事例Ⅳは合否をどれだけ動かすか|平均は最高、ばらつきは事例Ⅲの2.5倍
この記事の結論
- 「事例Ⅳは点が低い」は開示得点3,085件では支持されません。平均は4事例で最高でした。
- 本当の姿は「最も振れる科目」です。得点の分散は事例Ⅲの2.54倍でした。
- 合格者と不合格者の差は事例Ⅳだけ15.36点。他の3事例は5.99〜7.61点です。
- 事例Ⅰ〜Ⅲの出来から事例Ⅳの得点は読めません(相関はほぼ0)。
事例Ⅳは「難しくて点が出ない科目」として語られます。ところが受験者が公開した得点開示データ3,085件を数えると、4事例で平均点が最も高いのは事例Ⅳでした。低いのは平均ではなく、安定のほうです。この記事は、事例Ⅳが合否をどれだけ動かしているかを、ばらつき・合格者との差・合計点への寄与の3点で見ていきます。数値はすべて再現答案とともに公開された得点開示の集計で、母集団の統計ではありません。前提と限界は末尾にまとめました。
「点が低い科目」ではなかった
平均61.40点は4事例で最高。60点以上を取った割合も54.1%で最高でした(2018〜2025年度・3,085件)。
60点以上を取った人の割合も事例Ⅳが最高で54.1%でした。事例Ⅰ〜Ⅲは45.0〜47.1%で並びます。「事例Ⅳだけ点が出ない」という前提で学習の優先順位を決めているなら、その前提はこの標本では成り立ちません。
年度別に見ても、平均が最も高かった事例は8年度中5年度が事例Ⅳでした(2019・2020・2023・2024・2025年度)。ただし毎年ではありません。残る3年度は事例Ⅰと事例Ⅱが最高です。
本当の姿は「最も振れる科目」
得点の分散は事例Ⅲの2.54倍・事例Ⅱの2.24倍・事例Ⅰの1.56倍。4事例が同じばらつきという仮説は棄却されます。
| 事例 | 標準偏差 | 分散 | 事例Ⅳとの分散比 | 下位10%〜上位10%の幅 |
|---|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 10.29 | 105.94 | 1.56倍 | 44〜70点(26点幅) |
| 事例Ⅱ | 8.59 | 73.83 | 2.24倍 | 47〜69点(22点幅) |
| 事例Ⅲ | 8.05 | 64.86 | 2.54倍 | 48〜69点(21点幅) |
| 事例Ⅳ | 12.85 | 165.10 | — | 45〜78点(33点幅) |
ばらつきの検定はBrown-Forsythe法(並べ替え検定・10,000回)で行いました。4事例が同じばらつきだという仮説は F=67.08、p<0.0001 で棄却されます。事例Ⅳと他3事例を1対1で比べた検定も、Holm補正後にすべて p=0.0003 でした。
得点は5の倍数などに固まる離散的な分布なので、正規分布を仮定する通常のF検定は使っていません。中央値を中心に置くBrown-Forsythe法を、並べ替えで検定しています。
年度別に標準偏差が最大だった事例も、8年度中5年度が事例Ⅳでした。毎年ではありません。ただし人数が76件以上ある2022・2024・2025年度は3年連続で事例Ⅳが最大で、近年ほど振れが大きくなっています。
合格者との差は、事例Ⅳだけ15.36点
合格者と不合格者の平均差は事例Ⅳが15.36点。他の3事例は5.99〜7.61点で、2〜2.6倍の開きがあります(106人)。
効果量(Hedges' g)は事例Ⅳが1.38で、他3事例の0.74〜0.85を大きく上回ります。差のブートストラップ95%信頼区間は事例Ⅳが11.08〜19.45点でした。他3事例の区間の上限は11.05点なので、ほとんど重なりません。
4事例すべてで差は統計的に有意です(Holm補正後 p=0.0004)。合計点で合否を切っている以上これは当然で、読むべきは差の有無ではなく大きさのほうです。
合計点の散らばりの38.6%を作っている
合計点のばらつきのうち、事例Ⅳ単独で38.6%を説明します。他の3事例は約20%ずつです(106人)。
「事例Ⅳは合計点との相関が高い」という言い方には落とし穴があります。事例Ⅳは合計点の一部なので、ばらつきが大きいだけで相関は機械的に上がるためです。そこで相関ではなく、分散への寄与で見ています。
事例Ⅳの寄与のブートストラップ95%信頼区間は30.1〜46.9%でした。他3事例の区間の上限は27.5%なので、ここも重なりません。合計点の差のおよそ4割は事例Ⅳが作っている、と言えます。
他の事例で埋め合わせることはできない
事例Ⅰの得点から事例Ⅳの得点は予測できません。6つの組み合わせの相関はいずれもほぼ0でした(106人)。
事例Ⅰと事例Ⅳの相関は0.005でした。事例Ⅰで高得点だった人が事例Ⅳでも高得点だ、という関係はこの標本には見当たりません。「事例Ⅰ〜Ⅲが得意だから事例Ⅳも大丈夫」という推論は成り立ちません。
106人なので相関の精度は粗く、ゆるい関係までは否定できません。それでも、他事例の手応えを「事例Ⅳの手当てを後回しにしてよい根拠」には使えない、とは言えます。
40点台と50点台のあいだにある崖
事例Ⅳが40点台だった18人のうち合格は1人(5.6%)。50点台では24人中12人(50.0%)でした。
40点台と50点台のあいだで、合格率が5.6%から50.0%へ跳ねます。ただし各帯の人数が少なく、40点台の95%信頼区間は1.0〜25.8%と広めです。単調に増えていること自体ははっきりしています。
この崖は事例Ⅳの中で見たときの話です。事例Ⅰ〜Ⅲでも40点台の合格率は18.8〜30.0%にとどまり、信頼区間は事例Ⅳと重なります。「事例Ⅳだけに崖がある」とは、このデータでは言えません。
合計240点以上を取りながら、足切りで落ちた例がありました。合計244点で基準を上回りながら、事例Ⅳだけが40点にあと1点届かなかったためです。他の3事例はいずれも60点台以上でした。
合計240点の周辺は混んでいます。106人のうち39人(36.8%)が、合計の増減10点以内で合否が入れ替わる位置にいました。合計239点であと1点届かなかった人も3人います。
救うほうにも沈めるほうにも最も大きい
同じ線でそろえて数えると、事例Ⅳは救った人16人・沈めた人12人でどちらも最多。向きではなく振れ幅が効いています。
| 事例 | 救われた人 | 沈められた人 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 事例Ⅰ | 6人 | 7人 | 13人 |
| 事例Ⅱ | 9人 | 11人 | 20人 |
| 事例Ⅲ | 3人 | 4人 | 7人 |
| 事例Ⅳ | 16人 | 12人 | 28人 |
事例Ⅱも20人と少なくありません。事例Ⅳだけが特別だと言い切るには、この指標は弱いものです。それでも救う側・沈める側のどちらでも最多なのは事例Ⅳでした。
事例Ⅳに沈められた側の事例Ⅳの得点は、4分の3が46〜54点に収まっていました。壊滅した答案ではなく、あと10点届かなかった答案が大半だということです。
「事例Ⅳは稼ぎどころ」でも「事例Ⅳは落とし穴」でもありません。どちらにも最も大きく振れる、というのが正確な言い方です。第2節で見たばらつきの大きさを、合否の側から見たものになっています。
事例Ⅳの位置づけを変える3行
事例Ⅳは合否の保険ではなく主戦場です。学習計画を直すなら、まずこの3行を書き換えます。
- 1「事例Ⅳは点が出ない」を消す。平均61.40点は4事例で最高でした。取れない科目ではなく、取れる人と取れない人に割れる科目です。
- 2「事例Ⅰ〜Ⅲで貯金する」を消す。事例Ⅰと事例Ⅳの相関は0.005で、他事例の出来は事例Ⅳの穴を埋める根拠になりません。
- 3「事例Ⅳは最後にまとめて」を消す。合格者との差は事例Ⅳだけ15.36点で、合計点の散らばりの38.6%をこの1科目が作っています。
事例Ⅳは、何が出るかが4事例でいちばん読める科目でもあります。振れ幅が大きいのに出るものが決まっている以上、毎日15〜20分を1論点に充てる形がいちばん効きます。
この記事で言えないこと
- 本記事の得点データは、インターネット上に公開されている得点開示・再現答案を集計したものです。個人が特定できない集計値のみを掲載し、特定の提供元の名指しはしていません。
- 母集団の統計ではありません。得点開示を受けたうえで再現答案を公開・提供した人に偏ったデータです。
- 合否に関する分析は106人・2024年度(令和6年度)の1年ぶんだけです。他の年度は同一人物の4事例を紐づけられませんでした。
- この106人の標本内合格率は54.7%(95%信頼区間45.2〜63.9%)です。2次筆記試験の実際の合格率は例年2割弱とされ、この標本は合格側に大きく偏っています。
- 偏りの向きは分かっています。40点未満の率は過小評価、相関と分散への寄与は下位層が抜けたぶん小さく出る方向です。母集団での事例Ⅳの寄与は38.6%より大きい可能性があります。
- 合否は「合計240点以上かつ各事例40点以上」で当サイトが計算したもので、実際の合否通知ではありません。
- 得点は自己申告と転記を経ています。収集元をまたぐ重複80組のうち78組で得点が一致したことが、データ品質の傍証です。
- 設問ごとの得点はこのデータに存在しません。「第◯問で差がつく」という主張は、この記事では一切していません。
本記事の集計は当サイトの独自のものです。2次試験(筆記)の公式解答は公表されていません。合格基準・合格率は試験実施機関の発表をご確認ください。
この記事のまとめ
- 「事例Ⅳは点が低い」は開示得点3,085件では支持されません。平均は4事例で最高でした。
- 本当の姿は「最も振れる科目」です。得点の分散は事例Ⅲの2.54倍でした。
- 合格者と不合格者の差は事例Ⅳだけ15.36点。他の3事例は5.99〜7.61点です。
- 事例Ⅰ〜Ⅲの出来から事例Ⅳの得点は読めません(相関はほぼ0)。
よくある質問
- 事例Ⅳは平均点が低い科目ではないのですか?
- 2018〜2025年度の得点開示3,085件では、平均点が最も高いのは事例Ⅳ(61.40点)でした。60点以上の割合も54.1%で最高です。低いのは平均ではなくばらつきの少なさのほうで、得点の分散は事例Ⅲの2.54倍あります。ただしこの標本は再現答案を公開した人に偏っており、母集団の平均を表すものではありません。
- 事例Ⅰ〜Ⅲで得点を稼げば、事例Ⅳの失点は取り返せますか?
- この標本では取り返せていません。106人で事例Ⅰと事例Ⅳの相関は0.005、事例Ⅱと事例Ⅳは−0.035で、事例どうしの得点はほとんど連動していないためです。実際に、他3事例の合計が200点以上(平均67点ペース)なのに不合格だった2人は、どちらも事例Ⅳが原因でした。
- 事例Ⅳが40点台だと合格は難しいのでしょうか?
- 106人の中では、事例Ⅳが40点台だった18人のうち合格は1人(5.6%)でした。50点台は24人中12人(50.0%)です。ただし各得点帯の人数が少なく、40点台の95%信頼区間は1.0〜25.8%と広めです。また事例Ⅰ〜Ⅲでも40点台の合格率は18.8〜30.0%で、「事例Ⅳだけに崖がある」とまでは言えません。

