事例Ⅳのリスク管理|最終問の記述は「変動の要因→影響の向き→対応策」で書く
この記事の結論
- リスク管理は19年で10問。最終問に9回置かれ、9問に字数制限があります。
- 聞かれ方は3つ。新しいことのリスクと対策、外からの変動への備え、仕組みを変えたときの収益・費用・資産の変化。
- 書く型は「変動の要因→影響の向き→対応策」。固定費・在庫・為替・負債の言葉に落ちて初めて財務的観点になります。
事例Ⅳの最終問は、電卓を置いて日本語で答える設問が多く、その論点でいちばん多いのがリスク管理です。ところが「財務的観点から」と指示されているのに、一般論やマーケティングの言葉で埋めてしまう答案が少なくありません。この記事では、2007〜2025年度の10問で何が聞かれたかを一覧にし、聞かれ方を3つの型に分け、与件文の記述を財務の言葉に置き換える対応表と、字数ごとの書き方の型を示します。配点・字数・問われたことは、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。計算の設問はこの記事では解きません。
19年で10問。最終問の常連で、ほぼ記述
リスク管理は19年で10問。そのうち9問がその年の最終問で、9問に字数制限があります。計算科目の最後に、財務の考え方を言葉にする設問が待っています。
経営分析・投資判断・CVPに比べると設問数は少なく見えますが、置かれる場所が違います。第1問の経営分析と対になって、最終問で「この会社の財務にとって何が怖くて、どう備えるか」を書かせる。この位置と型が、20年近く繰り返されています。
配点は12点から30点まで。多くの年で計算を伴わないので、真ん中の計算2問で時間を使い切ると、取れたはずの点がそのまま空欄になります。先に読んでおくべき設問です。
10問で聞かれたことの一覧
為替、大口取引先、業務委託、新規事業、ネット販売、品質、負債。題材は毎年変わりますが、聞き方は「何が起きると財務がどう振れるか」と「どう備えるか」の組み合わせです。
| 年度 | 設問・配点 | 字数 | 問われたこと |
|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 第4問・20点 | 50字・50字 | OEM生産の財務的利点/男性向けアンチエイジング製品を新しい製品分野として開発・販売する財務的利点 |
| 令和4年度 | 第4問・20点 | 100字 | 中古車販売事業を実行する際のリスクを財務的観点から2点指摘し、そのマネジメントを助言 |
| 平成30年度 | 第4問・15点 | 70字 | 受注したサポート業務で業務委託を行うことが、事業展開や業績に悪影響を及ぼすのはどのような場合か。それを防ぐ方策 |
| 平成28年度 | 第4問・25点 | 60字+計算 | 業者のネット予約システムを利用することで、収益や費用がどのような影響を受けているか(設問2は自社システム導入による損益分岐点売上高の変動額の計算) |
| 平成27年度 | 第4問・12点 | 30字・30字 | 大口取引先X社の存在のデメリット/それを解消する方策として環境関連製品を製造・販売する意義 |
| 平成26年度 | 第4問・16点 | 字数指定なし | 為替リスクを軽減する手段を2つ挙げ、それぞれについて円安になった場合と円高になった場合の影響(メリット・デメリット) |
| 平成25年度 | 第3問・30点 | 90字 | 植物工場で品質基準に適合しないものが生産されるリスクについて、生産計画から納品までのプロセスで考慮すべきリスクに関連するコストを大きい順に4つ |
| 平成21年度 | 第2問・20点 | 計算+100字 | 景気で総資本営業利益率が振れる中、本社を売却して負債を返済すると、税引前自己資本利益率のバラツキがどう変化するか(設問1は期待値の計算) |
| 平成21年度 | 第4問・20点 | 計算+50字・100字 | 為替予約の損益(計算)/1ドル100円で決済するために用いるべきオプション/オプションを用いた場合の長所と短所 |
| 平成19年度 | 第4問・25点 | 60字・40字 | インターネット販売で個人情報の観点から留意すべき点/対面販売からインターネット販売へ移ると資産と費用の構造がどう変化するか |
一覧にすると、純粋な計算だけで終わる設問はありません。計算がある年でも、その結果を受けて「バラツキはどう変わるか」「長所と短所は何か」と言葉で締めさせています。
聞かれ方は3つの型に分かれる
題材は毎年違っても、設問文の骨組みは3つしかありません。どの型かが分かれば、答案の骨組みも決まります。
| 型 | 該当する設問 | 答案の骨組み |
|---|---|---|
| A 新しいことを始めるときのリスクと対策 | 令和4年度(中古車販売)/平成30年度(業務委託)/平成25年度(植物工場の品質)/平成19年度 設問1(ネット販売と個人情報) | 何が起きると損失や資金の固定化につながるか→それを防ぐ、または小さくする手立て |
| B 外からの変動にどう備えるか | 平成26年度(為替)/平成21年度 第4問(為替予約とオプション)/平成21年度 第2問(景気変動と負債)/平成27年度(大口取引先) | 変動の要因→利益や資金がどちらへ振れるか→固定する・分散する手段と、その手段の代償 |
| C 仕組みを変えると、収益・費用・資産がどう変わるか | 令和5年度(OEM・新分野)/平成28年度 設問1(ネット予約システム)/平成19年度 設問2(対面からネットへ) | 固定費と変動費のどちらが増減するか→設備や在庫が要らなくなるか→売上の振れに強くなるか |
型Aと型Bは「リスク」という言葉が設問文にあるので見分けやすい。見落としやすいのが型Cです。令和5年度は「財務的利点」、平成19年度の設問2は「資産と費用の構造の変化」と聞いていて、リスクの語はありません。それでも論点は同じで、固定費と変動費、設備と在庫という財務の骨組みで会社の仕組みの変化を語らせています。
型Bには手段の代償を書く欄が付いています。平成26年度は円安・円高それぞれのメリット・デメリット、平成21年度はオプションの長所と短所。「リスクが無くなる」と書いた瞬間に、この欄が埋まらなくなります。
見る順番は、設問文→与件文→財務諸表
経営分析と順番が違います。記述は設問文の指示語が答案の骨組みを決めるので、与件文より先に設問文を分解します。
- 1設問文の指示語を数える。「財務的観点から」「2点」「大きい順に4つ」「利点」「場合」「方策」「長所と短所」。数えられる指示は要素の数、名詞の指示は要素の種類を決めます。令和4年度なら「リスク2点+それぞれのマネジメント」で4要素です。
- 2与件文で、その設問が指す事業や取引の記述を探す。委託している、輸出している、特定の取引先が大きい、新しい事業を始める、店舗からネットへ移る。財務の言葉に置き換える材料はここにあります(次の節の対応表)。
- 3財務諸表で裏を取る。固定費の比率が高いか、借入が多いか、在庫が積み上がっているか。与件文の記述と数字が同じ方向を向いていれば、答案の根拠として1語添えます。数字を計算し直す必要はありません。
- 4型を決めて骨組みを書く。A なら「起きること→手立て」、B なら「要因→振れの向き→手段と代償」、C なら「固定費・変動費→設備・在庫→振れへの強さ」。骨組みを先に置いてから字数に合わせて肉を付けます。
この順番にする理由は、記述の失点の多くが「聞かれた要素が足りない」「聞かれていない要素で埋めた」で起きると当サイトが見ているからです(見立て。事例Ⅳの得点の実測は持っていません)。与件文から入ると、目についた事情を書きたくなり、設問文の指示を後から合わせることになります。
与件文のこの記述が、この財務の言葉になる
「財務的観点から」の指示に応えるとは、売上・費用・資産・資金のどれがどちらへ動くかを言うことです。与件文の記述を、その言葉に置き換える手がかりを並べます。
| 与件文・設問文の記述 | 財務の言葉 | 答案に書くこと(手がかり) |
|---|---|---|
| 生産を委託している/OEM生産 | 固定費の変動費化 | 設備や生産人員を持たないので固定費が小さく、売上が減っても損失が出にくい。設備投資の資金が要らず、資金を企画や販売に回せる |
| 新しい事業・新しい製品分野を始める | 初期投資・在庫・資金繰り | 投資や在庫でお金が固定化し、売れなければ回収できない。逆に既存事業と客層や季節が違えば、売上の振れが分散される(利点にもなる) |
| 特定の取引先からの受注割合が大きい | 売上の集中 | その取引先の業績や方針ひとつで売上が大きく振れ、価格交渉でも弱い。取引先や製品分野を増やして分散する |
| 海外から仕入れる/海外へ輸出する | 為替リスク | 円安・円高で仕入額や売上額が動く。為替予約はレートを固定する代わりに有利な変動の機会も失う。オプションは権利なので有利なら使わずに済むが、プレミアムを払う。円建て取引にすれば相手に負担が移る |
| 借入が多い/資産を売って負債を返す | 財務レバレッジ | 営業利益の振れが、利息を引いた後の自己資本利益率に増幅されて伝わる。負債を減らせば振れは小さくなり、利息の負担も減る |
| 対面からネットへ/外部のシステムを使う | 資産と費用の構造 | 店舗や人員が減り、固定資産と人件費が下がる。代わりに委託費・手数料・広告費が増える。手数料は売上に連動する変動費で、固定費とは振れ方が違う |
| 外部に委託した業務の品質や納期 | 委託の代償 | 委託先の不備で顧客を失う、委託費が固定的に発生して利益を圧迫する。複数の委託先を持つ、基準を契約で決めて管理する |
| 品質基準に適合しないものが出る | 品質に関連するコスト | 予防・評価・内部の失敗・外部の失敗の4つに分けて考える。どれが大きいかは与件の事情(納品後に見つかるのか、工場内で止まるのか)で変わる |
右の列を見ると、どの行にも「固定費」「在庫」「資金」「振れ」のどれかが入っています。財務的観点とは、この4語のどれかで会社の状態を言い直すことだと当サイトは整理しています。「顧客が離れる」「ブランドが傷つく」で止まる答案は、財務の手前で終わっています。
書く型は「変動の要因→影響の向き→対応策」
字数が違っても骨組みは同じです。字数で変わるのは、要素をいくつ並べるかと、対応策まで書くかどうかだけです。
| 字数 | 入れるもの | 該当する年度 |
|---|---|---|
| 30字 | 結論を1つ。要因か方策のどちらか一方に絞る | 平成27年度(30字×2) |
| 50〜60字 | 要因+影響の向き。対策は設問文が求めたときだけ | 令和5年度(50字)/平成28年度(60字)/平成19年度(60字・40字) |
| 70字 | 「どのような場合か」+「防ぐ方策」の2部構成 | 平成30年度 |
| 90〜100字 | 指定された数だけ並べる(2点・4つ)。各項目を「要因→影響→対策」の順に短く | 令和4年度(100字)/平成25年度(90字)/平成21年度(100字) |
令和4年度の第4問(100字)で、型の使い方を見ます。設問文は「リスクを財務的観点から2点」「それらのマネジメント」。骨組みは「リスク①→対策①、リスク②→対策②」の4要素です。中古車販売は仕入で在庫を持つ事業なので、財務の言葉は在庫と資金、相場と評価損になります。
リスクは①仕入で在庫が増え資金が固定化する②中古車相場の下落で在庫の評価損が出ること。対策は①仕入と在庫の上限を決め回転期間を管理する②需要のある車種に絞り、長期滞留車は早めに値下げして現金化する。
99マス / 100マス
令和5年度の設問1(50字)は型C。「OEM生産の財務的利点」なので、リスクではなく利点を、固定費と資金の言葉で書きます。50字では要因と影響で使い切るので、対策は書きません。
自社で生産設備や人員を持たず固定費を抑えられ、設備投資の資金負担が無く売上変動時の損失が出にくい。
49マス / 50マス
平成30年度の第4問(70字)は型A。「悪影響を及ぼすのはどのような場合か」と「防ぐ方策」の2部構成が設問文に書いてあるので、前半に場合、後半に方策を置きます。
委託先の品質や納期の不備で顧客を失い、委託費が固定的に生じ利益を圧迫する場合。対策は委託先の複数化と品質・納期基準を契約で定め管理すること。
70マス / 70マス
3つの解答例に共通しているのは、与件文の事情(中古車の在庫、OEM、サポート業務の委託)と財務の言葉(在庫・資金・固定費・委託費)が1文の中で結び付いていることです。どちらか一方だけの文は、一般論か感想のどちらかになります。
書いてはいけない答案の見分け方
型に沿って書いても落ちる場所が6つあります。どれも書き終えたあとに設問文と読み比べれば気づけるものです。
- 一般論だけで、与件文の事情に触れない。「リスクを把握し管理する」はどの会社にも当てはまり、この会社への助言になっていません。
- 「リスクが無くなる」と書く。為替予約はレートを固定するだけで、有利な変動の機会も同時に失います。型Bは手段の代償まで書いて1セットです。
- 財務の言葉が無い。「顧客満足の低下」「ブランドの毀損」だけでは「財務的観点から」の指示に応えていません。売上・費用・資産・資金のどれにどう効くかまで書きます。
- 指示された数を守らない。「2点」「4つ」「大きい順」は数えられる指示です。数が合わないと、要素ごと採点の対象から外れると当サイトは見ています(見立て)。
- 利点を聞かれているのにリスクを書く。令和5年度は2問とも「財務的利点」でした。設問文の最後の名詞を確かめてから書き始めます。
- 計算の設問に文章で答える。平成28年度の設問2と平成21年度の設問1は計算です。字数の欄が無い設問は数字で答えます。
この記事で言えないこと
- この型で何点取れるか。2次試験に公式解答は無く、当サイトは事例Ⅳの得点の実測を持っていません。「落ちる」「取れる」はすべて見立てです。
- 出題の趣旨との照合。事例Ⅳの出題の趣旨は当サイトのコーパスに入っていないため、この記事の型は趣旨と突き合わせていません。事例Ⅰ〜Ⅲの解説記事とは確度が違います。
- 10問すべての解答例。載せたのは3問で、平成25年度の「大きい順に4つ」や平成21年度の財務レバレッジは、与件文と財務諸表を読んでから書く設問です。対応表は手がかりに留めています。
配点・字数・問われたことは、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。型の分け方と対応表は、受験生・合格者が公開している解き方を当サイトが整理したもので、これで加点されるという意味ではありません。年度によって設問の作りが変わるので、最後は設問文の指示に従ってください。
この記事のまとめ
- リスク管理は19年で10問。最終問に9回置かれ、9問に字数制限があります。
- 聞かれ方は3つ。新しいことのリスクと対策、外からの変動への備え、仕組みを変えたときの収益・費用・資産の変化。
- 書く型は「変動の要因→影響の向き→対応策」。固定費・在庫・為替・負債の言葉に落ちて初めて財務的観点になります。
よくある質問
- 「財務的観点から」とは、何を書けば応えたことになりますか?
- 売上(収益)・費用(固定費か変動費か)・資産(設備・在庫)・資金(現金の出入りと回収)のどれが、どちらへ動くかを言うことです。当サイトは「固定費・在庫・資金・振れ」の4語のどれかが文に入っているかで確かめる整理をしています。「顧客が離れる」で止まる文は、その先の「売上が減り、固定費が残るので利益が振れる」まで書いて財務の言葉になります。
- 事例Ⅳの記述に、1次試験の知識はどこまで要りますか?
- 固定費の変動費化、財務レバレッジ、為替予約と通貨オプション、品質コストの4分類あたりが、10問で繰り返し使われた言葉です。いずれも1次の財務・会計(品質コストは運営管理)の範囲で、新しく覚える理論はありません。要るのは、与件文の事情をその言葉に置き換える練習のほうです。
- 計算が終わらなかったら、最終問は捨ててよいですか?
- 捨てないことを勧めます。10問中9問に字数制限があり、計算を伴わない年が多いので、計算が途中でも書けます。開いたときに第1問と最終問を先に読んでおき、計算に詰まったら最終問へ移るのが、当サイトの見立てでは失点の少ない回し方です。

