令和6年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- この年は解答欄5つのうち3つで、趣旨が能力の語を使っていません。
- 第1問が問うのは2000年当時です。いまの強みと弱みを書くと外れます。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和6年度 事例Ⅰの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第4問が2つの小問に分かれ、解答欄が5つあります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えました。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文2,914字・解答字数の合計410字。80分の内訳は読む15分/考える49分/書く16分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 答える | 20点 | 30字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問(小問2) | 助言 | 40点 | 80字 / 100字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 1分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 10分 |
| 第3問 | 4分 | 10分 |
| 第4問 | 7分 | 20分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える49分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第12段落で、合わせて4語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
トラック1台から始まった物流会社が、県内と首都圏の2つの事業部に分かれ、その間の連携の弱さが大手との取引でつまずいた話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は1975年創業の物流会社で、従業員120名、売上30億円ほど。創業者はトラック1台から起こしました。規制で営業区域が狭く、1つの荷主に1台を貸し切る形しか取れない、もうけの薄い商売です。扱う量が増えると、地域の小さな運送会社を集めた協力会を作り、その運営を一族以外の幹部に委ねました。
1990年の規制緩和で値下げ競争が起きると、価格の勝負を避けて地元の荷主に細かく応える道を選びます。2000年には倉庫事業へ踏み出し、仕分けだけの競合に対して自前の倉庫で流通加工と温湿度の管理まで引き受けて差をつけました。ただし組織には古い管理のやり方が残り、新しい顧客を取りにいく力も育っていません。
「協力会を預かってきた。地元の荷主の声を集めるのが私の役目だ。」
2010年頃、大手物流企業で企画と営業を経験した創業者の長女が入社を申し出ます。創業者は長女をリーダーにプロジェクトチームを組ませ、これが2011年に首都圏事業部となりました。車も倉庫も持たず、現地の会社をまとめてサービスを組む形です。ただし県内事業部との仕事のつながりは、ほとんど生まれていません。
2020年に長女が2代目に就き、県内事業部の采配は古くからの幹部に任せきりにします。情報システム部を新設して長男を部長に据え、その提案力で首都圏の大手スーパーZ社の案件が入りました。ところが店舗ごとの在庫管理と補充が県内事業部で回らず、受けた仕事は一部にとどまります。2024年、創業者の助言で配置を組み替えました。
(首都圏で事業部を育て、社長を継いだ。県内の側は古くからの幹部に任せてきた。)
「入社してすぐ部長になった。物流の仕組みを提案して回っている。」
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は「2000年当時」と時点が切られ、しかも30字ずつです。** 首都圏事業部も情報システム部も、この時点にはまだありません。強みとして書きたくなる材料ほど、時点の外にあります。
- **第2問は「独立した組織を作った意義」と「人選の狙い」の2つを100字で書きます。** 片方に寄せると残りが空きます。人選のほうは、外で物流の企画と営業を経験してきた人物を、既存の組織から切り離して置いた、という点が芯です。
- **第3問はZ社の側の理由です。** A社が何をしたかではなく、Z社が県内へ出るにあたってA社を選んだ理由。県内の地盤と倉庫、そして首都圏事業部のシステムの提案力という、2つの事業部の持ち物が両方関わります。
- **第4問の設問1は配置転換の狙いで80字です。** 誰がどこへ動いたかを書くだけで字数が尽きます。動かした結果として何がつながるのか、まで届かせる必要があります。
- **この事例の芯は、2つの事業部の間に仕事のつながりが無いことです。** Z社との取引がつまずいた理由も、配置転換の狙いも、そこに戻ります。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、地元での信用・倉庫の機能・首都圏で得た仕組み・一族の専門性の4つに分かれます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。組織図の前後にある1行だけの段落も、それぞれ1段落として数えています。問題PDFの印刷どおりの数え方です。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「地域の小規模トラック運送企業をメンバーとする協力会を組織して」 | 協力会による輸送網 | 第2段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「地元密着型の質の高い輸送サービス」 | 地元密着の高品質な輸送 | 第3段落 | 第1問(強み) |
| 「地元の生産者や食品卸などの多様な荷主からの信頼を獲得した」 | 多様な荷主からの信頼 | 第3段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「地域物流のコーディネーターとしての役割」 | 地域物流のコーディネーター機能 | 第3段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「自社で倉庫を保有し、流通加工や適切な温度・湿度で管理するサービスを提供する」 | 自社倉庫による流通加工と温湿度管理 | 第4段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「入荷・ピッキング・梱包・仕分けや温度管理といった一連の保管業務や流通加工の能力を高めた」 | 保管業務と流通加工の能力 | 第5段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「A社の倉庫を拠点にしてX社の各店舗への輸送業務を長期契約で請け負う」 | 食品スーパーへの店舗配送の実績 | 第5段落 | 第3問 |
| 「既存顧客との関係が強い」 | 既存顧客との強い関係 | 第5段落 | 第1問(強み) |
| 「大手物流企業で物流企画部門や営業部門を経験してきた創業経営者の長女」 | 大手物流企業で経験を積んだ長女 | 第6段落 | 第2問 |
| 「トラック車両や倉庫を保有せず、首都圏の運送事業者や倉庫事業者を外部委託先としてコーディネートして」 | 資産を持たないコーディネート型の事業 | 第7段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「受注処理の効率化や各店舗の在庫管理のノウハウを蓄積する」 | 受注処理と店舗在庫管理のノウハウ | 第7段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「大手情報システム会社で物流システム構築に従事していた長男」 | 物流システム構築の経験を持つ長男 | 第9段落 | 第4問(設問1)・第4問(設問2) |
| 「長男の要望に基づいてプロパーの専門職を数名雇用した」 | 情報システムの専門職 | 第9段落 | 第4問(設問2) |
| 「持ち前の物流システム提案力を活かし」 | 物流システムの提案力 | 第12段落 | 第3問・第4問(設問1) |
14のうち前半の8つは、2000年までにA社が手に入れたものです。地元での信用と、倉庫という設備、そこで動かす保管と流通加工の腕。第1問が問うのはこの範囲だけで、後半の6つは時点が違います。
後半の6つは2010年以降に付いたものです。車も倉庫も持たない事業の組み方、外食チェーンとの取引で貯めた注文と在庫の扱い、そして一族の2人が持ち込んだ専門性。第3問と第4問はここから取ります。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題も2000年までのものと、2つの事業部に分かれてから出たものに割れます。前者が第1問、後者が第4問に効きます。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。9つのうち4つが第4・第5段落、つまり2000年前後の記述にあります。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「旧態依然の管理体質が温存されていた」 | 旧態依然の管理体質 | 第4段落 | 第1問(弱み) |
| 「紙の伝票管理など受注管理面において非効率が生じていた」 | 紙の伝票による受注管理の非効率 | 第5段落 | 第1問(弱み)・第4問(設問2) |
| 「A社に入社した従業員たちも地元志向が強かった」 | 従業員の強い地元志向 | 第5段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「顧客の新規開拓力が弱かった」 | 新規顧客の開拓力の弱さ | 第5段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「県内事業部との業務の連携は、ほとんどなされていない状況であった」 | 2つの事業部の連携不足 | 第7段落 | 第4問(設問1)・第4問(設問2) |
| 「県内事業部は年功序列的で古い慣習が残る組織体質であった」 | 県内事業部の年功序列的な組織体質 | 第8段落 | 第4問(設問1) |
| 「情報システム自体が汎用品であり、コストが高い割に首都圏事業部の物流ノウハウに適合しない」 | 汎用システムの高コストと不適合 | 第9段落 | 第4問(設問2) |
| 「各店舗の適正在庫管理や機動的な商品補充がA社県内事業部で対応できていない」 | 県内事業部の在庫管理と補充の未対応 | 第12段落 | 第4問(設問1)・第4問(設問2) |
| 「創業時から人事処遇制度はほとんど変更がなされないままであり」 | 創業時のままの人事処遇制度 | 第14段落 | 第4問(設問1) |
第4・第5段落の4つは、2000年の時点で既にあった弱みです。組織のかたさ、事務の非効率、営業の向き。第1問はこの4つから2つを選ぶ形になります。
第7段落から第14段落の5つは、首都圏事業部ができたあとに出てきた課題です。2つの事業部の連携不足がその中心で、Z社との取引が一部で止まった直接の理由になっています。
②③はどちらもA社の内側を並べた表です。3PL事業者との競い合いや委託先の人手不足といった外側の動きは、資産でも課題でもないのでこの2つの表には載っていません。外部環境の材料は①に書きました。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年は5つの解答欄のうち3つで、能力の語が使われていません。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
ところが令和6年度 事例Ⅰでは、この定型文が5つのうち2つにしか出てきません。残る3つは能力の語を持たず、何を問うたかだけが書かれています。向きは設問文の文末から読むことになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 30字以内(強み・弱み) | 分析 |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 名指しなし(意義と理由) |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 名指しなし(貢献できる点) |
| 第4問(設問1) | 40点(設問1・2の合計) | 80字以内 | 名指しなし(目的) |
| 第4問(設問2) | 40点(設問1・2の合計) | 100字以内 | 助言 |
第4問だけで40点、全体の4割です。しかも解答欄が2つに分かれているので、片方を空けると配点の大きい設問の半分を捨てることになります。設問1の80字は短いぶん、先に片づけられます。
能力の語がない3つは、設問文の文末が向きを決めます。第2問はチームを組んだ理由と人選の狙い、第3問はZ社が持ちかけた理由、第4問設問1は配置転換の狙い。いずれも理由と目的を説明させる形で、打ち手を求めていません。
第1問 2000年当時の強みと弱み|30字ずつ
趣旨は「2000年当時における」と時点を切っています。2011年以降に手に入れたものを書くと、問われていない答案になります。
出題の趣旨(引用)。「2000年当時におけるA社の内部環境を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。そして「内部環境」と限られているので、市場の追い風と向かい風は入りません。②③はA社の内側だけを並べた表なので、ここではそのまま材料になります。
気をつけるのは時点です。2000年は倉庫の事業に出た年で、与件文では第4段落と第5段落にあたります。首都圏事業部も情報システム部も、この時点にはまだありません。
| 観点 | ②③のどの材料を使うか |
|---|---|
| 強み(2000年当時) | 協力会による輸送網/地元密着の高品質な輸送/多様な荷主からの信頼/地域物流のコーディネーター機能/自社倉庫による流通加工と温湿度管理/保管業務と流通加工の能力/既存顧客との強い関係 |
| 弱み(2000年当時) | 旧態依然の管理体質/紙の伝票による受注管理の非効率/従業員の強い地元志向/新規顧客の開拓力の弱さ |
| この時点では使えない材料 | 資産を持たないコーディネート型の事業/受注処理と店舗在庫管理のノウハウ/物流システム構築の経験を持つ長男/情報システムの専門職/2つの事業部の連携不足 |
強みが7つ、弱みが4つ。30字にはそれぞれ2つ前後しか入りません。強みは地元での信用にまとまるものと、倉庫の機能に分かれるので、この2系統から1つずつ取ると内容が重なりません。
弱みは3系統です。組織のかたさが1つ、事務の非効率が1つ、営業の向きが2つ。営業の向きの2つは同じ話の裏表なので、まとめて1つに数えると30字に収まります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた2000年当時の内部環境を、30字に収めるとこうなる、という例です。
以下2つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
①協力会と自社倉庫による地域密着の物流、②多様な荷主の信頼。
30マス / 30マス
①旧態依然の管理体質と地元志向、②新規顧客の開拓力の弱さ。
29マス / 30マス
第2問 独立した組織を作った意義と人選の狙い|100字
趣旨は「独立した組織を形成する意義」と「一族を任命する理由」の2つを挙げています。片方だけでは要求の半分しか埋まりません。
出題の趣旨(引用)。「A社が地域を離れ新たな市場を開拓する際に、既存組織から独立した組織を形成する意義と、一族を任命する理由を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
この趣旨には能力の語がありません。設問文が聞いているのは、チームを組んだ理由と長女を選んだ狙いです。既に起きたことの説明であって、これからの打ち手ではありません。
意義の側で使うのは③の「従業員の強い地元志向」と「新規顧客の開拓力の弱さ」です。地元を向いた組織のままでは県外の市場を取りにいけない、という対比が、趣旨の「地域を離れ」に対応します。
人選の側で使うのは②の「大手物流企業で経験を積んだ長女」です。あわせて、一族であること自体の意味、つまり後継者を育てる場としての読み方も添えられます。
- 既存組織の性質。創業者が地元中心の営業方針を貫き、社員もその方向を向いていた(第5段落)。
- 開拓の弱さ。既存の顧客とは深く結びつく反面、新しい顧客を取る力が育っていない(第5段落)。
- 市場の変化。2010年頃から県外への輸送の引き合いが増えていた(第6段落)。
- 人選の理由①。長女は大手物流企業で物流の企画と営業を経験している(第6段落)。
- 人選の理由②。長女自身が首都圏の需要に見込みを持っていた(第6段落)。
- チームの構成。若手1名と首都圏で新たに採った1名を付けた体制(第6段落)。
- その後。チームは翌年に首都圏事業部となり、事業として自立した(第7段落)。
100字を2つに割ると、1つあたり50字前後です。意義は既存組織から切り離すこと、人選は大手での経験と後継者育成。この2本を残せば、削っても趣旨の要求は残ります。
一族を任命する理由は、趣旨が名指ししているのに与件文に直接の記述がありません。書けるのは長女の経験までで、後継者を育てる場だという読み方は当サイトの見立てです。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの要求を100字に収めるとこうなる、という例です。
理由は、地元志向が強く新規開拓力の弱い既存組織から切り離し、首都圏市場の開拓に専念させるため。狙いは、大手物流企業で物流企画と営業を経験した長女に権限を与え、成果を通じて後継者として育てることである。
100マス / 100マス
第3問 Z社が案件を持ちかけた理由|100字
趣旨は「A社がどのような点において貢献できるのか」。Z社の事情ではなく、A社の側にある使える資産を書く設問です。
出題の趣旨(引用)。「Z社が県内に事業展開をするにあたって、A社がどのような点において貢献できるのかを問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文はZ社がなぜ持ちかけたのかを聞いていますが、趣旨はA社の貢献に言い換えています。Z社の思惑を推し量る設問ではなく、A社が何を持っているかを並べる設問だ、と読めます。
使うのは②の県内側と首都圏側の両方です。県内側は「自社倉庫による流通加工と温湿度管理」「保管業務と流通加工の能力」「食品スーパーへの店舗配送の実績」「協力会による輸送網」「地域物流のコーディネーター機能」。
首都圏側は「資産を持たないコーディネート型の事業」「受注処理と店舗在庫管理のノウハウ」「物流システムの提案力」です。長男が首都圏の企業に営業をかけていたことが、そもそもの接点になっています。
- 相手の性質。Z社は首都圏で展開する大手スーパーで、県内へ出るにあたって案件を持ち込んだ(第12段落)。
- 同じ業態の実績。県内の食品スーパーX社の各店舗への配送を、長期の契約で受けている(第5段落)。
- 設備の裏づけ。自社の倉庫で流通加工と温度・湿度の管理まで引き受けられる(第4段落)。
- 面の広さ。協力会に加わる運送会社を通じて、県内を面で押さえている(第2・第3段落)。
- 多店舗のノウハウ。外食チェーンとの取引で、注文の処理と店舗ごとの在庫の扱いを蓄えた(第7段落)。
- 提案の入口。長男のシステム提案力で首都圏の企業に営業をかけていた(第12段落)。
- つまずいた点。取引開始後、県内事業部が在庫の管理と補充に対応できず、受託は一部にとどまった(第12段落)。
最後の1つは、貢献できた点ではなく、できなかった点です。第4問設問2につながる材料なので、第3問では触れずに残す判断ができます。この記事では第4問に回しました。
100字は、県内側の資産を3つ、首都圏側を2つ並べると尽きます。趣旨が「貢献できるのか」と書いている以上、それがZ社にとって何の役に立つのかまで書ければ形が整います。
次は正解ではありません。趣旨が求めたA社の貢献を100字に収めるとこうなる、という例です。
①自社倉庫で流通加工と温度管理ができ、②県内食品スーパーへの店舗配送の実績と協力会の輸送網を持ち、③首都圏事業部が店舗在庫管理と物流システム提案の能力を持つため。Z社の県内出店を一括で支えられる。
97マス / 100マス
第4問 設問1 配置転換の狙い|80字
趣旨は「配置転換におけるA社の目的」。誰がどこへ動いたかの説明ではなく、その配置で何を実現したいかを書きます。
出題の趣旨(引用)。「今後の事業展開に伴う配置転換におけるA社の目的を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は「今後の事業展開に伴う」と前置きしています。3PL事業者になるという先の話に向けた配置だ、という読み方が要ります。過去の整理ではなく、これからのための布石です。
埋めたい穴は③の3つ、「2つの事業部の連携不足」「県内事業部の年功序列的な組織体質」「県内事業部の在庫管理と補充の未対応」です。長男が県内側へ入ることで、②の「物流システム構築の経験を持つ長男」が移ります。
- 幹部の元の位置。協力会の運営を任され、県内事業部の采配を一任されていた(第2・第8段落)。
- 幹部の新しい役目。専務取締役に就き、2代目の脇を固める側へ回った(第13段落)。
- 長男の元の位置。首都圏事業部の情報システム部長で、2代目との間で意思決定をしてきた(第9・第12段落)。
- 長男の新しい役目。幹部の直下で運送部と倉庫部を束ねる立場になった(第13段落)。
- 埋めたい穴①。県内事業部と首都圏事業部の間に、仕事のつながりがほとんど無い(第7段落)。
- 埋めたい穴②。県内事業部に年功序列と古い慣習が残る(第8段落)。
- 埋めたい穴③。県内事業部が店舗の在庫の管理と補充に対応できなかった(第12段落)。
80字は短いので、動かした2つを1文でまとめ、狙いを3つ並べたら終わりです。人事の事実をなぞるだけだと目的が入らないので、事実の側は最小限にします。
後継者の育成は、趣旨にも与件文にも直接の記述がありません。ただし2代目が同じ道を通っていること、長男が入社早々に部長へ抜擢されたことから、当サイトはそう見立てました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた配置転換の目的を80字に収めるとこうなる、という例です。
目的は、①長男の物流システムの知見を運送部と倉庫部へ移して県内事業部の情報化を進め、②2つの事業部の連携と古い組織体質の刷新を図り、③後継者を育てることである。
80マス / 80マス
第4問 設問2 Z社との取引関係の強化|100字
この年で唯一、趣旨が助言と名指しした解答欄です。しかも打ち手の方向として、連携と情報システムの2つを先に挙げています。
出題の趣旨(引用)。「Z社との取引関係を強化するために、A社には県内事業部と首都圏事業部の連携や情報システムの構築などが求められる。本問はその対応策について助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨が打ち手の方向まで書いている点が珍しいところです。連携と情報システムのどちらかを落とすと、趣旨が挙げた要求の半分が空きます。ここは迷わず2本立てにできます。
埋める穴は③の4つ、「県内事業部の在庫管理と補充の未対応」「2つの事業部の連携不足」「汎用システムの高コストと不適合」「紙の伝票による受注管理の非効率」です。取引が一部で止まった理由がここに並んでいます。
使える資産は②の3つ、「受注処理と店舗在庫管理のノウハウ」「物流システム構築の経験を持つ長男」「情報システムの専門職」です。首都圏事業部に貯まったものを県内側へ移す、という形になります。
- つまずいた点。店舗ごとの適正な在庫の管理と、その場に応じた補充が県内事業部で回らなかった(第12段落)。
- 移せるもの①。外食チェーンとの取引で得た、注文の処理と店舗ごとの在庫の扱い(第7段落)。
- 移せるもの②。長男が持つシステム構築の経験と、社内に採った専門職(第9段落)。
- 直すもの①。外注していた出来合いのシステムは費用が高く、自社のやり方に合わなかった(第9段落)。
- 直すもの②。県内側に残る、紙の伝票による受注の管理(第5段落)。
- 支える配置。2024年の組み替えで、長男が運送部と倉庫部を束ねる立場に入った(第13段落)。
- 残る制約。不満を生んでいる、創業の頃から変わらない待遇の仕組み(第14段落)。
100字に7つは入りません。趣旨が名指しした連携と情報システムを軸に置き、Z社の店舗物流で何が良くなるかまで書くと、要求の形が残ります。手段の列挙だけでは趣旨の語に届きません。
待遇の仕組みは、趣旨が名指ししていない材料です。連携を担う人を動かすなら処遇も要る、という筋は立ちますが、100字には入りません。この記事では外しました。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの方向を100字に収めるとこうなる、という例です。
施策は、①長男と専門職が自社の物流に合う情報システムを内製し、受発注と店舗在庫を両事業部で共有、②首都圏事業部の店舗在庫管理のノウハウを県内へ移管し合同で運用する。以て補充精度を高め受託範囲を広げる。
100マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 協力会による輸送網/地元密着の高品質な輸送/多様な荷主からの信頼/地域物流のコーディネーター機能/自社倉庫による流通加工と温湿度管理/保管業務と流通加工の能力/既存顧客との強い関係/旧態依然の管理体質/紙の伝票による受注管理の非効率/従業員の強い地元志向/新規顧客の開拓力の弱さ |
| 第2問 | 大手物流企業で経験を積んだ長女/従業員の強い地元志向/新規顧客の開拓力の弱さ |
| 第3問 | 協力会による輸送網/多様な荷主からの信頼/地域物流のコーディネーター機能/自社倉庫による流通加工と温湿度管理/保管業務と流通加工の能力/食品スーパーへの店舗配送の実績/資産を持たないコーディネート型の事業/受注処理と店舗在庫管理のノウハウ/物流システムの提案力 |
| 第4問 | 資産を持たないコーディネート型の事業/受注処理と店舗在庫管理のノウハウ/物流システム構築の経験を持つ長男/情報システムの専門職/物流システムの提案力/紙の伝票による受注管理の非効率/2つの事業部の連携不足/県内事業部の年功序列的な組織体質/汎用システムの高コストと不適合/県内事業部の在庫管理と補充の未対応/創業時のままの人事処遇制度 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 第4問の配点40点は公表されていますが、設問1と設問2への内訳は公表されていません。
- 第2問の「後継者を育てる場」と第4問設問1の「後継者の育成」は、趣旨にも与件文にも無い当サイトの見立てです。
- 2000年当時に含める記述の範囲は当サイトの判断です。第5段落は2000年頃の話として扱いました。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
- 横断の数字は平成24年度から令和7年度の207設問の集計で、うち36設問(17%)は趣旨が能力の語を使っておらず分類から漏れています。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- この年は解答欄5つのうち3つで、趣旨が能力の語を使っていません。
- 第1問が問うのは2000年当時です。いまの強みと弱みを書くと外れます。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問で首都圏事業部の強みを書いてはいけませんか?
- 趣旨も設問文も2000年当時と時点を切っています。首都圏事業部ができたのは2011年なので、その時点には存在しません。30字しかないので、時点の合わない材料を入れると当時の内部環境が入らなくなります。
- 趣旨に「分析」とも「助言」とも書いていない設問は、どう読めばよいですか?
- 設問文の文末を見ます。令和6年度 事例Ⅰの第2問・第3問・第4問設問1は、理由や狙いを聞く形でした。説明を求める設問なので、打ち手を書くと問われていないことを書くことになります。
- 第3問はZ社の立場で書くのですか、A社の立場で書くのですか?
- 趣旨は「A社がどのような点において貢献できるのか」と書いています。Z社の事情を推し量るのではなく、A社が持っている資産を並べる設問だと読めます。県内側と首都圏側の両方から取れます。
- 第4問の設問1と設問2で、同じ材料を使ってよいのですか?
- 使えます。ただし締め方を変えます。設問1は配置転換の目的なので社内で何を実現したいかで締め、設問2はZ社との取引の強化なので受託の範囲がどう広がるかで締めます。趣旨が求めている向きが違います。




