令和5年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和5年度 事例Ⅰの趣旨に「助言」の語はありません。分析・考察・立案・描くの4語です。
- 第4問は設問が2つに分かれ、80字と100字を別々に書く形でした。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和5年度 事例Ⅰの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第4問が2つの設問に分かれており、趣旨も5行あります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えました。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文3,308字・解答字数の合計410字。80分の内訳は読む17分/考える47分/書く16分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 述べる | 20点 | 30字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 述べる | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 助言 | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問(小問2) | 助言 | 40点 | 80字 / 100字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 1分 | 9分 |
| 第2問 | 4分 | 9分 |
| 第3問 | 4分 | 9分 |
| 第4問 | 7分 | 19分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える47分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第4段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
地元で長く続く蕎麦店が、近くの同業を譲り受けることになり、性格の違う2つの店をどうつなぐかに向き合う話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は大都市近郊の蕎麦店で、働くのは15名(正社員5名)。1960年代の後半、都心の老舗からのれん分けを受けた先代が開きました。周りに飲食店が少なかったため品書きが伸び、町の食堂に近づきます。1980年代の宅地化で売上は1億円に届きました。
1990年代の半ばに近隣へファミリーレストランやチェーン店が相次いで開き、売上は5千万円まで落ちます。立て直しに入った現経営者は、丼ものやうどんを外し、出前もやめて店で食べてもらう形に絞りました。残したのは看板である蕎麦です。
「先代の広げすぎた品書きを削り、蕎麦に絞った。近所の店を譲り受けることにした。」
「先代の下から厨房にいる。若い者を育てるのも私の仕事だ。」
2010年の代替わりで、客層を地元の家族連れに絞り込みます。席を80から50へ減らして個室やボックス席を中心にし、原材料を選び直して値段を上げ、看板の一品を作りました。組織も接客・厨房・管理の3部門に分け、専任のリーダーを立てます。目的を共有する場を作ったことで人が定着し、接客では自分たちで問題を見つけて直す気風が育ちました。
「全体をまとめる役をもらっている。いつかは自分の店を持ちたい。」
そこへ、同じ老舗からのれん分けを受けた近所のX社が、経営者の高齢と後継ぎ不在で事業を譲りたいと持ちかけます。X社は駅の一見客と通勤客を狙い、単価を抑えて回転を上げる店で、接客は手数を減らす方向でした。決めごとは経営者が敷いた手順で回り、横のやり取りは少ない組織です。従業員からは退職の相談が出始めています。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は30字ずつです。** しかも「統合前の」と時点が切られています。X社を譲り受けたあとの話を書くと、時点の外に出ます。
- **第2問は先代との違いを問う設問です。** 現経営者が何をしたかだけを書くと、比べたことになりません。何でも出す町の食堂だった先代に対し、蕎麦へ絞って客層も絞った、という対比が骨です。
- **第3問はX社の話で、A社の話ではありません。** 単価と回転の考え方、経営者が手順を敷いて回してきた組織、辞める人が多い現状。どれもA社とは逆向きで、そこが留意点になります。
- **第4問は設問1が組織の統合(80字)、設問2が事業の展開(100字)です。** 人の話と事業の話が分かれています。設問1に新商品や新客層を書くと、設問2で書くことが無くなります。
- **外国人観光客と若い人が増えている、という変化は会社の外側にあります。** ②③の表はA社とX社の内側なので、設問2の材料はこの節から取ってください。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、A社の商品と組織、そしてX社の立地と調達に分かれます。趣旨が「互いの強み」と書いているので両社を並べます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。問題PDFの印刷どおりに数えています。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「蕎麦を自前で打っており、コシの強い蕎麦が人気を博した」 | 自前で打つコシの強い蕎麦 | 第2段落 | 第1問(強み) |
| 「元々の看板であった蕎麦に資源を集中した」 | 蕎麦への経営資源の集中 | 第5段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「メインの客層を地元のファミリー層に絞り込んだ」 | 地元ファミリー層への絞り込み | 第7段落 | 第2問・第4問(設問2) |
| 「看板となるオリジナルメニューを開発し」 | 看板のオリジナルメニュー | 第7段落 | 第1問(強み)・第2問・第4問(設問2) |
| 「使用する原材料も厳選して、以前よりも価格を引き上げた」 | 原材料の厳選による高価格化 | 第7段落 | 第2問 |
| 「それぞれに専業できるリーダーを配置してアルバイトを統括させた」 | 3部門のリーダー制 | 第8段落 | 第1問(強み)・第4問(設問1) |
| 「目的意識の共有や意思の統一を図るチームづくりを行った」 | 目的意識を共有するチームづくり | 第8段落 | 第4問(設問1) |
| 「自主的に問題点を提起し解決するような風土が醸成されていた」 | 自主的に改善する接客の風土 | 第8段落 | 第1問(強み)・第4問(設問1) |
| 「主に地域住民の需要に支えられて客足が絶えることはなく」 | 地域住民に支えられた客足 | 第9段落 | 第1問(強み) |
| 「持ち帰り用の半調理製品の販売」 | 持ち帰り需要への対応実績 | 第9段落 | 第4問(設問2) |
| 「一見の駅利用者や通勤客をターゲットとしており」 | X社の駅前立地と一見客・通勤客 | 第11段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「地元産の高品質な原材料をも扱う生産者と直接取引をしていた」 | X社の高品質な原材料の調達ルート | 第11段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「客単価を抑えて顧客回転率を高めるオペレーション」 | X社の回転率重視の運営 | 第11段落 | 第3問・第4問(設問2) |
上の10行がA社、下の3行がX社です。第1問が問うているのは統合する前のA社なので、X社の3行は第1問には入りません。名前の頭に社名を付けているのは、答案でも書き分ける必要があるからです。
A社の10行は、商品に関わるものと組織に関わるものに割れます。前半の5つが商品と客層、後半の3つが人と組織、残りの2つがコロナ禍を越えた実績です。第4問(設問1)で使うのは、後半の3つだけになります。
X社の3行は、A社に無いものが並びます。駅前という場所、良い材料に届く調達の道、そして回転を上げる運営です。第4問(設問2)でA社の穴と突き合わせると、統合する意味が答案の上で説明できます。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
A社の課題は仕入れと客層の高齢化、X社の課題は組織と人です。第3問と第4問(設問1)は、下の6行からほぼ作れます。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。上の5行がA社、下の6行がX社の課題です。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「鉄道の最寄り駅からバスで20分ほど離れた県道沿いに立地し」 | 駅から離れた立地 | 第1段落 | 第1問(弱み)・第4問(設問2) |
| 「新規のメニューの開発力も弱く」 | メニュー開発力の弱さ | 第6段落 | 第1問(弱み) |
| 「近隣の原材料の仕入れ業者の高齢化によって、原材料の仕入れが不安定になり」 | 原材料の仕入れの不安定化 | 第7段落 | 第1問(弱み)・第4問(設問2) |
| 「原材料の高騰がA社の収益を圧迫する要因となっていた」 | 原材料高騰による収益の圧迫 | 第9段落 | 第1問(弱み)・第4問(設問2) |
| 「常連である地元の顧客も高齢化し」 | 常連客の高齢化 | 第9段落 | 第1問(弱み)・第4問(設問2) |
| 「接客やサービスは省力化されてきた」 | X社の省力化された接客 | 第11段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「厨房、接客、管理の従業員は担当業務に専念するのみで横のつながりが少なく」 | X社の部門間の連携の乏しさ | 第11段落 | 第3問・第4問(設問1) |
| 「担当を横断する意思疎通が必要な場合、X社経営者がそれを補っていた」 | X社経営者への意思疎通の依存 | 第11段落 | 第3問・第4問(設問1) |
| 「大手外食チェーンとの価格競争は難しく、商品やサービスの差別化が必要であった」 | X社の価格競争からの脱却の必要 | 第12段落 | 第3問・第4問(設問2) |
| 「仕事がきついことを理由に離職率も高く、常にアルバイトを募集する必要があった」 | X社の高い離職率 | 第12段落 | 第3問・第4問(設問1) |
| 「不安になったX社の正社員やアルバイトから退職に関わる相談が出てきている」 | X社従業員の統合への不安 | 第13段落 | 第4問(設問1) |
②③はA社とX社の内側を並べた表です。地域に増えている観光客や若い人といった外側の変化は、この2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
A社の5行のうち、第1段落と第6段落の2つは古い記述です。立地は開業のときから変わりませんが、メニュー開発力の弱さは2005年ごろの話で、2010年に看板の一品を作ったあとも残っているかは書かれていません。第1問に入れるかは読み方が分かれます。
この記事は、統合の直前にあたる第7段落と第9段落の3つを弱みの中心に置きました。仕入れが不安定なこと、値上がりが利益を削っていること、常連が年を重ねていること。いずれも統合を決めた時点で残っている課題です。
X社の6行は、第11段落に3つ、第12段落に2つ、第13段落に1つ。前の2つの段落は買収前からあった性質で、第13段落の1つだけが統合の話が出たあとに生じたものです。第4問(設問1)が扱うのは、この最後の1つです。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅰの趣旨には、助言という語が一度も出てきません。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和5年度 事例Ⅰは、大都市近郊の蕎麦店A社が近隣の同業X社を譲り受ける事例です。設問は4問ですが、第4問が2つに分かれているため、趣旨は5行あります。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 30字以内(強み・弱みそれぞれ) | 分析 |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 考察 |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 分析 |
| 第4問(設問1) | 40点(設問1・2で) | 80字以内 | 考察 |
| 第4問(設問2) | 40点(設問1・2で) | 100字以内 | 立案・成長戦略を描く |
気づくのは、助言という語が1行も無いことです。設問文のほうは第3問と第4問で助言せよと求めていますが、趣旨の側は分析・考察・立案・描くという語を使っています。趣旨に書いていない語で設問の性格を決めないほうが安全です。
第4問だけ配点が40点で、全体の4割を占めます。しかも80字と100字を別々に書くので、書く量そのものも多くなります。時間はここを厚く取り、第1問の30字は迷わず出せるところまで型を作っておくのが現実的です。
第1問 統合前の強みと弱み|30字ずつ
趣旨は「内部環境を分析する」と書いています。外側の話も、X社の話も、この設問には入りません。
出題の趣旨(引用)。「X社との経営統合前におけるA社の内部環境を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は分析です。しかも「内部環境」と限っているので、市場の追い風や向かい風は入りません。時点も「経営統合前」と限られており、X社を譲り受けたあとの話も外れます。使う材料は②③の上半分だけです。
| 観点 | ②③のどの材料を使うか |
|---|---|
| 強み(内部) | 自前で打つコシの強い蕎麦/看板のオリジナルメニュー/3部門のリーダー制/自主的に改善する接客の風土/地域住民に支えられた客足 |
| 弱み(内部) | 駅から離れた立地/メニュー開発力の弱さ/原材料の仕入れの不安定化/原材料高騰による収益の圧迫/常連客の高齢化 |
強みは5つ、弱みも5つ。30字に入るのは2つです。強みは商品と組織から1つずつ取ると、A社が何で稼いできたのかと、それを支える体制の両方が示せます。
弱みの選び方は割れます。メニュー開発力の弱さは2005年ごろの記述で、その後に看板の一品を作っているからです。この記事は、統合の直前まで残っている仕入れと客層の2つを取りました。
字数は観点ごとに30字以内です。「強みは〜です」と文で書くと材料が1つしか入りません。名詞で締めて番号で並べると、30字でも2つ入ります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた内部環境の分析を、30字に収めるとこうなる、という例です。
以下2つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
①自家製のコシある蕎麦と看板メニュー、②自主的な改善の風土。
30マス / 30マス
①駅から離れた立地と原材料の調達不安、②常連客の高齢化。
28マス / 30マス
第2問 先代との戦略の違いと狙い|100字
趣旨は「過去の経営戦略との違いとその目的」。違いだけを並べて狙いを書き忘れると、要求の半分が空になります。
出題の趣旨(引用)。「A社の現経営者は、入社以来、父である先代経営者と異なる経営戦略を展開してきた。本問は、A社を取り巻く経営環境の変化に伴い、過去の経営戦略との違いとその目的について、考察する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨が求めているのは2つです。先代との違いと、その目的。設問文も「差別化を行ってきたか、かつその狙いは何か」と2つを並べています。片方だけを厚く書くと、もう片方が入りません。
もうひとつ、趣旨は「経営環境の変化に伴い」と条件を付けています。現経営者が方針を変えたのは思いつきではなく、競合が増えて昼の需要を奪われたからです。理由の側にも与件文の根拠があります。
- 背景。1990年代半ばに近隣で競合が増え、売上の柱だった昼の客を奪われた(第4段落)。
- 絞り込み。手間の割に合わない品を外し、出前もやめ、蕎麦への経営資源の集中を進めた(第5段落)。
- 客層。メインを地元ファミリー層への絞り込みに変え、席を減らして個室中心に改装した(第7段落)。
- 価格。原材料の厳選による高価格化に踏み切った(第7段落)。
- 商品。看板のオリジナルメニューを作り、近隣の外食店との違いを打ち出した(第7段落)。
- 組織。正社員を増やして育て、3部門のリーダー制を敷いた(第8段落)。
- 結果。代替わりから5年は前年を上回り、2015年以降は利益が安定した(第8段落)。
先代のやり方は、何でも出して地域全体を相手にする商売でした。現経営者はその逆を選んでいます。品目を減らし、客層を絞り、値段を上げる。捨てることで違いを作った、という構図です。
100字に7つは入りません。趣旨が「違いとその目的」と書いている以上、違いを3つか4つに絞って、最後に狙いを1文残します。組織の話まで入れると、狙いを書く場所が消えます。
狙いを「収益性の向上」と書く根拠は、与件文が値上げと差別化を並べて書いていること、そして競合との価格競争を避ける必要があったことにあります。ここは当サイトの見立てで、趣旨に目的の中身までは書かれていません。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの要求を100字に収めるとこうなる、という例です。
先代の総花的なメニューと出前をやめ、蕎麦に資源を集中した。客層を地元ファミリー層に絞り、原材料を厳選して価格を上げ、看板メニューと個室で商品の質を高めた。狙いは競合との差別化による収益性の向上。
97マス / 100マス
第3問 X社のどこに留意するか|100字
趣旨が「異質な2社」と書いています。X社の欠点を並べるのではなく、A社との違いを軸に書く設問です。
出題の趣旨(引用)。「今後、顧客や商品サービス、立地や店舗オペレーションなどの面で異質な2社(A社とX社)が経営統合するに当たって、A社経営者が事前に留意しておくべき、経営戦略や経営組織に関わる諸課題を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は珍しく、見るべき面を具体的に4つ挙げています。顧客、商品サービス、立地、店舗オペレーション。そのうえで「経営戦略や経営組織に関わる」課題だと範囲を示しています。設問文は助言せよと求めていますが、趣旨の能力は分析です。
書き方の軸は「異質」という語です。X社が悪いという話ではありません。A社とX社が別のやり方で成り立ってきたから、そのまま重ねると噛み合わない。この対比が消えると、趣旨の言葉に届きません。
- 顧客。X社の駅前立地と一見客・通勤客に対し、A社は地元ファミリー層への絞り込み(第7・第11段落)。
- 商品サービス。X社の省力化された接客に対し、A社は原材料の厳選による高価格化(第7・第11段落)。
- 立地。X社は駅前、A社は駅から離れた立地(第1・第11段落)。
- オペレーション。X社の回転率重視の運営に対し、A社は個室中心でゆっくり過ごす形(第7・第11段落)。
- 組織。X社の部門間の連携の乏しさと、X社経営者への意思疎通の依存(第11段落)。
- 人。X社の高い離職率が続き、募集をやめられない状態にある(第12段落)。
- 競争。X社の価格競争からの脱却の必要が、統合前から残っている(第12段落)。
趣旨が「経営戦略や経営組織」と2つを並べているので、答案も2つに割ります。前半で客層と価格帯とサービスの違い、後半で組織と人の状態。どちらか一方だけだと、趣旨が挙げた範囲の半分になります。
100字は短いので、面を4つとも書き分けると1つが十数字になります。この記事は顧客・価格・接客を1文にまとめ、組織と人にもう1文を使いました。留意点である以上、文末は課題の形で締めます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた面を100字に収めるとこうなる、という例です。
留意点は①顧客が駅前の一見客中心で客単価が低く、接客も省力化されており、質を重視するA社と客層も価格帯も異なる点、②横の連携が乏しく経営者に依存した組織で離職率が高く、統合への不安も生じている点。
98マス / 100マス
第4問(設問1) 組織の統合をどう進めるか|80字
趣旨は「方向性を共有し」「意思疎通を図る」の2つを名指ししています。制度の話だけで終えると片方が抜けます。
出題の趣旨(引用)。「A社とX社の経営統合プロセスにおいて、どのように統合後の経営の方向性を共有し、いかに両社間の意思疎通などを図るかについて、考察する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
要求は2つです。統合したあとに向かう先を両社で共有すること、そして両社の間で話が通る状態を作ること。80字しかないので、この2つに材料を絞ります。
都合の良いことに、A社は同じことを社内で一度やっています。②の「目的意識を共有するチームづくり」がそれです。X社に足りないものを、A社が持っているやり方で埋める、という形になります。
- 共有するもの。A社は向かう先をはっきりさせ、目的意識を共有するチームづくりを進めてきた(第8段落)。
- 受け皿。A社には3部門のリーダー制があり、リーダーがアルバイトをまとめている(第8段落)。
- X社の詰まり。X社経営者への意思疎通の依存があり、部門を越える調整が1人に集まっていた(第11段落)。
- X社の空気。X社の部門間の連携の乏しさが続き、日々の作業をこなす状態だった(第11段落)。
- X社の人。X社の高い離職率に加え、X社従業員の統合への不安が出ている(第12・第13段落)。
- A社の実績。方向性を共有した結果、助け合う土壌ができて人が定着した(第8段落)。
退職の相談が出ている点は外せません。趣旨は組織の話として書いていますが、動機づけと処遇の不安を放置したまま制度だけ整えても、人が残らないからです。ここは当サイトの見立てです。
80字は、①共有、②意思疎通の場、③処遇と評価、で3つ並べると埋まります。最後に「以て〜」で狙いを付けると、何のための統合手順かが1文で示せます。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの要求を80字に収めるとこうなる、という例です。
①統合後の経営の方向性を両社の全従業員に示し、②部門ごとに合同のリーダー制と対話の場を設け、③処遇と評価を統一する。以て不安を解消し、定着と円滑な統合を図る。
79マス / 80マス
第4問(設問2) 統合後にどんな事業を展開するか|100字
趣旨は競争戦略と成長戦略の2つを求めています。②③を両社ぶん並べたのは、この設問のためです。
出題の趣旨(引用)。「A社とX社双方の弱みを克服し、互いの強みを活かしていける競争戦略を立案すると共に、経営統合によるシナジーを活かせる今後の成長戦略を描く能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は書き方まで指定しています。双方の弱みを克服すること、互いの強みを活かすこと、そして統合ならではの相乗効果で成長を描くこと。答案も競争戦略と成長戦略の2つに分けると、要求と対応が取れます。
組み合わせは②③を突き合わせると出てきます。片方の穴を、もう片方の資産が埋める形が3組あります。
- A社の穴。原材料の仕入れの不安定化と、原材料高騰による収益の圧迫(第7・第9段落)。
- X社が埋める。X社の高品質な原材料の調達ルートで、良い材料を安定して確保できる(第11段落)。
- X社の穴。X社の価格競争からの脱却の必要と、X社の省力化された接客(第11・第12段落)。
- A社が埋める。看板のオリジナルメニューと、質を高めて差別化してきた実績(第7段落)。
- 立地の補い合い。A社の駅から離れた立地に対し、X社の駅前立地と一見客・通勤客(第1・第11段落)。
- 新しい客。食べ歩き目当ての外国人観光客や若い人が地域に増えている(第13段落)。
- 商品の種。持ち帰り需要への対応実績があり、常連客の高齢化への手も打てる(第9段落)。
競争戦略の軸は、値段で戦わないことです。X社は駅構内の大手と価格で張り合えないまま来ました。A社の商品と接客をX社の店に持ち込めば、同じ駅前でも別の土俵に立てます。
成長戦略の軸は、A社が届いていなかった客に届くことです。駅前という場所は、電車やバスで訪ねてくる観光客と若い人にそのまま合います。この層は①に書いた市場の変化から来ています。
100字なので、競争戦略に半分、成長戦略に半分。相乗効果を言葉として書く余裕は無いので、両社の資産を組み合わせた形そのもので示します。
次は正解ではありません。趣旨が挙げた2つの戦略を100字に収めるとこうなる、という例です。
競争戦略は、X社の調達ルートで原材料を安定確保し、A社の看板メニューと接客の質をX社店舗にも広げて価格競争から脱却する。成長戦略は、駅前の立地を活かし観光客や若者を取り込み、半調理製品の販売を広げる。
100マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 自前で打つコシの強い蕎麦/蕎麦への経営資源の集中/看板のオリジナルメニュー/3部門のリーダー制/自主的に改善する接客の風土/地域住民に支えられた客足/駅から離れた立地/メニュー開発力の弱さ/原材料の仕入れの不安定化/原材料高騰による収益の圧迫/常連客の高齢化 |
| 第2問 | 蕎麦への経営資源の集中/地元ファミリー層への絞り込み/看板のオリジナルメニュー/原材料の厳選による高価格化 |
| 第3問 | X社の駅前立地と一見客・通勤客/X社の高品質な原材料の調達ルート/X社の回転率重視の運営/X社の省力化された接客/X社の部門間の連携の乏しさ/X社経営者への意思疎通の依存/X社の価格競争からの脱却の必要/X社の高い離職率 |
| 第4問 | 地元ファミリー層への絞り込み/看板のオリジナルメニュー/3部門のリーダー制/目的意識を共有するチームづくり/自主的に改善する接客の風土/持ち帰り需要への対応実績/X社の駅前立地と一見客・通勤客/X社の高品質な原材料の調達ルート/X社の回転率重視の運営/駅から離れた立地/原材料の仕入れの不安定化/原材料高騰による収益の圧迫/常連客の高齢化/X社の省力化された接客/X社の部門間の連携の乏しさ/X社経営者への意思疎通の依存/X社の価格競争からの脱却の必要/X社の高い離職率/X社従業員の統合への不安 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第4問の40点を2つの設問でどう配るかは分かりません。
- 第1問の弱みに何を選ぶかは当サイトの判断です。メニュー開発力の弱さのように、古い記述をいまも残る弱みと読むかで分かれます。
- 第2問の狙いを収益性の向上と置いたのは当サイトの見立てです。趣旨は目的を問うとだけ書いており、中身は書いていません。
- 第4問(設問1)で処遇と評価に触れたのも当サイトの見立てです。与件文には退職の相談があるとしか書かれていません。
- 字数は句読点も1字として数えています。実際の解答用紙のマスの数え方は、受験案内と解答用紙でご確認ください。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和5年度 事例Ⅰの趣旨に「助言」の語はありません。分析・考察・立案・描くの4語です。
- 第4問は設問が2つに分かれ、80字と100字を別々に書く形でした。
- 答案に入れる要素は与件文に紐づけます。この記事は段落番号まで示します。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 設問文には助言せよとあるのに、趣旨に助言と書いていないのはなぜですか?
- 理由は公表されていません。分かるのは、この年の事例Ⅰの趣旨が分析・考察・立案・描くという語を使っている事実だけです。打ち手を書く設問であることは設問文から明らかなので、文末は打ち手の形にしつつ、趣旨が挙げた要素を落とさない書き方が安全です。
- 第1問にX社の話を書いてはいけませんか?
- 趣旨が「経営統合前におけるA社の内部環境」と時点も対象も限っています。X社の性質は第3問と第4問で使う材料です。30字しかないので、対象を間違えると分析そのものが入りません。
- 第4問は設問が2つありますが、書き分けの軸は何ですか?
- 設問1は組織、設問2は事業です。趣旨も、設問1が方向性の共有と意思疎通、設問2が競争戦略と成長戦略と分けています。設問1で事業の話を書くと、80字の中で組織の話が入らなくなります。
- 与件文のどの段落を見ればよいか、どう探しますか?
- この年はA社が第1段落から第10段落、X社が第11段落から第13段落と、きれいに分かれています。第1問と第2問はA社側、第3問はX社側、第4問は両方。この記事では各要素に段落番号を添えたので、与件文に戻って確かめられます。




