令和3年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和3年度 事例Ⅰは5問とも配点20点・100字以内でそろっています。
- 趣旨の語は分析が3問、助言が1問、提言が1問。最終問は助言ではありません。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和3年度 事例Ⅰの5設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は5問とも20点・100字以内で、趣旨の語は分析が3問、助言と提言が1問ずつでした。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えています。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文2,396字・解答字数の合計500字。80分の内訳は読む12分/考える48分/書く20分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 100字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 述べる | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 述べる | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問 | 助言 | 20点 | 100字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 第5問 | 述べる | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 33%(12〜65%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 4分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 10分 |
| 第3問 | 4分 | 10分 |
| 第4問 | 4分 | 10分 |
| 第5問 | 4分 | 10分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える48分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第8段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
活版印刷の下請けから始まった会社が、印刷機を手放して段取り役に回り、3代目の代でウェブや広告へ踏み出す話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は首都圏で印刷と広告制作を手がける15名の会社です。1960年に家族で営む印刷会社として始まり、事務用品の下請けと特殊な帳票を引き受けてきました。活版の時代は工程ごとに職人の技能が要りましたが、オフセット印刷、続いてデジタル化が進むと分業は崩れ、事務用の印刷は単価が下がり続けます。
「活字を並べて版を作ってきた。その工程は、もう社内には残っていない。」
多くの同業が新しい印刷機に入れ替えるなか、2代目は逆を選びました。印刷機と工場を順に手放し、外の会社と組む体制へ切り替えます。社内に残したのは、割り付けやデザイン、紙やインクの仕様を決め、工程ごとに得意な会社を手配して指示を出す仕事でした。
「印刷機も工場も売った。工程は外に出し、うちは段取りを決める仕事に絞った。」
同時に、事務用の印刷を大きく縮め、手間のかかる高精度な美術印刷へ需要を絞ります。催しや展示の印刷物、写真集や図録といった、仕上がりの精度が問われる分野で仕事を得ました。2000年代からは高精細な画像をデータにする分野へ資源を注ぎ、案件ごとにチームを組む形になります。
広告代理店にいた3代目が加わると、2代目はデザイン部門を新しく立ち上げて任せました。3代目は人脈からウェブデザイナーを迎え、紙に頼らない分野へ広げます。しかし中小企業向けの広告制作には競合が多く、新しい市場を開く営業に人もお金も割けません。売上は目立って戻らないまま、いまに至ります。
(広告の会社から戻り、デザイン部門を任された。紙に頼らない仕事を増やしたいが、案件が取れない。)
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問と第2問は、どちらも2代目が下した判断の理由です。** 印刷機を手放したこと、3代目に新しい部門を任せたこと。3代目が何をしたかを書く設問ではありません。
- **第3問は利点と欠点の両方です。** 100字しかないので片方に寄せると残りが空きます。印刷機を持たないことは身軽さでもあり、実作業を外に握られていることでもある、という両面から出すことになります。
- **第4問は「外部企業との関係」です。** 案件ごとにチームを組む、という現在の形が出発点で、その関係をどう発展させるかが問われています。社内の話に寄せると要求からずれます。
- **第5問は長期の課題と解決策で、営業が空白だという事実が効きます。** 3代目は営業らしい営業をしておらず、既存客の紹介と口コミで回してきました。新しい市場を開くための人と金が無い、という状態そのものが課題です。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、外の会社を束ねる段取りの力と、美術印刷で得た高精度の仕事、そして3代目が持ち込んだ人と人脈に分かれます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。問題PDFの印刷どおりに数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「外部にサプライチェーンのネットワークを構築し」 | 協力企業のネットワーク | 第5段落 | 第1問・第4問 |
| 「顧客の細かいニーズに対応できるような分業体制」 | 細かい要望に応える分業体制 | 第5段落 | 第1問・第4問 |
| 「多工程にわたり高品質、高精度な印刷を必要とする美術印刷の分野にのみ需要を絞る」 | 美術印刷への需要の絞り込み | 第5段落 | 第1問・第3問 |
| 「高精度な仕上がりが求められる分野において需要を獲得していった」 | 高精度が求められる分野での受注 | 第5段落 | 第1問 |
| 「図案の作成と顧客との接点となるコンサルティングの工程のみを社内に残し」 | 図案作成と顧客との接点 | 第6段落 | 第1問・第5問 |
| 「各工程間の調整を専門に行うディレクション業務へと特化していった」 | 工程を調整するディレクション業務 | 第6段落 | 第1問・第4問・第5問 |
| 「プログラミングの専門知識を持つ人材を採用し始めた」 | プログラミングに通じた人材 | 第7段落 | 第2問・第3問 |
| 「アートディレクターがプロジェクトを統括して事業の進捗を管理し」 | 案件を統括するアートディレクター | 第7段落 | 第4問・第5問 |
| 「デザイナー、アーティストとの共同プロジェクトに参画していた人脈」 | 3代目のデザイナーとの人脈 | 第8段落 | 第2問・第4問 |
| 「ウェブデザイナーを2名採用した」 | ウェブデザイナー2名 | 第8段落 | 第2問・第3問 |
| 「外部のフォトグラファーやイラストレーター、コピーライター、製版業者、印刷職人との協力関係を構築する」 | 制作を担う外部人材との協力関係 | 第9段落 | 第4問 |
| 「事業案件に合わせてプロジェクトチームが社内に形成される」 | 案件ごとのプロジェクトチーム | 第9段落 | 第4問・第5問 |
| 「既存顧客からの紹介や口コミを通じて新たな顧客を取り込んできた」 | 紹介と口コミによる顧客獲得 | 第10段落 | 第5問 |
13行は3つの束に分かれます。第5段落と第6段落の6つが2代目の作った事業の骨格、第7段落と第8段落の4つが人と組織、第9段落と第10段落の3つがいまの動き方です。
第1問で使うのは前半の6つだけになります。設問が問うているのは2代目の判断であって、3代目が加わったあとの話ではないからです。
3代目が持ち込んだものは2つしかありません。人脈と、その人脈で採ったウェブデザイナーです。第2問と第3問はこの2つを軸に組み立てることになります。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は第8段落に4つ、第9段落と第10段落に3つ、第6段落に1つ。新規事業が取れないことと、社内に実作業が残っていないことの2系統です。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。第8段落に集まっているのは、3代目が広げた新しい事業の側に困りごとが偏っているからです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「定年を迎えるごとに版下制作工程、印刷工程を縮小し」 | 職人の定年による工程の縮小 | 第6段落 | 第4問・第5問 |
| 「新たな事業の案件を獲得していくことは難しかった」 | 新規案件の獲得の難しさ | 第8段落 | 第3問・第5問 |
| 「新規の需要を創造していくことが求められた」 | 既存の顧客への新規需要の創造 | 第8段落 | 第3問・第5問 |
| 「新規の市場を開拓するための営業に資源を投入することも難しい」 | 営業に資源を割けないこと | 第8段落 | 第3問・第5問 |
| 「印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している」 | 印刷を伴わない受注の伸び悩み | 第8段落 | 第3問・第5問 |
| 「全ての工程におけるオペレーションは外部に依存している」 | 実作業の外部への依存 | 第9段落 | 第4問・第5問 |
| 「3代目は特に営業活動を行わず」 | 3代目が営業をしていないこと | 第10段落 | 第5問 |
| 「売り上げにおいて目立った回復のないまま現在に至っている」 | 売上が回復しないまま | 第10段落 | 第3問・第5問 |
②③はどちらもA社の内側を並べた表です。技術革新で単価が下がったことや、広告制作の分野に競合が数多くいることは会社の外側の話なので、この2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
8行のうち第8段落の4つは、いずれも同じ場所を指しています。新しい事業が売れないこと、需要を作る必要があること、営業に手が回らないこと、受注が増えないこと。原因と結果が1つの段落に並んでいる形です。
残る4つは体制の話です。職人が定年で去るたびに工程が外へ出ていき、いま社内には実作業がありません。営業も置いていないので、売上が戻る仕組みが無い状態が続いています。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅰは分析が3問、助言が1問、提言が1問でした。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和3年度 事例Ⅰは、印刷会社A社が印刷機を手放し、広告制作へ踏み出す事例です。設問は5問あり、配点も字数も5問そろっています。趣旨が名指ししている能力と並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 100字以内 | 分析(経営戦略の視点) |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 分析(経営組織の視点) |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 分析(事業戦略の視点) |
| 第4問 | 20点 | 100字以内 | 助言 |
| 第5問 | 20点 | 100字以内 | 提言 |
配点が均等なので、時間の配り方も均等でよい年です。1問に使える時間は同じで、どれかを厚く書いても点の上限は変わりません。書けない設問を捨てる判断だけが効きます。
気をつけたいのは最後の2問です。第4問は助言、第5問は提言。どちらも打ち手を書く設問ですが、前の3問は分析です。前半で打ち手を書き始めると、問われていないことを書くことになります。
第1問 なぜ印刷機を手放したのか|100字
趣旨は「ニッチ戦略」と「高付加価値分野への経営資源の再配分」を名指ししています。設備を売った話だけでは半分です。
出題の趣旨(引用)。「ニッチ戦略、高付加価値分野への経営資源の再配分について、経営戦略の視点から分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は2つを挙げています。狭い分野を選んだこと、そして資源をそちらへ移し替えたこと。設問文は理由を問うているので、答案は「なぜそうしたか」の形で締めます。
理由の側には外側の事情があります。技術が変わって印刷が安くなり、他の業種からも会社が入ってきて、単価が下がっていきました。この材料は②③の表ではなく①にあります。
- 外側の事情。オフセット印刷機とデジタル化で単価が下がり、他の業種からの参入も増えた(第3・第4段落)。
- 手放したもの。印刷機と工場を順に売り、設備を持たない形に切り替えた(第5段落)。
- 置き換えたもの。協力企業のネットワークと、細かい要望に応える分業体制(第5段落)。
- 絞ったもの。美術印刷への需要の絞り込みを進めた(第5段落)。
- 得たもの。高精度が求められる分野での受注(第5段落)。
- 残した仕事。図案作成と顧客との接点、そして工程を調整するディレクション業務(第6段落)。
並べると、捨てたものと拾ったものが対になっています。設備と量を捨て、段取りと精度を拾った。趣旨がいう資源の再配分は、この対のことです。
100字なので、外側の事情に1文、切り替えの中身に1文、狙いに1文。3文で組むと収まります。設備を売った経緯だけを詳しく書くと、絞り込みの話が入りません。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つを100字に収めるとこうなる、という例です。
理由は、技術革新で事務用の印刷が安くなり他業種の参入も増えたため。印刷機と工場を売却し、版式ごとに専門特化した協力企業との分業体制へ移行。高精度が求められる美術印刷に経営資源を集中し、価格競争を避けた。
100マス / 100マス
第2問 なぜ3代目に新しい部門を任せたか|100字
趣旨は「事業承継」と「後継経営者の新規事業の立ち上げ」を並べています。人選の理由だけでなく、承継の側面にも触れます。
出題の趣旨(引用)。「先代経営者からの事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げに関して、経営組織の視点から分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は「経営組織の視点から」と範囲を示しています。3代目が優秀だから、では組織の話になりません。部門を新しく作って任せたという組織の動かし方に触れる必要があります。
- 3代目が持っていたもの。広告代理店での経験と、3代目のデザイナーとの人脈(第8段落)。
- 採った人。その人脈を生かしてウェブデザイナー2名を迎えた(第8段落)。
- 会社の下地。すでにプログラミングに通じた人材を採り始めていた(第7段落)。
- 作った器。図案を作る工程を版下から切り離し、独立した部門にした(第8段落)。
- 向かう先。紙に頼らない分野へ事業を広げること(第8段落)。
- 承継の側面。2020年に3代目へ事業が引き継がれている(第1段落)。
A社での経験が無いことは、この設問では欠点ではありません。既存の印刷の仕事を知らないからこそ、紙に縛られない発想が入る。設問文が「経験のなかった」とわざわざ書いているのは、そこを問うためだと読めます。
後継者を育てる意図があった、と書く根拠は趣旨の「事業承継」の語にあります。ただし与件文には育成という言葉はありません。ここは当サイトの見立てです。
100字なら、3代目が持っていたもの、任せた組織の形、そして狙い。この3つで埋まります。人脈の中身を細かく書くと、組織の話が消えます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの論点を100字に収めるとこうなる、という例です。
理由は①3代目が広告代理店で得た知見とデザイナーの人脈を、紙に依存しない新規事業に活かせるため、②図案制作を独立させた部門を任せ、ウェブデザイナーを採用して人材を刷新するため、③次期経営者を育てるため。
100マス / 100マス
第3問 事業を広げた利点と欠点|100字
趣旨は「競合との差別化」と「新規事業と既存事業とのシナジー効果」。利点はこの2語に沿って書くと、趣旨と対応が取れます。
出題の趣旨(引用)。「事例企業の競合との差別化や新規事業と既存事業とのシナジー効果について、事業戦略の視点から分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は利点と欠点の両方を求めています。100字を半分ずつ使う設問なので、片方を厚く書くと、もう片方が1行で終わります。
利点の材料は②に、欠点の材料は③にそろっています。欠点のほうは第8段落に4つ固まっており、選ぶというより削る作業になります。
- 利点。同じ顧客に紙とウェブの両方を出せるようになった(第8段落)。
- 利点。デザイン部門も印刷部門も外注先の管理を担い、案件ごとのプロジェクトチームで動ける(第9段落)。
- 利点。プログラミングに通じた人材とウェブデザイナー2名が社内にいる(第7・第8段落)。
- 欠点。新規案件の獲得の難しさが続いている(第8段落)。
- 欠点。既存の顧客への新規需要の創造が要る(第8段落)。
- 欠点。営業に資源を割けないことと、印刷を伴わない受注の伸び悩み(第8段落)。
- 欠点。売上が回復しないまま現在に至っている(第10段落)。
- 外側の事情。中小企業向けの広告制作には競合が数多くいる(①)。
利点を書くときは、2つの部門が別々に伸びた話にしないことです。趣旨がシナジーと書いている以上、既存の印刷の仕事と新しい広告の仕事がつながっている形を示す必要があります。
欠点は4つとも同じ根から出ています。営業が無いので新規が取れず、受注も売上も伸びない。1つずつ並べるより、因果でつないだほうが字数が浮きます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの観点を100字に収めるとこうなる、という例です。
利点は、両部門が協力企業の管理を共有し、既存顧客に紙とウェブを一括提案できる相乗効果と、他社との差別化。欠点は、競合が多い分野で新規需要の創造が必要な一方、営業に資源を割けず受注も売上も伸びない点。
99マス / 100マス
第4問 外部企業との関係をどう発展させるか|100字
趣旨は「関係」と「ネットワークの構築」の2語。いまある関係を深める話と、無いつながりを作る話の両方が要ります。
出題の趣旨(引用)。「協力企業との関係とネットワークの構築について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
この年で唯一、趣旨が助言と書いている設問です。文末は打ち手の形で締めます。設問文も「いかに発展させていくことが求められるか」と、これからの話を求めています。
いまの関係は印刷の側に偏っています。2代目が作ったのは版式ごとの分業で、3代目が広げたウェブや広告の側には、同じ厚みのつながりがありません。
- いまある形。協力企業のネットワークと、制作を担う外部人材との協力関係(第5・第9段落)。
- 束ね役。案件を統括するアートディレクターと、案件ごとのプロジェクトチーム(第7・第9段落)。
- 特化の中身。工程を調整するディレクション業務が社内の主な仕事(第6段落)。
- 弱点。実作業の外部への依存が全工程に及ぶ(第9段落)。
- 弱点。職人の定年による工程の縮小が続き、社内に作る力が残っていない(第6段落)。
- 3代目の持ち込み。3代目のデザイナーとの人脈(第8段落)。
発展のさせ方は2つに分かれます。1つは範囲を広げること。印刷を担う会社に加えて、ウェブや広告の側の作り手を同じネットワークに入れます。もう1つは関係を深めること。案件が終わったら切れる相手ではなく、続けて組む相手にします。
続けて組む相手にすると何が変わるかは、与件文には書かれていません。技術やノウハウが行き来して新しい提案が出やすくなる、と置いたのは当サイトの見立てです。
100字で、範囲の拡張、束ね方、狙い。3つ書くと埋まります。個々の外部人材の名前を並べると、それだけで20字を超えます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2語を100字に収めるとこうなる、という例です。
①3代目の人脈で得たウェブや広告の外部人材を、既存の協力企業と同じネットワークに加える。②案件ごとのチームに双方を組み込み、アートディレクターが統括する。③継続的な取引で関係を深め、新規需要に応える。
100マス / 100マス
第5問 長期的な課題と解決策|100字
趣旨は「事業戦略や経営組織の構築」と2つを並べています。課題と解決策の両方を、事業と組織の両面で書く設問です。
出題の趣旨(引用)。「次世代経営者の事業戦略や経営組織の構築に関わる論点について、提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨の語は提言です。この年の事例Ⅰで助言と書かれているのは第4問だけで、最終問は提言でした。求められている中身は打ち手ですが、趣旨の語だけを見て助言だと決めつけないほうが安全です。
設問文が「長期的な」と限っているので、目の前の1件をどうするかではありません。事業を続けていくための土台の話になります。
- 課題。3代目が営業をしていないことと、紹介と口コミによる顧客獲得に頼っていること(第10段落)。
- 課題。印刷を伴わない受注の伸び悩みと、売上が回復しないまま(第8・第10段落)。
- 課題。実作業の外部への依存と、職人の定年による工程の縮小(第6・第9段落)。
- 資産。工程を調整するディレクション業務と、図案作成と顧客との接点(第6段落)。
- 資産。案件ごとのプロジェクトチームと、案件を統括するアートディレクター(第7・第9段落)。
- 体制。印刷部門が5名、デザイン部門が10名の2部門で動いている(第10段落)。
2つの部門は、いま別の仕事をしています。片方は紙、片方はウェブ。ただし外注先を管理するという点では同じ動き方なので、束ねる余地があります。
解決策の芯は、社内に残っている段取りの力を全社の力にすることです。特定の人の頭にある進め方を、部門をまたいで使える形にすれば、案件の幅が広がります。ここは当サイトの見立てです。
営業をどうするかも避けられません。ただし人もお金も割けない状態なので、新しく営業部門を作る話にはしにくい。既存の顧客と紹介の流れを使う形にすると、与件文の範囲に収まります。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの面を100字に収めるとこうなる、という例です。
課題は、2部門が別々に動き新規需要を作る営業も育っていない点。解決策は①両部門をまたぐプロジェクトチームを常設し、②ディレクションの進め方を全社で共有して人材を育て、③既存顧客と紹介を軸に受注を広げる。
100マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 協力企業のネットワーク/細かい要望に応える分業体制/美術印刷への需要の絞り込み/高精度が求められる分野での受注/図案作成と顧客との接点/工程を調整するディレクション業務 |
| 第2問 | プログラミングに通じた人材/3代目のデザイナーとの人脈/ウェブデザイナー2名 |
| 第3問 | 美術印刷への需要の絞り込み/プログラミングに通じた人材/ウェブデザイナー2名/新規案件の獲得の難しさ/既存の顧客への新規需要の創造/営業に資源を割けないこと/印刷を伴わない受注の伸び悩み/売上が回復しないまま |
| 第4問 | 協力企業のネットワーク/細かい要望に応える分業体制/工程を調整するディレクション業務/案件を統括するアートディレクター/3代目のデザイナーとの人脈/制作を担う外部人材との協力関係/案件ごとのプロジェクトチーム/職人の定年による工程の縮小/実作業の外部への依存 |
| 第5問 | 図案作成と顧客との接点/工程を調整するディレクション業務/案件を統括するアートディレクター/案件ごとのプロジェクトチーム/紹介と口コミによる顧客獲得/職人の定年による工程の縮小/新規案件の獲得の難しさ/既存の顧客への新規需要の創造/営業に資源を割けないこと/印刷を伴わない受注の伸び悩み/実作業の外部への依存/3代目が営業をしていないこと/売上が回復しないまま |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第3問の20点を利点と欠点でどう配るかは分かりません。
- 第2問で後継者を育てる意図に触れたのは当サイトの見立てです。趣旨に事業承継とありますが、与件文に育成の記述はありません。
- 第4問で継続的な取引に触れたのも当サイトの見立てです。与件文には案件ごとに協力関係を作るとしか書かれていません。
- 第5問でディレクションの共有を解決策に置いたのも当サイトの判断です。与件文に社内の技術移転の記述はありません。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和3年度 事例Ⅰは5問とも配点20点・100字以内でそろっています。
- 趣旨の語は分析が3問、助言が1問、提言が1問。最終問は助言ではありません。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 設問が5問もあると、時間はどう配ればよいですか?
- この年は5問とも配点20点・100字以内でそろっています。どれかを厚く書いても点の上限は変わらないので、時間も均等でかまいません。効くのは、書けない設問に時間を溶かさない判断のほうです。
- 第5問の趣旨が助言ではなく提言なのは、何か違いがありますか?
- 違いは公表されていません。分かるのは、この年の事例Ⅰで助言と書かれたのが第4問だけで、第5問は提言だという事実です。どちらも打ち手を書く設問なので、文末は打ち手の形にしつつ、趣旨が挙げた論点を落とさない書き方が安全です。
- 第1問に3代目の話を書いてはいけませんか?
- 設問が問うているのは2代目がファブレス化した理由です。3代目が加わるのは第8段落からで、時点が違います。100字しかないので、対象を間違えると理由そのものが入りません。
- 外部環境の材料は、どの節から探せばよいですか?
- ①に書きました。②③はA社の内側だけを並べる表なので、技術革新による単価の下落や、広告制作の分野に競合が多いことは載っていません。第1問と第3問で外側の事情が要るときは、①に戻ってください。




