事例Ⅳの投資判断(NPV)|差額のキャッシュフローを年ごとに並べれば、あとは掛け算
この記事の結論
- 投資判断は19年で17問。第3問に置かれた年が11回あります。
- 手順は5つ。差額で取るものを決め、時点0を作り、年ごとの表を作り、係数を掛け、丸めの指示に従う。
- 令和6年度は節税をいつ計上するかで NPV が 53.88 と 51.14 に割れます。採った前提を計算過程に1行書けば過程点は残ります。
- 設問3は市場調査費30万円を埋没原価として除くのが本命。含めると結論が「ある」から「ない」に反転します。
事例Ⅳの投資判断は、公式を知っているかではなく、条件を年ごとの表に落とせるかで決まります。ここでは令和6年度第3問(新旧スライサーの取替投資・配点30点)を最初から最後まで解き、差額のキャッシュフローを並べる手順と、受験生の答えが割れる場所を示します。数値は試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して読み取り、計算は手計算と表計算の2通りで確かめました。2次試験に公式解答は無いので、答えには当サイトの確度のラベルを付けています。
19年で17問。第3問の常連
投資判断は経営分析に次いで2番目に多い論点です。19年で17問、そのうち11回が第3問でした。
取替投資、新規投資、期待値つき、税引後、運転資本つき。見た目は毎年変わりますが、聞かれていることは同じです。「この投資をすると、しないときと比べてお金の出入りが年ごとにいくら変わり、それを今の値打ちに直すと合計いくらか」。この記事は、その一本の手順だけを覚えて、令和6年度の第3問を通します。
答えには3段のラベルを付けます。【確定】は前提の置き方が一つに定まる計算。【前提により2解】は前提の置き方が割れる計算で、両方の答えを前提つきで併記します。【解答例】は記述や、複数の解が成り立つ選択です。確度の根拠は、当サイトの解答例(手計算と表計算の2通り)と、同じ問題文だけを配って独立に解かせたAI3人の答案の突き合わせです。「一致」は当サイトの解答例との一致であって、正誤の断定ではありません。
手順は5つ。差額を年ごとの表にする
投資判断で計算する数字は、いつも「投資したとき」と「しなかったとき」の差です。差額で取ると決めた瞬間に、書く数字が半分になります。
- 1差額で取るものを決める。営業利益の増加分、減価償却費の差(新−旧)、運転資本の残高の変化、旧機械の売却と売却損益の税効果。設問文が「更新前と比べた増加額」と言っているときは、旧機械を続けたときの数字を引いた残りだけを書きます。
- 2時点0(投資したその日)を作る。新機械の支出、旧機械の売却収入、そして売却損益の税効果をここに置くかどうかを決めます。ここが令和6年度で答えが割れた場所です(後述)。
- 3年ごとの表を作る。列は年、行は「営業利益の増加×(1−税率)」「減価償却費の差×税率」「運転資本の増減」。最終年には運転資本の回収を足します。営業利益の増加はすでに減価償却後の数字なので、償却費をもう一度引かないこと。
- 4係数を掛ける。1年・2年は複利現価係数、同じ額が続く年は年金現価係数。ただし年金現価係数は「その年から始まる」ものではなく「1年目から始まる」ものなので、3年目から始まる7年間なら「7年の年金現価係数×2年の複利現価係数」でずらします。
- 5丸めの指示に従う。「小数第3位を四捨五入し小数第2位まで」なら 53.9 でも 54 でもなく 53.88。○印を付ける欄があるなら付ける。計算過程の欄には、割引が終わらなくても途中の表まで書いておきます。
この5つのうち、公式らしいものは4つ目だけです。残りは条件を読んで表に写す作業で、そこで落とすのが投資判断の失点のほとんどだと当サイトは見ています(見立て。得点の実測は持っていません)。
令和6年度 第3問を、最初から通す
配点30点。設問1〜3が一本の前提でつながっていて、旧機械の売却損の節税33万円をいつ計上するかで、3設問すべての数字が動きます。
| 条件 | 値 |
|---|---|
| 旧機械 | 3年前に240万円で購入。定額法・耐用年数12年・残存価額ゼロ。従来は耐用年数経過後に処分価額ゼロで除却の予定 |
| 旧機械の売却 | 中古機械として70万円で売却できる見込み |
| 新機械 | 価格540万円。定額法・耐用年数9年・残存価額ゼロ。耐用年数経過後は処分価額ゼロで除却 |
| 営業利益の増加(更新前比) | 初年度 30万円、それ以降は各年度 70万円 |
| 運転資本の残高の増加(各年度末・更新前比) | 初年度 25万円、それ以降 40万円。耐用年数経過後は導入前の水準に戻る |
| 法人税等の税率 | 30%(今後9年間は赤字に転落しない) |
| キャッシュフローの発生時点 | 初期投資と旧機械の売却収入以外は、各年度末 |
| 資本コスト | 9% |
| 複利現価係数(9%) | 1年 0.917/2年 0.842/7年 0.547/9年 0.460 |
| 年金現価係数(9%) | 7年 5.033 |
共通の土台(どちらの立場でも変わらない)
- 減価償却費の差=新 540÷9=60万円 − 旧 240÷12=20万円 = 40万円/年。旧機械は3年使ったので残り9年、新機械の耐用年数9年と一致します。
- 運転資本は「残高」で与えられているので、差分に直します。初年度 25万円の流出、2年度 40−25=15万円の流出、3〜9年度は 0、9年度末に導入前の水準へ戻るので 40万円の回収。
- 旧機械の簿価=240×9/12=180万円。70万円で売るので売却損 110万円。税率30%で節税 33万円。
- 時点0=新機械 −540万円 + 売却収入 70万円 = −470万円。ここに節税33万円を足すかどうかで、以下の2つの立場に分かれます。
設問1 初年度と2年度の増加額 ──【前提により2解】
| 立場 | ⒜ 初年度 | ⒝ 2年度 |
|---|---|---|
| A:節税33万円を時点0に計上(当サイト・AI 1人) | 36万円 | 74万円 |
| B:節税33万円を初年度末に計上(AI 1人) | 69万円 | 74万円 |
立場Aの根拠は、売却に付随する効果として売却収入と一緒に時点0に括る教科書的な扱いです。設問1が「初期投資と旧機械の売却収入を除く」と明示していることも、売却まわりを時点0にまとめている読みと合います。
立場Bの根拠は、問題文の「初期投資と旧機械の売却収入以外のキャッシュフローは各年度末に生じる」を文字どおり読むと、節税額は売却収入そのものではないので年度末になる、というものです。どちらも計算過程が通っていれば過程点は残る種類の分岐で、本試験では自分の採った立場を計算過程に1行書くのが最善手です。
設問2 正味現在価値 ──【前提により2解】
| 立場 | NPV |
|---|---|
| A:節税を時点0に計上 | 53.88万円 |
| B:節税を初年度末に計上 | 51.14万円 |
3年度から9年度は89万円が7年間続きます(3・4・5・6・7・8・9で7年)。年金現価係数が7年しか与えられていないのは、ここで使えという合図です。ただし年金現価係数は1年目から数える係数なので、3年目から始まる分は2年の複利現価係数 0.842 を掛けてずらします。
9年の複利現価係数 0.460 は最終年の運転資本の回収に使います。7年の複利現価係数 0.547 は本解では使いません(0.547×0.842≒0.460 で、係数表の内部の整合を確かめるのに使えます)。
設問3 市場調査のあとで実行すべきか ──【前提により2解】
| 市場調査費30万円の扱い | NPV | ⒝欄 |
|---|---|---|
| 埋没原価として除外(理論の本命・当サイト・AI 1人) | 21.70万円 | 実行する必要が(ある) |
| 投資額に算入(AI 2人) | −8.30万円 | 実行する必要が(ない) |
市場調査は初年度期首にすでに実施済みです。実行してもしなくても30万円は戻りません。「支出済み・回収不能」の2条件が揃った原価は埋没原価で、実行すべきかの判断には入れない、というのが理論の本命です。
それでも当サイトが【前提により2解】として両方を載せるのは、同じ問題文だけを配ったAI3人のうち2人が算入したからです。問題文が「30万円をかけて市場調査を行った。……このとき実行すべきか」と時系列で語るので、投資額に混ぜたくなる作りになっています。配点30点の第3問で、最後の設問の結論が費用1つの扱いで反転する。当サイトの見立てでは、この年の事例Ⅳでいちばん怖い場所はここでした。
答えが割れる場所と、落とし穴
計算そのものが合っていても、条件の読みで外す場所が5つあります。どれも表を作る前の段階です。
- 償却費を差額で取らない。新機械の60万円をそのまま使うと、旧機械を続けたときの20万円ぶんが二重に効きます。差額は40万円。
- 営業利益の増加からもう一度償却費を引く。営業利益はすでに減価償却後の数字です。引くのは税金だけで、償却費は「税率を掛けた節税分」として足します。
- 運転資本を毎年40万円の流出と読む。与えられているのは各年度末の「残高」で、流れる額はその差分です。初年度25、2年度15、あとは0、最終年に40の回収。
- 節税33万円の計上時点。時点0か初年度末か。どちらでも過程点は残るので、採った立場を計算過程に1行書きます。
- 市場調査費30万円を投資額に混ぜる。支出済み・回収不能なら埋没原価。結論の○印が反転する場所です。
- 年金現価係数を3年目からそのまま掛ける。7年の年金現価係数は1年目から7年目までのもの。3年目から始まる分は2年の複利現価係数でずらします。
- 丸めと○印。「小数第2位まで」と「○印を付して答えること」は設問文に明示されています。53.9・54・○印なしは、計算が合っていても失点しうる書き方です。
AI3人の答案で、計算の検算がすべて合っていたのに答えを外した例がありました。落ちたのは計算ではなく条件の読み(追加の作業時間を全体と読む、残高をフローと読む)でした。検算は読み違えを守りません。表を作る前に、条件の一つひとつを「差額か総額か」「残高かフローか」「支出済みか」で仕分けるのが、この論点の練習です。
計算過程の欄で部分点を残す書き方
割引まで終わらなくても、途中の表まで書けば過程点は残ります。書く順番を決めておきます。
- ① 前提を1行。「旧機械売却損の節税33万円は時点0に計上する」「市場調査費30万円は支出済みのため意思決定に含めない」。立場が違っても、この1行があれば過程が追えます。
- ② 土台の数字。簿価180万円・売却損110万円・節税33万円・償却費の差40万円・時点0の金額。
- ③ 年ごとの表。1年 36/2年 74/3〜8年 89/9年 129(立場Aの場合)。ここまでで大半の部分点が確保できると当サイトは見ています。
- ④ 割引。使った係数と掛け算を1行ずつ。最後に合計から時点0を引いて、指示どおりに丸める。
順番を固定しておくと、途中で時間が切れても書けているところまでが残ります。逆に、答えの数字だけを先に書いて過程を後回しにすると、数字が違ったときに何も残りません。
この記事で言えないこと
- どちらの立場が正解か。2次試験に公式解答は無く、当サイトの解答例とAI3人の突き合わせは「収束の度合い」を見せるものであって、採点基準ではありません。
- この設問で何点取れたか。当サイトは事例Ⅳの得点の実測を持っていません。「怖い場所」「差がつく」はすべて見立てです。
- 他の年度の投資判断が同じ形で解けるか。差額を年ごとの表にする手順は共通ですが、条件の与え方(税引前か後か、運転資本の有無、期待値の掛け方)は年ごとに違います。まず設問文の指示に従ってください。
数値は試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して読み取り、計算は手計算と表計算の2通りで確かめました。それでも転記や解釈の誤りがゼロとは言えません。答案の練習に使うときは、必ずお手元の問題冊子で条件を確かめてから解いてください。
この記事のまとめ
- 投資判断は19年で17問。第3問に置かれた年が11回あります。
- 手順は5つ。差額で取るものを決め、時点0を作り、年ごとの表を作り、係数を掛け、丸めの指示に従う。
- 令和6年度は節税をいつ計上するかで NPV が 53.88 と 51.14 に割れます。採った前提を計算過程に1行書けば過程点は残ります。
- 設問3は市場調査費30万円を埋没原価として除くのが本命。含めると結論が「ある」から「ない」に反転します。
よくある質問
- NPVの公式は覚えなくていいのですか?
- 覚えるのは「各年のキャッシュフロー×係数の合計 − 時点0の支出」だけです。難しいのは公式ではなく、条件を差額の表に写すところです。償却費は差額で、営業利益は税引後で、運転資本は残高を差分にして、売却損は税効果だけ。この4つを表に写せれば、あとは掛け算です。
- 節税のタイミングは、結局どちらで書けばいいですか?
- 当サイトの解答例は時点0に置いています(教科書的な扱い)。ただし問題文を文字どおり読むと初年度末とも読め、実際に同じ問題文だけを配ったAI3人のうち1人はそう解きました。どちらでも過程点は残る種類の分岐なので、採った前提を計算過程に1行書いて、設問1から設問3まで同じ立場で通すことのほうが大事です。
- 設問3の期待値は、どこに掛けますか?
- 営業利益にだけ掛けます。問題文が「営業利益は60%の確率で予測どおり、40%の確率で予測の7割」と言っていて、運転資本の予測は変わらないと明示しているからです。0.88 を運転資本や減価償却費の節税分、時点0の金額に掛けると、別の答えになります。

