事例Ⅳのセグメントと意思決定|配られた共通固定費を判断に入れない
この記事の結論
- セグメント・意思決定は19年で11問。9年度に出て、9問に字数制限があります。
- 聞かれ方は3つ。やめるか続けるか、受けるか断るか、事業部をどう評価するか。
- どの型でも判断に入れるのは「その決定で変わる収益と費用」だけです。配られた共通固定費は入れません。
事例Ⅳには「赤字の店を閉めるべきか」「安い注文を受けるべきか」「この事業部長をどう評価すべきか」という設問が繰り返し出ます。ここで損益計算書の営業利益だけを見て決めると、多くの年で結論が逆になります。共通固定費が配られていて、その事業をやめても消えないからです。この記事では、2007〜2025年度の11問で何が聞かれたかを一覧にし、聞かれ方を3つの型に分け、資料の書き方から判断を決める対応表と、字数ごとの書き方の型を示します。配点・字数・問われたこと・引用した数値は、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。計算の答え合わせはこの記事では行いません。
19年で11問。経営分析・投資判断に次ぐ3番目の論点
セグメント・意思決定は19年で11問。9年度に出て、9問に字数制限があります。直近では2024年度にも出ました。
設問数は経営分析・投資判断に次ぐ3番目です。置かれる場所は年によってばらばらで、第2問のことも第3問のことも最終問のこともあります。「第何問に出るか」を覚えるより、設問文の形で見分けるほうが確実です。
配点は15点から30点まで。計算と記述が組み合わさる設問が多く、計算を落としても記述は書けます。逆に、計算だけ合わせて結論の一文を書き忘れると、配点の半分近くが空欄のまま残ります。
11問で聞かれたことの一覧
題材はレストラン、旅館、水産加工、電子部品、食品スーパー、住宅と毎年変わります。変わらないのは「この単位をやめるか」「この話を受けるか」「この単位をどう測るか」の3種類だということです。
| 年度 | 設問・配点 | 字数 | 問われたこと |
|---|---|---|---|
| 令和6年度 | 第4問・25点 | 80字・60字 | 加工事業部から他事業部への供給を事業部間の販売とみなし、全部原価に一定の利潤を上乗せした価格を使うことの、業績評価上の問題点/社長が設備投資の実質的な決定権を持つ場合に、財務指標で事業部長を評価するときの留意点 |
| 令和3年度 | 第4問・20点 | 40字・40字 | 不採算の移動販売事業を廃止しネット通販に一本化する短期的メリット(財務指標をあげながら)/経営者が移動販売の継続を必ずしも企業価値の低下と考えない理由の推測 |
| 令和2年度 | 第4問・25点 | 20字・20字+計算 | 戸建住宅事業とD社全体のROI/ソフトウェア導入後の次期のROI(ここまで計算)/取締役に対する業績評価の方法の問題点と、その改善案 |
| 令和元年度 | 第2問・25点 | 30字+計算 | 事業部および全社レベルの変動費率と全社の損益分岐点売上高/この損益分岐点分析の結果を利益計画の資料に使うことの重大な問題/目標経常利益を達成する建材事業部の変動費率 |
| 令和元年度 | 第4問・20点 | 30字・30字・60字 | 建材事業部の配送業務を分離し連結子会社としていることのメリットとデメリット/建材事業部でEDIを導入したときに期待できる財務的効果 |
| 平成28年度 | 第3問・15点 | 50字+計算 | 業績不振の創作料理店を閉店すべきかどうか。意思決定の基準となる尺度の値と計算過程を⒜欄に、結論と理由を⒝欄に |
| 平成26年度 | 第3問・30点 | 字数指定なし | 商品X・Y・Zの限界利益率/最大直接作業時間9,600時間のもとで営業利益を最大化する生産量の構成比とその求め方/販売促進費を追加する提案を受け入れた場合の最適な構成比と、その提案への意見 |
| 平成24年度 | 第2問・30点 | 字数指定なし | 旧館を閉鎖し新館のみで営業した場合の損益分岐点比率/損益分岐点比率90%を目標とする場合に必要な固定費の削減額 |
| 平成23年度 | 第2問・15点 | 40字 | 遊休能力があるとき、1単位800円で2,000単位という新規顧客からの特別注文を受諾すべきかを、根拠となる数値を示しながら |
| 平成23年度 | 第3問・25点 | 50字 | 共通固定費を販売量で配賦した結果、営業損失になっている製品Zの製造を中止すべきかどうか。計算過程を⒜欄に、結論と理由を⒝欄に |
| 平成22年度 | 第2問・25点 | 60字 | 納入価格を20%下げる案と、30%下げるかわりに発注量を2倍にする案について、それぞれの損益分岐点売上高/どちらを受け入れるべきか |
一覧にすると、計算だけで終わる設問がありません。どの年も最後に「やめるべきか」「受けるべきか」「どう評価すべきか」を日本語で言わせています。計算はそのための材料であって、答えそのものではないという作りです。
聞かれ方は3つの型に分かれる
設問文の動詞を見ると型が決まります。「中止・閉店・廃止」ならA、「受諾・受け入れ・構成比」ならB、「評価・振替価格・メリット」ならCです。
| 型 | 該当する設問 | 判断に入れるもの/入れないもの |
|---|---|---|
| A やめるか、続けるか | 平成28年度 第3問(閉店)/平成23年度 第3問(製品Zの中止)/平成24年度 第2問(旧館の閉鎖)/令和3年度 第4問(移動販売の廃止) | 入れる=その単位の限界利益と、その単位だけの個別固定費。入れない=配賦された共通固定費(やめても会社に残る)。営業利益が赤字でも、限界利益が個別固定費を上回っていれば続けたほうが会社の利益は大きい |
| B 受けるか、断るか/どう配分するか | 平成23年度 第2問(特別注文)/平成22年度 第2問(値下げと増量の2案)/平成26年度 第3問(制約下の生産構成比) | 入れる=その話を受けたことで変わる収益と費用だけ。入れない=すでに発生している固定費。制約(作業時間・機械時間・生産能力)があるときは、制約1単位あたりの限界利益で順位を付ける |
| C 事業部をどう評価するか | 令和6年度 第4問(振替価格・事業部長の評価)/令和2年度 第4問(ROIと業績評価)/令和元年度 第4問(分社のメリットとデメリット)/令和元年度 第2問(全社一本の変動費率の危うさ) | 入れる=その責任者が自分で決められる収益と費用。入れない=本人が決められない投資額や本社費。また、事業部ごとに変動費率が違うときは、全社を1本にまとめた損益分岐点は売上の構成が変わると成り立たない |
3つに共通しているのは、損益計算書の一番下(営業利益)で決めないという点です。Aは共通固定費の上、Bは変わる部分だけ、Cは責任者が動かせる部分だけ。どこで線を引くかが型ごとに違うだけで、考え方は同じです。
見る順番は、設問文→固定費の種類→制約の有無
資料を上から順に読むと迷います。先に設問文で「何を決めるのか」を確かめ、次に固定費が個別か共通かを見て、最後に制約があるかを探す順番だと、計算に入る前に型が決まります。
- ① 設問文で決めることを確かめる。「中止すべきか」「受諾すべきか」「どう評価すべきか」のどれか。ここで型A・B・Cが決まります。
- ② 資料の固定費の行を見る。「個別固定費」「共通固定費」「共通固定費配賦額」と分けて書かれていたら、型Aの合図です。分かれていなければ、その固定費は全部その単位のものとして扱えるか、設問文の但し書きを確かめます。
- ③ 制約が書かれているかを探す。「最大直接作業時間9,600時間」「月産20,000単位の生産能力」のような上限があれば、1個あたりではなく制約1単位あたりで並べます。
- ④ 「生産能力には十分な余裕がある」と書かれていたら、その一文が答えの半分です。既存の販売を減らさずに受けられる=断る理由が減ります。
- ⑤ 「償却済みである」「原価構造は現状と変化がない」のような但し書きを拾う。今後は発生しない費用、変わらない費用を判断から外すための指示です。
この順番は、当サイトが11問の設問文と資料を読み比べて整理したものです。年度によって資料の並びは違うので、最後は設問文の指示に従ってください。
この一文が書いてあったら、判断はこう決まる
問題文には、判断の分かれ目を決める一文が必ず置かれています。読み飛ばすと計算そのものが変わります。
| 問題文・資料の書き方 | 何を意味するか | 答案で使う言葉 |
|---|---|---|
| 「共通固定費」「共通固定費配賦額」と行が分けてある | その費用はその単位をやめても会社に残る。判断から外す | 配賦された共通固定費は中止後も残るため |
| 「個別固定費」と書かれている | その単位だけの費用。やめれば消えるので判断に入れる | 限界利益が個別固定費を上回るため |
| 「*店舗個別の付属設備および器具備品は償却済みである」 | その減価償却費は今後発生しない。個別固定費の中身を確かめる合図 | 償却済みで今後は発生しないため |
| 「現状の生産能力には十分な余裕がある」「月産20,000単位に対し予定18,000単位」 | 遊休能力がある。既存の販売を減らさずに受けられる | 遊休能力があり固定費は増えないため |
| 「最大直接作業時間が年間9,600時間」 | 制約がある。1個あたりではなく制約1単位あたりで並べる | 作業1時間あたりの限界利益が大きい順に |
| 「共通固定費は販売量に基づいて配賦している」 | 配賦の基準が書いてある=その赤字は配賦のしかたで生まれたものという合図 | 配賦された共通固定費は中止後も残るため |
| 「全部原価に一定の割合の利潤を上乗せした価格」 | 供給側の原価がそのまま受入側に移る。受入側は管理できない | 供給側の非効率が受入側の原価に転嫁されるため |
| 「社長が実質的な意思決定権限を持っている」 | 事業部長が投資額を決められない。投資額を含む指標では測れない | 管理不能な投資額を含む指標で評価しないため |
右の列を見ると、どの行にも「限界利益」「個別固定費」「共通固定費」「遊休能力」「管理可能」のどれかが入っています。この5語のどれも出てこない答案は、原価計算の言葉に届いていない可能性があります。
字数ごとの書き方と解答例
骨組みは「結論→根拠となる数値→なぜその数値で決まるか」です。字数で変わるのは、数値を入れるかどうかと、理由をいくつ並べるかだけです。
| 字数 | 入れるもの | 該当する年度 |
|---|---|---|
| 20字 | 結論だけ。修飾は捨てる | 令和2年度(20字×2欄) |
| 30〜40字 | 結論+いちばん効く根拠を1つ。数値を求められていれば数値を優先 | 令和3年度(40字×2)/令和元年度(30字)/平成23年度 第2問(40字) |
| 50〜60字 | 結論+根拠の数値+その数値で決まる理由 | 平成28年度(50字)/平成23年度 第3問(50字)/平成22年度(60字)/令和元年度 第4問(60字) |
| 80字 | 指摘を2つ並べる。1つ目は仕組みの問題、2つ目はその結果として起きること | 令和6年度(80字) |
| 字数指定なし | 求め方・意見を書く欄がある。手順を番号で並べ、最後に結論を1文 | 平成26年度/平成24年度 |
型Aから見ます。平成28年度の第3問(50字)は、業績不振の創作料理店を閉店すべきかどうか。見積損益計算書は、限界利益49百万円、個別固定費40百万円、共通固定費配賦額26百万円、営業利益は△17百万円です。営業利益は赤字ですが、共通固定費配賦額26百万円は閉店しても会社に残ります。
閉店すべきでない。限界利益が個別固定費を9百万円上回り、配賦された共通固定費は閉店後も残るため。
48マス / 50マス
型Bは平成23年度の第2問(40字)。製品Wは月産20,000単位の能力に対し予定生産量18,000単位で、遊休能力が2,000単位あります。そこへ1単位800円で2,000単位という注文が入りました。販売価格1,000円より安いものの、単位当たり変動費は500円です。国内の需要と価格には影響しないと書かれているので、既存の売上は減りません。
受諾すべき。遊休能力があり追加の固定費は生じず、限界利益が計60万円増えるため。
39マス / 40マス
型Cは令和6年度の第4問 設問1(80字)。加工事業部から飲食・惣菜事業部への供給に、製品単位当たりの全部原価へ一定の割合の利潤を上乗せした価格を使っています。供給側は原価が高いほど利潤も増え、受入側はその原価を自分では下げられません。
全部原価に一定の利潤を上乗せするため、供給側の非効率がそのまま受入側の原価に移る。受入側は自ら管理できない原価で評価され、供給側は原価を下げる誘因を失う。
76マス / 80マス
3つの解答例に共通しているのは、結論を先に置き、そのあとに数値か仕組みの説明を1つだけ付けていることです。字数が短いほど、結論のあとに何を1つ残すかの選択が点になります。
書いてはいけない答案の見分け方
型に沿って書いても落ちる場所が6つあります。どれも、書き終えたあとに資料の固定費の行と設問文を読み返せば気づけます。
- 配賦された共通固定費を判断に入れる。これがこの論点で最も多い外し方です。営業利益が赤字でも、共通固定費の配賦額を戻すと黒字になる年が複数あります。
- 「赤字だからやめる」と営業利益だけで決める。損益計算書の一番下は、配賦のしかたで動きます。見るのは限界利益と個別固定費の差です。
- 制約があるのに1個あたりの利益で並べる。足りないのがお金ではなく時間のとき、1個あたりの限界利益の順位と、時間あたりの順位は入れ替わります。
- 遊休能力を確かめずに特別注文を断る。能力に余裕がなければ既存の販売を削ることになり、そのぶんの限界利益が機会原価になります。余裕があるかどうかで結論が変わります。
- 数値を示せと書いてあるのに書かない。平成23年度の第2問は「根拠となる数値を示しながら」、平成28年度は「意思決定の基準となる尺度の値」と指定があります。
- 事業部長の評価で、本人が決められない投資額まで含めて測る。令和6年度の設問2は、社長が設備投資を決めている会社です。誰が決めたかを読まずに一般論のROIを書くと、設問文の条件を無視した答案になります。
この記事で言えないこと
- この型で何点取れるか。2次試験に公式解答は無く、当サイトは事例Ⅳの得点の実測を持っていません。「落ちる」「取れる」はすべて見立てです。
- 出題の趣旨との照合。事例Ⅳの出題の趣旨は当サイトのコーパスに入っていないため、この記事の型は趣旨と突き合わせていません。事例Ⅰ〜Ⅲの解説記事とは確度が違います。
- 11問すべての解答例と計算の答え。載せたのは3問の書き方だけで、計算の答え合わせはしていません。平成26年度の構成比や平成22年度の損益分岐点売上高は、資料の数値を自分で追ったほうが身につきます。
- 配賦の当否そのもの。共通固定費を配賦すること自体が誤りという意味ではありません。全社の採算を見るには要る数字で、個別の意思決定に使わないという話です。
配点・字数・問われたこと・引用した数値は、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。型の分け方と対応表は、受験生・合格者が公開している解き方を当サイトが整理したもので、これで加点されるという意味ではありません。年度によって設問の作りが変わるので、最後は設問文の指示に従ってください。
この記事のまとめ
- セグメント・意思決定は19年で11問。9年度に出て、9問に字数制限があります。
- 聞かれ方は3つ。やめるか続けるか、受けるか断るか、事業部をどう評価するか。
- どの型でも判断に入れるのは「その決定で変わる収益と費用」だけです。配られた共通固定費は入れません。
よくある質問
- 共通固定費を判断に入れないのは、どの設問でも同じですか?
- 「その決定によって金額が変わらない」場合は同じです。判断の分かれ目は配賦されているかどうかではなく、やめたときに消えるかどうかです。設問文に「この事業を廃止すると本社費のうち◯◯は削減できる」と書かれていれば、その分は判断に入れます。資料が「共通固定費配賦額」と書き分けているときは、消えない費用として置かれていることがほとんどです。
- 限界利益と貢献利益は、どちらの言葉で書けばよいですか?
- 資料に出ている言葉に合わせるのが安全です。事例Ⅳの資料は「限界利益」と書かれている年が多く、その場合は限界利益で通します。限界利益から個別固定費を引いた金額を貢献利益と呼びますが、資料にその行が無ければ、当サイトは「限界利益が個別固定費を◯◯上回る」と数値で書く形を勧めています。用語の呼び方より、どの費用を引いたかが読み手に伝わるかどうかです。
- 計算が合わなくても、結論だけ書く価値はありますか?
- あります。11問のうち9問に字数制限があり、計算の欄と記述の欄が分かれている設問がほとんどです。計算が途中でも、限界利益と個別固定費の関係を言葉で説明することはできます。当サイトの見立てでは、記述欄を空けたまま出すのがいちばん失点が大きい終わり方です。

