令和6年度 事例Ⅲの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和6年度 事例Ⅲは設問が5つ。うち4つが助言で、分析は第1問だけです。
- 第1問は強みだけを問います。弱みは第2問以降で使う材料になります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和6年度 事例Ⅲの5設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は設問が5つあり、そのうち4つが助言でした。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅲは、どんな回か
与件文2,190字・解答字数の合計520字。80分の内訳は読む11分/考える48分/書く21分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 80字 | ◎ 強み・弱みの分析 90%(69〜97%) |
| 第2問 | 助言 | 20点 | 100字 | 生産計画・工程管理 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 助言 | 20点 | 100字 | 新事業・受注拡大 32%(15〜54%) |
| 第4問 | 助言 | 20点 | 120字 | ◎ 新事業・受注拡大 67%(44〜84%) |
| 第5問 | 助言 | 20点 | 120字 | 新事業・受注拡大 100%(57〜100%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 3分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 10分 |
| 第3問 | 4分 | 10分 |
| 第4問 | 5分 | 10分 |
| 第5問 | 5分 | 10分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える48分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第10段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
受注が増えた搬送機器メーカーが、工程の詰まりと原価の見えなさを抱えたまま、自社で企画した製品へ出ようとしている話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
C社は搬送機器を作る70名の会社で、年商14億円ほど。作るのは、工作機械や物流機器のメーカーが設計して据え付ける設備に組み込まれる部分です。社長は工作機械メーカーX社の出身で、工場のレイアウト設計と生産性を上げる提案を重ねた経験を持って2011年に興しました。
「工作機械の会社で工場の配置を引いてきた。その経験でこの会社を興した。」
いまの取引先は工作機械メーカー5社と物流機器メーカー3社で、X社からの受注が全体の6割を超えます。X社が中国に任せていた生産を国内へ戻したため、受注量は近年さらに増える傾向です。
見積は営業部員が過去の契約金額を参考に、材料費・社内加工費・その他経費を足して出しています。材料と人の費用が上がったぶんの見直しは一応されてきましたが、契約金額はいまの費用の高さに追いついていません。
生産管理課が工程ごとの手間を見積もって大きな日程を組み、細かい進み具合は製造部長と各課長が集まる週1回の会議で調整します。手間の見積もりは各課長の経験がよりどころ。設計や納期の変更が出ても、手当ては週に1度の会議を待つことになります。負担は片寄っており、製缶の工程だけ残業と休日出勤が多い状態です。社長は自社で企画した製品による事業の拡大を考えています。
「週末の会議で来週の日程を決める。工数は各課長の経験で置いている。」
(残業と休日出勤が続くのは、この工程だけだ。)
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第2問と第3問は、どちらも工程の話ですが層が違います。** 第2問は生産能力(設備と作業そのもの)、第3問は工程管理業務(計画と情報の回し方)。両方に週1回の会議を書くと重なります。負担が製缶に片寄っていることは第2問側、変更の手当てが遅れることは第3問側の材料です。
- **第4問は価格交渉に備える「社内の」対策です。** 相手との交渉術ではありません。見積が過去の契約金額と経験に頼っていること、手間の見積もりが各課長の経験であること、つまり自社の原価が正しく見えていないことが起点です。
- **第5問は自社企画の製品で、これまでとは立場が逆になります。** これまでは相手が設計した設備の一部を作ってきました。社長が工場のレイアウト設計と提案を重ねてきた経歴が、ここで効いてきます。
- **X社に6割を預けている、という構図はどの設問にも影を落とします。** 受注が増えているのも、価格を上げにくいのも、自社企画へ出たいのも、根はここにあります。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、社長の提案力・設備と技術者・内製できる範囲・取引の広さの4つです。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。【企業概要】のような見出しの行も1段落として数えています。問題PDFの印刷どおりの数え方です。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「総務部、設計部、製造部、営業部で構成されている」 | 設計から製造まで持つ部門構成 | 第2段落 | 第1問・第5問 |
| 「工場設備レイアウト設計を担当し、工場の生産性を高めることを顧客に提案してきた」 | 社長の設備レイアウト設計と生産性提案の経験 | 第5段落 | 第1問・第5問 |
| 「C社社長の搬送機能についての有効な提案を受けられる」 | 搬送機能についての提案力 | 第6段落 | 第1問・第5問 |
| 「X社が設計するコンベヤの特注品の受託生産からスタートした」 | 特注品の受託生産の実績 | 第6段落 | 第1問 |
| 「NC加工機などの生産設備を導入する」 | 数値制御の加工機を備えた設備 | 第7段落 | 第1問・第2問 |
| 「設計要員や製造要員などの技術者を中心に採用し」 | 設計と製造の技術者 | 第7段落 | 第1問・第5問 |
| 「現在の取引先企業数は、工作機械メーカー5社、物流機器メーカー3社であり」 | 8社との取引実績 | 第7段落 | 第1問・第5問 |
| 「部品構成表はデジタルデータとして、製造部での材料と外注品の発注、在庫管理に活用されている」 | 部品構成表のデジタル活用 | 第11段落 | 第3問・第4問 |
| 「フレームは主に製缶課で、駆動部および搬送体の加工は機械加工課で内製化されており」 | 主要な構造体の内製化 | 第14段落 | 第1問・第2問 |
| 「顧客要求納期を基準として製造番号ごとの大日程計画を策定し」 | 納期を基準にした大日程計画 | 第15段落 | 第3問 |
| 「X社の場合はC社の営業部が担当している」 | 据付後の保守に応じた経験 | 第19段落 | 第5問 |
11のうち上から7つは、第1問の強みにそのまま入ります。社長という人に付いた提案の力、設備と技術者という物と人、そして8社との取引という実績。種類の違う3つが並んでいます。
「部品構成表のデジタル活用」と「納期を基準にした大日程計画」は、強みというより既にある仕組みです。第3問で工程管理を直すとき、ゼロから作らずここに乗せられる、という意味で効きます。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は見積と価格の決め方、日程の組み方、工程の負荷の3つに分かれます。第1問は強みだけなので、ここは第2問以降の材料です。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。10のうち4つが第10段落、つまり見積と契約の手順を書いた部分にあります。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「X社からの受注金額が多く全体の6割を超えている」 | X社への6割超の受注依存 | 第7段落 | 第5問 |
| 「過去に製造した搬送機器の契約金額を参考に、営業部員が材料費と社内加工費、その他の経費を合計して算出し」 | 過去の契約金額に頼る見積 | 第10段落 | 第4問 |
| 「最終契約金額も含め営業部長が決裁している」 | 営業部長に委ねた価格決裁 | 第10段落 | 第4問 |
| 「契約金額は現状のコスト高には対応できていない」 | コスト高に追いつかない契約金額 | 第10段落 | 第4問 |
| 「詳細の進捗管理など生産統制は製造部長以下、製造部各課長が参加して週1回週末に開催される生産会議で調整される」 | 週1回の会議に頼る生産統制 | 第16段落 | 第3問 |
| 「週次日程計画表の各作業の工数見積もりは、製造部各課長の経験を基に作成されている」 | 課長の経験に頼る工数見積もり | 第16段落 | 第2問・第3問・第4問 |
| 「顧客からの設計変更や納期変更などが生じた場合など、生産会議には必要に応じて設計担当者が参加し」 | 変更が週1回の会議を待つ流れ | 第16段落 | 第3問 |
| 「大日程計画や週次日程計画などの工程管理の混乱が生じている」 | 工程管理の混乱 | 第17段落 | 第3問 |
| 「製缶工程(製缶課)の残業や休日出勤が多く、納期対応のため週次日程計画表の変更が常態化している」 | 製缶工程への負荷集中と計画変更の常態化 | 第18段落 | 第2問・第3問 |
| 「前工程の機械加工工程(機械加工課)や後工程の組立工程(組立課)では、不適合品発生などの特別な場合を除き残業や休日出勤は生じていない」 | 工程間の負荷の不均衡 | 第18段落 | 第2問 |
「課長の経験に頼る工数見積もり」だけは3つの設問に効きます。手間の見積もりが人の記憶に乗っているので、日程も原価も同じ根拠で揺れる。第2問と第3問と第4問が、1つの記述でつながっています。
②③はどちらもC社の内側を並べた表です。材料と人の費用が上がっていること、X社が生産を国内へ戻したこと、小さな工場や物流の施設を新しくする企業がいることは、いずれも外側の話なのでこの2つの表には載っていません。外部環境の材料は①に書きました。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅲは設問が5つあり、うち4つが助言でした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和6年度 事例Ⅲは、搬送機器を受注生産する会社の事例です。5設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 80字以内 | 分析(強み) |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 助言(工程改善の進め方) |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 助言(工程管理業務の改善) |
| 第4問 | 20点 | 120字以内 | 助言(価格交渉の事前対策) |
| 第5問 | 20点 | 120字以内 | 助言(新事業の推進方法) |
配点は5設問とも20点で並んでいます。どれか1つを厚く書いても取り返しがきかない配り方なので、5つとも同じ重さで扱う前提になります。
字数の合計は520字で、4設問だった年より多くなります。第4問と第5問の120字が後ろに2つ並ぶので、前半の3問で時間を使いすぎると最後の240字が書けません。
趣旨の書き方にも共通の形があります。第2問から第5問は、どれも課題を整理したうえで進め方や対策を助言せよ、という構えです。打ち手だけを並べると、課題の整理という前半が答案から抜けます。
第1問 C社の強み|80字
趣旨は「強みについて、分析する能力」。弱みは問われていないので、ここで課題に触れると80字が足りなくなります。
出題の趣旨(引用)。「C社の強みについて、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。設問文も強みだけを求めており、弱みの欄も機会と脅威の欄もありません。②の表がそのまま材料になります。
80字あるので、要素は3つか4つ入ります。ただし種類の違うものを並べないと、同じ話を言い換えただけになります。②の上から7つは、人・設備・実績の3種類に分かれます。
| 強みの種類 | ②のどの材料を使うか |
|---|---|
| 人に付いたもの | 社長の設備レイアウト設計と生産性提案の経験/搬送機能についての提案力/設計と製造の技術者 |
| 設備と体制 | 数値制御の加工機を備えた設備/主要な構造体の内製化/設計から製造まで持つ部門構成 |
| 積み上げた実績 | 特注品の受託生産の実績/8社との取引実績/据付後の保守に応じた経験 |
3種類から1つずつ取ると、80字で3要素が入ります。社長の提案力は、特注の仕事が広がった理由そのものです。これを外すと、C社が選ばれてきた理由が答案から消えます。
第5問で新しい事業へ出るときに使うのも、同じ強みです。第1問で挙げた材料が第5問の土台になるので、ここで拾った要素は最後まで持ち越します。
次は正解ではありません。趣旨が求めた強みを80字に収めるとこうなる、という例です。
①X社で設備レイアウト設計と生産性提案を担った社長の搬送機能の提案力、②NC加工機と設計・製造の技術者を持ち主要構造体を内製できる体制、③特注品の受託生産の実績。
80マス / 80マス
第2問 生産能力を上げる工程改善|100字
趣旨は工程の課題を整理したうえで、生産能力を上げる工程改善の進め方を助言せよという形です。打ち手だけでは前半が抜けます。
出題の趣旨(引用)。「コロナ禍以降の増加傾向にある受注量に対応するためのC社製造工程の課題を整理し、生産能力向上を図る工程改善の進め方について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨の前半は、増えた受注量に対応するための製造工程の課題を整理せよ、という指示です。後半が改善の進め方の助言にあたります。打ち手だけを並べると、前半の課題の整理が答案から抜けます。
整理すべき課題は③の3つ、「製缶工程への負荷集中と計画変更の常態化」「工程間の負荷の不均衡」「課長の経験に頼る工数見積もり」です。残業が製缶だけに出て、前後の工程には出ていないという記述が出発点になります。
- 詰まっている場所。製缶の工程で残業と休日出勤が多い(第18段落)。
- 空いている場所。前の機械加工と後の組立には、特別なとき以外に残業も休日出勤もない(第18段落)。
- 起きている結果。納期に間に合わせるため、週の日程表の組み替えが当たり前になった(第18段落)。
- 計画の根拠。日程表に載る手間の見積もりは、各課長の経験をよりどころにしている(第16段落)。
- 使える設備。工業団地に数値制御の加工機などを入れている(第7段落)。
- 内製の範囲。枠は製缶課、駆動と本体の加工は機械加工課が社内で作っている(第14段落)。
- 需要の側。X社が生産を国内へ戻したため、受注量は近年さらに増える傾向にある(第8段落)。
工程ごとに能力が違うとき、全体の力は詰まっている場所で決まります。製缶の残業が慢性化しているのは、そこが全体の足かせになっている合図です。改善の的は製缶に絞れます。
進め方を聞かれているので、順番も答案に要ります。何が詰まっているかを測り、作業のやり方を決め、余っている工程から人を回す。この順に並べると、打ち手の羅列ではなく進め方になります。
100字は、課題の整理に2割、打ち手に6割、効果に2割です。趣旨が生産能力の向上と書いている以上、最後は能力がどう上がるかで締めます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた工程改善の進め方を100字に収めるとこうなる、という例です。
①製缶工程の作業を分析して作業手順と標準時間を定め、②機械加工と組立の作業者を多能工化して製缶へ応援させ、③負荷の山を平準化し工程間の能力を均衡させる。以て生産能力を高め、納期短縮の要請に応える。
98マス / 100マス
第3問 工程管理業務の改善の進め方|100字
趣旨は「工程管理業務の課題を整理し、その改善の進め方」。第2問が現場の作業なら、こちらは計画と統制のしくみの話です。
出題の趣旨(引用)。「受注量の増加や納期短縮要請などの影響で混乱しているC社製造部の工程管理業務の課題を整理し、その改善の進め方について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
第2問と混ざりやすいところです。第2問は工程改善で能力を上げる話、第3問は工程管理の業務を直す話。同じ材料を使っても、締め方を変えれば重なりません。
使う課題は③の4つ、「週1回の会議に頼る生産統制」「課長の経験に頼る工数見積もり」「変更が週1回の会議を待つ流れ」「工程管理の混乱」です。計画の作り方と、計画を守らせるしくみの両方に穴があります。
- 計画の流れ。生産管理課が工程ごとの手間を見積もり、納期を基準に番号ごとの大きな日程を組む(第15段落)。
- 統制の場。細かい進み具合の管理は、製造部長と各課長が集まる週1回の会議で調整している(第16段落)。
- 計画の根拠。週の日程表に載る手間の見積もりは、各課長の経験をよりどころにしている(第16段落)。
- 変更の扱い。設計や納期が変わると、必要に応じて設計の担当者が同じ会議に加わる(第16段落)。
- 起きていること。大きな日程も週の日程も混乱し、このままだと納期の遅れが出かねない(第17段落)。
- 会社の方針。製造部はITの利用も視野に入れて対応を考えている(第17段落)。
- 使える土台。部品の一覧はデジタルのデータで、発注と在庫の管理に既に使われている(第11段落)。
計画の精度と、情報の届く速さ。この2つが直せる場所です。手間の見積もりが経験に乗っている限り計画は当たらず、週1回の会議しか場が無い限り変更は最大で1週間止まります。
与件文はITの利用を検討中だと書いており、部品の一覧はもうデジタルです。新しいしくみをゼロから作る話ではなく、既にあるデータに実績と進捗を乗せる話として書けます。
100字なので、計画の側と統制の側を1つずつ、変更への対応を1つ。この3本を残す削り方を選びます。趣旨が「進め方」と書いているので、順序が読める書き方にします。
次は正解ではありません。趣旨が求めた改善の進め方を100字に収めるとこうなる、という例です。
①各作業の標準工数を実績から整備し、②部品構成表と連動する生産管理システムで進捗と資材の納品状況を日次で共有し、③設計変更や納期変更を即時に日程へ反映する。以て日程を細かく統制し納期遅延を防ぐ。
97マス / 100マス
第4問 価格交渉に備える社内の対策|120字
趣旨は「原価管理および契約プロセスなどの課題を整理し」。値上げの交渉術ではなく、社内で先に整える話です。
出題の趣旨(引用)。「最近の材料費や人件費の高騰に対応するために、C社の原価管理および契約プロセスなどの課題を整理し、顧客企業との価格交渉を円滑に行うために必要な社内の事前対策について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨が2つの言葉を挙げています。原価管理と契約プロセスです。どちらか一方だけを書くと、趣旨が整理せよと言った課題の半分が抜けます。設問文も社内の事前対策と限っており、交渉の場での話し方は問われていません。
使う課題は③の4つ、「過去の契約金額に頼る見積」「営業部長に委ねた価格決裁」「コスト高に追いつかない契約金額」「課長の経験に頼る工数見積もり」です。見積の根拠が実績の原価ではなく、以前の契約金額と人の経験に乗っています。
- 見積の作り方。以前に作った機器の契約額を見ながら、営業部員が材料費と加工費と経費を足して出す(第10段落)。
- 決める人。最後の契約金額まで含めて営業部長が決めている(第10段落)。
- いまの結果。費用が上がったぶんの見直しは一応おこなわれたが、いまの費用の高さには追いついていない(第10段落)。
- 工数の根拠。週の日程表に載る手間の見積もりは、各課長の経験をよりどころにしている(第16段落)。
- 使える土台。部品の一覧はデジタルのデータで、材料と外注品の発注や在庫の管理に使われている(第11段落)。
- 番号のつながり。受注の番号が製造の側でもそのまま使われている(第10段落)。
- 取引の重み。X社からの受注金額が全体の6割を超えている(第7段落)。
実績の原価を集める道はもうあります。受注の番号が製造でもそのまま使われ、部品の一覧はデジタルです。番号ごとに材料と手間の実績を貯めれば、見積の根拠を経験から数値へ移せます。
契約プロセスの側は、誰がどう決めるかの話です。営業部長ひとりの判断に委ねると、原価が動いたときに反映する筋道がありません。改定の規則を先に決めておくと、交渉の場で示すものができます。
120字なので、原価の側を2つ、契約の側を1つ、効果を1文。趣旨が円滑にと書いている以上、対策が交渉のどこで効くのかまで書くと形が整います。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの課題を120字に収めるとこうなる、という例です。
対策は、①製造番号別に材料費と工数の実績を収集して標準原価を整備し、②材料費と人件費の変動を単価に反映する改定ルールを社内で定め、③設計部と製造部を交えて見積を作成し原価の根拠資料を整える。以て価格の妥当性を数値で示し、交渉を円滑に進める。
120マス / 120マス
第5問 自社企画の製品で事業を広げる|120字
趣旨は「C社の経営資源の課題などを整理し」。強みだけを並べると、足りないものを埋める話が抜けます。
出題の趣旨(引用)。「小規模の工場施設や物流施設の新設や更新を計画している企業と直接契約し、自社企画の製品を設計、製造することで事業を拡大しようとするC社社長の構想について、C社の経営資源の課題などを整理し、成功するために必要な推進方法を助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨の前半は、設問文にある社長の構想をそのまま言い直したものです。効いてくるのは後半で、経営資源の課題を整理したうえで推進方法を助言せよ、という形になっています。強みだけを並べると、課題の整理が抜けます。
構想の中身は設問文にあります。小さな工場や物流の施設を新しく建てたり作り直したりする企業と直に契約し、自社で企画した製品を設計して作る、というものです。いまの受託生産とは、契約の相手も設計の起点も変わります。
使える資産は②の5つ、「社長の設備レイアウト設計と生産性提案の経験」「搬送機能についての提案力」「設計から製造まで持つ部門構成」「設計と製造の技術者」「据付後の保守に応じた経験」です。社長の経験がそのまま新事業の中身にあたります。
- 構想の中身。小さな工場や物流の施設を新しくする企業と直に契約し、自社で企画した製品を設計して作る(設問文)。
- 強みの源。社長は工作機械を入れる顧客のために、工場のレイアウトを設計し生産性を上げる提案をしてきた(第5段落)。
- いまの相手。取引先は工作機械メーカーが5社、物流機器メーカーが3社(第7段落)。
- 偏りの中身。そのうちX社からの受注金額が全体の6割を超えている(第7段落)。
- いまの設計の起点。顧客が作った仕様書と図面を受け取ってから、製作の図面を描いている(第10・第11段落)。
- 現場の余力。受注量が増えて工程管理は既に混乱しており、製缶には残業が出ている(第17・第18段落)。
- 接点の資産。X社については、据え付けたあとの手入れをC社の営業部が受け持っている(第19段落)。
経営資源の課題は3つに整理できます。企画と設計を自分から起こした経験が組織に無いこと、直に契約を取る営業の相手がこれまで8社に限られていたこと、そして現場に余力が無いことです。
社長ひとりが持っている提案の力を、設計部と営業部へ移すのが軸になります。人に付いた資産のままだと、事業として広がりません。この読み方は与件文に直接の記述が無く、当サイトの見立てです。
第2問と第3問で工程を直すことも、この設問につながります。いまの受注で手一杯なら、新しい仕事を入れる余地がないからです。5つの設問が最後にここで合流します。
120字なので、体制づくりを1つ、製品づくりを1つ、余力づくりを1つ、効果を1文。趣旨が「成功するために必要な推進方法」と書いているので、順番の読める形にします。
次は正解ではありません。趣旨が求めた推進方法を120字に収めるとこうなる、という例です。
①社長の設備レイアウト設計と生産性提案の知見を設計部と営業部に移し、製品企画と提案営業ができる体制を作り、②部品を共通化した標準品を設計し、③工程改善で生産能力と設計要員を確保する。以て顧客企業との直接契約を広げ、X社への受注依存を下げる。
120マス / 120マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 設計から製造まで持つ部門構成/社長の設備レイアウト設計と生産性提案の経験/搬送機能についての提案力/特注品の受託生産の実績/数値制御の加工機を備えた設備/設計と製造の技術者/8社との取引実績/主要な構造体の内製化 |
| 第2問 | 数値制御の加工機を備えた設備/主要な構造体の内製化/課長の経験に頼る工数見積もり/製缶工程への負荷集中と計画変更の常態化/工程間の負荷の不均衡 |
| 第3問 | 部品構成表のデジタル活用/納期を基準にした大日程計画/週1回の会議に頼る生産統制/課長の経験に頼る工数見積もり/変更が週1回の会議を待つ流れ/工程管理の混乱/製缶工程への負荷集中と計画変更の常態化 |
| 第4問 | 部品構成表のデジタル活用/過去の契約金額に頼る見積/営業部長に委ねた価格決裁/コスト高に追いつかない契約金額/課長の経験に頼る工数見積もり |
| 第5問 | 設計から製造まで持つ部門構成/社長の設備レイアウト設計と生産性提案の経験/搬送機能についての提案力/設計と製造の技術者/8社との取引実績/据付後の保守に応じた経験/X社への6割超の受注依存 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 配点は5設問とも20点と公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。
- 第5問で示した「社長の力を設計部と営業部へ移す」という読み方は、趣旨にも与件文にも無い当サイトの見立てです。
- 第2問から第5問の趣旨は、どれも課題を整理したうえで助言せよという形です。どの課題を選ぶかは当サイトの判断で、与件文には候補が複数あります。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和6年度 事例Ⅲは設問が5つ。うち4つが助言で、分析は第1問だけです。
- 第1問は強みだけを問います。弱みは第2問以降で使う材料になります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問で弱みも書いたほうがよいですか?
- 令和6年度 事例Ⅲの第1問は、趣旨も設問文も強みだけを求めています。解答欄も1つです。弱みは第2問から第5問で課題として使うので、第1問の80字に入れると強みの要素が入らなくなります。
- 第2問と第3問は、どう書き分けますか?
- 第2問は現場の作業を直して生産能力を上げる話、第3問は計画と統制のしくみを直す話です。同じ材料を使っても、第2問は能力の向上で締め、第3問は納期の遅れを防ぐことで締めると重なりません。
- 第4問で値上げの交渉の仕方を書いてはいけませんか?
- 設問文が社内の事前対策と限っており、趣旨も原価管理と契約プロセスの課題を整理せよと書いています。交渉の場での話し方ではなく、交渉に持っていく根拠を社内でどう作るかが問われています。
- 設問が5つある年は、時間の配り方をどう変えますか?
- この年は字数の合計が520字で、4設問だった年より多くなります。配点は5つとも20点で並んでいるので、どれか1つを厚く書いても取り返しがききません。後ろに120字が2つ並ぶことを前提に、前半で使う時間を決めておくと安全です。




