令和6年度 事例ⅣをAI3つが解いた|計算はどこで割れたか
この記事の結論
- 同じ問題文だけを3つのAIに配りました。互いの答案は見せていません。
- 第2問設問1(セールスミックス)は、型を知っている2つと当サイトの解答例が1円まで一致しました。
- 第3問は節税33万円の計上時点で3小問の数値がまとめて動き、設問3は市場調査費30万円の扱いで結論が反転しました。
- いちばん外した答案は、検算がすべて合っていました。落ちたのは計算ではなく条件の読みです。
事例Ⅳは、答えが数値で出るぶん「どこで割れるか」がはっきり見えます。そこで令和6年度 事例Ⅳの問題文だけを3つのAIに独立して配り、4問9小問の答案を突き合わせました。狙いは優劣を決めることではありません。同じ材料から出発しても数値が割れる場所はどこか、そこで計算過程に何を書いておけばよかったのかを取り出すことです。答案の数値と記述はすべて原文のまま載せています。比較の基準は当サイトの解答例で、公式解答ではありません。
3つのAIに、同じ問題文だけを配った
渡したのは問題文だけです。互いの答案も、当サイトの解答例も見せていません。
同じ系列の、性能の異なる3つのAI(本稿ではAI(大)・AI(中)・AI(小)と呼びます)に、同じ問題文だけを配りました。3つとも、他の2つが何を書いたかを知らないまま解いています。予備校の答案例も渡していません。
配った問題文は、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記したものです。財務諸表45科目は27本の検算式で突き合わせてあります。数値の問題では、転記の1桁が答案の違いをまるごと作ってしまうためです。
2次試験に公式解答は公表されません。この記事の「一致」「割れた」は、すべて当サイトの解答例との比較です。令和6年度 事例Ⅳの出題の趣旨は当サイトが未取得のため、この記事では趣旨を引用していません。
9小問のうち、割れなかったのは2か所
第2問設問1と第1問の劣位2指標は一致。第1問の優位指標、第3問の3小問、第2問設問2は割れました。
| 設問 | 当サイトの解答例 | AI(大) | AI(中) | AI(小) |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 設問1 ①優位 | 有形固定資産回転率 11.26回(流動比率 243.32%も可) | 有形固定資産回転率 | 流動比率 | 自己資本利益率(ROE) |
| 第1問 設問1 ②③劣位 | 売上高営業利益率 1.01%・自己資本比率 14.15% | 同じ | 同じ | 同じ |
| 第2問 設問1 | 6,500袋/240袋/2,670,800円 | 同じ | 同じ | 3,700袋/4,200袋/12,354,000円 |
| 第2問 設問2 | 4,905円(別前提で4,895円) | 4,905円 | 4,905円 | 2,820円 |
| 第3問 設問1 | 36万円/74万円(節税を初年度末なら69/74) | 69万円/74万円 | 36万円/74万円 | 146万円/49万円 |
| 第3問 設問2 | 53.88万円(同 51.14万円) | 51.14万円 | 53.88万円 | 46.81万円 |
| 第3問 設問3 | 21.70万円→ある(調査費を含めると −8.30→ない) | 18.96万円→ある | −8.30万円→ない | −12.41万円→ない |
| 第4問 | 管理不能性・原価転嫁の論点(記述) | ほぼ同旨 | ほぼ同旨 | ほぼ同旨 |
縮めた表からでも読み取れることが2つあります。1つは、割れなかった第2問設問1が「型を知っていれば誰が解いても同じ数字になる」設問だということ。もう1つは、第3問の3小問がひとつながりで動いていることです。以下、割れなかったほうから順に見ます。
第2問設問1は、型を知っている3者が1円まで一致した
制約が2本あるセールスミックスは、手順さえ固まっていれば答えが1つに決まります。ここは落とせない設問です。
| AI | 第2問 設問1 ⒜⒝⒞の答案(原文のまま) |
|---|---|
| AI(大) | 6,500袋 |
| AI(中) | 6,500袋 |
| AI(小) | 3,700袋 |
この設問は、直接作業時間と機械運転時間の2本の制約のうち、どちらが先に足りなくなるかを自分で確かめる作りになっています。効いているのは機械運転時間で、機械1時間あたりの限界利益で並べるとX社向けが上。X社向けを最大の6,500袋にして、残った時間でY社向けを240袋作る、が当サイトの解答例です。
AI(小)だけが別の答えに着きました。原因は計算ではなく条件の読みです。Y社向けの変動費1,600円・作業1.5時間・機械0.5時間は「追加加工に必要な」分で、既存の1,780円・1時間・2時間に上乗せします。これを「Y社向けの全体」と読むと、限界利益は3,200円、機械時間は0.5時間になり、Y社優先という真逆の結論に着きます。
気づける場所はあります。追加加工をして機械時間が2時間から0.5時間に減ることはあり得ません。数字の向きが与件と噛み合わないときは、条件の読みを疑う合図です。
第1問の優位指標は三つ巴。数値の差ではなく、与件が説明できるものを選ぶ
劣位2つは4者一致。割れたのは優位1つで、有形固定資産回転率・流動比率・ROEに分かれました。
| AI | ①優れている指標(原文のまま) |
|---|---|
| AI(大) | 有形固定資産回転率 |
| AI(中) | 流動比率 |
| AI(小) | 自己資本利益率(ROE) |
有形固定資産回転率は、テナント中心の出店で少ない設備から売上を上げるという、与件文の事業の形に直結します。流動比率は数値の差が大きく部分点は堅い一方、中身は現金預金の厚さで、与件の筋との接続は一段弱い。ROEは数字は事実ですが、この高さは自己資本の薄さが作るもので、同じ答案で自己資本比率の低さを劣位に挙げるなら、その裏返しを優位と呼ぶのは筋が通りにくい選択です。
持ち帰りは1つ。優位の指標は「数値の差が大きいもの」ではなく「与件文が説明できるもの」から選ぶ。迷ったら、劣位に挙げた指標と論理が衝突しないかを1秒確かめる。
第3問は、節税33万円をいつ計上するかで3小問がまとめて動いた
旧機械の売却損110万円の節税33万円を時点0に置くか初年度末に置くか。それだけで設問1〜3の数値が全部変わります。
| AI | 第3問 設問1 ⒜初年度(原文のまま) | 設問2 NPV(原文のまま) |
|---|---|---|
| AI(大) | 69万円 | 51.14万円 |
| AI(中) | 36万円 | 53.88万円 |
| AI(小) | 146万円 | 46.81万円 |
AI(中)と当サイトは、売却に付随する効果として売却収入と一緒に時点0に括りました(教科書的な扱い)。AI(大)は、問題文の「初期投資と旧機械の売却収入以外のキャッシュフローは各年度末に生じる」を文字どおり読み、節税額は売却収入そのものではないので初年度末に置きました。NPVの差は 33×(1−0.917)=2.74万円です。
どちらも計算過程が通っていれば過程点は残る種類の分岐です。本試験でできることは1つ、自分の採った立場を計算過程に1行書くこと。実際にそうしていた答案が1つありました。
AI(小)の146万円は、別の場所で外れています。運転資本の「各年度末の残高が25万円→40万円多くなる」を、毎年40万円ずつ出ていくと読んだこと、そして売却損110万円を税効果(×30%)にせず全額戻し入れたことです。残高とフローの取り違えは、投資判断でいちばん多い読み違いの1つです。
設問3は、市場調査費30万円で「ある」が「ない」に反転した
支出済みの30万円を意思決定に入れるか。4案中2案が入れ、結論が反転しました。配点30点の第3問でいちばん怖い場所です。
| AI | 第3問 設問3 ⒜NPV(原文のまま) | 結論 |
|---|---|---|
| AI(大) | 18.96万円 | ある |
| AI(中) | -8.30万円 | ない |
| AI(小) | -12.41万円 | ない |
市場調査は初年度期首にすでに実施済みで、実行しても中止しても30万円は戻りません。「支出済み・回収不能」の2条件が揃った原価は埋没原価で、実行すべきかの判断には入れない、というのが理論の本命です。
それでも2案が算入しました。問題文が「30万円をかけて市場調査を行った。……このとき実行すべきか」と時系列で語るので、投資額に混ぜたくなる作りになっています。本試験でも相当数の答案がここで割れる、と当サイトは見ています(見立て)。
持ち帰りは、計算の前に「支出済み・回収不能なら埋没原価」の一行を唱えること。そして結論だけでなく、計算過程に「市場調査費は支出済みのため意思決定に含めない」と書くこと。立場が違っても、この1文で過程点は残ります。
第2問設問2は、AIではなく人の再現答案のほうで割れていた
3者は4,905円で一致。ところが再現答案の最頻値は4,895円で、予備校の解答速報も割れていました。
| AI | 第2問 設問2 ⒜販売価格(原文のまま) |
|---|---|
| AI(大) | 4,905円以上 |
| AI(中) | 4,905円以上 |
| AI(小) | 2,820円以上 |
AIの実験では割れなかったこの設問が、当サイトが再現答案176件を機械で照合したところ、4,895円と書いた人が4,905円より多いと分かりました。予備校の解答速報も4,905円と4,895円に分かれています。差はちょうど10円で、「新しい価格のもとでX社向け優先の案と比べる」か「設問1で出した営業利益2,670,800円を超えればよいと読む」かの違いです。
当サイトはこの設問を、AIの一致だけを根拠に【確定】としていましたが、人の答案と予備校の割れを受けて【前提により2解】に改めました。AIが一致した場所が、人の割れる場所と同じとは限らない。この実験の限界がそのまま出た設問です。
いちばん外した答案は、検算がすべて合っていた
計算の検算は転記と四則演算しか守りません。条件の読み違えは、検算では見つかりません。
AI(小)の答案には、各設問に検算が付いていて、その検算はほぼすべて合っています。落ちたのは計算ではなく条件の読みでした。「追加加工に必要な」を全体と読む、「各年度末の残高」を毎年の流出と読む、売却損を税効果にせず全額戻す。3つとも、算数の検算では絶対に見つかりません。
- 追加か、全体か。「追加加工に必要な1袋当たりの原価」は上乗せ分です。
- 残高か、フローか。「各年度末における運転資本の残高」は残高で、流れる額はその差分です。
- 期首か、期末か。「初年度期首に30万円をかけて」は支出済みの合図です。
本試験の対策としては、計算の検算とは別に、この3点を設問文に印を付けて確かめる「読みの検算」が要ります。片側だけの検算は、安心の根拠になりません。
一方で、この答案の記述(第1問設問2と第4問)は水準にありました。計算が壊れた日にも記述で点を守る、という事例Ⅳの保険戦略が、意図せず再現された形です。
第4問の記述は、3つとも同じ論点に着いた
全部原価に利潤を上乗せする振替価格の問題点は、3つとも「原価低減の動機」と「管理不能な原価の転嫁」でした。
| AI | 第4問 設問1の答案(原文のまま) |
|---|---|
| AI(大) | 加工事業部の原価の無駄や利潤が振替価格に転嫁され、供給側は原価低減の動機を失い、受入側は管理不能な原価を負担する。各事業部長の業績が自らの努力を反映しない点。 |
| AI(中) | 供給側の非効率な原価がそのまま需要側の仕入原価に転嫁され、需要側の業績評価が供給側の効率性に左右される。また供給側は原価低減のインセンティブが働きにくい。 |
| AI(小) | 全部原価に利潤を上乗せすると、加工事業部の原価削減動機が減り、供給価格が市場より割高だと下流事業部の業績評価が実際より悪化する。 |
計算で30点規模の差がついた3つが、記述では同じ論点に着いています。事例Ⅳの記述は、1次試験の管理会計の知識がそのまま使える場所で、割れにくい。差がつくのは計算の中ほどの2問だ、というのはAIの実験だけの話ではありません。
当サイトが同じ年の再現答案176件を機械で照合したところ、事例Ⅳの合計点のばらつきの約8割が、小問ごとに解答例と一致しているかで説明でき、そのほとんどを第2問設問1と第3問設問1が占めていました。第1問の指標名の一致は、他を同じにするとほぼ効いていません(相関であって配点ではなく、得点は自己申告です)。AIの実験と、人の答案の統計が、同じ場所を指しています。
得点の見立てと、事例Ⅰとの差
3つの見立ての開きは30点規模。同じ実験を令和7年度 事例Ⅰでやったときの10点前後とは、桁が違います。
以下は当サイトの解答例を仮の基準にした概算であって、実測ではありません。この答案には公式解答も得点開示も存在しません。
AI(大)は割れる論点で立場を明記しており、過程点も拾える形。AI(中)は第3問設問3の反転が痛いものの過程は明晰。AI(小)は第2問・第3問の読み違えが計算の大半を持っていき、記述が下支えになった形です。
記述中心の事例Ⅰでは、方向さえ合っていれば部分点が差を均し、3つの開きは10点前後にとどまりました。計算問題は条件の読み違えが1つあると小問ごと落ちるので、部分点が差を埋めません。事例の性質がそのまま差の大きさに出ています。
この実験から受験生が持ち帰れること
割れた場所は、公式ではなく条件の読みで決まっていました。読みの検算を、計算の検算とは別に持つことです。
- 1計算の前に、条件を「追加か全体か」「残高かフローか」「支出済みか」で仕分ける。数字を並べる前の段階で、この年の割れ目は3つとも決まっていました。
- 2割れる場所には立場を1行書く。節税の計上時点、埋没原価の扱い、境界値の含み方。どの立場でも過程点が残るのは、その1行があるときだけです。
- 3答えが出なくても、途中の表まで書く。簿価・売却損・節税・償却費の差・年ごとのキャッシュフロー。ここまでで大半の部分点が確保できると当サイトは見ています。
AIの3つは、答案の外で「自信の低い順」を挙げるよう求めると、実際に割れた場所をほぼ言い当てていました。節税の計上時点、境界値、指標の選択。自己認識は正確だったのです。本試験でも、不安を感じた場所にこそ立場を書く価値があります。
この記事で言えないこと
- AIの答案は、人間の受験生の答案の代理にすぎません。第2問設問2のように、AIが一致しても人が割れる場所があります。
- 令和6年度 事例Ⅳの出題の趣旨は当サイトが未取得で、この記事は趣旨を引用していません。比較の基準は当サイトの解答例です。
- 得点の見立ては見立てです。実測ではありません。この答案は採点されておらず、採点する手段もありません。
- 3つのAIは同じ条件で解いていますが、80分の時間制限は課していません。本番の時間圧の下でも同じ判断になるかは分かりません。
答案と分類、および得点の見立ては当サイトの独自のものです。問題(与件文・設問文)の著作権は一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会に帰属します。全文は試験実施機関の公表資料でご確認ください。
この記事のまとめ
- 同じ問題文だけを3つのAIに配りました。互いの答案は見せていません。
- 第2問設問1(セールスミックス)は、型を知っている2つと当サイトの解答例が1円まで一致しました。
- 第3問は節税33万円の計上時点で3小問の数値がまとめて動き、設問3は市場調査費30万円の扱いで結論が反転しました。
- いちばん外した答案は、検算がすべて合っていました。落ちたのは計算ではなく条件の読みです。
よくある質問
- 節税33万円は、結局いつ計上すればいいのですか?
- 当サイトの解答例は時点0(教科書的な扱い)ですが、問題文を文字どおり読むと初年度末とも読め、実際に3つのうち1つはそう解きました。どちらでも過程点は残る種類の分岐なので、採った立場を計算過程に1行書き、設問1から設問3まで同じ立場で通すことのほうが大事です。
- 3つとも同じ答えだった設問は、そこが正解だということですか?
- いいえ。一致は「型を知っていれば同じ数字に着く」という意味で、公式解答との一致ではありません。第2問設問2は3者が4,905円で一致しましたが、人の再現答案の最頻値は4,895円で、予備校の速報も割れていました。一致した設問ほど、比べた相手を計算過程に書いておく価値があります。
- 計算の検算をしても外すのは、なぜですか?
- 検算が守るのは転記と四則演算だけだからです。「追加加工に必要な」を全体と読む、「各年度末の残高」を毎年の流出と読む、といった条件の読み違えは、計算が正しくても答えを外します。計算の検算とは別に、条件を仕分ける読みの検算を持つのが対策です。

