令和4年度 事例Ⅲの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和4年度 事例Ⅲは5問あり、配点はすべて20点で並んでいます。
- 趣旨で分析と書かれたのは第1問だけ。残る4問はすべて助言です。
- 与件文は47段落ありますが、うち27段落は工程図が1行ずつ切り出されたものです。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和4年度 事例Ⅲの5設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は5問すべてが20点で並び、80字が1問、120字が3問、100字が1問という構成でした。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅲは、どんな回か
与件文2,661字・解答字数の合計540字。80分の内訳は読む13分/考える45分/書く22分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 80字 | ◎ 強み・弱みの分析 90%(69〜97%) |
| 第2問 | 述べる | 20点 | 120字 | 生産計画・工程管理 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 述べる | 20点 | 120字 | 新事業・受注拡大 32%(15〜54%) |
| 第4問 | 述べる | 20点 | 120字 | ◎ 新事業・受注拡大 67%(44〜84%) |
| 第5問 | 助言 | 20点 | 100字 | 新事業・受注拡大 100%(57〜100%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 3分 | 9分 |
| 第2問 | 5分 | 9分 |
| 第3問 | 5分 | 9分 |
| 第4問 | 5分 | 9分 |
| 第5問 | 4分 | 9分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える45分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第40〜43段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
業務用の厨房まわりの金属製品を作ってきた会社が、観光需要の消滅を受け、ホームセンター向けの量産に踏み出す話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
C社は1964年創業の金属製品の会社で、従業員60名。売上の7割は金型で成形する鍋やトレーなどの繰り返し受注品、3割は調理台やワゴンといった1件ずつの板金製品です。どちらもホテルや旅館、外食産業の厨房で使われ、売り先は業務用の卸売企業2社。この2社を通してしか市場に出ていません。
生産部門は8つの課に分かれ、プレス製品は金型を作る工程と量産の工程に分かれます。設計課は2次元CADで金型を設計しますが、発注元との仕様の詰めの遅れや設計変更に加え、1件ずつ受注する板金の製品設計も抱えており、金型の期間全体に響くことがしばしばあります。組立と仕上げは熟練技能者が担い、高齢化が進んでいます。
「金型の組立と仕上げは私たちが担ってきた。皆、歳を取った。」
量産の詰まりはプレス加工です。設備の能力に限りがあり、品を替えるたびに担当の作業員が金型交換と材料準備を一人でこなして長い時間がかかります。計画が立つのはプレス加工の分だけで、その後は終わった順に手を付ける形。発注元が在庫を減らす方針に変わって1回の注文量が小さくなったのに、C社は従来の量で加工を続けています。
(これから教わる側だ。金型の勘どころは、まだ紙にも残っていない。)
そこへ中堅ホームセンターX社から取引の話が入りました。海外委託の納品に支障が出たためです。求められているのはアウトドア用の中価格帯のアルミ製プレス加工品で、納め方も変わります。四半期ごとの企画と月の販売予測、毎週月曜に集計される確定注文、注文から7日後の納期。1回の注文量はいまよりかなり小さくなります。
「ホームセンターからの新しい話に乗る。小ロットで、週ごとの発注になる。」
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は販売面と生産面の両方を80字で書きます。** 40字ずつしかありません。生産の話を厚くすると販売が消えます。売り先が卸売企業2社しかない、という一点が販売面の芯です。
- **第2問と第3問は、条件が違うだけで同じ工場の話です。** 第2問は納期(注文から7日)、第3問は量(1回が小さくなる)。どちらにも段取り時間の話を書くと重なるので、どちらの設問で何を言うかを先に分けてください。
- **第4問のデジタル化は「何を」と「どう進めるか」の両方が問われています。** どの持ち場もパソコンを使っているのに、やり取りと共有が紙のままだ、という事実が起点です。道具を並べるだけでは半分になります。
- **第5問は新規取引が開く可能性で、時間の向きが違います。** いまの課題ではなく、この取引の先に何が起きるか。中価格帯から高価格帯へ、という社長の考えと、卸売2社しか販路が無かったという現状が手がかりです。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、金型の技術と提案力、そして8つの課に分かれた生産の体制です。数は多くありません。
この年の与件文は47段落ありますが、第11段落から第37段落までは生産プロセスの図が1行ずつ段落として切り出されたものです。以下の段落番号は図の行も数えた通し番号なので、中身のある段落は第10段落の次が第12段落になります。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「業務用食器・什器の卸売企業2 社を販売先としている」 | 卸売企業2社の販売先 | 第2段落 | 第1問(販売面)・第5問 |
| 「金型を使用して成形する鍋、トレー、ポットなどの繰返受注製品」 | 鍋やトレーの繰返受注製品 | 第2段落 | 第5問 |
| 「鋼材を切断や曲げ、溶接加工して製作する調理台、収納ラック、ワゴンなどの個別受注製品」 | 個別受注の板金加工品 | 第2段落 | 第2問 |
| 「難易度の高い金型製作技術の向上に努めて、ノウハウを蓄積してきた」 | 金型製作技術のノウハウ | 第3段落 | 第2問・第5問 |
| 「コスト低減や生産性向上に結びつく提案などが可能である」 | コスト低減と生産性向上の提案力 | 第3段落 | 第5問 |
| 「生産部門は、生産管理課、資材課、設計課、金型製作課、プレス加工課、製品仕上課、板金加工課、品質管理課で構成されている」 | 8つの課からなる生産部門 | 第6段落 | 第4問 |
| 「金型を製作する金型製作工程と、その金型を利用して同じ製品の繰返受注生産を行う製品量産工程がある」 | 金型製作と量産の2工程 | 第7段落 | 第2問 |
| 「プレス加工技術にも習熟するベテラン技能者が担当している」 | 習熟したベテラン技能者 | 第10段落 | 第2問 |
| 「各業務でパソコンを活用している」 | 各業務でのパソコンの活用 | 第15段落 | 第4問 |
| 「中堅ホームセンターX 社から品質を高く評価された」 | X社からの品質の評価 | 第17段落 | 第5問 |
この事例の資産は10行しかありません。事例Ⅲは課題を並べる設問が多いので、③の表のほうが厚くなります。第5問だけが強みを問う向きの設問です。
中心にあるのは金型製作技術のノウハウです。創業のときは請け負って作るだけの会社だったのが、金型を自分で作れるようになったことで、コスト低減と生産性向上の提案力まで持てるようになりました。
各業務でのパソコンの活用は、一見すると資産に見えないかもしれません。ただ第4問を考えるうえでは重要です。道具は既にあり、足りないのはつなぐ仕組みだけ、という状態を示しています。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は、金型製作の期間・プレス加工の詰まり・紙のやり取りの3つに集まります。第2問から第4問はここから作れます。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。1行目が販売の話、次の5行が金型を作る工程、その次の5行が量産の工程、最後の1行が社内の情報のやり取りです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「外国人の新規入国規制や、外食産業の営業自粛による影響を受けて減少している」 | 受注量の減少 | 第4段落 | 第1問(販売面) |
| 「金型製作期間は、難易度によって異なるが、短いもので約2 週間、長いもので約1 か月を要する」 | 2週間から1か月の金型製作期間 | 第8段落 | 第1問(生産面)・第2問 |
| 「発注元との仕様確認が遅くなることや、発注元からの設計変更、仕様変更の要請があり、設計期間が長くなることもある」 | 仕様確認の遅れと設計変更 | 第9段落 | 第2問 |
| 「設計課では、個別受注の板金加工製品の製品設計も担当するため、設計業務の混乱が生じ金型製作期間全体に影響することもしばしば生じている」 | 設計課への業務の集中 | 第9段落 | 第1問(生産面)・第2問 |
| 「ベテラン技能者が担当しているが、高齢化している」 | ベテラン技能者の高齢化 | 第10段落 | 第2問 |
| 「若手の養成を検討している」 | 若手の養成 | 第10段落 | 第2問 |
| 「生産能力に制約があり、C 社全体の生産進捗に影響している」 | プレス加工の能力の制約 | 第13段落 | 第1問(生産面)・第3問 |
| 「その作業員が金型交換作業と材料準備作業など長時間の段取作業を一人で行っている」 | 一人で行う長時間の段取作業 | 第13段落 | 第1問(生産面)・第3問 |
| 「生産計画は、各製品の1 日間の加工数量でそれぞれの基準日程を決めて立案する」 | 基準日程で決めるロットサイズ | 第14段落 | 第3問 |
| 「最近は発注元の在庫量削減方針によって発注ロットサイズが減少している」 | 発注ロットサイズの減少 | 第14段落 | 第3問 |
| 「基準日程によって設定しているロットサイズで加工を続け、確定受注量以外はC 社内で在庫している」 | 社内に積み上がる在庫 | 第14段落 | 第1問(生産面)・第3問 |
| 「情報の交換と共有はいまだに紙ベースで行われている」 | 紙による情報の交換と共有 | 第15段落 | 第1問(生産面)・第4問 |
②③はC社の内側を並べた表です。X社が示した週次の注文と7日の納期のような、取引の相手側の条件はこの2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
第9段落と第10段落の4行は、金型を作る期間が延びる理由と、その手当ての芽です。設計が遅れる、設計課が混む、技能が特定の人に寄り、その人が高齢である。若手の養成は与件文が挙げた手当てです。
第13段落と第14段落の5行は、量産の側の詰まりです。とくに基準日程で決めるロットサイズと発注ロットサイズの減少は、真正面からぶつかっています。第3問はここが本体です。
最後の1行は短いのに、第4問がまるごとここに掛かります。各業務でのパソコンの活用があるのに紙で受け渡している、という食い違いが問題の入口です。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年は5行のうち4行が助言で、分析は第1問だけでした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和4年度 事例Ⅲは、業務用の金属製品を作るC社の事例です。設問は5問あり、趣旨も5行。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 80字以内 | 分析 |
| 第2問 | 20点 | 120字以内 | 助言(要因を整理し) |
| 第3問 | 20点 | 120字以内 | 助言(課題を整理し) |
| 第4問 | 20点 | 120字以内 | 助言(課題を整理し) |
| 第5問 | 20点 | 100字以内 | 助言 |
配点は5問とも20点で、きれいに並んでいます。字数だけが違うので、120字の3問に時間が寄ります。1問を落とすと20点が丸ごと消える構成でもあります。
第2問から第4問の趣旨には、助言の前に整理という語が置かれています。要因や課題を整理したうえで打ち手を出せ、という二段構えです。対応策だけを並べると、前半が空になります。
設問文のほうは第1問から第4問まで「述べよ」で、助言せよとは書いていません。それでも趣旨は助言と書いています。文末は打ち手の形にしておくほうが、趣旨との対応が取れます。
第1問 販売面と生産面の課題|80字
趣旨は販売面と生産面の2つを名指ししています。80字しかないので、どちらも40字ずつしか書けません。
出題の趣旨(引用)。「新型コロナウイルスのパンデミックや急激な円安など2020年以降今日までの外部経営環境変化の中で、C社に生じている販売面と生産面の課題について、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は、2020年以降の外部環境の変化という条件を付けています。趣旨も同じ条件から書き起こし、コロナ禍と急激な円安を名指ししています。つまり、以前からあった課題ではなく、この数年で表に出たものを書く設問です。
| 観点 | ②③のどの材料を使うか |
|---|---|
| 販売面 | 受注量の減少/卸売企業2社の販売先 |
| 生産面 | 2週間から1か月の金型製作期間/設計課への業務の集中/プレス加工の能力の制約/一人で行う長時間の段取作業/社内に積み上がる在庫/紙による情報の交換と共有 |
販売面は材料が2つしかありません。観光の需要が消えて受注が減ったことと、売り先が卸売企業2社に限られていること。後者は与件文が課題だと書いてはいませんが、減った受注を埋める道が無い状態を示します。
生産面は候補が6つ。80字の半分に全部は入りません。この記事は、設計課への業務の集中と一人で行う長時間の段取作業を選びました。金型と量産のそれぞれで期間が延びる原因にあたるからです。
課題という語の扱いには幅があります。起きている不具合をそのまま書く読み方と、「〜すること」と目標の形に直す読み方です。この記事は販売面を目標の形、生産面を状態の形にして、80字に収めました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた2つの面の分析を、80字に収めるとこうなる、という例です。
販売面は、卸売企業2社への依存と受注減少により新規の販路開拓が課題。生産面は、設計の混乱と長時間の段取で金型製作と量産の期間が長く、短納期に応えられない点。
78マス / 80マス
第2問 新規受注をどう短納期にするか|120字
趣旨は「長期化する要因を整理し」と前置きしています。対応策だけを並べると、要求の前半が空になります。
出題の趣旨(引用)。「プレス加工製品の金型製作工程と製品量産工程の生産プロセスにおいて、新規受注の際に長期化する要因を整理し、短納期化するための課題とその対応策について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は3つを順に求めています。長期化する要因、短納期にするための課題、そして対応策。設問文は課題と対応策の2つですが、趣旨は要因の整理を先に置いています。
新規受注のときだけ長くなる理由は、金型を1から作るからです。量産に入ってしまえば同じ金型を使い回せますが、最初の1回は設計からやり直します。狙う場所は金型製作の工程です。
- 長さの実態。2週間から1か月の金型製作期間がかかり、難しい品ほど延びる(第8段落)。
- 要因その1。仕様確認の遅れと設計変更があり、設計の段階で時間が消える(第9段落)。
- 要因その2。設計課への業務の集中が起きており、個別受注の板金加工品の設計も同じ課が抱えている(第9段落)。
- 要因その3。組立と仕上げを担うのが習熟したベテラン技能者に限られている(第10段落)。
- 要因その4。そのベテラン技能者の高齢化が進み、修理や改善の作業も兼ねている(第10段落)。
- 打つ手の芽。若手の養成を検討している、と与件文が書いている(第10段落)。
- 工程の形。金型製作と量産の2工程に分かれており、前半だけを短くしても効果が出る(第7段落)。
要因を並べると、設計と技能の2つに割れます。設計は仕事が1つの課に集まっていること、技能は特定の人に寄っていること。どちらも人の配置の問題です。
対応策も同じ形で作れます。設計は仕様の詰めを前倒しし、板金の設計と分けて標準化する。技能は手順を形にして若手に移す。与件文が若手の養成を検討中と書いているので、後者には根拠があります。
設計の道具を新しくするという書き方もありますが、与件文は2次元のCADを使っているとしか書いていません。新しい道具の名前を出すと、与件文に無いことを足すことになります。
120字なので、課題を1文、対応策を3つ、狙いを一言。趣旨が求めた要因は、対応策の中に「何を減らすか」の形で織り込むと字数が足ります。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた要求を120字に収めるとこうなる、という例です。
課題は金型製作期間の短縮。対応策は①発注元と早期に仕様を確認して設計変更を減らす、②設計課の人員を増やし板金設計と分けたうえで設計の標準化とデータの共有を進める、③金型組立と仕上の技能を標準化し若手を育成する。以て新規受注の納期を短縮する。
119マス / 120マス
第3問 小ロット化にどう応えるか|120字
趣旨は「製品量産工程の課題」と場所を限っています。金型を作る工程の話を書くと、範囲を外れます。
出題の趣旨(引用)。「顧客企業の発注ロットサイズの小ロット化への変化に対応するためのC社の製品量産工程の課題を整理し、その対応策について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
第2問と第3問は、どちらも生産の話ですが場所が違います。第2問が金型を作る工程、第3問が量産の工程です。趣旨が場所を書き分けているので、答案も混ぜないほうが安全でしょう。
小ロットになると何が困るのか。品を替える回数が増えるので、そのたびに金型を替えて材料を用意する手間が増えます。いまはその作業を一人が長い時間かけて行っています。
- 変化。発注ロットサイズの減少が起きており、発注元が在庫を減らす方針に変えた(第14段落)。
- X社の条件。1回の注文量は現状よりかなり小さく、納期は注文から7日後になる(第21段落)。
- 詰まりその1。プレス加工の能力の制約があり、会社全体の進み具合を左右している(第13段落)。
- 詰まりその2。一人で行う長時間の段取作業があり、品を替えるたびに時間が消える(第13段落)。
- 食い違い。基準日程で決めるロットサイズのまま加工を続けている(第14段落)。
- 結果。社内に積み上がる在庫が生じ、確定していない分をC社が抱えている(第14段落)。
- 計画の穴。生産計画が立つのはプレス加工の分だけで、組付と仕上げは終わった順に作業する(第14段落)。
対応策の芯は段取時間の短縮です。品を替える手間が小さくなれば、小さい単位で作っても損が出にくくなります。一人で長時間かけている作業を、手順の形にして分担するのが与件文に沿った道です。
次に、加工する量そのものを注文に合わせて小さくします。基準日程で決めるロットサイズを見直さない限り、社内に積み上がる在庫は減りません。ここは趣旨が言う「変化に対応する」の中身そのものです。
3つ目として、計画をプレス加工の先まで伸ばす手があります。組付と仕上げが終わった順の作業のままでは、小さい単位で流したときに後ろが詰まるからです。
120字なので、課題を1文、対応策を3つ。趣旨が課題の整理を求めているので、最初の1文を落とさないでください。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた要求を120字に収めるとこうなる、という例です。
課題は小ロットの生産に対応すること。対応策は①金型交換と材料準備の段取作業を標準化し、複数人による外段取化で段取時間を短縮する、②ロットサイズを発注量に合わせて小さくし社内の在庫を削減する、③組付と仕上まで含めた生産計画を立案する。
116マス / 120マス
第4問 何をデジタル化し、どう進めるか|120字
趣旨は3つ求めています。デジタル化の対象、その業務内容、そして構築のために必要な社内活動です。
出題の趣旨(引用)。「生産業務のスピードアップを図り、生産リードタイムを短縮するためのC社の生産業務の課題を整理し、そのために優先すべきデジタル化の対象、業務内容と、デジタル化構築のために必要となる社内活動について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
この趣旨はこの年でいちばん長く、求めているものも多い。課題の整理、デジタル化の対象と業務内容、そして社内活動。設問文も優先すべき内容と社内活動の2つを並べています。
優先すべきという語が入っているのは、全部をいっぺんに変えられないからです。何から手を付けるかを選び、その理由が答案から読み取れる形にします。
- 元の状態。紙による情報の交換と共有が続いており、受注から納品までの社内業務がつながっていない(第15段落)。
- 道具はある。各業務でのパソコンの活用は既に行われている(第15段落)。
- 体制。8つの課からなる生産部門があり、課をまたぐ受け渡しが多い(第6段落)。
- 急ぐ理由その1。X社の注文は毎週届き、納期は注文から7日後になる(第21段落)。
- 急ぐ理由その2。四半期ごとにX社が商品企画と月の販売予測を知らせてくる(第21段落)。
- つながらない例その1。設計課への業務の集中が、金型の期間全体に影響している(第9段落)。
- つながらない例その2。生産計画がプレス加工の分だけで、後工程が終わった順の作業になっている(第14段落)。
対象を選ぶ軸は、7日で納めるという条件です。注文が入ってから材料を手配し、加工の順番を決めるまでの時間が縮まらないと、この納期には届きません。優先するのは受注と計画と在庫の情報でしょう。
業務内容として書くなら、各課が同じデータを同時に見られるようにすること。道具は既にあるので、新しい設備の話ではなく、つなぎ方の話になります。
社内活動は忘れられやすい要求です。趣旨がわざわざ「デジタル化構築のために必要となる」と書いているので、部門をまたぐ体制を作り、手順とデータの形をそろえる、という段取りを書きます。
120字を3つに割ると1つ40字です。課題、デジタル化の対象と内容、社内活動。趣旨の並び順のまま書くと、要求との対応が読み取りやすくなります。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた要求を120字に収めるとこうなる、という例です。
課題は紙による情報の交換をやめること。優先するのは受注情報と生産計画、在庫状況の共有をデジタル化し、各課が同じデータを同時に見られるようにすること。社内活動は、全課から人を集めた組織を作り、業務手順とデータの様式を標準化し教育する。
116マス / 120マス
第5問 新規取引が開く可能性|100字
趣旨は製品・市場・業績の3つを挙げています。生産のやり方の話ではなく、戦略の話に切り替わる設問です。
出題の趣旨(引用)。「ホームセンターX社との新規取引に応えることによって、C社の今後の戦略に影響する製品や市場、業績などに生じる新たな可能性について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
第1問から第4問までは生産の中身でしたが、この設問だけ視点が上がります。趣旨が製品・市場・業績と3つの言葉を挙げているので、答案もその3つで割ると要求と対応が取れます。
可能性という語の扱いに注意が要ります。いま起きていることではなく、この取引に応えたら何が変わるかを書く設問です。文末は打ち手ではなく、開ける道の形になります。
- 製品その1。X社が求めるのは中価格帯のアルミのプレス加工品で、社長は高い価格帯への拡大も期待している(第20段落)。
- 製品その2。いまの主力は鍋やトレーの繰返受注製品で、業務用の厨房に向いたものに限られる(第2段落)。
- 市場その1。売り先は卸売企業2社の販売先しかなく、そこを通してしか市場に出ていない(第2段落)。
- 市場その2。X社の商品は一般の消費者に届くもので、C社にとって新しい市場になる(第18段落)。
- 業績その1。受注量の減少を埋める先になる(第4段落)。
- 業績その2。X社はコロナ禍でも売上が順調で、アウトドア商品が支えになっている(第18段落)。
- 土台。X社からの品質の評価があり、金型製作技術のノウハウが取引の前提にある(第17・第3段落)。
製品の可能性は、いまの延長にあります。同じアルミのプレス加工で作れるものが、業務用から一般向けへ広がる。社長が高い価格帯を見ているので、そこまで書くと与件文の意図に沿います。
市場の可能性は、依存からの脱出です。卸売企業2社の販売先しかない状態は、観光の需要が消えたときに受注が丸ごと減る形につながりました。届く先が増えれば、その揺れが小さくなります。
業績の可能性は、前の2つの結果として書けます。ただし、小ロットで短納期という条件に応えられることが前提です。第3問と第4問で作った力が、ここで効いてくる構図になっています。
100字なので、3つの可能性を番号で並べると収まります。X社の名前を出す余裕は無いので、内容だけを書きました。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた3つの観点を100字に収めるとこうなる、という例です。
可能性は①業務用に偏った製品を一般消費者向けの分野へ広げ、より高価格帯にも拡大できる、②卸売企業2社への依存を減らし観光需要の変動に強くなる、③小ロット短納期の生産力を得て受注と収益を安定させる。
98マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 卸売企業2社の販売先/受注量の減少/2週間から1か月の金型製作期間/設計課への業務の集中/プレス加工の能力の制約/一人で行う長時間の段取作業/社内に積み上がる在庫/紙による情報の交換と共有 |
| 第2問 | 個別受注の板金加工品/金型製作技術のノウハウ/金型製作と量産の2工程/習熟したベテラン技能者/2週間から1か月の金型製作期間/仕様確認の遅れと設計変更/設計課への業務の集中/ベテラン技能者の高齢化/若手の養成 |
| 第3問 | プレス加工の能力の制約/一人で行う長時間の段取作業/基準日程で決めるロットサイズ/発注ロットサイズの減少/社内に積み上がる在庫 |
| 第4問 | 8つの課からなる生産部門/各業務でのパソコンの活用/紙による情報の交換と共有 |
| 第5問 | 卸売企業2社の販売先/鍋やトレーの繰返受注製品/金型製作技術のノウハウ/コスト低減と生産性向上の提案力/X社からの品質の評価 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。5問とも20点である以外は分かりません。
- 第1問の生産面に何を選ぶかは当サイトの判断です。候補は6つあり、80字に入るのは2つです。
- 第2問で新しい設計の道具に触れなかったのは当サイトの判断です。与件文は2次元のCADを使っているとしか書いていません。
- 第4問で優先する対象を受注と計画と在庫に置いたのも当サイトの見立てです。趣旨は対象を選べとだけ書いています。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和4年度 事例Ⅲは5問あり、配点はすべて20点で並んでいます。
- 趣旨で分析と書かれたのは第1問だけ。残る4問はすべて助言です。
- 与件文は47段落ありますが、うち27段落は工程図が1行ずつ切り出されたものです。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 与件文が47段落もあるのは、なぜですか?
- 生産プロセスの図が1行ずつ段落として切り出されているためです。第11段落から第37段落までがその図にあたり、中身のある段落は第10段落の次が第12段落になります。この記事の段落番号は、図の行も数えた通し番号です。
- 第2問と第3問は、どちらも納期や生産の話に見えます。書き分けの軸は何ですか?
- 工程が違います。第2問の趣旨は金型製作工程と製品量産工程を通した新規受注の話、第3問は製品量産工程に限った小ロット化の話です。第3問で金型の設計を書くと、趣旨が示した範囲を外れます。
- 設問文は「述べよ」なのに、趣旨に助言と書いてあるのはなぜですか?
- 理由は公表されていません。分かるのは、この年の事例Ⅲの趣旨が第2問から第5問まで助言という語を使っている事実だけです。対応策を求めている設問なので、文末は打ち手の形にしつつ、趣旨が求めた課題の整理も落とさない書き方が安全です。




