令和6年度 事例Ⅱの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和6年度 事例Ⅱは4問中3問が助言です。分析だけの準備では足りません。
- 第1問はSWOTの4欄です。機会と脅威は会社の外側なので①の要約から取ります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和6年度 事例Ⅱの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年の事例Ⅱは4問のうち3問が助言でした。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅱは、どんな回か
与件文3,207字・解答字数の合計390字。80分の内訳は読む16分/考える48分/書く16分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | その他 | 20点 | 40字 | ◎ 現状分析(SWOT・3C) 68%(46〜85%) |
| 第2問 | 助言 | 25点 | 100字 | プロモーション 32%(15〜54%) |
| 第3問 | 助言 | 25点 | 100字 | 関係性強化・愛顧 26%(12〜49%) |
| 第4問 | 助言 | 30点 | 150字 | プロモーション 24%(10〜47%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 2分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 12分 |
| 第3問 | 4分 | 12分 |
| 第4問 | 6分 | 14分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える48分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第6段落で、合わせて4語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
縮む市場で傾いた陶磁器の産地問屋が、外から戻った3代目の感覚と1本の動画をきっかけに、売り方そのものを組み替えていく話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
B社は1953年創業の陶磁器の卸売業者で、働くのは12人。皿や茶碗を扱い、いまは2代目が社長です。そこへ初代の孫が3代目の社長予定者として呼び戻され、6年が過ぎました。35歳の3代目は陶磁器にも家業にも関心がなく、高校を出てから服の業界で働いていた人です。
「卸なのだから、ホームページは会社の概要と取引先が載っていれば十分だ。」
X市はX焼の産地で、土・型・生地・焼きと工程ごとに事業者が分かれています。窯元は最盛期の100軒あまりから50軒ほどに減り、1軒あたりの作り手も10人から20人だったのが1人か2人になりました。B社は産地問屋として窯元から器を集めて卸へ売り、自社企画の品を作らせ、地元では自前の店も構えています。
(窯元はどこも1〜2人になった。作りながら情報を出し続けるのは難しい。)
1990年代から国内の需要が冷え、安い外国製と100円ショップが広がります。産地問屋は最盛期の11社から4社に減りました。3代目が卸へ出向いても、似た顔ぶれの器が並んでいて新しさも安さも無いと切り捨てられます。
転機は、地元に新しく開く宿の器を任されたことでした。料理長と何度も打ち合わせ、盛り付けの見え方や写真での映りまで考えた器は高く評価され、別の宿や飲食店からも声がかかります。さらにコロナ禍で作った動画2本が伸び、若い世代や海外からも反応が届きました。3代目は店を建て直してカフェを併設し、ECサイトも開きます。
「服の世界から呼び戻された。動画が当たり、自分の感覚は間違っていないと思えた。」
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は40字ずつ4欄です。** 機会と脅威は会社の外側(産地の縮小、安い外国製と100円ショップ、20万人が集まる陶磁器の祭り、動画への反応)にあり、②③の表には出てきません。ここは①に戻ってください。
- **第2問と第3問は、どちらも新しい企画を作る設問ですが相手が違います。** ふるさと納税の返礼品は自治体を通した先の個人、収納の悩みは既に器を持っている人。同じ提案を両方に書くと、どちらかが薄くなります。
- **第3問は「収納の悩み」という具体的な困りごとが起点です。** 器を売る施策に流れると、悩みに応えたことになりません。
- **第4問は150字で、店舗とECの両方を使ってもらう設問です。** どちらか一方の施策だけでは要求を満たしません。建て直した店とカフェ、動画で届いた反応、開いたばかりのECという3つが手がかりです。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
答案の材料は与件文の言葉から取ります。この事例の資産は、企画と提案の力・窯元との関係・売り場と発信の3つに固まっています。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。問題PDFの印刷どおりに数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「問屋オリジナル商品を企画して窯元に生産委託する」 | オリジナル商品の企画と生産委託 | 第5段落 | 第1問(強み)・第2問・第3問 |
| 「地元では自前の店舗を構え、業者のみならず一般の消費者向けにも販売を行っている」 | 消費者へ直接売る自前の店舗 | 第5段落 | 第1問(強み)・第4問 |
| 「ファッション業界で働いていた」 | 3代目の異業種での経験 | 第1段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「盛り付け映えや写真映えを考え抜き、季節感や月ごとに変わる料理内容に合わせた色や形の食器を提案し続けた」 | 料理に合わせた食器の提案力 | 第9段落 | 第1問(強み)・第2問・第3問 |
| 「その食器はホテルの経営者や宿泊客から高い評価を得た」 | 宿泊施設での高い評価 | 第9段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「別の宿泊施設や飲食店からオリジナル食器の提案依頼が入り始めた」 | 宿泊施設・飲食店からの引き合い | 第9段落 | 第1問(強み)・第3問 |
| 「窯元をはじめ、この地で地場産業に携わってきた人々も温かい態度で接するようになった」 | 窯元・地場産業との良好な関係 | 第9段落 | 第1問(強み)・第2問・第3問 |
| 「家庭料理でも見違えるほどおいしそうに見える食器への盛り付け方を紹介する動画」 | 盛り付けを伝える動画 | 第10段落 | 第2問・第4問 |
| 「B社オリジナルの陶磁器を直接ガスコンロに乗せればこの料理が家庭でも簡単に作れる」 | 直火で使えるオリジナル陶磁器 | 第10段落 | 第2問・第3問 |
| 「旅先で食べたこの味わいを自宅で再現したいという視聴者からの問い合わせが相次いだ」 | 郷土料理の動画への反響 | 第10段落 | 第2問・第4問 |
| 「明るく開放感のあるスタイリッシュな空間に切り替えたほか、自社の扱うX焼で軽食を提供するカフェスペースも併設した」 | カフェを併設した新装店舗 | 第11段落 | 第1問(強み)・第3問・第4問 |
| 「自社が扱うX焼を販売するECサイトを開設する」 | X焼を売るECサイト | 第11段落 | 第1問(強み)・第4問 |
12のうち中ほどの4つ、「料理に合わせた食器の提案力」「宿泊施設での高い評価」「宿泊施設・飲食店からの引き合い」「窯元・地場産業との良好な関係」は、すべて宿の仕事から生まれています。1つの取引が4つの資産を作った形です。
後半の5つは、コロナ禍のあとに増えたものです。動画と店舗とECサイト。売り方の入口が一気に増えたので、第4問はここを束ねる設問になります。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は会社の規模と、長く続いた経営の傾きと、発信の細さの3つです。数は少ないので、第1問の弱みはここから選びます。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。②に比べて数が少ないのは、B社の困りごとの多くが産地全体の事情として書かれているからです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「従業者数12人(パート・アルバイト含む)」 | 12人の小さな体制 | 第1段落 | 第1問(弱み)・第4問 |
| 「初代の孫を3代目社長予定者」 | 社長交代が済んでいない体制 | 第1段落 | 第1問(弱み) |
| 「B社の経営状態も1990年代半ば以降、徐々に低迷し始め」 | 長期にわたる経営の低迷 | 第6段落 | 第1問(弱み) |
| 「似たようなデザインの陶磁器がすでにあり」 | 大消費地で通用しない商品構成 | 第8段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「この取引自体は小規模だった」 | オリジナル食器事業の小ささ | 第9段落 | 第1問(弱み)・第3問 |
| 「オンライン動画サイトに掲載するコンテンツをとりあえず2本作った」 | 動画が2本にとどまる発信 | 第10段落 | 第1問(弱み)・第4問 |
| 「自社ホームページには会社概要と主要取引金融機関や大口取引先の記載さえあればよいと考えていた」 | 情報発信に消極的な経営層 | 第11段落 | 第1問(弱み)・第4問 |
最後の2つは、いまも残っているとは限りません。動画は2本作ったところで止まっており、ホームページは3代目が作り直しました。それでも発信を続ける体制があるとは書かれていないので、第4問の出発点として使えます。
②③はどちらもB社の内側を並べた表です。窯元の零細化や安い輸入品、産地問屋の減少といった外側の動きは資産でも課題でもないので、この2つの表には載っていません。外部環境の材料は①に書きました。第1問の機会と脅威、第2問のX市の課題は、①からたどってください。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅱは、4問のうち3問が助言でした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和6年度 事例Ⅱは、陶磁器の産地問屋の事例です。4設問の配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 40字以内(4欄) | 分析(内外の経営環境) |
| 第2問 | 25点 | 100字以内 | 助言(商品企画) |
| 第3問 | 25点 | 100字以内 | 助言(新規事業) |
| 第4問 | 30点 | 150字以内 | 助言(顧客接点の強化) |
分析は第1問の20点だけで、残る80点はすべて打ち手を書かせる設問です。しかも第1問は4欄あるので、書く量は40字の4つ分。配点のわりに手数がかかります。
時間の配り方も決まってきます。第3問と第4問で55点、全体の半分を超えます。第1問の4欄でつまずくと、配点の大きい後半が薄くなります。
第1問 SWOT分析|40字ずつ4欄
趣旨は「内外の経営環境」と書いています。強みと弱みは②③の表、機会と脅威は①の要約から取ります。
出題の趣旨(引用)。「B社内外の経営環境を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。設問文もSWOTの4つの観点を求めており、それぞれ40字の解答欄が用意されています。ここで打ち手を書くと、問われていないことを書くことになります。
4つのうち機会と脅威はB社の外側にあります。②③はB社の内側を並べた表なので、外の2つは載っていません。①の要約に戻って取ることになります。
| SWOTの観点 | 使う材料 | どこに書いてあるか |
|---|---|---|
| 強み(内) | 料理に合わせた食器の提案力/3代目の異業種での経験/窯元・地場産業との良好な関係/消費者へ直接売る自前の店舗/X焼を売るECサイト | ②の表 |
| 弱み(内) | 12人の小さな体制/長期にわたる経営の低迷/大消費地で通用しない商品構成/動画が2本にとどまる発信 | ③の表 |
| 機会(外) | 祭りに集まる幅広い年代の食器好き/新しい作風を受け入れる土壌/移住者による窯元の開業/大きな消費地から遠くない立地 | ①(第2・第4・第7段落) |
| 脅威(外) | 安い外国製の品と100円ショップ/高齢化と人口減による需要の頭打ち/産地問屋の減少と発信の滞り/窯元が1人か2人まで小さくなったこと | ①(第4・第6・第7段落) |
40字は短く、名詞で締めても3つが上限です。強みは企画と提案の力、窯元との関係、売り場の3系統に分かれるので、系統ごとに1つずつ取ると内容が重なりません。
脅威で迷うのは、窯元が小さくなったことをどちらに入れるかです。B社にとっては仕入れ先の力が落ちる話なので脅威に置けますが、第2問ではX市の課題として使います。同じ材料が2か所で効きます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた内と外の両方を、40字ずつに収めるとこうなる、という例です。
以下4つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
①3代目の食器提案力とホテルでの高評価、②窯元との良好な関係、③自前の店舗とEC。
40マス / 40マス
①12人の小規模体制と長期の経営低迷、②大消費地で通用しない商品構成、③発信の弱さ。
40マス / 40マス
①陶磁器祭りに集まる食器愛好家、②新しい作風を受け入れる土壌、③移住者の窯元開業。
40マス / 40マス
①安価な輸入品と100円ショップ、②高齢化と人口減による需要縮小、③窯元の零細化。
40マス / 40マス
第2問 ふるさと納税の返礼品を企画する|100字
趣旨は「B社の強みとB社が所在するX市の課題を把握し」。自社の強みだけを書くと、趣旨が挙げた片方が抜けます。
出題の趣旨(引用)。「B社の強みとB社が所在するX市の課題を把握し、B社の商品企画について助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
ここから能力が助言に変わります。設問文は、市の返礼品にX焼はあるが全国の返礼品の中で埋もれている、という条件を先に置いています。目立たせてファンを増やす企画を求める設問です。
設問文はさらに、感覚価値と観念価値の2つを意識せよと指定しています。感覚価値は五感で受け取る心地よさ、観念価値はその品の背景にある物語や意味づけを指します。企画の中身と、それが2つの価値にどうつながるかを両方書きます。
使う強みは②の「料理に合わせた食器の提案力」「直火で使えるオリジナル陶磁器」「オリジナル商品の企画と生産委託」「窯元・地場産業との良好な関係」です。X市の課題は②③の表に無いので、①からたどります。
- 産地の姿。X焼づくりは工程ごとに分かれ、土・型・生地・窯元が別々の事業者である(第3段落)。
- 窯元の変化。1980年代は1軒に10人から20人いた作り手が、いまは1人か2人になった(第4段落)。
- 川上への波及。小さくなった影響は、土や型や生地を作る事業者にも及んでいる(第4段落)。
- 発信の滞り。産地問屋が減り、X焼を世の中へ伝える発信が細って売り先が痩せた(第7段落)。
- 窯元の限界。規模が小さく、ものづくりの傍らで商品情報をこまめに更新するのは難しい(第7段落)。
- 使える題材。炙った食材を地元の発酵調味料であえて食べる郷土料理がある(第10段落)。
- 返礼品の現状。市の返礼品にX焼はあるが、全国の返礼品の中に埋もれている(設問文)。
課題と強みは対応させられます。窯元が小さくなって1軒では目立てないなら、複数の窯元の器を1つの企画にまとめる。発信が滞っているなら、動画で反響のあった郷土料理を返礼品に付ける。この筋なら両方が1つの企画に収まります。
100字は、企画の中身に半分、2つの価値の説明に半分です。感覚価値は器の色や形と料理の見え方、観念価値は作り手と産地の歴史。どちらの語も与件文の材料に結びつけないと、言葉だけが浮きます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた強みと課題を100字に収めるとこうなる、という例です。
企画は、複数の窯元の器と地元の発酵調味料や郷土料理の材料を組み合わせた直火対応のセット。器の色や形と料理の香りで感覚価値を、分業で支える窯元の作り手と産地の歴史を伝えることで観念価値を訴求する。
97マス / 100マス
第3問 収納の悩みに応える新規事業|100字
趣旨は「飽和市場において新たな需要を喚起する新規事業」。器をもう1枚売る話ではない、という枠がここで決まります。
出題の趣旨(引用)。「飽和市場において新たな需要を喚起する新規事業について、B社に助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は、食器好きの声として、欲しいけれど家に器が多く、置く場所も無く捨てられない、という板挟みを挙げています。買えない理由が値段ではなく置き場所にある、というのがこの設問の起点です。
趣旨の「飽和市場」は、①で書いた需要の頭打ちを指しています。器を1枚多く売る話ではなく、家に器を増やさずにX焼と付き合える形を作れるか。ここが趣旨の言う新たな需要にあたります。
- 顧客の声。欲しいけれど家に器が多く、置き場所が無く、いまあるものも捨てられない(設問文)。
- 3代目の狙い。いろいろな窯元の器を消費者が手に取れる機会を作りたい(設問文)。
- 窯元側の事情。1軒あたり1人か2人と小さく、そうした窯元が50軒ほど並んでいる(第4段落)。
- 触れる場。祭りには幅広い年代の食器好きが20万人前後集まる(第7段落)。
- 試せる場。自社の扱うX焼で軽食を出すカフェを、建て直した店に併せて設けた(第11段落)。
- 届ける道。自社が扱うX焼を売るECサイトを開いた(第11段落)。
- 作らせる力。オリジナルを企画して市内の窯元に生産を委託し続けている(第5・第11段落)。
月額で器を届けて返してもらう形や、使わない器を引き取る形も考えられます。ただし与件文にも設問文にも根拠がありません。この記事の解答例には入れず、与件文で裏の取れる材料だけで組みました。
自社と窯元の両方に効く形にするのも条件です。設問文は、自社や窯元の事業機会拡大を図る一方で、と書いています。器が回れば窯元に注文が回り続ける、という筋が入っていないと片手落ちになります。
100字は、事業の中身に7割、効果に3割です。誰の何が解決するのかを最後に1文で置くと、趣旨の「新たな需要を喚起する」に届きます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた新規事業を100字に収めるとこうなる、という例です。
事業は、①カフェで複数の窯元の器を使った郷土料理と盛り付けの体験を提供し、②同じ器を宿泊施設や飲食店へオリジナルで企画提案する。愛好家は収納を増やさず多くの窯元の作風に触れられ、窯元にも受注が回る。
99マス / 100マス
第4問 店舗とECの両方を使ってもらう|150字
趣旨は「チャネル戦略の観点から」と書いています。店舗とECを別々に伸ばす答案では、両方を使う顧客が増えません。
出題の趣旨(引用)。「顧客接点を強化する施策について、チャネル戦略の観点からB社に助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は、ECで新規の顧客は増えたが顧客の顔が見えない、と3代目の実感を書いています。求められているのは、地元の店舗とECの両方を使う顧客を増やす施策です。片方から片方へ送る導線が要ります。
使う資産は②の「消費者へ直接売る自前の店舗」「カフェを併設した新装店舗」「X焼を売るECサイト」「盛り付けを伝える動画」「郷土料理の動画への反響」です。場と発信が既にそろっているので、つなぐ設計だけが足りません。
- 店舗の側。建て直した店にカフェを併せて設け、業者にも一般の人にも売っている(第5・第11段落)。
- ECの側。ホームページを作り直し、X焼を売るECサイトを開いた(第11段落)。
- ECの現状。新規の顧客は増えたが、顧客の顔が見えない(設問文)。
- 来訪の機会。大型連休の祭りに幅広い年代の食器好きが20万人前後集まる(第7段落)。
- 発信の資産。盛り付けの動画と郷土料理の動画に反響があった(第10段落)。
- 届いた声。旅先で味わった一皿を自宅で再現したいという問い合わせが相次いだ(第10段落)。
- 産地の事情。産地問屋が減り、X焼を世の中へ伝える発信が滞っている(第7段落)。
動画の反響は、店舗とECをつなぐ蝶番になります。旅先の味を自宅でという声は、来た人が帰ってからも買いたいという意味です。逆に、ECで買った人に産地へ来る理由を渡せば、往復ができます。
顧客の顔が見えない、という悩みへの答えは会員の登録です。店で登録してもらえば誰が何を買ったかが残り、ECの提案に使えます。趣旨の「顧客接点を強化する」は、回数だけでなく深さの話でもあります。
150字なら施策を4つ並べ、最後に狙いを1文置けます。番号で区切り、名詞で締めると入ります。店舗からECへ、ECから店舗へ、両方向の導線を残す削り方を選びます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた施策を150字に収めるとこうなる、という例です。
①店舗とカフェで会員登録を促してECサイトへ誘導、②EC購入者には陶磁器祭りと店舗への来訪特典を付与、③盛り付けと郷土料理の動画を継続して配信し、器と地元の発酵調味料をECで販売、④購入履歴に応じて次の作風や窯元を提案し来店を促す。以て店舗とECの両方を使う顧客を増やし、窯元の受注と産地との関係を広げる。
149マス / 150マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | オリジナル商品の企画と生産委託/消費者へ直接売る自前の店舗/3代目の異業種での経験/料理に合わせた食器の提案力/宿泊施設での高い評価/宿泊施設・飲食店からの引き合い/窯元・地場産業との良好な関係/カフェを併設した新装店舗/X焼を売るECサイト/12人の小さな体制/社長交代が済んでいない体制/長期にわたる経営の低迷/大消費地で通用しない商品構成/オリジナル食器事業の小ささ/動画が2本にとどまる発信/情報発信に消極的な経営層 |
| 第2問 | オリジナル商品の企画と生産委託/3代目の異業種での経験/料理に合わせた食器の提案力/宿泊施設での高い評価/窯元・地場産業との良好な関係/盛り付けを伝える動画/直火で使えるオリジナル陶磁器/郷土料理の動画への反響/大消費地で通用しない商品構成 |
| 第3問 | オリジナル商品の企画と生産委託/料理に合わせた食器の提案力/宿泊施設・飲食店からの引き合い/窯元・地場産業との良好な関係/直火で使えるオリジナル陶磁器/カフェを併設した新装店舗/オリジナル食器事業の小ささ |
| 第4問 | 消費者へ直接売る自前の店舗/盛り付けを伝える動画/郷土料理の動画への反響/カフェを併設した新装店舗/X焼を売るECサイト/12人の小さな体制/動画が2本にとどまる発信/情報発信に消極的な経営層 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第1問の20点を4つの欄でどう配るかは分かりません。
- 第1問の機会と脅威は、②③の表のような逐語引用と答案語の対応表を持ちません。①の要約と段落番号までが渡せる範囲です。
- 第3問の解答例は、カフェと宿泊施設・飲食店という与件文にある2つの場から組みました。事業の形はこれ1つではありません。
- 第2問のX市の課題も②③の表には載せていません。B社の外側の話なので、①と第2問の節に段落番号を添えました。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和6年度 事例Ⅱは4問中3問が助言です。分析だけの準備では足りません。
- 第1問はSWOTの4欄です。機会と脅威は会社の外側なので①の要約から取ります。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問の機会と脅威は、与件文のどこから取りますか?
- 機会は第2・第4・第7段落、脅威は第4・第6・第7段落に固まっています。この記事の②③の表はB社の内側を並べたものなので、外側の2つは載っていません。①のストーリー要約と、第1問の節の表に段落番号を添えました。
- 感覚価値と観念価値は、答案にその言葉を書く必要がありますか?
- 設問文が指定している語なので、どの要素がどちらにあたるかは示したほうが読み取りやすくなります。ただし語を書けば加点されるという根拠はありません。器の見え方が感覚、作り手や産地の物語が観念、という中身の対応が要です。
- 第3問で、器をもっと売る施策を書いてはいけませんか?
- 趣旨は「飽和市場において新たな需要を喚起する新規事業」と書いています。設問文の顧客の声も、買えない理由が値段ではなく置き場所にあると示しています。売り方を強めるだけの答案だと、置き場所の悩みが残ったままになります。
- 第4問で店舗の施策とECの施策を別々に書いてもよいですか?
- 設問文が求めているのは、地元の店舗とECの両方を利用する顧客を増やすことです。趣旨もチャネル戦略の観点と書いています。片方ずつ強める答案だと、両方を使う顧客が増える筋道が答案に出てきません。




