事例Ⅳの経営分析|13指標から3つを選ぶ手順と、与件文のどこを見るか
この記事の結論
- 使う指標は13個で足ります。覚える量ではなく、選ぶ順番で差がつく設問です。
- 順番は、設問文→財務諸表→与件文。与件文は最後の確認に使い、最初から読みません。
- 同業他社と差がない指標、原因が与件文に書かれていない指標は選びません。
- 収益性は2択、効率性は業種で決まり、安全性は自己資本比率から見ます。
事例Ⅳ第1問の経営分析は、19年のうち18年出ています。計算そのものは割り算で、本当にむずかしいのは「どの指標を選ぶか」です。この記事では、使う指標を13個に絞ったうえで、区分ごとの絞り込み基準・与件文のどこを見るか・選んではいけない指標までを、手順の順番どおりに並べます。
第1問は、出るものが決まっている設問
会社の健康診断です。数字をはかって悪いところを挙げ、なぜそうなったかを短く書きます。
本番で「何が出るか」を考える設問ではありません。出るものが決まっているので、家で手順を作っておけます。当サイトが19年分を数えたところ、説明の字数は平成26年度の30字から令和3〜7年度は80字まで増えています。指標を当てる設問から、選んだ理由を書かせる設問へ寄ってきた、と読めます。
使う指標は13個で足りる
収益性3・効率性3・安全性6・生産性1。この13個の外から選ぶ必要はほとんどありません。
| 区分 | 指標 | 計算式 |
|---|---|---|
| 収益性 | 売上高総利益率 | 売上総利益 ÷ 売上高 |
| 収益性 | 売上高営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 |
| 収益性 | 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 |
| 効率性 | 有形固定資産回転率 | 売上高 ÷ 有形固定資産 |
| 効率性 | 棚卸資産回転率 | 売上高 ÷ 棚卸資産 |
| 効率性 | 売上債権回転率 | 売上高 ÷ 売上債権 |
| 安全性(短期) | 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 |
| 安全性(短期) | 当座比率 | 当座資産 ÷ 流動負債 |
| 安全性(長期) | 固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 |
| 安全性(長期) | 固定長期適合率 | 固定資産 ÷(固定負債+自己資本) |
| 安全性(資本構造) | 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 |
| 安全性(資本構造) | 負債比率 | 負債 ÷ 自己資本 |
| 生産性 | 労働生産性 | 付加価値額 ÷ 従業員数 |
13個のうち、1つの答案で使うのは3つです。区分は「もうけ(収益性)」「持っている物の使い回し(効率性)」「借金へのふんばり(安全性)」の3つなので、そこから1つずつ選ぶと重なりません。同じ区分から2つ選ぶと、同じことを2回言う答案になります。
生産性(労働生産性)は、区分としては別枠です。従業員1人あたりでどれだけ価値を生んだかを見る指標で、業種によって適正な水準が違うため、比べる相手(前年や同業他社)が要ります。設問文が生産性を名指しした年だけ使う、と決めておけば迷いません。
見る順番は、設問文→財務諸表→与件文
与件文は最後です。先に読むと、数字を見る前に「それらしい話」に引っ張られます。
- 1設問文を読む。何個選ぶか(優れている1つ・劣っている2つなど)、小数第何位までか、指標名が指定されているかを先に確定する。
- 2財務諸表を見る。区分ごとに候補を計算し、同業他社や前年との差が大きいものに印をつける。
- 3与件文で最終確認する。印をつけた指標の原因が与件文に書かれているかを見る。書かれていない指標は落とす。
- 43区分から1つずつに絞る。名称・数値・説明の3点セットで書き切る。
令和2年度のように「優れているものを1つ、劣っているものを2つ」と指定される年があります。この指定を読み飛ばすと、劣っている指標を3つ並べて外します。だから順番の1段目は必ず設問文です。
電卓は、差が目で見て明らかな指標には使いません。打鍵が増えるほど桁を打ち間違える確率が上がるためです。区分ごとに色を変えて印をつけ、余白に候補の値を書き出しておくと、あとで説明を書くときに探し直さずに済みます。
区分ごとの絞り込み基準
収益性は2択、効率性は業種で決まり、安全性は自己資本比率から。迷う場所は先に潰せます。
| 区分 | まず見るもの | 切り替える条件 |
|---|---|---|
| 収益性 | 売上高総利益率か売上高営業利益率の2択 | 負債の部を見て支払利息が重いときだけ、売上高経常利益率を検討する |
| 効率性 | 製造業なら棚卸資産回転率と有形固定資産回転率の両方を計算して比べる | サービス業・小売など在庫が薄い会社は有形固定資産回転率。売上債権回転率は打ち手が乏しいので優先度を下げる |
| 安全性 | 自己資本比率 | 同業他社との差が小さいときは、長期(固定比率・固定長期適合率)か短期(流動比率・当座比率)へ移る |
収益性で経常利益率を安易に選ぶと、説明が書けなくなります。経常利益は営業利益に営業外の収益と費用を足し引きした結果で、その多くは本業の課題と直結しません。逆に、借入が多く支払利息が重い会社なら、経常利益率こそがその会社の姿を表します。だから「負債の部を見てから決める」の順になります。
効率性でつまずくのは業種の読み違えです。在庫をほとんど持たないサービス業で棚卸資産回転率を選ぶと、金額が小さすぎて意味のない比率になります。逆に製造業なら、在庫と設備のどちらが重いかで選ぶ指標が変わるので、両方計算してから比べます。
与件文のこの言葉が、この指標に対応する
指標は財務諸表で決まり、説明は与件文で決まります。原因が書かれていない指標は選びません。
| 与件文の記述 | 対応する指標 | 説明に書く原因 |
|---|---|---|
| 高い技術力・特許・ブランド・希少性 | 売上高総利益率(高い側) | 他社より高い価格で売れている |
| 調達力・品質管理・作業の効率化 | 売上高総利益率(高い側) | 同じ売上でも原価が小さい |
| 原材料価格の高騰・値上げできていない | 売上高総利益率(低い側) | 原価が上がった分を価格に反映できていない |
| 本社移転・新工場・積極的な出店 | 有形固定資産回転率(低い側) | 設備が増えたのに売上が追いついていない |
| 受注減で在庫が滞留・不良在庫 | 棚卸資産回転率(低い側) | 売れない在庫が資産に残っている |
| 新規事業や設備投資のための大きな借入 | 自己資本比率(低い側)・負債比率 | 投資の原資を借入で調達した |
| 目立った投資がない・内部留保が厚い | 自己資本比率(高い側) | 借入に頼らずに来た |
| 運転資金を短期借入でまわしている | 流動比率・当座比率(低い側) | 1年以内に返す負債が手元資金に対して重い |
この表の使い方は「与件文から指標を決める」ではありません。順番は逆で、財務諸表で差が大きい指標を先に見つけ、その原因が与件文に書かれているかを確かめるために使います。差が大きいのに与件文が何も触れていない指標は、説明が書けないので落とします。
選んではいけない指標の見分け方
計算が合っていても外れる型が4つあります。どれも計算力ではなく選び方の問題です。
- 同業他社や前年と差がない指標。差が無いものを取り上げても、聞かれたことに答えていません。
- 原因が与件文に書かれていない指標。数値は書けても説明が空になり、字数の半分が埋まりません。
- 在庫の薄い会社での棚卸資産回転率。金額が小さすぎて比率が暴れます。
- 負債の部を見ずに選んだ経常利益率。営業外の増減を本業の課題として説明することになります。
4つとも、電卓を打つ前に決着します。だから第1問の練習は計算練習ではなく、選び方の練習です。指標を3つ書いて終わりにせず、必ず説明まで書いて1問と数えてください。
かんたんな数字で、手順を通してみる
去年と今年をならべて、区分ごとに1つずつ。3つの数字が1つの原因につながります。
| 何の数字か | 去年 | 今年 |
|---|---|---|
| 売上高 | 100万円 | 100万円 |
| 売上総利益 | 8万円 | 4万円 |
| 有形固定資産などの資産合計 | 40万円 | 50万円 |
| そのうち負債(借入) | 25万円 | 40万円 |
| そのうち自己資本 | 15万円 | 10万円 |
- 1収益性:売上高総利益率は 8÷100=8.00% から 4÷100=4.00% へ。半分に下がった。
- 2効率性:有形固定資産回転率は 100÷40=2.50回 から 100÷50=2.00回 へ。設備が増えたのに売上は同じ。
- 3安全性:自己資本比率は 15÷40=37.50% から 10÷50=20.00% へ。借入で設備を買ったため。
- 43つは1本の線でつながる。設備を借入で買い、売上は増えず、原価は上がった。ここまで言えて1問。
本番の数字はこの何十倍も大きく、桁を写すだけで間違えます。電卓を打つ前に「どの数字とどの数字を割るか」を口に出して決めてください。手が先に動くと、計算は合っているのに違う割り算をしていた、が起きます。
80字にどう収めるか
「何が悪いか」を先に言い切り、そのあとに原因。原因から書き始めると字数が足りません。
収益性が低下。材料費の上昇を販売価格へ反映できず、売上横ばいのまま原価率が上昇したため。設備増加に売上が伴わず効率性も低下し、借入増加で安全性も悪化している。
79マス / 80マス
- はじめの10字で何の話かを分かるようにする。読む人は先頭から読みます。
- 原因は与件文の言葉を使う。自分の想像で補いません。
- 文をきれいにつながず、名詞で並べる。80字はふつうの文だと2文しか入りません。
この記事で言えないこと
2次試験(筆記)の公式解答は公表されていません。この記事の指標の絞り込み基準や与件文との対応は、受験生・合格者が公開している解き方を当サイトが手順の形に整理したもので、これで加点されるという意味ではありません。年度によって設問の作りが変わるので、最後は設問文の指示に従ってください。
また、手順を通す例に使った数字は説明のために当サイトが作ったもので、実際の過去問の財務諸表とは関係ありません。本物の財務諸表で12個の指標を計算する手順は、姉妹記事にあります。字数と配点の集計(19年18問・説明の字数30字→80字)は当サイトが公表資料を数えたものです。
この記事のまとめ
- 使う指標は13個で足ります。覚える量ではなく、選ぶ順番で差がつく設問です。
- 順番は、設問文→財務諸表→与件文。与件文は最後の確認に使い、最初から読みません。
- 同業他社と差がない指標、原因が与件文に書かれていない指標は選びません。
- 収益性は2択、効率性は業種で決まり、安全性は自己資本比率から見ます。
よくある質問
- 経営分析は、指標を何個おぼえればよいですか。
- 定番の13個で足ります。収益性3・効率性3・安全性6・生産性1です。1つの答案で使うのは3つなので、覚える量より「その指標がどの区分に入るか」を言えるほうが大事です。区分が言えれば、同じ区分から2つ選ぶ失敗が消えます。
- 与件文と財務諸表は、どちらを先に見ますか。
- 設問文→財務諸表→与件文の順です。与件文を先に読むと、数字を見る前に印象で指標を決めてしまいます。財務諸表で差が大きい指標を見つけたあと、その原因が与件文に書かれているかを確かめる、という使い方をします。
- 計算が苦手でも、事例Ⅳの第1問は間に合いますか。
- 間に合います。やっているのは割り算で、19年のうち18年が同じ論点だからです。ただし18問すべてに字数制限があり、選んだ理由を書かせます。用意するのは計算力より、80字前後に理由を収める型のほうです。
- 小数は何桁まで書けばよいですか。
- 設問文の指示に従ってください。「小数点第2位まで」のように書かれていることが多く、指示があるのに丸めると、計算が合っていても外れます。指示が無いときは、当サイトでは小数点第2位までで書いています。

