 | 成果に応じた賞与 | 第6段落 | 第4問 |
| 「従業員の年齢が10歳程度も引き下がり」 | 従業員の若返り | 第6段落 | 第4問 |
| 「自社のコアテクノロジーを「農作物の乾燥技術」と明確に位置づけ」 | 明確にした事業領域 | 第7段落 | 第1問・第4問・第5問 |
| 「それを社員に共有させることによって」 | 事業領域の社内共有 | 第7段落 | 第4問 |
| 「葉たばこ以外のさまざまな農作物を乾燥させる機器の製造」 | 農作物向け乾燥機器の開発 | 第7段落 | 第3問・第4問・第5問 |
| 「動力源である灯油の燃費効率を大幅に改善する」 | 灯油の燃費効率の改善 | 第7段落 | 第3問 |
| 「自社の乾燥技術や製品を市場に知らせるために自社ホームページ(HP)を立ち上げた」 | 自社HPの開設 | 第9段落 | 第3問 |
| 「それを乾燥させて返送する「試験乾燥」というサービス」 | 試験乾燥のサービス | 第9段落 | 第3問・第4問 |
| 「営業部隊のプレゼンテーションが功を奏した」 | 営業部隊の提案力 | 第9段落 | 第3問・第4問 |
| 「本社内に拠点を置く製造部、開発部、総務部と全国7地域を束ねる営業部が機能別に組織されて」 | 機能別に組織された4部門 | 第10段落 | 第5問 |
| 「大所高所からすべての部門にA社長が目配りをする体制」 | 社長が全部門に目配りする体制 | 第10段落 | 第5問 |
13行のうち、第7段落に固まった4つがこの事例の芯です。何をする会社なのかを決め、それを社員に渡し、実際に作れる状態にした。第4問と第5問は、どちらもここを前提にしています。
第9段落の3つは、市場を見つけた仕掛けそのものです。第3問はこの3つとその前の第8段落の課題だけで骨格が作れます。営業部隊の提案力は、仕掛けを取引に変えた最後の一押しにあたります。
第10段落の2つは組織の話で、使い道は第5問に限られます。作り替えなかった理由を書く設問なので、いまの形が回っていることを示す材料が要ります。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は3つの層に分かれます。主力事業の衰退、社内に残った高コスト体質、そして市場を絞れなかったことです。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。第3段落から第6段落までが過去の負債、第8段落が市場の課題、第11段落が組織の課題にあたります。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「縁戚関係にある8名の役員」 | 縁戚中心の役員構成 | 第1段落 | 第5問 |
| 「彼らを主要顧客としていたA社の売上は右肩上がりで」 | 葉たばこ生産業者への依存 | 第3段落 | 第1問・第2問 |
| 「A社の主力事業である葉たばこ乾燥機の売上も落ち込んで」 | 主力事業の売上減少 | 第3段落 | 第1問 |
| 「自らが先頭に立って自社製品のメンテナンスを事業化することに取り組んだ」 | メンテナンスの事業化 | 第4段落 | 第1問 |
| 「それはビジネスとして成り立たず、売上減少と費用増大という二重苦を生み出す」 | 売上減少と費用増大の二重苦 | 第4段落 | 第1問 |
| 「この装置の売上が、最盛期の半分以下にまで落ち込んだ葉たばこ乾燥機の売上減少に取って代わる規模になるわけではなかった」 | 新製品の規模不足 | 第4段落 | 第1問 |
| 「新しい事業に取り組むことを、古き良き時代を知っている古参社員たちがそう簡単に受け入れるはずもなかった」 | 古参社員の抵抗 | 第4段落 | 第2問・第4問 |
| 「補修用性能部品の保有期間を過ぎている機械の部品であっても客から依頼されれば個別に対応していた」 | 期間を過ぎた部品への個別対応 | 第5段落 | 第1問・第2問 |
| 「膨大な数の部品が在庫となって収益を圧迫していた」 | 部品在庫による収益の圧迫 | 第5段落 | 第1問・第2問 |
| 「営業所の業務が基本的に手書きの帳簿で処理され、全社的な計数管理が行われない」 | 手書き帳簿と計数管理の不在 | 第5段落 | 第2問 |
| 「100名以上にまで膨らんでしまっていた従業員」 | 膨らんだ従業員数 | 第6段落 | 第2問 |
| 「A社が独自で切り開くことのできた市場は、従来からターゲットとしてきたいわば既存市場だけであり」 | 既存市場に限られた開拓 | 第8段落 | 第1問・第3問 |
| 「何を何のために乾燥させるのか、ターゲット市場を絞ることはできなかった」 | 絞れないターゲット市場 | 第8段落 | 第3問 |
| 「A社の組織は、創業当時の機能別組織のままである」 | 創業当時のままの機能別組織 | 第11段落 | 第5問 |
| 「現段階での組織再編には賛成できない旨を伝えられた」 | 組織再編への反対意見 | 第11段落 | 第5問 |
②③はどちらもA社の内側を並べた表です。たばこ市場の縮小や、規制と補助金に守られていたという外側の事情は、この2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
第3段落と第4段落の5行が、第1問の材料のほぼすべてです。主力が細り、手入れを事業にして失敗し、代わりの製品も規模が足りない。この順に並んでいるので、与件文をなぞるだけで因果が作れます。
第5段落と第6段落の4行は、第2問が問う古い営業体質の中身です。頼まれれば断らない、数字を見ない、人を減らさない。3つとも、売れていた時代のやり方がそのまま残ったものです。
第8段落の2行だけが、新しい事業の側の課題です。機器はできたのに市場が絞れない。第3問は、この2行が解けたのはなぜかを問う設問だと読めます。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅰの趣旨は、分析力と理解力の2語だけでできています。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和元年度 事例Ⅰは、葉たばこ乾燥機を主力としてきた農業用機械メーカーの事例です。5設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 100字以内 | 分析力 |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 理解力 |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 理解力 |
| 第4問 | 20点 | 100字以内 | 理解力・分析力 |
| 第5問 | 20点 | 100字以内 | 分析力 |
5問とも20点、5問とも100字以内。配点も字数もそろっているので、時間はほぼ等分になります。1問に使えるのは15分ほどで、迷った設問を引きずると次が書けません。
目を引くのは、助言も提案も1行に出てこないことです。設問文も5問すべてが「答えよ」で、助言せよとは書いていません。打ち手を並べる年ではなく、起きたことの理由を説明する年でした。
第1問 メンテナンス事業化が実らなかった理由|100字
趣旨は「経営者が考えるべき戦略的課題」。作業のやり方ではなく、どの市場で稼ぐかという判断の側を問う設問です。
出題の趣旨(引用)。「事業再建のための新規事業開発において、経営者が考えるべき戦略的課題に関する分析力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析力です。設問文は「最大の理由」と1つに絞らせています。理由を3つ並べて終えると、どれが最大なのかが答案から読み取れません。
趣旨は「戦略的課題」と書いています。手入れという仕事の進め方が下手だったという話ではなく、誰を相手にどこで稼ぐかの判断に焦点があります。
- 出発点。葉たばこ生産業者への依存が続き、主力事業の売上減少が起きていた(第3段落)。
- 打ち手。メンテナンスの事業化に、社長が自ら先頭に立って取り組んだ(第4段落)。
- 結果。売上減少と費用増大の二重苦を招いた(第4段落)。
- 費用の側。期間を過ぎた部品への個別対応が続き、部品在庫による収益の圧迫が起きていた(第5段落)。
- 需要の側。葉たばこを作る人そのものが減っており、手入れの相手も細っていた(①)。
- 次の一手。新製品の規模不足で、主力の穴は埋まらなかった(第4段落)。
- 市場の側。既存市場に限られた開拓しかできていなかった(第8段落)。
手入れの相手は、乾燥機を使っている葉たばこの生産者です。その生産者が減っているのだから、手入れの需要も一緒に細ります。売上が減った理由は、打ち手の外側にありました。
費用が増えた道筋も与件文にあります。保有期間を過ぎた部品まで頼まれれば応じていたので、在庫が積み上がっていました。手入れを事業にすると、この個別対応がそのまま原価になります。
ただし、部品在庫の記述が置かれているのは新体制が高コスト体質を洗い出す場面です。手入れの事業化と結びつけるのは当サイトの見立てで、与件文が因果を書いているわけではありません。
最大の理由をどこに置くかで答案が変わります。この記事は、縮んでいく既存の顧客の中だけで新しい商売を作ろうとしたこと、つまり相手を替えなかったことを最大の理由に置きました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた戦略的課題の分析を、100字に収めるとこうなる、という例です。
最大の理由は、縮小する葉たばこ市場の既存顧客を相手にしたまま事業化した点にある。生産者の減少で需要自体が細り、保有期間を過ぎた部品まで個別対応したため費用が増え、売上減少と費用増大の二重苦を招いた。
98マス / 100マス
第2問 古い営業体質の背景にある企業風土|100字
趣旨は「形成要因とその関係」。風土の名前を並べるだけでなく、それを作った事情まで書かないと半分になります。
出題の趣旨(引用)。「企業体質および企業風土の形成要因とその関係について、理解力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は理解力です。趣旨は体質と風土を分けて書き、その形成要因と関係を問うています。設問文も、高コスト体質の要因が古い営業体質にあると先に示したうえで、その背景の風土を聞いています。
風土を作った事情は①に書きました。規制に守られ、生産者に補助金が出て、売上が伸び続けた時代です。相手が黙っていても買ってくれる状態が長く続けば、断らない営業のやり方が残ります。
- 土台。葉たばこ生産業者への依存が長く続いた(第3段落)。
- 外側の事情。規制と補助金に守られ、売上が伸び続けた時代があった(①)。
- 顧客への姿勢。期間を過ぎた部品への個別対応を続けていた(第5段落)。
- 結果その1。部品在庫による収益の圧迫が生じていた(第5段落)。
- 数字の扱い。手書き帳簿と計数管理の不在があった(第5段落)。
- 人。膨らんだ従業員数が、業績悪化のなかでも見直されなかった(第6段落)。
- 変化への構え。古参社員の抵抗があり、新しい事業が受け入れられなかった(第4段落)。
並べた6つは、どれも同じ1つの態度から出ています。売れていた時代のやり方を変えない、という態度です。これを風土として1文で言い切れると、残りの字数で要因と結果が書けます。
答案の形は、風土を先に置き、そのあとに現れ方を並べるのが素直です。趣旨が「形成要因とその関係」と書いているので、何がその風土を作ったのかにも一言ふれます。
注意したいのは、高コスト体質そのものを書いてしまうことです。設問文が体質の要因を古い営業体質だと先に示しているので、体質を答案に戻すと問いに答えたことになりません。
次は正解ではありません。趣旨が求めた形成要因とその関係を、100字に収めるとこうなる、という例です。
規制と補助金に守られ売上が伸び続けた時代の成功体験に安住し、変化を避ける風土である。顧客の依頼を断らず個別対応を優先し、計数管理を行わないため原価や在庫への意識が乏しく、古参社員が新事業を拒んだ。
98マス / 100マス
第3問 試験乾燥が市場開拓につながった要因|100字
趣旨は「市場動向とホームページなどを活用した情報戦略の関連性」。仕掛けの説明だけでは、市場の側が抜けます。
出題の趣旨(引用)。「市場動向とホームページなどを活用した情報戦略の関連性について、理解力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文が読み方を指定しています。宣伝の効果というHPに期待しがちな目的とは別の点に焦点を当てた、と書かれています。つまりこのHPは、伝えるためではなく聞くために使われました。
趣旨は「市場動向」と「情報戦略」の関連性と書いています。仕掛けの説明だけでは片方です。乾かしたい物を抱えた相手が業種をまたいで存在した、という市場の側の事情まで入れます。
- 前提。絞れないターゲット市場があり、既存市場に限られた開拓しかできなかった(第8段落)。
- 仕掛けその1。自社HPの開設で、乾燥技術と製品を知らせた(第9段落)。
- 仕掛けその2。試験乾燥のサービスで、顧客の側から用途を持ち込ませた(第9段落)。
- 土台その1。明確にした事業領域があり、何ができる会社かが伝わる状態だった(第7段落)。
- 土台その2。農作物向け乾燥機器の開発と灯油の燃費効率の改善で、実際に応えられた(第7段落)。
- 押し。営業部隊の提案力が働き、問い合わせが取引に変わった(第9段落)。
- 市場の側。乾物や漢方薬など、乾燥の需要が業種をまたいで存在していた(①)。
この仕掛けの肝は、用途を自社で考えるのをやめたことです。何を何のために乾かすのかは、乾かしたい物を持っている側しか知りません。答えを持っている相手に聞きに行った、という構図です。
無料で試して返すという形も効いています。相手は自分の物で結果を確かめられるので、買う前の不安が消えます。ここは当サイトの見立てで、与件文が無料だと書いているわけではありません。
100字なので、仕掛けを2つ、土台を1つ、効果を1文で締めるのが限界です。趣旨が関連性を問うている以上、集まった相手が業種をまたいでいたことは落とせません。
次は正解ではありません。趣旨が求めた関連性を、100字に収めるとこうなる、という例です。
要因は、HPを宣伝でなく用途の収集に使い、乾かしたい物を送れば試して返す形にした点。潜在需要が業種をまたいで存在したため、団体や食品会社など未知の顧客の用途が集まり、営業部隊の提案力で取引に変わった。
97マス / 100マス
第4問 営業社員が新規事業に取り組んだ要因|100字
趣旨は「意識改革を実践する経営施策」。社員の気持ちの変化ではなく、会社が打った施策を並べる設問です。
出題の趣旨(引用)。「新規事業の営業力強化にとって必要な意識改革を実践する経営施策について、理解力・分析力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
この設問だけ、趣旨が能力を2つ並べています。理解力と分析力です。施策が何であったかを読み取り、それが意識をどう変えたかを説明する、という二段構えになります。
設問文は「事業領域を明確にした結果」と要因の起点を示しています。ここから始めると、答案の1文めが決まります。
- 起点。明確にした事業領域を定め、事業領域の社内共有を進めた(第7段落)。
- 施策その1。成果に応じた賞与に、費用を削った分を回した(第6段落)。
- 施策その2。人員の見直しで従業員の若返りが進み、古参社員の抵抗が薄れた(第4・第6段落)。
- 手応えその1。農作物向け乾燥機器の開発が実り、売る物ができた(第7段落)。
- 手応えその2。試験乾燥のサービスで未知の相手と結びつき、成果が見えた(第9段落)。
- 手応えその3。営業部隊の提案力が実際に効いた(第9段落)。
- 支え。全国7か所の営業所があり、動ける体制が残っていた(第2段落)。
事業領域が決まると、営業は何を売る会社なのかを説明できるようになります。それまでは葉たばこ用の機械しか語れなかったのが、乾燥という言葉で相手を選べるようになりました。
報酬の設計も外せません。削った費用を成果に応じた賞与へ回したので、新しい相手を開けば自分に返ってくる形になりました。動機の側の裏づけです。
人の入れ替わりを要因に数えるかは分かれます。与件文は若返りと賞与を並べて書いていますが、それが営業の意識を変えたとは書いていません。ここは当サイトの見立てです。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた経営施策を、100字に収めるとこうなる、という例です。
要因は①乾燥技術という事業領域を明確にして社員に共有させ、売る対象を説明できるようにしたこと、②削減した費用を成果に応じた賞与に回したこと、③試験乾燥で新市場が開け、営業の提案が成果に結びついたこと。
100マス / 100マス
第5問 組織再編を見送った理由|100字
趣旨は「組織再編を実施する際の条件」。いまの組織を褒めるのではなく、再編に必要な条件が欠けている点を書きます。
出題の趣旨(引用)。「組織再編を実施する際の条件に関する分析力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は条件と書いています。組織を作り替えるには、任せる事業と任せる人が要ります。どちらかが足りなければ、いま替える理由がありません。
設問文も「最大の理由」と1つに絞らせています。第1問と同じ形なので、理由を並べるのではなく、1つを軸に置いて残りを補足に回します。
- いまの形。本社の3部門と営業部が、機能別に組織された4部門として並んでいる(第10段落)。
- 続いた形。創業当時のままの機能別組織で、これまで作り替えていない(第11段落)。
- 回っている理由。社長が全部門に目配りする体制があり、3人の経営陣で統括できている(第10段落)。
- 規模。社員はおよそ80名で、事業部を分けて回すには小さい(①)。
- 事業の段階。農作物向け乾燥機器の開発が実を結んだばかりで、規模はまだ小さい(第7段落)。
- 外部の見方。外部の助言を受けた改革を続けてきたが、組織再編への反対意見を受けた(第5・第11段落)。
- 人。縁戚中心の役員構成で、事業を任せられる管理者が育っているとは書かれていない(第1段落)。
新しい事業は立ち上がったばかりです。売上の柱として独り立ちしていない事業を切り出すと、開発と製造と営業が別々に動き、乾燥技術を全社で磨けなくなります。
規模の側からも同じ結論になります。社員はおよそ80名。部門を重ねて置けるほどの人数ではなく、管理の階層が増える分だけ意思決定が遅くなります。
後継人材の話は慎重に扱います。与件文には、事業部を任せられる管理者がいないとは書かれていません。役員が縁戚で固まっていることから当サイトが読み取った見立てです。
この記事は、新規事業がまだ独り立ちしていないことを最大の理由に置きました。趣旨の「条件」を、任せるに足る事業があるかどうか、と読んだためです。
次は正解ではありません。趣旨が求めた条件の分析を、100字に収めるとこうなる、という例です。
最大の理由は、新規事業がまだ独り立ちしておらず、切り出すと乾燥技術を全社で磨けなくなるため。約80名の規模では機能別組織のほうが資源を集中でき、社長ら3人で全部門を統括できている点も理由である。
96マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 明確にした事業領域/葉たばこ生産業者への依存/主力事業の売上減少/メンテナンスの事業化/売上減少と費用増大の二重苦/新製品の規模不足/期間を過ぎた部品への個別対応/部品在庫による収益の圧迫/既存市場に限られた開拓 |
| 第2問 | 外部の助言を受けた改革/葉たばこ生産業者への依存/古参社員の抵抗/期間を過ぎた部品への個別対応/部品在庫による収益の圧迫/手書き帳簿と計数管理の不在/膨らんだ従業員数 |
| 第3問 | 全国7か所の営業所/農作物向け乾燥機器の開発/灯油の燃費効率の改善/自社HPの開設/試験乾燥のサービス/営業部隊の提案力/既存市場に限られた開拓/絞れないターゲット市場 |
| 第4問 | 全国7か所の営業所/成果に応じた賞与/従業員の若返り/明確にした事業領域/事業領域の社内共有/農作物向け乾燥機器の開発/試験乾燥のサービス/営業部隊の提案力/古参社員の抵抗 |
| 第5問 | 外部の助言を受けた改革/明確にした事業領域/農作物向け乾燥機器の開発/機能別に組織された4部門/社長が全部門に目配りする体制/縁戚中心の役員構成/創業当時のままの機能別組織/組織再編への反対意見 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。20点の中の配り方は分かりません。
- 第1問で部品在庫の記述を手入れの事業化と結びつけたのは当サイトの見立てです。与件文は因果を書いていません。
- 第5問で後継人材の不足に触れたのも当サイトの見立てです。与件文には管理者が育っていないとは書かれていません。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
- 横断の数字は平成24年度から令和7年度の207設問の集計で、能力の語を含まない趣旨は分類から漏れています。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和元年度 事例Ⅰの趣旨に助言の語はありません。分析力と理解力の2語だけです。
- 設問は5問あり、5問とも100字以内・配点20点でそろっています。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 趣旨に助言と書いていない年は、打ち手を書かなくてよいのですか?
- 設問が何を求めているかで決まります。令和元年度 事例Ⅰの第4問は、会社が打った施策を挙げる設問なので、材料は打ち手そのものです。趣旨の語が決めるのは文末の向きで、材料の種類までは決めません。
- 第1問の「最大の理由」は1つに絞らないといけませんか?
- 設問文が最大と書いているので、複数を等しく並べると何が最大か読めなくなります。1つを軸に置き、残りはその軸を支える形で添えるのが安全です。この記事は既存顧客を替えなかったことを軸に置きました。
- 第2問で「高コスト体質」を書いてはいけませんか?
- 設問文が、高コスト体質の要因は古い営業体質にあると先に示しています。その背景の企業風土を聞いているので、体質そのものを答案に戻すと問いの1つ手前に戻ることになります。100字しかないので、戻る余裕はありません。
- 与件文のどの段落を見ればよいか、どう探しますか?
- この年は課題が段落の順に並んでいます。第3段落から第6段落が過去の負債、第7段落が再建の中身、第8段落と第9段落が市場開拓、第10段落と第11段落が組織です。この記事では各要素に段落番号を添えたので、与件文に戻って確かめられます。




