事例Ⅳの資金調達|借入か増資かは自己資本比率を見てから決める
この記事の結論
- 資金調達は19年で3問と少ないものの、前回の令和7年度に最終問で出ました。
- 借入を勧めるか止めるかは、その会社の自己資本比率で逆になります。先に貸借対照表を見ます。
- 聞かれ方は3つ。借入か自己資本か、返し方で手元の現金がどう変わるか、出資を受けても経営権を守る方法。
事例Ⅳの最終問は、直近5年では意思決定・リスク管理・資金調達の3つが入れ替わりで出ています。このうち資金調達は出た回数が少なく、対策が後回しになりがちです。ところが前回の令和7年度は、この資金調達でした。この記事では、2007〜2025年度の3問で何が聞かれたかを一覧にし、答えの向きを決める数字、聞かれ方の3つの型、字数ごとの書き方を示します。配点・字数・財務諸表の数値は、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。
19年で3問。少ないが、前回の最終問
資金調達は19年で3問、すべてに字数制限があります。出る年は少ないものの、最終問の候補の1つで、前回の令和7年度に出ました。
回数だけを見ると、後回しにしてよい論点に見えます。ただ、近年の事例Ⅳは第1問が経営分析、第2・3問がCVPと投資判断でほぼ固定され、読みにくいのは最終問だけです。その最終問の候補の中で、資金調達だけは型を確かめる機会が少ないまま本番を迎えやすい論点です。
3問で聞かれたことの一覧
借入か自己資本か、返し方の違い、経営権の守り方。3問とも、お金の集め方がその会社の財務や支配にどう響くかを聞いています。
| 年度 | 設問・配点 | 字数 | 問われたこと |
|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 第4問・20点 | 80字・60字 | 海外向け製品の生産ライン増設について、財務状況を踏まえてとるべき資金調達手段を理由とともに助言/EU諸国へ販売する場合の財務的リスクとその対処 |
| 平成25年度 | 第2問・45点 | 計算+40字・30字 | 新しい植物工場の減価償却費と営業キャッシュフロー(定額法と定率法)/工場自身の資金を銀行借入(毎期返済)と少人数私募債(第5期末に一括返済)のどちらで集めると第5期末の現金が多く残るか、金額と理由 |
| 平成20年度 | 第4問・20点 | 60字・40字 | 設備更新の資金を全額負債に頼った場合の問題点/社長一族が過半数を超える出資を受け入れつつ経営権を維持する方法 |
借入を勧めるか止めるかは、自己資本比率で逆になる
令和7年度と平成20年度は、どちらも設備のためのお金の集め方を聞いています。ところが答えの向きは正反対です。違いは、その会社がすでにどれだけ借りているかでした。
| 年度 | D社の自己資本比率 | 同業他社 | 答えの向き |
|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 82.1%(純資産3,548÷資産4,320) | 65.9% | 負債が少なく借りる余力がある。借入を勧めやすい |
| 平成20年度 | 16.0%(純資産39÷資産244) | 34.0% | すでに借入が多い。全額を借入にすると危ない |
令和7年度のD社は、利益剰余金が3,500百万円積み上がり、負債は772百万円(短期借入金374百万円が中心で、固定負債は25百万円)です。借りても安全性の指標は同業より良いままで、借入を選ぶ理由を財務の数字で言えます。
平成20年度のD社は逆で、自己資本比率が同業の半分以下です。この年は第3問で8,000万円の設備更新を全額負債でまかなう前提が置かれ、第4問でその問題点を聞いています。80百万円は総資産244百万円の約3分の1にあたり、借入に上乗せすれば安全性はさらに下がります。
ただし、自己資本比率だけで答えが決まるわけではありません。令和7年度の出題の趣旨は、この設問を「D社の財務状況や新規事業の特性などを踏まえて、適切に助言する能力を問う問題」と説明しています。手元の現金預金は307百万円あり、自己資金でまかなう答案も考えられます。自己資本比率は、答えの向きを決める最初の手がかりです。
資金調達の設問は、第1問の経営分析とも地続きです。第1問で「自己資本比率が高い(低い)」と書いたなら、最終問でそれと食い違う助言は書きにくくなります。
聞かれ方は3つの型に分かれる
3問しかありませんが、聞き方ははっきり3つに分かれます。どの型かで、答案に書く要素が決まります。
| 型 | 該当する設問 | 見分ける手がかり | 答案の骨組み |
|---|---|---|---|
| A 借入か自己資本か | 令和7年度 設問1/平成20年度 設問1 | 設問文に「資金調達手段」「全額負債」 | 自己資本比率など安全性の数字→借りる余力があるか→選ぶ手段と、その利点・代償 |
| B 返し方で手元の現金がどう変わるか | 平成25年度 設問3 | 調達方法が2つ示され、「現金有高」「どちらの方法か」を聞く | 毎期返すか最後にまとめて返すか→借りている残高の減り方→利息の合計→手元に残る現金 |
| C 出資を受けても経営権を守る | 平成20年度 設問2 | 与件文に「株式はほぼ100%社長一族が所有」、設問文に「経営権」 | 誰がどれだけ議決権を持つか→議決権の無い株式など、お金と議決権を切り離す手段 |
型Bは計算の設問ですが、仕組みは単純です。平成25年度は金利がどちらも年4%で、違いは返し方だけでした。毎期10百万円ずつ返す借入は残高が減っていくので、利息は2、1.6、1.2、0.8、0.4百万円と小さくなります。第5期末まで50百万円を借りたままの私募債は、毎期2百万円の利息がかかります。
利息の合計は借入が6百万円、私募債が10百万円で、差は4百万円です。利息が減るぶん税金は増えるので(税率40%)、手元に残る差は2.4百万円になります。期首の手元資金、第5期末の設備更新と借り直しを問題文どおりに入れて計算すると、第5期末の現金は借入が98.4百万円、私募債が96.0百万円で、多く残るのは借入です(当サイトの計算【解答例】)。
借入・増資・社債の利点と代償
型Aの答案は「選ぶ手段+理由」でできています。理由に使える言葉を、手段ごとに並べます。どの手段にも代償があり、それを知っていると反対側の答案も書けます。
| 手段 | 利点(答案の理由に使う) | 代償(止めるときの理由に使う) |
|---|---|---|
| 銀行からの借入 | 利息は費用になり、黒字なら税金が減る。株主の持分が薄まらず、経営への口出しも増えない。手続きが比較的早い | 利息と元本の返済が続き、資金繰りを圧迫する。自己資本比率が下がる。業績が落ちると返済が重くなる |
| 増資(新しく株式を出す) | 返済が要らず、自己資本比率が上がる。借入の余力も残る | 既存株主の持分が薄まり、普通株式なら議決権も薄まる。配当を求められる。手続きに時間がかかる |
| 社債(少人数私募債など) | 満期まで元本を返さないので、途中の資金繰りに余裕がある | 借りている残高が減らないぶん、利息の合計は大きくなりやすい。満期にまとめて返すお金を用意する必要がある |
表の右の列は、平成20年度のように「借りすぎ」を指摘する答案の材料になります。左の列は、令和7年度のように「借りてよい」と助言する答案の材料です。同じ知識を、会社の数字に合わせてどちら向きに使うかが問われています。
字数ごとの書き方
型Aの骨組みは「結論→財務の数字にもとづく理由→手段の利点か代償」です。型Bと型Cは、聞かれた理由や方法を短く言い切ります。
令和7年度の設問1(80字)は型A。「助言せよ」なので、最初に選ぶ手段を言い切り、その後に理由を並べます。理由は、自己資本比率の高さという財務の数字と、借入そのものの利点の2本立てにします。
借入による調達を助言する。D社は自己資本比率が同業他社より高く負債が少ないため借入余力がある。利息は損金で節税効果があり、増資と違い既存株主の持分も薄まらない。
79マス / 80マス
平成20年度の設問1(60字)は、同じ型Aの反対側です。「問題点」を聞かれているので、自己資本比率の低さを起点に、負債が増えると何が起きるかを順に書きます。
自己資本比率が同業他社の半分以下と低い中で負債がさらに増え、利息負担で収益が圧迫され、返済が滞れば倒産の危険も高まる。
59マス / 60マス
平成20年度の設問2(40字)は型C。お金は受け入れるが議決権は渡さない、という切り離しの手段を1つ挙げれば骨組みは足ります。
議決権の無い株式(無議決権株式)で出資を受け入れ、社長一族の議決権割合を保つ。
39マス / 40マス
平成25年度の設問3の理由欄(30字)は型B。金額の欄とは別に、なぜその方法で現金が多く残るかを一言で書きます。
毎期の返済で借入残高が減り、支払利息が私募債より少ないため。
30マス / 30マス
書いてはいけない答案の見分け方
型に沿って書いても落ちる場所が4つあります。どれも、書き終えたあとに貸借対照表と設問文を見直せば気づけます。
- 財務の数字に触れない。「借入が望ましい」だけでは、どの会社にも言える一般論です。令和7年度は「財務状況を踏まえながら」と指示されていました。
- 第1問と矛盾する。第1問で安全性が低いと書いたのに、最終問で借入を勧めると、答案の中で話が食い違います。
- 代償を書かない。どの手段にも代償があります。借入なら返済負担、増資なら持分が薄まることです。字数に余裕があれば、選ばなかった手段と比べる形で1つ添えます。
- 型Bで「金利が同じだから差は無い」と書く。金利が同じでも、返し方が違えば借りている残高の減り方が違い、利息の合計が変わります。
この記事で言えないこと
- この型で何点取れるか。2次試験に公式解答は無く、当サイトは事例Ⅳの得点を設問ごとには測っていません。「落ちる」「取れる」はすべて見立てです。
- 次に資金調達が出るかどうか。3問しかないので、出る間隔から次の出題を読むことはできません。前回出たから次は出ない、とも言えません。
- 出題の趣旨との照合。当サイトが取得できている事例Ⅳの出題の趣旨は令和7年度だけで、平成25年度・平成20年度の型は趣旨と突き合わせていません。
配点・字数・問われたこと・財務諸表の数値は、試験実施機関が公表している問題PDFを画像で目視して転記しました。型の分け方と利点・代償の表は、受験生・合格者が公開している解き方を当サイトが整理したもので、これで加点されるという意味ではありません。
この記事のまとめ
- 資金調達は19年で3問と少ないものの、前回の令和7年度に最終問で出ました。
- 借入を勧めるか止めるかは、その会社の自己資本比率で逆になります。先に貸借対照表を見ます。
- 聞かれ方は3つ。借入か自己資本か、返し方で手元の現金がどう変わるか、出資を受けても経営権を守る方法。
よくある質問
- 借入か増資か、どちらを書けばよいか迷ったら?
- 貸借対照表で自己資本比率を計算し、同業他社と比べます。同業より高く負債が少なければ借入を勧める理由が立ち、低ければ借入を増やす危うさが理由になります。第1問の経営分析で安全性について書いた内容と、向きをそろえることが大切です。
- 資金調達の設問に、1次試験の知識はどこまで要りますか?
- 自己資本比率、利息が費用になって(黒字なら)税金が減る効果、株式による調達と議決権の関係あたりが、3問で使われた知識です。いずれも1次の財務・会計と経営法務の範囲で、新しく覚える理論はありません。要るのは、その知識を会社の数字に合わせて向きを決める練習です。
- 出る回数が少ないのに、対策する意味はありますか?
- あります。直近5年の最終問は意思決定・リスク管理・資金調達の3つが入れ替わりで出ており、資金調達は前回の令和7年度にも出ました。型は3つしかないので、この記事の表と解答例を一度通しておけば、本番で初めて見る論点にはなりません。

