令和2年度 事例Ⅱの解説|与件文のどこを使い、答案に何を書くか
この記事の結論
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和2年度 事例Ⅱは第3問が設問2つに分かれ、趣旨は5行あります。
- 第1問はSWOT分析で、40字の解答欄が4つ並びます。
- 趣旨に助言の語はありません。分析が2行、提言が3行です。
2次試験は正解が公表されないので、答案が当たっていたかを誰も確かめられません。ただし試験実施機関は毎年「出題の趣旨」を公表しており、何を問うたのかを出題側が語っている文はここにしかありません。この記事では令和2年度 事例Ⅱの4設問について、趣旨を引用し、そこから答案に入れる要素と字数の配り方を導きます。この年は第1問がSWOT分析で、第3問が2つの設問に分かれ、趣旨は5行あります。要素は一般論ではなく、すべて与件文の記述に紐づけ、どの段落から来ているかを添えました。
この年の事例Ⅱは、どんな回か
与件文2,313字・解答字数の合計390字。80分の内訳は読む12分/考える52分/書く16分です。
| 設問 | 要求語 | 配点 | 解答字数 | この位置で多い論点 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | その他 | 20点 | 40字 | ◎ 現状分析(SWOT・3C) 68%(46〜85%) |
| 第2問 | 助言 | 30点 | 100字 | プロモーション 32%(15〜54%) |
| 第3問(小問2) | 助言 | 30点 | 50字 / 100字 | 関係性強化・愛顧 26%(12〜49%) |
| 第4問 | 助言 | 20点 | 100字 | プロモーション 24%(10〜47%) |
| 設問 | 書く時間の目安 | 考える時間の目安 |
|---|---|---|
| 第1問 | 2分 | 10分 |
| 第2問 | 4分 | 16分 |
| 第3問 | 6分 | 16分 |
| 第4問 | 4分 | 10分 |
読む時間は与件文の分量から、書く時間は解答字数から決まります。動かせるのは真ん中の考える52分だけなので、これをどの設問に配るかが、この年の80分の設計になります。上の数字は前提を置いた試算なので、自分の読む速さ・書く速さを一度計って置き換えてください。
与件文の形(段落ごとの字数と語の数)
逆接と否定・課題を表す語がいちばん多いのは第4段落で、合わせて3語です。
本文は載せていません。段落ごとに何字あり、逆接・否定・年代の語が何回出てくるかだけを数えたものです。これらの語が集まる段落は課題を問う設問の根拠になっていることが多いので、どこを速く読み、どこで手を止めるかの当たりをつける用途に使ってください。
① この会社に何が起きたか
島の自生植物を産業に育てた農業生産法人が、売上のほとんどを預けてきた1社との取引が細っていく場面に立たされる話です。
まだ解いていない年度は、先に解いてから読むことをすすめます。この記事は与件文の中身に触れます。
B社は農業生産法人で、社長を含めて10名。農薬を使わずにハーブを育て、乾いた粉に加工して出すところまでを担い、最終の製品は作っていません。舞台は本州から海で隔てられた島で、産業は農業と観光の2つ。若い人が出ていき、耕されない畑が増えている土地です。
(10人ほどで、栽培から乾燥粉末まで受け持つ。売り先はほぼ1社に頼っている。)
社長が目を付けたのは、島に自生していたセリ科のハーブでした。栽培の手順が誰の手元にもないところから農業試験場と組んで作り方を確立し、年に4回から5回採れる形にします。一面のハーブ畑は、それ自体が見どころになりました。
「島に自生していたハーブを、島の産業にしたかった。育て方は試験場と一から作った。」
自社製品での販売は伸びず、ハーブも島の名も大きな消費地では知られていないと分かります。転機は大手製薬メーカーZ社との出会いでした。運賃の壁を越えるため島に工場を建てて粉にするところまで担い、その加工と出荷を受け持つ会社としてB社が生まれます。Z社の製品は全国で売れ、島とハーブの名も広まりました。
ところが10年が過ぎ、Z社の製品の売れ行きが鈍ります。担当者からは、あと2年か3年で終わるかもしれないと告げられました。いま育てているハーブは6種類から7種類あり、眠りを助けるものに複数のメーカーから声がかかっていますが、量はまだ小さく、1社に頼る形は変わっていません。
ここからは、この年の読みどころです。与件文を正しく読めても、設問との噛み合わせを外すと点になりません。
- **この事例の芯は1社への依存です。** 強みを並べる設問でも、Z社との取引が実績(信用)であると同時に依存でもある、という両面から離れないほうが噛み合います。
- **第1問は40字ずつ4欄です。** 機会と脅威は会社の外側(ヘルスケア市場の伸びと競争、島の衰退、Z社の製品の終わり)にあり、②③の表には出てきません。ここは①に戻ってください。
- **第3問の設問1は50字で、製品・市場マトリックスの枠組みが名指しされています。** 既存と新規のどちらに当たるのかを言葉にしないと、枠組みを使ったことになりません。50字なので、それだけで埋まります。
- **第3問の設問2は「サイト上のやり取り」です。** 価格や品揃えを書くと要求からずれます。相手と言葉を交わして関係を作る側の話で、すでに自社サイトで注文が入り始めている、という事実が起点になります。
- **第4問はツアーの中身です。** 誰を呼ぶかだけでは100字が余ります。ハーブ畑、海と星、島の食といった、島に実際にあるものを組み合わせることになります。
読みどころは当サイトの見立てで、公表された正解ではありません。2次試験に公式解答はないので、ここは「どこで噛み合わなくなりやすいか」の整理として読んでください。
② 使ってほしい資産|与件文のどの言葉を答案に持ち込むか
この事例の資産は、育て方と加工の体制・ハーブそのものの物語・島との結びつき・新しく得た顧客の4つに分かれます。
以下の段落番号は、与件文の先頭から数えた順番です。当サイトの答案の書院で表示している番号と同じなので、画面で数えて確かめられます。
左の列は与件文をそのまま引いたものです。右の列は、それを答案の語に置き換えたもの。置き換えれば加点されるという意味ではありません(加点の基準は公表されていません)。答案の字数が短いので、同じ内容を短い語で持ち込む必要がある、という事情によるものです。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「ハーブの無農薬栽培、ハーブ乾燥粉末の一次加工・出荷」 | 無農薬栽培と乾燥粉末の一次加工 | 第1段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「この島で生まれ育ち、代々農業を営む一家に生まれたB 社社長」 | 島で生まれ育った社長 | 第3段落 | 第4問 |
| 「島内では古くから健康・長寿の効能があると言い伝えられてきた」 | 島に伝わる健康と長寿の言い伝え | 第4段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「とくに高齢者は普段からおひたしや酢みそあえにして食べる」 | 高齢者が日常的に食べる島の食べ方 | 第4段落 | 第2問・第4問 |
| 「無農薬で高品質のハーブが同じ耕作地で年に4 ~5 回収穫できる効率的な栽培方法を開発した」 | 年4〜5回収穫できる独自の栽培方法 | 第5段落 | 第1問(強み)・第4問 |
| 「一面に広がるハーブ畑」 | 一面に広がるハーブ畑 | 第5段落 | 第4問 |
| 「アンチエイジングの効能」 | ハーブのアンチエイジングの効能 | 第7段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「社長の高品質かつ安全性を追求する姿勢」 | 質と安全を追う社長の姿勢 | 第7段落 | 第1問(強み)・第3問(設問2) |
| 「栽培したハーブを新鮮なうちに乾燥粉末にする」 | 鮮度を保ったまま行う粉末加工 | 第8段落 | 第1問(強み) |
| 「このハーブが島の顔として認知されるようになってきた」 | 島の顔として知られたハーブ | 第9段落 | 第1問(強み) |
| 「島民は昨今B 社の存在を誇りに感じ始めている」 | 島民のB社への誇り | 第9段落 | 第4問 |
| 「6 ~7 種類の別のハーブの栽培・乾燥粉末加工を行うようになっている」 | 6〜7種類の別のハーブの生産 | 第11段落 | 第1問(強み)・第2問 |
| 「安眠効果があるとされるハーブ」 | 安眠効果があるとされるハーブ | 第11段落 | 第3問(設問1)・第3問(設問2) |
| 「Z 社との取引実績が安心材料となり」 | Z社との取引実績 | 第11段落 | 第2問 |
| 「自社オンラインサイトで販売してみたところ」 | 自社サイトでの直接販売 | 第12段落 | 第3問(設問1)・第3問(設問2) |
| 「20 歳代後半~50 歳代の大都市圏在住の女性層から注文が来る」 | 大都市圏の20代後半〜50代の女性客 | 第12段落 | 第3問(設問1)・第4問 |
この表はB社の内側だけを並べたものです。第1問の機会と脅威にあたる市場の変化は、原理的にここには入りません。材料は①に書きました。
上から5行は、作る力に関するものです。農薬を使わない育て方、年に何度も採れる方法、鮮度を保ったままの加工。第1問の強みは、ここから2つ選べば形になります。
真ん中の5行は、ハーブと島にまつわる物語です。言い伝え、日常の食べ方、効き目、そして島の顔として知られたこと。第2問で新しい売り先に何を示すかを考えるとき、この5行が材料になります。
下の6行は、この2〜3年で新しく手に入れたものです。別のハーブ、自社サイト、そこから来た顧客。第3問と第4問はこの6行の上に立っています。
③ 改善してほしいこと|与件文が課題として書いている言葉
課題は2つに固まります。大きな消費地で知られていないことと、売上を1社に預けたままであることです。
表の形は②と同じです。左が与件文の言葉、右が答案での言い方。上の4行が知名度と自社製品の話、下の3行が取引先の話です。
| 与件文の言葉 | 答案での言い方 | 段落 | 効く設問 |
|---|---|---|---|
| 「社長をはじめ従業者10 名(パート・アルバイト含む)」 | 社長を含めて10名の体制 | 第1段落 | 第1問(弱み) |
| 「その売上げは芳しくなかった」 | 過去の自社製品の不振 | 第6段落 | 第1問(弱み) |
| 「このハーブと島の知名度が大消費地では著しく低い」 | 大消費地での低い知名度 | 第6段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「ハーブを使った自社による製品開発をいったん諦めた」 | 自社製品の開発の中断 | 第6段落 | 第1問(弱み) |
| 「B 社とZ 社とのハーブの取引量は徐々に減少している」 | Z社との取引量の減少 | 第10段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
| 「取引が成立しても、Z 社との取引に比べるとまだ少量であり」 | 新しい取引先はまだ少量 | 第11段落 | 第2問 |
| 「B 社の事業がZ 社との取引に依存している現状は変わらない」 | Z社への依存が続く事業の形 | 第11段落 | 第1問(弱み)・第2問 |
②③はB社の内側を並べた2つの表です。ヘルスケア市場の広がりやZ社の製品を止めるという話は、B社の外側にある変化なので、ここには載っていません。材料は①に書きました。
上の4行は、10年前に自社の製品で失敗した経緯です。大きな消費地で名前が知られていないことが理由でした。この事実は第2問にも効きます。売り先に自分から名乗って回れる状態ではない、ということだからです。
下の3行が、この事例の中心にある弱みです。取引量が減り、代わりの取引先はまだ小さく、1社に頼る形は変わらない。第2問はこの3行を解く設問だと言い換えられます。
手がかりは、公表された出題の趣旨にある
趣旨は設問ごとに「何を問うたか」を書いた文です。この年の事例Ⅱの趣旨には、助言という語が一度も出てきません。
出題の趣旨は「〜する能力を問う問題である」という定型文で書かれます。この「〜する能力」の部分が、答案の文末の向きを決めます。分析と書かれていれば起きている事実を切り分け、提言と書かれていれば打ち手を示します。
令和2年度 事例Ⅱは、離島でハーブを育てるB社が、売上を預けてきた1社との取引が細る場面を扱っています。設問は4問ですが、第3問が2つに分かれているため、趣旨は5行あります。配点・字数と、趣旨が名指ししている能力を並べると次のようになります。
| 設問 | 配点 | 解答字数 | 趣旨が名指しする能力 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 20点 | 40字以内(4つの欄それぞれ) | 分析 |
| 第2問 | 30点 | 100字以内 | 提言 |
| 第3問(設問1) | 30点(設問1・2で) | 50字以内 | 分析 |
| 第3問(設問2) | 30点(設問1・2で) | 100字以内 | 提言 |
| 第4問 | 20点 | 100字以内 | 提言 |
気づくのは、助言という語が1行も無いことです。設問文のほうは第2問から第4問まで助言せよと求めていますが、趣旨の側は分析と提言という語を使っています。打ち手を書くことに変わりはありませんが、趣旨に無い語で設問の性格を決めないほうが安全です。
配点は第2問と第3問が30点ずつで、合わせて6割を占めます。第1問は20点で40字が4つ。要素を詰め込む設問ではないので、材料を選んだら短く言い切って次へ進む配分が現実的です。
第1問 SWOT分析|4つの欄に40字ずつ
趣旨は「内外の経営環境」と書いています。内側は②③の表、外側は①のストーリーから取る、という分担になります。
出題の趣旨(引用)。「B社内外の経営環境を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は1行しかありません。ただし「内外」と書いているので、内側だけでも外側だけでも足りないことが分かります。強みと弱みは会社の中、機会と脅威は会社の外。この線引きが、そのまま材料の探し場所になります。
設問文は「現在のB社の状況について」と時点を限っています。10年前に自社の製品で失敗した話は、いまも残っている弱みかどうかを考えて選ぶ必要があります。
| 観点 | どこから材料を取るか |
|---|---|
| 強み(内) | 年4〜5回収穫できる独自の栽培方法/無農薬栽培と乾燥粉末の一次加工/鮮度を保ったまま行う粉末加工/島の顔として知られたハーブ/ハーブのアンチエイジングの効能 |
| 弱み(内) | 大消費地での低い知名度/Z社への依存が続く事業の形/Z社との取引量の減少/社長を含めて10名の体制 |
| 機会(外) | 健康を気にする人が増えヘルスケアの市場が伸びていること/眠りを助けるハーブに複数のメーカーから声がかかっていること(①に記載) |
| 脅威(外) | Z社の製品の売れ行きが鈍り、2〜3年で製造を止める可能性が高いこと/島から若い人が出ていき地域の元気が落ちていること(①に記載) |
40字は短いので、1つの欄に入るのは2つまでです。強みは作る力と知られ方から1つずつ、弱みは知名度と依存から1つずつ選ぶと、内容が重なりません。
脅威をどちらにするかは判断が分かれます。島の元気が落ちていることは会社が生まれた背景として書かれており、いま起きている脅威としてはZ社の話のほうが差し迫っています。この記事は後者を取りました。
次は正解ではありません。趣旨が求めた内外の分析を、40字ずつに収めるとこうなる、という例です。
以下4つは当サイトの解答例です。模範解答ではありません。
無農薬で年4〜5回収穫できる独自の栽培方法と、島内工場での一次加工の体制。
37マス / 40マス
大消費地ではハーブと島の知名度が低く、売上の多くをZ社との取引に依存する点。
38マス / 40マス
消費者の健康志向でヘルスケア市場が拡大し、安眠効果のハーブにも引き合いがある。
38マス / 40マス
Z社製品の売れ行きが鈍化し、2〜3年後には製造中止となる可能性が高いこと。
37マス / 40マス
第2問 新しい取引先の構成|100字
趣旨は「新たな販売先を提言する」。1社の代わりを1社で埋める答案にすると、依存という弱みが残ります。
出題の趣旨(引用)。「B社の現状を踏まえて、既存製品の新たな販売先を提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨が「既存製品の」と書いている点が効きます。対象はこれまで作ってきたハーブの乾燥粉末で、新しい製品を作る話ではありません。設問文も、取引先の構成についての方向性を求めています。
設問文にはもう1つ条件があります。Z社の製品とは違う層を狙いたい、というものです。Z社の製品は30代から40代の女性に支持されてきたので、そこから外れる相手を扱う企業を選ぶことになります。
- 解くべき弱み。Z社への依存が続く事業の形と、Z社との取引量の減少(第10・第11段落)。
- 使える信用。Z社との取引実績が、新しい相手にとっての安心材料になっている(第11段落)。
- 用途の広さ。ハーブはお茶や調味料、健康食品のほか、アロマオイルや香水の原料にもなる(第6段落)。
- 売り物の中身。ハーブのアンチエイジングの効能と、島に伝わる健康と長寿の言い伝え(第4・第7段落)。
- 別の層への糸口。高齢者が日常的に食べる島の食べ方が、与件文に書かれている(第4段落)。
- 自力での開拓の壁。大消費地での低い知名度が、10年前の失敗の理由だった(第6段落)。
方向性は3つに整理できます。取引先を1社から複数に散らすこと。用途の違う業種にも広げること。そしてZ社が届いていなかった層を持つ企業を選ぶことです。
業種を広げる根拠は与件文にあります。ハーブの用途としてお茶や調味料、アロマオイルまで挙げられているので、ヘルスケア以外の相手を挙げても与件文の外には出ません。
別の層を高齢者に置いたのも与件文が根拠です。島では年配の人が普段から食べており、健康と長寿の言い伝えもある。若い層より、こちらのほうが与件文でつながります。
100字なので、3つの方向とその狙いでちょうど埋まります。効果を長く書く余裕はないので、依存を解くという一言で締めます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた提言を100字に収めるとこうなる、という例です。
①Z社との取引実績を信用として示し、②お茶や調味料、アロマなど用途の異なる複数のメーカーに販売先を分散し、③健康と長寿の言い伝えを生かし高齢者向けの製品を扱う企業を開拓する。以て依存を解消する。
97マス / 100マス
第3問(設問1) 製品・市場マトリックス|50字
趣旨は「既存事業との関係性を分析する」。枠の名前を答えるだけでなく、既存事業と何が違うのかを50字に入れます。
出題の趣旨(引用)。「B社の新規事業について、既存事業との関係性を分析する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文はアンゾフの製品・市場マトリックスを使えと指定しています。製品が既存か新規か、市場が既存か新規か、の2軸で4つに分ける枠組みです。1次の企業経営理論で出てくる言葉がそのまま道具になります。
既存の事業を先に押さえます。育ててきたハーブの乾燥粉末を、Z社という企業に原料として納める仕事です。相手は企業で、最終の製品は作っていません。
- 既存の製品。無農薬栽培と乾燥粉末の一次加工で作る、原料としての粉(第1段落)。
- 既存の市場。Z社という取引先で、企業に納める形(第9段落)。
- 新しい製品。安眠効果があるとされるハーブを使い、外部に作らせた飲み物(第11・第12段落)。
- 新しい市場。自社サイトでの直接販売で、相手は最終の消費者(第12段落)。
- 実際に来た客。大都市圏の20代後半〜50代の女性客(第12段落)。
- したがって。製品も市場もこれまでと違うので、4つの枠のうち多角化にあたる。
枠の名前だけを書くと、50字のうち十数字しか使いません。趣旨が関係性を問うている以上、どこが新しいのかを2つとも書いて、その結論として枠の名前を置く形が自然です。
50字で入るのは、新しい製品・新しい売り先・枠の名前の3つです。相手が最終の消費者に変わった点は、既存が企業向けだったことと対になるので、削らずに残します。
次は正解ではありません。趣旨が求めた分析を50字に収めるとこうなる、という例です。
既存事業と異なる安眠ハーブの自社製品を、新たに大都市圏の消費者へ直接販売する多角化にあたる。
46マス / 50マス
第3問(設問2) サイト上のやり取り|100字
趣旨は「顧客志向の価値創造」と書いています。情報を流すだけの施策では、趣旨が求めた向きに届きません。
出題の趣旨(引用)。「B社の新規事業について、顧客志向の価値創造を可能にする施策を提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
設問文は「顧客を製品づくりに巻き込みたい」「顧客の関与を高めるため」と書いています。趣旨の「顧客志向の価値創造」は、これを別の言い方にしたものです。つまり、客から受け取って製品に返す流れを作る設問です。
場所は自社のサイトに限られています。店や催しの話を書くと、設問の条件から外れます。
- 土台。自社サイトでの直接販売がすでに動いており、注文も入っている(第12段落)。
- 相手。大都市圏の20代後半〜50代の女性客で、島には来たことがない人たち(第12段落)。
- 見せられるもの。年4〜5回収穫できる独自の栽培方法と、一面に広がるハーブ畑(第5段落)。
- 伝えられる姿勢。質と安全を追う社長の姿勢は、Z社も評価した点だった(第7段落)。
- 受け取るもの。安眠効果があるとされるハーブの製品なので、眠りの悩みが話の種になる(第11段落)。
- 返す先。外部に作らせている製品なので、要望を次の企画に反映できる余地がある(第12段落)。
施策は3段で組み立てます。こちらから伝える場、客が書き込む場、そして受け取った声を製品に返す仕組みです。3つめが無いと、巻き込むという言葉に届きません。
伝える中身は、畑と育て方と社長の姿勢です。いずれも与件文にあり、しかも大きな消費地では知られていない部分なので、伝える価値があります。
受け取った声をどう返すかは与件文に書かれていないので、ここは当サイトの見立てです。企画に反映して結果を知らせる、という形にすると、関与が続く理由が答案の中で説明できます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた提言を100字に収めるとこうなる、という例です。
自社サイト上に①栽培の様子や島の景観を伝える発信の場、②睡眠の悩みや使用感を書き込める交流の場を設け、③寄せられた要望を新しい製品の企画に反映して結果を返す。双方向の対話で関与と愛着を高める。
96マス / 100マス
第4問 島を訪ねるツアーの中身|100字
趣旨は「B社の強みを生かし」と条件を付けています。観光そのものは設問文が除いているので、②の資産から組み立てます。
出題の趣旨(引用)。「B社の強みを生かし、新規事業で獲得した顧客のロイヤルティを高める施策を提言する能力を問う問題である。」(出典=一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「出題の趣旨」)
趣旨は3つの条件を並べています。B社の強みを使うこと、相手は新しい事業で得た顧客であること、そして愛着を強めることです。相手が誰かは第3問と同じ人たちになります。
設問文は「絶景スポットや星空観賞などの観光以外で」と明記しています。島の見どころそのものを並べると、条件から外れた答案になります。使うのはB社が持っているものだけです。
- 畑。一面に広がるハーブ畑があり、年4〜5回収穫できる独自の栽培方法で育てている(第5段落)。
- 工場。鮮度を保ったまま行う粉末加工を、島の中で見せられる(第8段落)。
- 食べ方。高齢者が日常的に食べる島の食べ方が残っている(第4段落)。
- 物語。島に伝わる健康と長寿の言い伝えがある(第4段落)。
- 語る人。島で生まれ育った社長がおり、質と安全を追う姿勢を自分の言葉で説明できる(第3・第7段落)。
- 受け入れる側。島民のB社への誇りがあり、地元の人が関わる余地がある(第9段落)。
組み立ては、作る現場を見せる・自分でやってみる・人と話す、の3つです。見るだけだと観光に近づくので、手を動かす場面と人と話す場面を必ず入れます。
島の人に教わる場面を入れる根拠は、年配の人が普段から食べているという記述と、島の人がB社を誇りに思い始めているという記述の2つです。どちらも与件文にあります。
100字なら4つ並べて、最後に狙いを一言。愛着を高めるという趣旨の言葉に対して、誰との結びつきが強まるのかを書くと、要求と対応が取れます。
次は正解ではありません。趣旨が求めた提言を100字に収めるとこうなる、という例です。
①ハーブ畑での収穫体験、②島の高齢者に教わるおひたしなど郷土の食べ方の体験、③乾燥粉末になる工程の工場見学、④社長が栽培の工夫と島への思いを語る場を設ける。作り手と島民との交流で愛着を高める。
96マス / 100マス
書いた答案を数える
答案を書き終えたら、上の②③の表から作ったこの一覧で、自分が何を入れられたかを数えてください。
| 設問 | 与件文から持ち込める材料 |
|---|---|
| 第1問 | 無農薬栽培と乾燥粉末の一次加工/島に伝わる健康と長寿の言い伝え/年4〜5回収穫できる独自の栽培方法/ハーブのアンチエイジングの効能/質と安全を追う社長の姿勢/鮮度を保ったまま行う粉末加工/島の顔として知られたハーブ/6〜7種類の別のハーブの生産/社長を含めて10名の体制/過去の自社製品の不振/大消費地での低い知名度/自社製品の開発の中断/Z社との取引量の減少/Z社への依存が続く事業の形 |
| 第2問 | 無農薬栽培と乾燥粉末の一次加工/島に伝わる健康と長寿の言い伝え/高齢者が日常的に食べる島の食べ方/ハーブのアンチエイジングの効能/6〜7種類の別のハーブの生産/Z社との取引実績/大消費地での低い知名度/Z社との取引量の減少/新しい取引先はまだ少量/Z社への依存が続く事業の形 |
| 第3問 | 質と安全を追う社長の姿勢/安眠効果があるとされるハーブ/自社サイトでの直接販売/大都市圏の20代後半〜50代の女性客 |
| 第4問 | 島で生まれ育った社長/高齢者が日常的に食べる島の食べ方/年4〜5回収穫できる独自の栽培方法/一面に広がるハーブ畑/島民のB社への誇り/大都市圏の20代後半〜50代の女性客 |
- 材料の数ではなく、選んだ理由を言えるかを見る。同じ材料でも、設問の要求語に合っていなければ答案は噛み合いません。
- その材料が与件文の第何段落から来たかを、答案を見ながら言えるか。言えないものは、与件文ではなく自分の一般論から来ています。
- 文末の向きが要求語と合っているか。助言なら施策の提案で、説明なら理由の記述で終わっているか。
書けなかった材料が多い設問は、与件文の読み落としではなく、時間が足りなかっただけのことがあります。どちらだったかは、答案を書いた直後にしか思い出せません。数え終えたら、その場でひとこと書き残しておくと次に効きます。
答案の書き方の型
100字前後のマスに要素を詰めるには、書き方の型が要ります。この型は年度と事例を問いません。
- 因果を明示する。「◯◯により△△」の形にすると、材料と結論のつながりが読み手に伝わります。
- 番号で並べる。「①…②…」は、要素をいくつ入れたかが自分にも採点する側にも見える形です。
- 名詞で締める。「〜を強化」「〜の向上」と体言で終えると、同じ内容が短いマス数に収まります。
この型は、用語そのものに点が入るという意味ではありません。字数の上限が決まっている以上、同じ内容をより短い形で持ち込めるほうが要素を多く入れられる、という事情によるものです。与件文にない事実をそれらしい言葉で埋めても、加点の根拠にはなりません。
この記事で言えないこと
- 2次試験は正解が公表されません。ここで示したのは要素の選び方と字数の収め方で、正解ではありません。
- 趣旨は「何を問うたか」であって「どう書けば加点されるか」ではありません。加点の検証は別の作業です。
- 設問ごとの配点は公表されていますが、要素ごとの内訳は公表されていません。第3問の30点を2つの設問でどう配るかは分かりません。
- 第1問でどの2つを選ぶかは当サイトの判断です。強みの候補は5つあり、選び方は1通りではありません。
- 第1問の脅威にZ社の話を選んだのも当サイトの判断です。島の元気が落ちていることを脅威と読む余地もあります。
- 第2問で高齢者を挙げたのは、島の食べ方と言い伝えから導いた当サイトの見立てです。設問文はZ社と異なる層とだけ書いています。
- 第3問(設問2)で要望を企画に返す仕組みを挙げたのも当サイトの見立てです。与件文にその記述はありません。
- 段落番号は与件文の先頭からの通し番号で、当サイトの答案の書院で表示している番号と同じです。
本記事の要素の整理と解答例は当サイトの独自のものです。出題の趣旨と問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 2次試験に正解は公表されません。公表されるのは設問ごとの出題の趣旨です。
- 令和2年度 事例Ⅱは第3問が設問2つに分かれ、趣旨は5行あります。
- 第1問はSWOT分析で、40字の解答欄が4つ並びます。
- 趣旨に助言の語はありません。分析が2行、提言が3行です。
よくある質問
- この記事の解答例をそのまま覚えればよいですか?
- いいえ。2次試験は正解が公表されないため、この例が当たっているかは誰にも確かめられません。使い道は、趣旨が挙げた要素が字数にどう収まるかを見ることです。要素の選び方と削り方を自分の答案に移してください。
- 第1問の機会と脅威は、与件文のどこから取りますか?
- この記事の②③の表はB社の内側を並べたものなので、機会と脅威は載っていません。市場が伸びている話は第7段落、Z社が製品を止めるかもしれない話は第10段落、別のメーカーからの引き合いは第11段落にあります。①のストーリー要約にもまとめました。
- 第3問(設問1)は多角化以外の答えもありえますか?
- 枠の選び方は、既存事業をどう置くかで変わります。この記事は原料を企業に納める仕事を既存と置いたので、製品も相手も新しくなり多角化になりました。既存を「ハーブを使った製品」と広く置けば別の枠になりますが、その場合は10年前にいったん諦めた経緯との整合を説明する必要があります。
- 第4問で絶景や星空を書いてはいけませんか?
- 設問文が「絶景スポットや星空観賞などの観光以外で」と明示して外しています。趣旨も「B社の強みを生かし」と条件を付けているので、島の見どころではなくB社が持っているものを使う設問です。
- 記事の段落番号は、どこで数えた番号ですか?
- 与件文の先頭から数えた順番で、当サイトの答案の書院に表示している番号と同じです。この年の問題冊子には与件文の前に【注意事項】の枠がありますが、与件文ではないので数えていません。



