令和7年度 事例Ⅰ 第2問を4通りに読む|どこで判断が割れるか
この記事の結論
- 同じ設問を、互いの答案を見せずに4通り解きました。割れたのは1か所です。
- 全員が第4段落を外しました。理由も同じで、事業を決める前の出来事だからです。
- 割れたのは大学との連携。設問文で読むと落ち、出題の趣旨で読むと残ります。
- 正解は公表されません。この記事が示すのは、読み方の分かれ目がどこかです。
2次試験の勉強で困るのは、解説を読んでも「なぜその要素を選んだのか」が分からないことです。出来上がった答案だけを見せられても、書き手が何と何で迷い、どちらを捨てたのかは残りません。そこで令和7年度 事例Ⅰの第2問を、互いの答案を見せない4通りの読み方で解き、答案だけでなく「迷ったこと」「入れようとしてやめた候補」「段落をどうつないだか」「時制をどう取ったか」まで出しました。この記事は、その4通りの検討を対話の形にしたものです。実在の会話ではありません。
同じ設問を、互いの答案を見ずに4通り解いた
4通りとも、答案の柱は「子息の登用」「県との連携」で共通しました。分かれたのは、そこに何を足すかです。
対象は令和7年度 事例Ⅰの第2問です。配点30点、解答字数は150字以内。設問は、新規事業を展開する際に顧客との接点を作るために行った取り組みや工夫を問うています。
出題の趣旨(引用)。「企業向け事業に取り組んできたA社が、一般消費者向けの新規事業に挑戦する際の、資源や能力の補完に関する組織的工夫を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
4通りに渡したものは、与件文と設問文、そして出題の趣旨だけです。他の3通りの答案は見せていません。予備校の解答例も渡していません。同じ材料から、どこまで同じ結論に着くかを見るためです。
| 読み方 | 使ったマス | 答案に入れた柱 | 大学との連携 |
|---|---|---|---|
| Aさん | 145マス | 子息の登用/県との連携/大学との連携 | 入れた |
| Bさん | 145マス | 子息の登用/販路と情報発信/県との連携 | 落とした |
| Cさん | 147マス | 子息の登用/販路/県との連携/大学との連携 | 入れた |
| Dさん | 144マス | 子息の登用/県との連携/販路/情報発信 | 落とした |
社長の子息を新規事業の責任者に据えたこと、県から実証実験の支援と広報での協力を得たこと。この2つは4通りとも入りました。与件文に一文で書かれていて、設問文の「顧客との接点」にも趣旨の「補完」にも当たるからです。
以降の対話には4匹の猫のアイコンが付きますが、猫の種類に上下はありません。誰の読み方が正しいという意味は含めていません(正解は公表されないため、どれが何点だったかは誰にも分かりません)。
全員が外した段落がある。決め手は時制だった
第4段落のイベント出展は、最も分かりやすい顧客接点なのに4通りとも外しました。事業を決める前の出来事だからです。
第4段落には、公的団体が主催するイベントにA社がブースを出し、子どもと保護者に直接会った場面があります。文字どおりの顧客との接点です。それでも全員が落としました。
第4段落のイベントは、私も最初に拾いました。消費者と初めて顔を合わせた場ですから。ただ、第5段落が「そこで社長は……決断した」と続きます。順接でつないでいるということは、イベントは決断の理由であって、決めた後の手段ではない。
私も同じところで切りました。設問文が「展開する際に」と時期を区切っているので、決断より前は範囲の外だと。ただ、これは接続詞ひとつに乗った判断なんですよね。根拠としては細いと自覚しています。
第4段落の書きぶり自体も効きました。「A社にとって転機となった」「大きな可能性があることを確信した」。転機と確信は、まだ何もしていない段階の言葉です。実行の話ではない。
同じ「イベント出展」でも、第8段落の子育てイベントは決断の後ですよね。だから私は第8段落のほうを採りました。同じ行為が2回出てくるときは、どちらの時制かで選べるという。
そこは救いでした。落とした要素の代わりが同じ与件文の中にある。まるごと捨てているわけではない、と思えたので。
同じ結論でも、根拠にした場所が違います。接続詞を見た読み方、設問文の限定を見た読み方、段落の言葉づかいを見た読み方。どれか一つが手元にあれば、この段落は外せます。
4通りとも、第9段落以降にもいっさい手を出しませんでした。子息一人では限界が見え始めている、という記述は魅力的ですが、これは今の課題であって行ったことではありません。第2問で書くと、第3問と同じことを二度書くことになります。
割れたのは地元大学との連携。設問文と趣旨で答えが逆になる
設問文の「顧客との接点」で読むと学生は顧客ではないので落ち、趣旨の「資源や能力の補完」で読むと明確に当たります。2対2で分かれました。
最後まで迷ったのがここです。学生は顧客ではない。第8段落がターゲットを「20代から40代の教育熱心な子育て家庭」と明示していますから、厳密には接点ではありません。それでも入れました。
趣旨が「資源や能力の補完」と書いているからです。大学連携は第8段落に「新たな気づき」「製品開発のサイクルを加速」とあって、能力を補った事実がはっきり書かれている。ただし字数は14字に抑えて、外したときの傷を小さくしました。
私は逆に落としました。字数で県連携と両立しなかったんです。県の実証実験先は保育園・幼稚園・放課後児童クラブで、第8段落のターゲットの生活圏そのもの。顧客に届く経路として直結しています。
対して大学連携の成果は製品開発です。設問が「顧客との接点」を名指ししている以上、県を優先しました。ただ、趣旨から見れば明らかに該当するので、取りこぼしかもしれないとは思っています。
私が大学を採った決め手は、第2段落の伏線でした。「地元の大学も以前から地域産業との連携を模索していた」と、A社の話がほとんど出てこない段落にわざわざ書いてある。与件文が先に置いた資源は、必ず後で使われますよね。
私は試作の段階では入れていたんです。でも152字になって、150字に収めるために切りました。純粋に字数で落とした形なので、設問文を優先して判断で落としたBさんとは事情が違います。
代わりに「得た声を製品開発へ還流」という言い方だけ残しました。学習の輪が回っていることは示せるので、大学という固有名を落としても意味は残ると考えて。
ここが割れたのは、設問文と趣旨が違うものを聞いているからです。設問文は「何をしたか」を、趣旨は「何を補ったか」を聞いています。重なる部分は多いのですが、一致はしません。
重なりの外側にある要素は2種類あります。接点だが補完ではないもの(第4段落のイベント、ターゲットの設定)と、補完だが接点ではないもの(大学連携、木工職人のネットワーク)。どちらを拾うかで答案の姿が変わります。
もう一つ、全員が外したもの。ただし全員が惜しがった
木工職人のネットワークは、趣旨だけを読んでいたら真っ先に入る要素です。設問文の「顧客との接点」で切りました。
木工職人のネットワークは、趣旨だけを見て書いていたら真っ先に入れていた要素です。外部の資源で自社の不足を埋めている、そのままの例ですから。ここが今回いちばん割れると思っていました。
でも第7段落の書きぶりを見ると、一貫して製造の話に閉じているんですよね。「細やかな手作業やデザイン性」「小ロット多品種の生産」。顧客と接する記述が一文もない。
私も同じ理由でした。趣旨の「補完」だけを見れば入る候補ですが、設問文の「顧客との接点」に一切かからない。両方を満たす要素を優先しました。
第6段落と第7段落が「第1に」から「第4に」まで一続きの列挙になっていて、そこで切れているのが手がかりでした。第1・第2が社内の資源、第3が県と大学、第4が木工職人。同じリストの中で性質が違う。
つまり列挙されているからといって、全部を同じ扱いで拾ってはいけないと。並んでいるものを選別する根拠が、段落の切れ目に置いてあるわけですね。
この設問の難しさは、拾える材料が多いことではなく、拾ってはいけない材料が与件文に丁寧に書いてあることでした。書いてあるから使う、では字数が足りません。
4通りの答案を並べる
以下は模範解答ではありません。2次試験は正解が公表されないので、示せるのは「この読み方だとこうなる」までです。いずれも解答用紙のマス目で実測しています。
| 読み方 | 使ったマス | 答案 |
|---|---|---|
| Aさん | 145マス | 取組は法人営業偏重で不足する顧客接点を外部資源で補完した点。①X事業で消費者接点を担った子息を責任者に登用しEC出店・SNS発信・子育てイベント出展を実施(1・5・8段)、②県と連携し保育・教育施設の実証実験と県広報のPR協力を獲得(7段)、③地元大学と学生参加の共同研究で改善案を獲得(8段)。 |
| Bさん | 145マス | ①X事業経験と経営学の知見を持つ子息を新規事業責任者としBtoC対応力を補完、②教育熱心な子育て家庭を標的に直営店・県アンテナショップに加え大手EC出店、SNS発信と子育てイベント出展で直接訴求、③県と連携し保育・教育施設での実証実験と県広報PRを獲得し日常的接触機会と着想源を確保、以て愛顧を向上。 |
| Cさん | 147マス | ①X事業で消費者対応を担った子息を責任者に登用・権限委譲し、SNS発信と子育てイベント出展で顧客接点を創出、②直営店・県アンテナショップに大手EC出店を加え販路を多様化、③県の実証実験支援と広報協力で保育・教育施設に接点を構築、④地元大学とのワークショップで意見を吸収。以て不足する消費者接点を補完。 |
| Dさん | 144マス | 取組は①X事業と経営学の知見を持つ子息の登用による消費者対応力の補完、②県の支援による保育・教育施設での実証実験と広報PR、③直営店・アンテナショップ・大手ECへの出店、④SNS発信と子育てイベント出展である。以て法人営業中心の同社が子育て家庭との直接の接点を獲得し、得た声を製品開発へ還流させた。 |
4通りとも150マスの上限に対して144〜147マスで、Dさんは6マス余らせています。字数制限は上限であって目標ではありませんが、余らせたぶんは要素を入れる余地を残しているということでもあります。上の表でいえば、6マスあれば「大学連携」を短い言い方で1つ足せる幅です。
文体はどれも似ています。番号で並べ、名詞で締め、「以て」でつなぐ。これは当サイトが決めた型ではなく、2次試験の答案で一般に使われている書き方です。150マスに4つの要素を入れるには、この圧縮が要ります。
同じ内容を日常の言葉で書いた版も作りました。ある読み方では、同じ4要素が日常語で155マス、答案の言葉で147マスでした。8マスの差ではなく、8マス削るために要素を1つ落とすかどうかの差です。
この検討から持ち帰れること
答案が割れるのは、与件文の読み落としではなく、設問文と出題の趣旨のどちらに寄せるかの選択です。
- 設問文と趣旨の両方に当たる要素から先に埋める。今回なら子息の登用と県との連携で、ここは4通りとも一致しました。
- 片方にしか当たらない要素は、字数が余ったときに足す。落としても答案の骨は壊れません。
- 時制で切る癖をつける。「展開する際に」と書かれていたら、決断より前の段落は範囲の外です。
- 同じ行為が2回書かれていないか探す。第4段落のイベントと第8段落の子育てイベントのように、時制違いの対応物があることがあります。
- 列挙の中は選別する。「第1に」から「第4に」まで並んでいても、段落の切れ目で性質が変わります。
出題の趣旨を14年207設問ぶん数えると、第1問が分析の事例は97.4%、最終問が助言か提案の事例は91.9%でした。位置で決まっている両端と違い、中盤の設問は毎回読むしかありません。今回の第2問はその中盤です。
この設問の下敷きになる1次試験の論点は、組織構造と人的資源管理です。子息を責任者に据える判断も、外部との連携も、1次の経営組織論で扱う内容がそのまま出てきます。1次の問題で手を動かしてから事例Ⅰに戻ると、答案に書く言葉が出やすくなります。
この記事で言えないこと
- 4通りの答案はいずれも模範解答ではありません。2次試験は正解も採点基準も公表されないため、どれが何点だったかは誰にも分かりません。
- 対話は実在の会話ではありません。4通りの検討記録を、読みやすさのために会話の形に組み直したものです。話し手に経歴や属性はありません。
- 4通りという数は、意見の分布を測るには小さすぎます。2対2で割れたことは「割れうる論点だ」を示すだけで、受験生の何割がどちらを選ぶかを示しません。
- 予備校の解答例は参照していません。したがって、世間の標準的な解答とどれだけ一致するかは分かりません。
- マス数はすべて実測ですが、答案の中身の当否を実測で確かめる方法はありません。
本記事の答案と考察は当サイトの作成物です。問題そのもの(与件文・設問文)および「出題の趣旨」の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 同じ設問を、互いの答案を見せずに4通り解きました。割れたのは1か所です。
- 全員が第4段落を外しました。理由も同じで、事業を決める前の出来事だからです。
- 割れたのは大学との連携。設問文で読むと落ち、出題の趣旨で読むと残ります。
- 正解は公表されません。この記事が示すのは、読み方の分かれ目がどこかです。
よくある質問
- どの答案がいちばん点が高いですか?
- 分かりません。2次試験は正解も採点基準も公表されないため、4通りのどれが何点だったかを確かめる方法がありません。この記事が示せるのは、同じ材料から出発しても判断が分かれる箇所がどこか、そこで何を決め手にしたか、までです。
- 設問文と出題の趣旨が食い違ったら、どちらを優先しますか?
- 今回は2対2に割れました。設問文を優先すると学生との連携が落ち、趣旨を優先すると残ります。実務的には、両方に当たる要素から先に埋め、片方にしか当たらない要素は字数が余ったときに足すのが安全です。今回も、両方に当たる子息の登用と県との連携は4通りとも一致しました。
- 対話に出てくるAさんたちは実在の受験生ですか?
- いいえ。同じ設問を互いの答案を見せずに4通り解いた検討記録を、読みやすさのために会話の形に組み直したものです。実在の会話ではなく、話し手に経歴や属性もありません。名前は読み方を区別するための記号です。
- 「以て」や「愛顧」のような言葉は使わないといけませんか?
- 必須ではありませんが、字数の面で有利です。150マスに4つの要素を入れるには、番号で並べ、名詞で締め、接続を短く畳む必要があります。ある読み方では、同じ4要素が日常の言葉で155マスになり上限を超え、答案の言葉では147マスに収まりました。用語そのものに点が入るわけではなく、与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても加点の根拠にはなりません。





