令和2年度 事例Ⅰの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和2年度 事例Ⅰは第1問が設問2つに分かれ、趣旨は5行あります。
- 解答欄は5つとも100字です。字数の配り方を考える必要がありません。
- 趣旨が助言と書いているのは第4問だけ。残る4つは分析か説明です。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和2年度 事例Ⅰの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第1問が2つの設問に分かれ、趣旨も5行あります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えました。
この年の事例Ⅰは、どんな回か
与件文2,504字・解答字数の合計500字。80分の内訳は読む13分/考える47分/書く20分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問(小問2) | 答える | 40点 | 100字 / 100字 | 強み・経営資源 37%(19〜59%) |
| 第2問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 42%(23〜64%) |
| 第3問 | 答える | 20点 | 100字 | 事業戦略・ドメイン 37%(19〜59%) |
| 第4問 | 助言 | 20点 | 100字 | 人事・人材 39%(20〜61%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 8分 | 19分 |
| 第2問 | 4分 | 9分 |
| 第3問 | 4分 | 9分 |
| 第4問 | 4分 | 9分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える47分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第5段落で、合わせて4語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
廃業を考えていた温泉地の老舗の酒蔵が、地元の実業家に引き取られ、孫の代で土産物店とレストランを持つ会社に変わる話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
A社は全国に知られた温泉地の老舗の酒蔵で、売上はおよそ5億円。うち酒造りが2億円で、残る3億円はレストランと土産物店です。従業員は40名。当主は40代前半のA社長で、役員は親族ですが実際に動かしているのは本人ひとりです。
もとはA社長と縁のない旧家の蔵でした。日本酒が国内で飲まれなくなって売上が半減し、跡を継ぐ人もいない。屋号を消す心残りと、長く働いてきた10名への責任から踏み切れずにいたところ、地元の有力者に引き取られます。この人物がA社長の祖父です。
祖父は前の当主と経営顧問の契約を結び、ベテラン10名も条件を変えずに引き取りました。そして首都圏の金融機関にいた孫を呼び戻します。A社長は祖父を師として修業しながら、敷地を作り替えて土産物店とレストランを開き、性格の違う3つの事業を束ねる体制を整えました。
「祖父に呼び戻され、勤めを辞めて蔵に入った。まず3年、修行から始めた。」
「酒造りは我々の手にある。社員ではないが、この蔵の味を預かっている。」
人も入れ替えます。酒造り以外を任せる経験者を正社員として採り、責任者を置きました。いま支えているのは、直接売る方法を持ち込んで本業を伸ばした若い執行役員と、前任のベテラン事務員から知識を引き継いだ総務の責任者です。一方で人事の仕組みは家族的なまま、賃金は年功序列が基本で、これから率いるグループ全体で釣り合いを取る必要が出てきました。
「血のつながりは無いが、営業のやり方を変えて本業を伸ばした。杜氏と新しい事業の間もつないでいる。」
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **第1問は2つとも、祖父の立場で答える設問です。** 孫であるA社長が何をしたかではありません。時点も買収を決めた段階に戻ります。ここを取り違えると、100字が2つとも別の話になります。
- **第1問の設問2は「条件を提示した理由」です。** 前の当主との経営顧問契約と、ベテラン10名を条件を変えずに雇い続けたこと。酒造りの技術と取引先とのつながりが人に付いていた、という筋で説明することになります。
- **第2問は「手順」を問うています。** どんな仕組みを入れたかではありません。前任と2年並んで働いて知識を受け継ぎ、それを整理してから情報システムに載せた、というその順番そのものが答えの骨です。
- **第4問の対象はA社ではなくグループ全体です。** A社だけの人事制度を書くと外れます。賃金は同業よりやや高いが年功序列が基本、という現状と、釣り合いを取るという言葉が手がかりです。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、老舗としての歴史・観光地の立地・人の3つに分かれます。買収した側の企業グループが持つものも並べます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。当サイトの答案の書院で表示している番号と同じなので、画面で数えて確かめられます。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「わが国を代表する観光地として知られる温泉地」 | 観光地として知られる温泉地の立地 | 第1段落 | 第1問(設問1) |
| 「江戸時代から続く造り酒屋」 | 江戸時代から続く酒造りの歴史 | 第3段落 | 第1問(設問1) |
| 「地元の旅館を買収して娘を女将にすると、全国でも有名な高級旅館へと発展させた」 | 祖父の旅館再生の実績 | 第4段落 | 第1問(設問1) |
| 「前の経営者と経営顧問契約を結んだ」 | 前の経営者との経営顧問契約 | 第4段落 | 第1問(設問2) |
| 「ベテラン従業員10 名も従来どおりの条件で引き継いだ」 | 条件を変えないベテランの継続雇用 | 第4段落 | 第1問(設問2) |
| 「200 年の年月に裏打ちされた老舗ブランド」 | 200年の老舗ブランド | 第5段落 | 第1問(設問1) |
| 「地元の高級食材を提供するレストラン」 | 地元の高級食材のレストラン | 第7段落 | 第1問(設問1) |
| 「造りたての日本酒を堪能できる日本酒バー」 | 造りたてを味わえる日本酒バー | 第7段落 | 第1問(設問1) |
| 「酒造りは杜氏やベテランの蔵人たちが中心になり」 | 杜氏とベテラン蔵人の酒造り | 第8段落 | 第1問(設問2)・第3問 |
| 「複雑な事務作業や取引先との商売を誰よりも掌握していたベテランの女性事務員」 | 事務と取引を掌握したベテラン事務員 | 第8段落 | 第2問 |
| 「30 代から40 代半ばまでの経験のある人材を正規社員として」 | 経験のある部門責任者の正規採用 | 第9段落 | 第4問 |
| 「その能力を見極めることにも努めた」 | 現場で能力を見極める姿勢 | 第9段落 | 第4問 |
| 「旅館などグループ企業からの営業支援」 | グループ企業からの営業支援 | 第10段落 | 第1問(設問1) |
| 「直販方式の導入によって本業の酒造事業の売上を伸長させた人材」 | 直販方式を持ち込んだ執行役員 | 第11段落 | 第3問 |
| 「杜氏や蔵人と新規事業との橋渡し役」 | 酒造と新規事業の橋渡し役 | 第11段落 | 第3問 |
| 「血縁関係がないにもかかわらず、A 社長の頼りがいのある参謀として執行役員に抜擢されている」 | 血縁によらない抜擢の実績 | 第11段落 | 第4問 |
上から6行は、買収した時点ですでにあったものです。温泉地という場所と、長く続いてきた屋号。第1問(設問1)で祖父が何を見ていたかを書くときは、この6行が土台になります。
真ん中の4行は、孫の代で作られたものです。飲食と小売の売場、そして酒造りを担う人。買収の時点では存在しないので、第1問には入りません。
下の6行は人に関するものです。部門を任せられる正社員、能力を見て登用する姿勢、血のつながりに寄らない抜擢。第4問で人事の仕組みを助言するとき、A社がすでに手をつけている部分としてそのまま使えます。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は2つの時点に分かれます。買収の時点で旧家が抱えていたものと、いまA社長が抱えている人事の仕組みです。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。上の4行が買収の時点、下の5行が現在です。第1問と第4問で使う場所がはっきり分かれます。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「A 社の売上高も半分近くに落ち込んでしまった」 | 酒造事業の売上の落ち込み | 第3段落 | 第1問(設問1) |
| 「旧家の当主には後継者がいなかった」 | 買収前の後継者の不在 | 第3段落 | 第1問(設問1)・第1問(設問2) |
| 「屋号を絶やすことへの無念さ」 | 屋号を絶やすことへの無念 | 第3段落 | 第1問(設問1) |
| 「長年にわたって勤めてきた10 名の従業員に対する雇用責任」 | 旧家が抱えた従業員への雇用責任 | 第3段落 | 第1問(設問2) |
| 「ルートセールスを中心とした古い営業のやり方」 | 得意先回りに偏った古い営業 | 第11段落 | 第3問 |
| 「4 名の役員は全て親族であるが、その中で直接A 社のビジネスに関わっているのはA 社長一人だけである」 | 実務に関わる役員がA社長ひとり | 第2段落 | 第4問 |
| 「伝統的な家族主義的経営や祖父の経験や勘をベースとした前近代的なもの」 | 経験と勘に頼る前近代的な人事管理 | 第12段落 | 第4問 |
| 「年功序列型賃金が基本である」 | 年功序列型の賃金 | 第12段落 | 第4問 |
| 「企業グループ全体のバランスを考えた人事制度の整備が必須である」 | グループ全体で釣り合う人事制度の未整備 | 第12段落 | 第4問 |
②③はA社と買収した側の内側を並べた表です。日本酒の消費の落ち込みや訪日客の増加といった外側の変化は、この2つの表には載っていません。材料は①に書きました。
上の4行は、旧家が廃業を考えるに至った事情です。売上が半分になり、跡を継ぐ人がおらず、それでも屋号と従業員を手放せなかった。第1問はこの4行を読まないと、祖父が何を引き受けたのかが書けません。
下の4行は現在の人事の話で、第4問にまとまって効きます。与件文の最後の段落に3つが固まっているので、時間が無いときはそこだけ読み直せば第4問の材料はそろいます。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅰで助言と書かれているのは、5つの解答欄のうち第4問だけです。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、助言と書かれていれば打ち手を示します。
令和2年度 事例Ⅰは、温泉地の老舗の酒蔵A社が地元の実業家に買収され、その孫が立て直した事例です。設問は4問ですが、第1問が2つに分かれているため、解答欄も趣旨も5つあります。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問(設問1) | 40点(設問1・2で) | 100字以内 | 分析 |
| 第1問(設問2) | 40点(設問1・2で) | 100字以内 | 理解して分析 |
| 第2問 | 20点 | 100字以内 | 理解して説明 |
| 第3問 | 20点 | 100字以内 | 分析 |
| 第4問 | 20点 | 100字以内 | 助言 |
まず目につくのは、5つの解答欄がすべて100字だということです。どこを厚く書くかを考える余地がありません。第1問の配点が40点で全体の4割を占めるので、時間の配分だけがここに寄ります。
もうひとつは、助言が第4問の1つしか無いことです。設問文でも助言せよと書いてあるのは第4問だけ。残る4つは、起きたことを読み解いて言葉にする設問です。打ち手の形で書くと、聞かれていないことを書くことになります。
第1問(設問1) 祖父が描いたビジョン|100字
趣旨は「買収側企業グループのトップマネジメント」と主語を限っています。A社長ではなく祖父が何を見ていたかを書く設問です。
出題の趣旨(引用)。「老舗蔵元A社を買収する段階で、買収側企業グループのトップマネジメントが、どのようなビジョンを描いていたかについて、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は時点と主語の両方を限っています。時点は「買収する段階」、主語は買収した側のトップです。孫が10年かけてやったことは、この設問の答えではありません。買収を決めた時点で見えていたものだけを書きます。
材料は3方向にあります。引き受ける相手が持っていたもの、自分の側が持っていたもの、そして市場の動きです。市場の話は②③の表にないので、①に戻って拾います。
- 相手が持つもの。江戸時代から続く酒造りの歴史と、200年の老舗ブランド(第3・第5段落)。
- 場所。観光地として知られる温泉地の立地で、外から人が来る土地にある(第1段落)。
- 自分の側。祖父の旅館再生の実績があり、宿を高級な業態へ育てた経験を持つ(第4段落)。
- 束ねる力。のちに実際に効いたグループ企業からの営業支援がある(第10段落)。
- 市場。訪日の来訪者が増え始める時期で、歴史のある屋号に関心が向いていた(①に記載)。
- 地域。屋号が残れば地元の元気につながる、という読みがあった(①に記載)。
- 守るもの。屋号を絶やすことへの無念と、旧家が抱えた従業員への雇用責任(第3段落)。
書き方は、何を核にして、どう広げ、結果として何をもたらすか、の3段です。核は酒造りと屋号。広げる先は観光地の立地とグループの宿泊事業。もたらすものは雇用の維持と地域への貢献です。
地域への貢献を入れる根拠は、買収を後押しした読みとして与件文に書かれていることです。単なる投資ではなく地元の有力者としての判断だった、という文脈がここで効きます。
100字なので、材料は4つが限界です。歴史・立地・グループ・地域の4つを選び、雇用に触れるなら形容を削ります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた分析を100字に収めるとこうなる、という例です。
200年続く老舗の屋号と酒造りの技術を残し、観光地という立地とグループの旅館事業を組み合わせ、日本の伝統に触れたい来訪者を呼び込む事業へ広げる。雇用を守りつつ地域経済の活性化に貢献する、というビジョン。
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第1問(設問2) 条件を提示した理由|100字
趣旨は「条件提示の意図」と書いています。契約と雇用の2つを別々の理由で説明すると、要求と対応が取れます。
出題の趣旨(引用)。「買収側企業の被買収側企業に対する条件提示の意図について、理解して分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文が挙げているのは2つです。前の当主と顧問の契約を結んだこと、そしてベテランを引き取ったこと。趣旨はこれを「条件提示」とまとめ、その意図を問うています。両方に触れないと半分になります。
2つに共通する事情は、買収した側が酒造りを知らないことです。祖父の本業は飲食と宿泊で、酒の造り方も売り方も社内にありません。事業を止めずに引き継ぐには、知っている人がそのまま残る必要があります。
- 前の経営者との経営顧問契約。造りの勘所と取引先とのつながりを、前の当主から引き継ぐため(第4段落)。
- 条件を変えないベテランの継続雇用。杜氏とベテラン蔵人の酒造りがそのまま続く形にするため(第4・第8段落)。
- 実際に効いた場面。孫は経営顧問と杜氏、蔵人から酒造りを学んでいる(第6段落)。
- 相手の事情。買収前の後継者の不在があり、そのままでは技術が途切れる状態だった(第3段落)。
- 引き受けたもの。旧家が抱えた従業員への雇用責任を、買収した側が肩代わりした(第3段落)。
- 守るもの。屋号を絶やすことへの無念に応える形をとれば、地域の理解も得やすい(第3段落)。
答案は2つに割ります。前半が技術と取引の承継、後半が人の不安を抑えることです。前半だけだと従業員10名の話が浮き、後半だけだと顧問契約の説明が抜けます。
従来の条件を変えなかった点は、そのまま士気の話につながります。買収されると待遇が下がるのではないかという不安を先回りして消した、という読み方です。ここは当サイトの見立てで、与件文に不安の記述はありません。
次は正解ではありません。趣旨が問うた意図を100字に収めるとこうなる、という例です。
理由は①酒造りの技術や取引先との関係が前の経営者と熟練の従業員に蓄積され、事業の継続と技術の承継に不可欠なため、②従来の条件で迎えて不安を抑え、士気と定着を保ち、老舗の信用と地域の理解を得るため。
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第2問 情報システム化の手順|100字
趣旨は「どのような手順を踏んだのか」と聞いています。効果や利点ではなく、順番を書く設問です。
出題の趣旨(引用)。「買収された後のA社が、買収以前の事務処理を情報システム化する際に、どのような手順を踏んだのかについて、理解して説明する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
名指しされている能力は説明です。しかも「手順」と限っているので、システムを入れて何が良くなったかを書くと的が外れます。①から順に並べる書き方が、そのまま趣旨の形になります。
出発点は与件文が書いている事実です。若い女性社員は前任と2年ほど並んで働き、受け継いだものを整理してシステム化に進みました。この2つの動きの間に、何段階かを補って並べるのが答案になります。
- 引き継いだ相手。事務と取引を掌握したベテラン事務員が、込み入った事務を1人で担っていた(第8段落)。
- 第1段階。2年ほど並んで働き、知識と経験を受け継いだ(第11段落)。
- 第2段階。受け継いだものを整理した、と与件文は書いている(第11段落)。
- 第3段階。整理したものを情報システム化した(第11段落)。
- 評価。この一連の動きが認められて責任者に抜擢された(第11段落)。
- 背景。買収以前の事務処理が対象なので、旧家の時代からのやり方が出発点になる(趣旨に記載)。
与件文が明示しているのは3段階だけです。100字を埋めるには、整理という言葉の中身を開く必要があります。誰か1人しか知らない状態をやめ、書き出して手順の形にそろえる、という補い方が自然です。
ただし、この補いは当サイトの見立てです。与件文は整理したとしか書いていないので、標準化という語まで踏み込むかは判断が分かれます。
文末は説明の形にします。「〜という手順。」で締めると、趣旨が求めた順番の説明であることが読み手に伝わります。
次は正解ではありません。趣旨が求めた手順を100字に収めるとこうなる、という例です。
①ベテラン事務員と2年共に働き、属人化していた事務と取引先対応の進め方を学ぶ、②仕事の流れを洗い出して整理し標準化する、③標準化した手順をシステムに載せて全社で共有し、運用しながら改善を続ける。
97マス / 100マス
第3問 直販で求められる能力|100字
趣旨は「どのように変化するのか」と書いています。直販に必要な能力を並べるだけでなく、前との違いが見える形にします。
出題の趣旨(引用)。「主たる販売方法がルートセールス方式から直販方式に変更される際に、営業担当に求められる能力が、どのように変化するのかについて、分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は「どのような能力を伸ばすことを求めたか」と聞き、趣旨は「どのように変化するのか」と書いています。求められる中身は同じですが、趣旨のほうが対比を求めています。変わる前を一言でも置くと、趣旨の言葉に届きます。
変わる前は、③に挙げた得意先回りに偏った古い営業です。決まった相手を回って注文を受ける形なので、誰に何を売るかは相手が決めていました。直販になると、その部分が営業担当の仕事になります。
- 変わる前。得意先回りに偏った古い営業で、決まった取引先を回る形だった(第11段落)。
- 変わった後。直販方式を持ち込んだ執行役員が、本業の売上を伸ばした(第11段落)。
- 売る相手。買い手と直に向き合うので、好みや反応を自分で捉える必要が生じる。
- 売るもの。江戸時代から続く酒造りの歴史と200年の老舗ブランドを、言葉で伝える力が要る(第3・第5段落)。
- 広げ方。新しい売り先を自分で見つけ、関係を作り直す力が要る。
- 社内へ。酒造と新規事業の橋渡し役がいるように、外で得た話を蔵へ返す動きも求められる(第11段落)。
下の4つは当サイトの見立てです。与件文は直販に切り替えたことしか書いておらず、営業担当に何を求めたかまでは書いていません。趣旨が変化を問うている以上、売り方の違いから導く形になります。
100字なら4つ並びます。捉える力、伝える力、広げる力、返す力。名詞で締めて番号を振ると、100字に4つ入ります。
老舗の歴史を語る力を入れるのは、A社が売っているものが酒そのものだけではないからです。ここも見立てですが、②に挙げた資産と答案がつながります。
次は正解ではありません。趣旨が問うた能力の変化を100字に収めるとこうなる、という例です。
①最終の顧客の好みや反応を自ら捉え、提案する力、②老舗の歴史と酒の質を自分の言葉で語り価値を伝える力、③新しい販路を開拓し関係を築く力、④得た情報を蔵人や新規事業に橋渡しし、商品開発に生かす力。
97マス / 100マス
第4問 グループの人事制度の留意点|100字
この年で唯一、趣旨が助言と書いた設問です。A社だけでなくグループ全体を対象にしている点が要求の中心です。
出題の趣旨(引用)。「企業グループのトップマネジメントとして、グループ全体の人事制度確立の方法について、助言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨が置いている条件は2つです。立場はグループのトップ、対象はグループ全体の人事制度。A社の中だけの話に閉じると、対象が狭くなります。
いまの姿は③に並べたとおりです。経験と勘に頼る前近代的な人事管理と、年功序列型の賃金。これを何に置き換えるかが答案の中身になります。
- 直すもの。経験と勘に頼る前近代的な人事管理と、年功序列型の賃金(第12段落)。
- 宣言されている必要。グループ全体で釣り合う人事制度の未整備を、社長自身が課題としている(第12段落)。
- すでにある土台。現場で能力を見極める姿勢と、血縁によらない抜擢の実績(第9・第11段落)。
- 対象の広さ。事業は酒造・飲食・小売・宿泊と性格が違い、仕事の中身がそろわない(第2・第7段落)。
- 働く人の幅。正社員と非正社員が同数で、外国人も現場にいる(第2・第10段落)。
- 支配の構造。実務に関わる役員がA社長ひとりで、親族以外に経営を担う層が薄い(第2段落)。
打ち手は3つに絞れます。事業ごとに違う仕事を評価できる物差しを作ること、賃金を年功から能力と成果に寄せること、そして血縁によらず登用される道筋を見せることです。
3つめは、すでに執行役員と総務の責任者で起きていることを制度にする、という形です。実例が与件文にあるので、助言としての説得力があります。
文末は助言の形にします。狙いまで書くなら「以て〜」で1文を足すと、何のための制度かが示せます。100字だと打ち手3つと狙いでちょうど埋まります。
非正社員や外国人の扱いに触れるかは判断が分かれます。与件文には人数と国籍の記述しかなく、処遇の課題は書かれていません。この記事は3つの打ち手を優先しました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた助言を100字に収めるとこうなる、という例です。
留意点は①事業ごとに異なる仕事の中身に合わせた評価基準を定めること、②年功序列を改め能力と成果を賃金に反映すること、③血縁によらない登用と育成の道筋を全社に示すこと。以て人材の確保と定着を図る。
97マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 観光地として知られる温泉地の立地/江戸時代から続く酒造りの歴史/祖父の旅館再生の実績/前の経営者との経営顧問契約/条件を変えないベテランの継続雇用/200年の老舗ブランド/地元の高級食材のレストラン/造りたてを味わえる日本酒バー/杜氏とベテラン蔵人の酒造り/グループ企業からの営業支援/酒造事業の売上の落ち込み/買収前の後継者の不在/屋号を絶やすことへの無念/旧家が抱えた従業員への雇用責任 |
| 第2問 | 事務と取引を掌握したベテラン事務員 |
| 第3問 | 杜氏とベテラン蔵人の酒造り/直販方式を持ち込んだ執行役員/酒造と新規事業の橋渡し役/得意先回りに偏った古い営業 |
| 第4問 | 経験のある部門責任者の正規採用/現場で能力を見極める姿勢/血縁によらない抜擢の実績/実務に関わる役員がA社長ひとり/経験と勘に頼る前近代的な人事管理/年功序列型の賃金/グループ全体で釣り合う人事制度の未整備 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第1問の40点を2つの設問でどう配るかは分かりません。
- 第1問(設問1)で地域への貢献を柱に置いたのは当サイトの判断です。買収を後押しした読みとして与件文に書かれていますが、比重までは書かれていません。
- 第2問で標準化という語を補ったのは当サイトの見立てです。与件文は整理したとしか書いていません。
- 第3問で挙げた4つの能力のうち、与件文に根拠があるのは売り方の変化だけです。中身は売り方の違いから導いた見立てです。
- 第4問で非正社員や外国人の処遇に触れなかったのも当サイトの判断です。与件文に処遇の課題は書かれていません。
- 段落番号は与件文の先頭からの通し番号で、当サイトの答案の書院で表示している番号と同じです。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和2年度 事例Ⅰは第1問が設問2つに分かれ、趣旨は5行あります。
- 解答欄は5つとも100字です。字数の配り方を考える必要がありません。
- 趣旨が助言と書いているのは第4問だけ。残る4つは分析か説明です。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問はA社長のことを書いてはいけませんか?
- 趣旨が「買収する段階で、買収側企業グループのトップマネジメントが」と時点も主語も限っています。孫であるA社長が10年かけてやったことは、第2問から第4問で使う材料です。時点と主語を取り違えると、100字がまるごと外れます。
- 記事の段落番号は、どこで数えた番号ですか?
- 与件文の先頭から数えた順番で、当サイトの答案の書院に表示している番号と同じです。画面を開いて数えれば確かめられます。なお、この年の問題冊子には与件文の前に【注意事項】の枠(新型コロナウイルス感染症とその影響は考慮しなくてよい、という断り)がありますが、与件文ではないので数えていません。
- 第2問は情報システムの知識が要る設問ですか?
- 要りません。趣旨は「どのような手順を踏んだのか」と書いており、聞かれているのは順番です。与件文には、前任と2年働き、受け継いだものを整理し、システム化したという3段階が書かれています。そこを開いて並べる設問です。
- 解答欄が5つとも100字だと、時間配分はどう考えますか?
- 字数が同じでも配点は違います。第1問だけが40点で、2つの解答欄を合わせた重みです。書く量はどれも同じなので、差がつくのは材料を選ぶ時間のほうです。第1問に時間を厚く置く配分が現実的です。




